【結城 豊弘】『大豆田とわ子』『ミヤネ屋』も…ここにきて「大阪発のテレビ番組」が絶好調…!そのウラではこんな理由があった

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僕は、大阪と東京を長年行き来し生活してきた。その上、大阪と東京のテレビ局で仕事をするという、経験を今も続けている。東京のテレビの良さと大阪の面白さ。そして「こんなに違うの?」という違和感も肌で感じてきた。
かつて大阪で生活している人は大阪の番組しか見ないし、東京の人も東京のテレビ番組しか見なかった。ただ、最近では、TVerや自社での動画配信なども盛んになり、大阪は大阪、東京は東京という図式も崩れつつある。
前編の『日本のテレビ、東京発の番組が「急速につまらなくなった」意外な理由…日本のテレビ史から紐解く』ではその潮流をふまえ、これまでテレビがどのように成り立ってきたかをお伝えした。『情報ライブ ミヤネ屋』はじめ、『大豆田とわ子と3人の元夫』など、大阪発のテレビ番組が全国的な人気を博す。しかし、東京と大阪の番組の制作手法には知られざる大きな違いがある。その実態について明かそう。
まず、大阪と東京のテレビ視聴の違いを説明したい。
「全国視聴率は同じだろう」と思うのは東京の人の過信だ。確かに阪神タイガースの野球中継の視聴率は良い。それは当たり前で、広島カープのある広島地区はプロ野球中継の視聴率が高いのは当然。同様に福岡も仙台も札幌もである。ご当地のスポーツや特に野球中継は評判が高い。
大阪は視聴率を見ると、ドラマの視聴率が良いという意外な側面も有る。例えば、NHKの朝の連続ドラマの視聴率を見るとほとんどが西高東低のグラフ。その上にNHK大阪放送局が制作する朝ドラがテレビにかかると、大阪での視聴率はもっと良くなる。
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2020年11月30日から翌年の5月14日まで放送された杉咲花主演の『おちょやん』や2018年10月から放送された安藤サクラ主演の『まんぷく』もそうだ。早いテンポで関西弁が画面から流れ、関西人は心地よい。しかし、東京の人は「朝から騒がしい」と感じていたという。そんな関西だが、実は関西発のドラマも多い。関西弁だけが関西発ではない。でも一応、関西弁の大ヒットドラマを少しだけ書くと、読売テレビの大ヒットドラマとして記憶されているのが『細うで繁盛記』。このドラマは1970年1月から71年4月まで日本テレビ系列全国ネットで放送された。原作と脚本は花登筐(はなとこばこ)、演出は小泉勲。新珠三千代主演で関西地区では視聴率38%を記録した。冨士眞奈美の「加代、犬にやる飯はあってもおみゃーにやる飯はにゃーだで」という強烈なセリフと主人公の出世物語に昭和のお父さんやお母さんは涙した。僕もリアルタイムでみていたので、良く冨士眞奈美が新珠三千代をいじめるときの決めセリフを友達といいあったのを思い出す。我が家では、毎週、ドラマが始まると母が食卓を片付けテレビにかじりつき、主人公の辛いシーンでは、一緒に涙しハンカチを握りしめていた。ドラマやテレビが生活の中心にあった時代だ。『細うで繁盛記』のドラマ人気はうなぎのぼり、第二期の続編放送に続き、73年の新・細腕繁盛記まで制作された。ローカル局でも再放送が何度もあったのでみなさんも記憶しているかもしれない。大阪のテレビ局が制作する時間枠は、日本テレビ系列では80年代から92年まで「木曜ゴールデンドラマ」の21時からの二時間枠ドラマを読売テレビが制作。関西テレビでは96年から2016年まで火曜日の22時台枠で連続ドラマが放送された。そのほか、金曜日の21時枠は朝日放送とテレビ朝日の共同制作枠だった。「ザ・ハングマン」シリーズや「赤かぶ検事奮闘」シリーズの放送が記憶にある。朝日放送には東京の方は絶対に知らない、すごいドラマがあった。1959年に第一回がスタートし、なんと2002年まで続いた『部長刑事シリーズ』だ。筒井康隆が脚本を担当したり、生瀬勝久や篠田三郎、勝野洋、小野寺昭、京本政樹など錚々たる顔ぶれ。大阪を舞台にした警察や刑事の奮闘を描いた。このドラマも大阪に住む人で高校生以上なら知らない人はいないはずだ。毎日放送も深夜に「金曜ナイト劇場」「ドラマ特区」「ドラマシャワー」など独自ドラマを作っている。実は関西はドラマ王国でもある。このことは全国的にあまり知られていない。朝日放送と読売テレビの激闘関西の各局とも東京支社を持ち、そこに全国ネットの番組を作るための営業と編成、そして制作部隊がいる。僕も長く日本テレビとワイドショーや全国ネット特番をつくっていたので、東京支社に在籍していた。東京の制作会社を使いながら、関西の味付けをした全国ネット(関西色を薄めた)を放送している。だから番組ラストに流れるスタッフスーパーを見るとラストに「制作 朝日放送」「制作 読売テレビ」と書いてあって、初めて「あー、関西のテレビ局の制作だ」と知ることになる。余談だが、関西テレビには僕が大好きなドラマもある。深夜枠で2016年からとびとびで放送されてきた『大阪環状線 ひと駅ごとの愛物語』だ。毎回JR大阪環状線(東京の山手線と比較される)のひと駅をテーマにオムニバスで一話完結のストーリーが紡がれる。関西テレビ『大阪環状線 ひと駅ごとの愛物語』FODの公式webサイトより引用 キムラ緑子や佐藤蛾次郎、田畑智子、赤井英和、南野陽子、などなど実力派から若手などバラエティー豊かな出演者と演出、脚本が光る。涙あり、笑いありの人生劇。2016年には日本民間放送連盟賞・番組部門テレビドラマ番組優秀賞も受賞している。「ひと駅ごとのスマイル」と番組名を変えて2018年12月まで放送された。是非、続きを期待したい。お笑い番組や息の長い番組も関西には多い。例えば朝日放送の『探偵!ナイトスクープ』は1988年から放送されている。上岡龍太郎、そして西田敏行に代わり、三代目局長はダウンタウン松本人志が務める。関西の朝5時30分頃から8時までのワイドショーは、月曜日から金曜日まで、朝日放送の『おはよう朝日です』と読売テレビの『朝生ワイドす・またん』がしのぎを削る激戦区。もともとは朝日放送が宮根誠司司会で不動の一位を獲得していた。朝日放送『おはよう朝日です』の公式webサイトより引用 読売テレビ『朝生ワイドす・またん』の公式webサイトより引用裏の読売テレビはズームイン朝時代から常に後塵を拝する格好。東京や全国ではズームイン朝はNHKを抜くお化け番組だったのに関西では、勝てない時代が長く続いた。救世主となったのが2010年3月29日にスタートした『朝生ワイドす・またん』というけったいな名前の番組の登場だった。司会は辛坊治郎キャスターと森武史(当時・読売テレビアナウンサー)。現在フリーアナウンサーとして活躍する川田裕美アナウンサーがサポート役を務めた。ローカル情報番組として全国ネットのZIPの枠をうまくこじ開けながら読売テレビの名司会者らでローカルパートを広げて、関西密着を印象付け、その上、それまでのズームイン朝などで培った、生放送の機動力を生かした関西情報を盛り込んで、みごとに朝日放送一強の牙城を切り崩したのだった。いまでも朝日VS読売の朝の激戦は続く。しかし、視聴者にとっては激戦の方が面白い。「箱根を越えると本音で話せる」僕は昔、日本テレビ系列のワイドショー『THEワイド』の演出を担当したが、THEワイドが強すぎて、どんどん裏番組が撤退していった。すると視聴者が「ここはワイドショーの時間じゃない」と判断し、正午の時間帯にうつってしまった。せっかく叩き潰したのに、テレビをつける人がいなくなるシャッター現象が起こった。 広告業界の言葉に「カニバル」という言葉がある。「cannibalization」(共食いの意味)。自社の製品が自社の製品を侵食してしまう現象から同じラインナップのものが同じフィールドに乱立することを指すが、テレビの番組においてはチャンネルをザッピングするので同種の番組が裏にいた方が、より同時間帯が盛り上がる傾向にある。ただこれは番組がお互いに良質で強くなければいけない。両方ともつまらない番組だとシャットダウン。つまりテレビを消してしまう。これではアウト!!Photo by iStock またまた余談だが、「す・またん」とはフランス語で「ce matin」朝という意味。当時のチーフプデューサーがフランスのパリ支局から帰ってきたばかりで命名されたという。ヒットする番組名は「なんだろうー?」と思わせることも大切だ。そして強敵の関西の朝の顔だった宮根誠司アナウンサーをなんと、読売テレビはライバルから自社のお昼の看板番組『情報ライブ ミヤネ屋』の司会に引っこ抜いた。このあたりの戦略は、特筆ものだと当時僕は思っていた。朝日放送からフリーになって全国ネットを張るようになった宮根さんの快進撃はみなさんご承知の通りだ。関西の番組は元気だ。東京から関西に番組ゲストで来る役者やスター、識者は良くこんなことを言う。「箱根を越えると本音で話せる」と。僕はこの言葉にずっと疑問を感じてきた。新幹線で箱根や大井川を越えたら舌が滑らかになるなら演出的に苦労はいらない。本当はスタッフの雰囲気作りや演出がそこにある。東京では例えば、収録番組は1時間のバラエティー番組でも平気で3時間程度収録する。ひどい番組は4時間収録して、ほとんど面白いところを放送から捨ててしまう。タレントも4時間も収録していたら緊張もへったくれもなくなる。「どこか使うだろう」と思ってしまう。関西ではほぼリアルの収録時間の番組が多い。1時間番組なら多くて1時間30分くらい。収録でも生の緊張感を忘れない。その場の雰囲気を大切にする。タレントとの楽屋打ちあわで「ここはこの演出や出し物が面白いで」と提案されれば「やってみましょう」と実際に面白いことの提案をスタッフが即座に実現しょうと努力する。これが東京だともう決まっている番組構成のパズルを崩すことになるので、相当の力技がいる。東京の方が出演者も多いし、演出も複雑という理由もあるが、どうも臨機応変ではない。また段取りが多すぎる。 そして、一番面白いのが台本。どんな番組……例えば報道番組でも台本が存在する。しかし、東京と大阪では別物だ。出演者のセリフに一言一句丁寧に書き込みがしてあるのが東京。方や大阪のスタジオ台本には「司会者……リアクションして」とか「一同(笑)……感想を宜しくお願いします」とこれだけが記されている。出演者のフリートークや個性を重んじる演出。大阪の番組もデータや資料は台本にしっかり書いてあるが、感想の想定セリフは一行も書かれてないから芸能人だけでなく、東京から来て初めて大阪の番組に出演する文化人や学者は皆んなびっくりする。ある時は「何か私がしゃべる感想を台本に書いておいてくださいよ」と出演者に言われ、大阪のディレクターは、またまたびっくりする。「セリフは個人がスタジオで感じたことを。しっかり言えばいいんや。なぜ作家が書かなきゃいけない。だったらロボットがコメントすればいいやんか」とベテランの構成作家は僕に教えてくれた。僕の経験から、関西の番組はアメリカの番組に近い気がする。特にバラエティーは司会者の個性や出演者の個性に委ねられ、そのトークの面白さが際立つ。番組の成功も司会者や出演者のキャスティングにかかっている。また関西は初物を好む。「誰かが使った人ではなく、俺が探してきた人」をテレビに出すことにテレビ屋の生きがいを感じているディレクターやプロデューサーがまだ多い。ある程度テレビで出演したり顔を知っているタレントは無難で使いやすい。あえてテレビ屋としては新しい人を使い、発掘し独自性をだそうとする。ここらあたりが関西のテレビマンの矜持なのではと僕は思う。大阪と東京のテレビの違い。そこには東京のテレビが忘れつつある「金がないなら”工夫”と”冒険”」という気概が残っている気がしてならない。
2020年11月30日から翌年の5月14日まで放送された杉咲花主演の『おちょやん』や2018年10月から放送された安藤サクラ主演の『まんぷく』もそうだ。早いテンポで関西弁が画面から流れ、関西人は心地よい。しかし、東京の人は「朝から騒がしい」と感じていたという。
そんな関西だが、実は関西発のドラマも多い。関西弁だけが関西発ではない。でも一応、関西弁の大ヒットドラマを少しだけ書くと、読売テレビの大ヒットドラマとして記憶されているのが『細うで繁盛記』。このドラマは1970年1月から71年4月まで日本テレビ系列全国ネットで放送された。
原作と脚本は花登筐(はなとこばこ)、演出は小泉勲。新珠三千代主演で関西地区では視聴率38%を記録した。冨士眞奈美の「加代、犬にやる飯はあってもおみゃーにやる飯はにゃーだで」という強烈なセリフと主人公の出世物語に昭和のお父さんやお母さんは涙した。
僕もリアルタイムでみていたので、良く冨士眞奈美が新珠三千代をいじめるときの決めセリフを友達といいあったのを思い出す。我が家では、毎週、ドラマが始まると母が食卓を片付けテレビにかじりつき、主人公の辛いシーンでは、一緒に涙しハンカチを握りしめていた。ドラマやテレビが生活の中心にあった時代だ。
『細うで繁盛記』のドラマ人気はうなぎのぼり、第二期の続編放送に続き、73年の新・細腕繁盛記まで制作された。ローカル局でも再放送が何度もあったのでみなさんも記憶しているかもしれない。
大阪のテレビ局が制作する時間枠は、日本テレビ系列では80年代から92年まで「木曜ゴールデンドラマ」の21時からの二時間枠ドラマを読売テレビが制作。関西テレビでは96年から2016年まで火曜日の22時台枠で連続ドラマが放送された。
そのほか、金曜日の21時枠は朝日放送とテレビ朝日の共同制作枠だった。「ザ・ハングマン」シリーズや「赤かぶ検事奮闘」シリーズの放送が記憶にある。
朝日放送には東京の方は絶対に知らない、すごいドラマがあった。1959年に第一回がスタートし、なんと2002年まで続いた『部長刑事シリーズ』だ。筒井康隆が脚本を担当したり、生瀬勝久や篠田三郎、勝野洋、小野寺昭、京本政樹など錚々たる顔ぶれ。大阪を舞台にした警察や刑事の奮闘を描いた。このドラマも大阪に住む人で高校生以上なら知らない人はいないはずだ。
毎日放送も深夜に「金曜ナイト劇場」「ドラマ特区」「ドラマシャワー」など独自ドラマを作っている。実は関西はドラマ王国でもある。このことは全国的にあまり知られていない。
関西の各局とも東京支社を持ち、そこに全国ネットの番組を作るための営業と編成、そして制作部隊がいる。僕も長く日本テレビとワイドショーや全国ネット特番をつくっていたので、東京支社に在籍していた。
東京の制作会社を使いながら、関西の味付けをした全国ネット(関西色を薄めた)を放送している。だから番組ラストに流れるスタッフスーパーを見るとラストに「制作 朝日放送」「制作 読売テレビ」と書いてあって、初めて「あー、関西のテレビ局の制作だ」と知ることになる。
余談だが、関西テレビには僕が大好きなドラマもある。深夜枠で2016年からとびとびで放送されてきた『大阪環状線 ひと駅ごとの愛物語』だ。毎回JR大阪環状線(東京の山手線と比較される)のひと駅をテーマにオムニバスで一話完結のストーリーが紡がれる。
関西テレビ『大阪環状線 ひと駅ごとの愛物語』FODの公式webサイトより引用
キムラ緑子や佐藤蛾次郎、田畑智子、赤井英和、南野陽子、などなど実力派から若手などバラエティー豊かな出演者と演出、脚本が光る。涙あり、笑いありの人生劇。2016年には日本民間放送連盟賞・番組部門テレビドラマ番組優秀賞も受賞している。「ひと駅ごとのスマイル」と番組名を変えて2018年12月まで放送された。是非、続きを期待したい。お笑い番組や息の長い番組も関西には多い。例えば朝日放送の『探偵!ナイトスクープ』は1988年から放送されている。上岡龍太郎、そして西田敏行に代わり、三代目局長はダウンタウン松本人志が務める。関西の朝5時30分頃から8時までのワイドショーは、月曜日から金曜日まで、朝日放送の『おはよう朝日です』と読売テレビの『朝生ワイドす・またん』がしのぎを削る激戦区。もともとは朝日放送が宮根誠司司会で不動の一位を獲得していた。朝日放送『おはよう朝日です』の公式webサイトより引用 読売テレビ『朝生ワイドす・またん』の公式webサイトより引用裏の読売テレビはズームイン朝時代から常に後塵を拝する格好。東京や全国ではズームイン朝はNHKを抜くお化け番組だったのに関西では、勝てない時代が長く続いた。救世主となったのが2010年3月29日にスタートした『朝生ワイドす・またん』というけったいな名前の番組の登場だった。司会は辛坊治郎キャスターと森武史(当時・読売テレビアナウンサー)。現在フリーアナウンサーとして活躍する川田裕美アナウンサーがサポート役を務めた。ローカル情報番組として全国ネットのZIPの枠をうまくこじ開けながら読売テレビの名司会者らでローカルパートを広げて、関西密着を印象付け、その上、それまでのズームイン朝などで培った、生放送の機動力を生かした関西情報を盛り込んで、みごとに朝日放送一強の牙城を切り崩したのだった。いまでも朝日VS読売の朝の激戦は続く。しかし、視聴者にとっては激戦の方が面白い。「箱根を越えると本音で話せる」僕は昔、日本テレビ系列のワイドショー『THEワイド』の演出を担当したが、THEワイドが強すぎて、どんどん裏番組が撤退していった。すると視聴者が「ここはワイドショーの時間じゃない」と判断し、正午の時間帯にうつってしまった。せっかく叩き潰したのに、テレビをつける人がいなくなるシャッター現象が起こった。 広告業界の言葉に「カニバル」という言葉がある。「cannibalization」(共食いの意味)。自社の製品が自社の製品を侵食してしまう現象から同じラインナップのものが同じフィールドに乱立することを指すが、テレビの番組においてはチャンネルをザッピングするので同種の番組が裏にいた方が、より同時間帯が盛り上がる傾向にある。ただこれは番組がお互いに良質で強くなければいけない。両方ともつまらない番組だとシャットダウン。つまりテレビを消してしまう。これではアウト!!Photo by iStock またまた余談だが、「す・またん」とはフランス語で「ce matin」朝という意味。当時のチーフプデューサーがフランスのパリ支局から帰ってきたばかりで命名されたという。ヒットする番組名は「なんだろうー?」と思わせることも大切だ。そして強敵の関西の朝の顔だった宮根誠司アナウンサーをなんと、読売テレビはライバルから自社のお昼の看板番組『情報ライブ ミヤネ屋』の司会に引っこ抜いた。このあたりの戦略は、特筆ものだと当時僕は思っていた。朝日放送からフリーになって全国ネットを張るようになった宮根さんの快進撃はみなさんご承知の通りだ。関西の番組は元気だ。東京から関西に番組ゲストで来る役者やスター、識者は良くこんなことを言う。「箱根を越えると本音で話せる」と。僕はこの言葉にずっと疑問を感じてきた。新幹線で箱根や大井川を越えたら舌が滑らかになるなら演出的に苦労はいらない。本当はスタッフの雰囲気作りや演出がそこにある。東京では例えば、収録番組は1時間のバラエティー番組でも平気で3時間程度収録する。ひどい番組は4時間収録して、ほとんど面白いところを放送から捨ててしまう。タレントも4時間も収録していたら緊張もへったくれもなくなる。「どこか使うだろう」と思ってしまう。関西ではほぼリアルの収録時間の番組が多い。1時間番組なら多くて1時間30分くらい。収録でも生の緊張感を忘れない。その場の雰囲気を大切にする。タレントとの楽屋打ちあわで「ここはこの演出や出し物が面白いで」と提案されれば「やってみましょう」と実際に面白いことの提案をスタッフが即座に実現しょうと努力する。これが東京だともう決まっている番組構成のパズルを崩すことになるので、相当の力技がいる。東京の方が出演者も多いし、演出も複雑という理由もあるが、どうも臨機応変ではない。また段取りが多すぎる。 そして、一番面白いのが台本。どんな番組……例えば報道番組でも台本が存在する。しかし、東京と大阪では別物だ。出演者のセリフに一言一句丁寧に書き込みがしてあるのが東京。方や大阪のスタジオ台本には「司会者……リアクションして」とか「一同(笑)……感想を宜しくお願いします」とこれだけが記されている。出演者のフリートークや個性を重んじる演出。大阪の番組もデータや資料は台本にしっかり書いてあるが、感想の想定セリフは一行も書かれてないから芸能人だけでなく、東京から来て初めて大阪の番組に出演する文化人や学者は皆んなびっくりする。ある時は「何か私がしゃべる感想を台本に書いておいてくださいよ」と出演者に言われ、大阪のディレクターは、またまたびっくりする。「セリフは個人がスタジオで感じたことを。しっかり言えばいいんや。なぜ作家が書かなきゃいけない。だったらロボットがコメントすればいいやんか」とベテランの構成作家は僕に教えてくれた。僕の経験から、関西の番組はアメリカの番組に近い気がする。特にバラエティーは司会者の個性や出演者の個性に委ねられ、そのトークの面白さが際立つ。番組の成功も司会者や出演者のキャスティングにかかっている。また関西は初物を好む。「誰かが使った人ではなく、俺が探してきた人」をテレビに出すことにテレビ屋の生きがいを感じているディレクターやプロデューサーがまだ多い。ある程度テレビで出演したり顔を知っているタレントは無難で使いやすい。あえてテレビ屋としては新しい人を使い、発掘し独自性をだそうとする。ここらあたりが関西のテレビマンの矜持なのではと僕は思う。大阪と東京のテレビの違い。そこには東京のテレビが忘れつつある「金がないなら”工夫”と”冒険”」という気概が残っている気がしてならない。
キムラ緑子や佐藤蛾次郎、田畑智子、赤井英和、南野陽子、などなど実力派から若手などバラエティー豊かな出演者と演出、脚本が光る。涙あり、笑いありの人生劇。2016年には日本民間放送連盟賞・番組部門テレビドラマ番組優秀賞も受賞している。「ひと駅ごとのスマイル」と番組名を変えて2018年12月まで放送された。是非、続きを期待したい。
お笑い番組や息の長い番組も関西には多い。例えば朝日放送の『探偵!ナイトスクープ』は1988年から放送されている。上岡龍太郎、そして西田敏行に代わり、三代目局長はダウンタウン松本人志が務める。
関西の朝5時30分頃から8時までのワイドショーは、月曜日から金曜日まで、朝日放送の『おはよう朝日です』と読売テレビの『朝生ワイドす・またん』がしのぎを削る激戦区。もともとは朝日放送が宮根誠司司会で不動の一位を獲得していた。
朝日放送『おはよう朝日です』の公式webサイトより引用
読売テレビ『朝生ワイドす・またん』の公式webサイトより引用裏の読売テレビはズームイン朝時代から常に後塵を拝する格好。東京や全国ではズームイン朝はNHKを抜くお化け番組だったのに関西では、勝てない時代が長く続いた。救世主となったのが2010年3月29日にスタートした『朝生ワイドす・またん』というけったいな名前の番組の登場だった。司会は辛坊治郎キャスターと森武史(当時・読売テレビアナウンサー)。現在フリーアナウンサーとして活躍する川田裕美アナウンサーがサポート役を務めた。ローカル情報番組として全国ネットのZIPの枠をうまくこじ開けながら読売テレビの名司会者らでローカルパートを広げて、関西密着を印象付け、その上、それまでのズームイン朝などで培った、生放送の機動力を生かした関西情報を盛り込んで、みごとに朝日放送一強の牙城を切り崩したのだった。いまでも朝日VS読売の朝の激戦は続く。しかし、視聴者にとっては激戦の方が面白い。「箱根を越えると本音で話せる」僕は昔、日本テレビ系列のワイドショー『THEワイド』の演出を担当したが、THEワイドが強すぎて、どんどん裏番組が撤退していった。すると視聴者が「ここはワイドショーの時間じゃない」と判断し、正午の時間帯にうつってしまった。せっかく叩き潰したのに、テレビをつける人がいなくなるシャッター現象が起こった。 広告業界の言葉に「カニバル」という言葉がある。「cannibalization」(共食いの意味)。自社の製品が自社の製品を侵食してしまう現象から同じラインナップのものが同じフィールドに乱立することを指すが、テレビの番組においてはチャンネルをザッピングするので同種の番組が裏にいた方が、より同時間帯が盛り上がる傾向にある。ただこれは番組がお互いに良質で強くなければいけない。両方ともつまらない番組だとシャットダウン。つまりテレビを消してしまう。これではアウト!!Photo by iStock またまた余談だが、「す・またん」とはフランス語で「ce matin」朝という意味。当時のチーフプデューサーがフランスのパリ支局から帰ってきたばかりで命名されたという。ヒットする番組名は「なんだろうー?」と思わせることも大切だ。そして強敵の関西の朝の顔だった宮根誠司アナウンサーをなんと、読売テレビはライバルから自社のお昼の看板番組『情報ライブ ミヤネ屋』の司会に引っこ抜いた。このあたりの戦略は、特筆ものだと当時僕は思っていた。朝日放送からフリーになって全国ネットを張るようになった宮根さんの快進撃はみなさんご承知の通りだ。関西の番組は元気だ。東京から関西に番組ゲストで来る役者やスター、識者は良くこんなことを言う。「箱根を越えると本音で話せる」と。僕はこの言葉にずっと疑問を感じてきた。新幹線で箱根や大井川を越えたら舌が滑らかになるなら演出的に苦労はいらない。本当はスタッフの雰囲気作りや演出がそこにある。東京では例えば、収録番組は1時間のバラエティー番組でも平気で3時間程度収録する。ひどい番組は4時間収録して、ほとんど面白いところを放送から捨ててしまう。タレントも4時間も収録していたら緊張もへったくれもなくなる。「どこか使うだろう」と思ってしまう。関西ではほぼリアルの収録時間の番組が多い。1時間番組なら多くて1時間30分くらい。収録でも生の緊張感を忘れない。その場の雰囲気を大切にする。タレントとの楽屋打ちあわで「ここはこの演出や出し物が面白いで」と提案されれば「やってみましょう」と実際に面白いことの提案をスタッフが即座に実現しょうと努力する。これが東京だともう決まっている番組構成のパズルを崩すことになるので、相当の力技がいる。東京の方が出演者も多いし、演出も複雑という理由もあるが、どうも臨機応変ではない。また段取りが多すぎる。 そして、一番面白いのが台本。どんな番組……例えば報道番組でも台本が存在する。しかし、東京と大阪では別物だ。出演者のセリフに一言一句丁寧に書き込みがしてあるのが東京。方や大阪のスタジオ台本には「司会者……リアクションして」とか「一同(笑)……感想を宜しくお願いします」とこれだけが記されている。出演者のフリートークや個性を重んじる演出。大阪の番組もデータや資料は台本にしっかり書いてあるが、感想の想定セリフは一行も書かれてないから芸能人だけでなく、東京から来て初めて大阪の番組に出演する文化人や学者は皆んなびっくりする。ある時は「何か私がしゃべる感想を台本に書いておいてくださいよ」と出演者に言われ、大阪のディレクターは、またまたびっくりする。「セリフは個人がスタジオで感じたことを。しっかり言えばいいんや。なぜ作家が書かなきゃいけない。だったらロボットがコメントすればいいやんか」とベテランの構成作家は僕に教えてくれた。僕の経験から、関西の番組はアメリカの番組に近い気がする。特にバラエティーは司会者の個性や出演者の個性に委ねられ、そのトークの面白さが際立つ。番組の成功も司会者や出演者のキャスティングにかかっている。また関西は初物を好む。「誰かが使った人ではなく、俺が探してきた人」をテレビに出すことにテレビ屋の生きがいを感じているディレクターやプロデューサーがまだ多い。ある程度テレビで出演したり顔を知っているタレントは無難で使いやすい。あえてテレビ屋としては新しい人を使い、発掘し独自性をだそうとする。ここらあたりが関西のテレビマンの矜持なのではと僕は思う。大阪と東京のテレビの違い。そこには東京のテレビが忘れつつある「金がないなら”工夫”と”冒険”」という気概が残っている気がしてならない。
読売テレビ『朝生ワイドす・またん』の公式webサイトより引用
裏の読売テレビはズームイン朝時代から常に後塵を拝する格好。東京や全国ではズームイン朝はNHKを抜くお化け番組だったのに関西では、勝てない時代が長く続いた。
救世主となったのが2010年3月29日にスタートした『朝生ワイドす・またん』というけったいな名前の番組の登場だった。司会は辛坊治郎キャスターと森武史(当時・読売テレビアナウンサー)。現在フリーアナウンサーとして活躍する川田裕美アナウンサーがサポート役を務めた。
ローカル情報番組として全国ネットのZIPの枠をうまくこじ開けながら読売テレビの名司会者らでローカルパートを広げて、関西密着を印象付け、その上、それまでのズームイン朝などで培った、生放送の機動力を生かした関西情報を盛り込んで、みごとに朝日放送一強の牙城を切り崩したのだった。
いまでも朝日VS読売の朝の激戦は続く。しかし、視聴者にとっては激戦の方が面白い。
僕は昔、日本テレビ系列のワイドショー『THEワイド』の演出を担当したが、THEワイドが強すぎて、どんどん裏番組が撤退していった。すると視聴者が「ここはワイドショーの時間じゃない」と判断し、正午の時間帯にうつってしまった。せっかく叩き潰したのに、テレビをつける人がいなくなるシャッター現象が起こった。
広告業界の言葉に「カニバル」という言葉がある。「cannibalization」(共食いの意味)。自社の製品が自社の製品を侵食してしまう現象から同じラインナップのものが同じフィールドに乱立することを指すが、テレビの番組においてはチャンネルをザッピングするので同種の番組が裏にいた方が、より同時間帯が盛り上がる傾向にある。
ただこれは番組がお互いに良質で強くなければいけない。両方ともつまらない番組だとシャットダウン。つまりテレビを消してしまう。これではアウト!!
Photo by iStock
またまた余談だが、「す・またん」とはフランス語で「ce matin」朝という意味。当時のチーフプデューサーがフランスのパリ支局から帰ってきたばかりで命名されたという。ヒットする番組名は「なんだろうー?」と思わせることも大切だ。そして強敵の関西の朝の顔だった宮根誠司アナウンサーをなんと、読売テレビはライバルから自社のお昼の看板番組『情報ライブ ミヤネ屋』の司会に引っこ抜いた。このあたりの戦略は、特筆ものだと当時僕は思っていた。朝日放送からフリーになって全国ネットを張るようになった宮根さんの快進撃はみなさんご承知の通りだ。関西の番組は元気だ。東京から関西に番組ゲストで来る役者やスター、識者は良くこんなことを言う。「箱根を越えると本音で話せる」と。僕はこの言葉にずっと疑問を感じてきた。新幹線で箱根や大井川を越えたら舌が滑らかになるなら演出的に苦労はいらない。本当はスタッフの雰囲気作りや演出がそこにある。東京では例えば、収録番組は1時間のバラエティー番組でも平気で3時間程度収録する。ひどい番組は4時間収録して、ほとんど面白いところを放送から捨ててしまう。タレントも4時間も収録していたら緊張もへったくれもなくなる。「どこか使うだろう」と思ってしまう。関西ではほぼリアルの収録時間の番組が多い。1時間番組なら多くて1時間30分くらい。収録でも生の緊張感を忘れない。その場の雰囲気を大切にする。タレントとの楽屋打ちあわで「ここはこの演出や出し物が面白いで」と提案されれば「やってみましょう」と実際に面白いことの提案をスタッフが即座に実現しょうと努力する。これが東京だともう決まっている番組構成のパズルを崩すことになるので、相当の力技がいる。東京の方が出演者も多いし、演出も複雑という理由もあるが、どうも臨機応変ではない。また段取りが多すぎる。 そして、一番面白いのが台本。どんな番組……例えば報道番組でも台本が存在する。しかし、東京と大阪では別物だ。出演者のセリフに一言一句丁寧に書き込みがしてあるのが東京。方や大阪のスタジオ台本には「司会者……リアクションして」とか「一同(笑)……感想を宜しくお願いします」とこれだけが記されている。出演者のフリートークや個性を重んじる演出。大阪の番組もデータや資料は台本にしっかり書いてあるが、感想の想定セリフは一行も書かれてないから芸能人だけでなく、東京から来て初めて大阪の番組に出演する文化人や学者は皆んなびっくりする。ある時は「何か私がしゃべる感想を台本に書いておいてくださいよ」と出演者に言われ、大阪のディレクターは、またまたびっくりする。「セリフは個人がスタジオで感じたことを。しっかり言えばいいんや。なぜ作家が書かなきゃいけない。だったらロボットがコメントすればいいやんか」とベテランの構成作家は僕に教えてくれた。僕の経験から、関西の番組はアメリカの番組に近い気がする。特にバラエティーは司会者の個性や出演者の個性に委ねられ、そのトークの面白さが際立つ。番組の成功も司会者や出演者のキャスティングにかかっている。また関西は初物を好む。「誰かが使った人ではなく、俺が探してきた人」をテレビに出すことにテレビ屋の生きがいを感じているディレクターやプロデューサーがまだ多い。ある程度テレビで出演したり顔を知っているタレントは無難で使いやすい。あえてテレビ屋としては新しい人を使い、発掘し独自性をだそうとする。ここらあたりが関西のテレビマンの矜持なのではと僕は思う。大阪と東京のテレビの違い。そこには東京のテレビが忘れつつある「金がないなら”工夫”と”冒険”」という気概が残っている気がしてならない。
またまた余談だが、「す・またん」とはフランス語で「ce matin」朝という意味。当時のチーフプデューサーがフランスのパリ支局から帰ってきたばかりで命名されたという。
ヒットする番組名は「なんだろうー?」と思わせることも大切だ。そして強敵の関西の朝の顔だった宮根誠司アナウンサーをなんと、読売テレビはライバルから自社のお昼の看板番組『情報ライブ ミヤネ屋』の司会に引っこ抜いた。
このあたりの戦略は、特筆ものだと当時僕は思っていた。朝日放送からフリーになって全国ネットを張るようになった宮根さんの快進撃はみなさんご承知の通りだ。
関西の番組は元気だ。
東京から関西に番組ゲストで来る役者やスター、識者は良くこんなことを言う。「箱根を越えると本音で話せる」と。
僕はこの言葉にずっと疑問を感じてきた。新幹線で箱根や大井川を越えたら舌が滑らかになるなら演出的に苦労はいらない。本当はスタッフの雰囲気作りや演出がそこにある。
東京では例えば、収録番組は1時間のバラエティー番組でも平気で3時間程度収録する。ひどい番組は4時間収録して、ほとんど面白いところを放送から捨ててしまう。タレントも4時間も収録していたら緊張もへったくれもなくなる。「どこか使うだろう」と思ってしまう。関西ではほぼリアルの収録時間の番組が多い。1時間番組なら多くて1時間30分くらい。収録でも生の緊張感を忘れない。
その場の雰囲気を大切にする。タレントとの楽屋打ちあわで「ここはこの演出や出し物が面白いで」と提案されれば「やってみましょう」と実際に面白いことの提案をスタッフが即座に実現しょうと努力する。これが東京だともう決まっている番組構成のパズルを崩すことになるので、相当の力技がいる。東京の方が出演者も多いし、演出も複雑という理由もあるが、どうも臨機応変ではない。また段取りが多すぎる。
そして、一番面白いのが台本。どんな番組……例えば報道番組でも台本が存在する。しかし、東京と大阪では別物だ。出演者のセリフに一言一句丁寧に書き込みがしてあるのが東京。方や大阪のスタジオ台本には「司会者……リアクションして」とか「一同(笑)……感想を宜しくお願いします」とこれだけが記されている。出演者のフリートークや個性を重んじる演出。大阪の番組もデータや資料は台本にしっかり書いてあるが、感想の想定セリフは一行も書かれてないから芸能人だけでなく、東京から来て初めて大阪の番組に出演する文化人や学者は皆んなびっくりする。ある時は「何か私がしゃべる感想を台本に書いておいてくださいよ」と出演者に言われ、大阪のディレクターは、またまたびっくりする。「セリフは個人がスタジオで感じたことを。しっかり言えばいいんや。なぜ作家が書かなきゃいけない。だったらロボットがコメントすればいいやんか」とベテランの構成作家は僕に教えてくれた。僕の経験から、関西の番組はアメリカの番組に近い気がする。特にバラエティーは司会者の個性や出演者の個性に委ねられ、そのトークの面白さが際立つ。番組の成功も司会者や出演者のキャスティングにかかっている。また関西は初物を好む。「誰かが使った人ではなく、俺が探してきた人」をテレビに出すことにテレビ屋の生きがいを感じているディレクターやプロデューサーがまだ多い。ある程度テレビで出演したり顔を知っているタレントは無難で使いやすい。あえてテレビ屋としては新しい人を使い、発掘し独自性をだそうとする。ここらあたりが関西のテレビマンの矜持なのではと僕は思う。大阪と東京のテレビの違い。そこには東京のテレビが忘れつつある「金がないなら”工夫”と”冒険”」という気概が残っている気がしてならない。
そして、一番面白いのが台本。どんな番組……例えば報道番組でも台本が存在する。しかし、東京と大阪では別物だ。
出演者のセリフに一言一句丁寧に書き込みがしてあるのが東京。方や大阪のスタジオ台本には「司会者……リアクションして」とか「一同(笑)……感想を宜しくお願いします」とこれだけが記されている。
出演者のフリートークや個性を重んじる演出。大阪の番組もデータや資料は台本にしっかり書いてあるが、感想の想定セリフは一行も書かれてないから芸能人だけでなく、東京から来て初めて大阪の番組に出演する文化人や学者は皆んなびっくりする。
ある時は「何か私がしゃべる感想を台本に書いておいてくださいよ」と出演者に言われ、大阪のディレクターは、またまたびっくりする。
「セリフは個人がスタジオで感じたことを。しっかり言えばいいんや。なぜ作家が書かなきゃいけない。だったらロボットがコメントすればいいやんか」とベテランの構成作家は僕に教えてくれた。
僕の経験から、関西の番組はアメリカの番組に近い気がする。特にバラエティーは司会者の個性や出演者の個性に委ねられ、そのトークの面白さが際立つ。番組の成功も司会者や出演者のキャスティングにかかっている。
また関西は初物を好む。「誰かが使った人ではなく、俺が探してきた人」をテレビに出すことにテレビ屋の生きがいを感じているディレクターやプロデューサーがまだ多い。
ある程度テレビで出演したり顔を知っているタレントは無難で使いやすい。あえてテレビ屋としては新しい人を使い、発掘し独自性をだそうとする。ここらあたりが関西のテレビマンの矜持なのではと僕は思う。
大阪と東京のテレビの違い。そこには東京のテレビが忘れつつある「金がないなら”工夫”と”冒険”」という気概が残っている気がしてならない。

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