痴漢、盗撮などの依存症は「男らしさ、女らしさの病」 専門家が警鐘

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痴漢、盗撮、万引き、小児性犯罪、アルコール……。こうした依存症の治療に20年以上携わってきた精神保健福祉士の斉藤章佳さん(44)は「真面目で仕事熱心、特に大卒の既婚男性が危ない」と警鐘を鳴らす。「依存症は男らしさ、女らしさの病」とも言う。どういうことか。
【グラフ】性暴力の現場で多いのは…「お酒の沼」典型例 大学を卒業し、大手企業に30年勤める50代の男性は、プライベートを犠牲にして業務や接待漬けの日々を送っていた。昇進も果たした男性だったが、ある日倒れて入院した。原因はお酒の飲み過ぎ。退院後もお酒をやめられず、アルコールに依存した。

斉藤さんが著書「男尊女卑依存症社会」(亜紀書房より2023年6月発売)の中で紹介した実話だ。 02年に東京都内のクリニックに就職した斉藤さんはアルコール依存症の治療に従事。男性患者のほとんどがワーカホリック(仕事中毒)だと気付いた。 「休日出勤や残業によって無理に会社の期待に応えようとする人たちが、仕事の付き合いの延長で、もしくは仕事のつらさをまひさせるために『お酒の沼』にはまっていくのが典型例です」男尊女卑が背景に 長年の臨床経験から、男尊女卑の社会構造が依存症に関係しているとの確信を持ったという。 「スポーツで、監督やコーチが『男だろ!』と発破をかける場面をよく見かけますよね。でも『女だろ!』とは言わない。男性は競争に勝って初めて『男』になるのだと、子どもの頃からすり込まれ、私たちはそれを当たり前だと思っているのです」 学生時代は学業やスポーツなどの多様な評価軸があるが、就職後は収入が多いかどうかや仕事ができるかどうかで「男の価値」が決まる。そんなふうに考えがちな男性ほど仕事に身をささげ、ストレスや苦痛をアルコールで緩和しようとする、というのだ。 警察庁によると、家庭内暴力(DV)加害者の7割超は男性だ。これまでに相談に応じたのも、医者や弁護士、大企業の社員などエリートといわれる男性たち。話を聞くと、いずれも「男尊女卑の権化のような人」ばかり。仕事中心の考え方で女性を見下している傾向が強くうかがえたという。 中には、妻から子どもの進学先について相談を受けた時に「下調べをしてプレゼンをしろ。それで俺を納得させることができたら金を出してやる」と言っていた男性もいた。「夫婦は本来対等であるべきなのに、競争に勝つことが全てだと思う男性は家庭内でも上下関係をつくりたがり、妻を支配下に置こうとするんです」痴漢なども類似性 性犯罪加害者の治療に関わっていくと、痴漢や盗撮にはまる男性たちにもワーカホリックの傾向や「勝ち」にこだわる性質があると感じるようになった。ある痴漢常習者は「今週も仕事を頑張ったから、痴漢をやっても許される」とゆがんだ認識で電車内の女性に痴漢を繰り返していた。 一方の女性はというと、30歳以上では、万引きをする理由の中で最も多いのが「節約」らしい。ある40代の女性は、夫から支出を抑えるよう厳しく言われ、スーパーで常習的に万引きするようになった。また、別の女性は家事、育児、介護に従事する中でストレスや対人関係に耐えかね、アルコール依存症に陥った。 斉藤さんは「男性は仕事と共に、女性は家庭内のケア労働と共に依存症になりやすい。『男性は仕事』『女性は家庭』という『性別役割分業』を変え、協働するようになれば、依存症患者も減っていく可能性があります」と言う。 「男性は常に誰が上か下かを意識し合いますが、フラットな場にいる心地よさをまず知るべきです」。仕事を離れた趣味の世界を持ったり、自分を大きく見せることをやめたりすることが、依存症社会を変える一歩になるという。 「依存症から回復していく人は、とても楽に生きていてすっきりした表情をしています。『らしさ』にとらわれなくなり、ありのままの自分でいられるからです」 こうした人が増えてほしいとの願いを著書「男尊女卑依存症社会」に込めた斉藤さん。「特に、男性に読んでほしい」と話している。【平塚雄太】さいとう・あきよし 1979年生まれ。大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)精神保健福祉部長。主な著書に「男が痴漢になる理由」「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」など。
「お酒の沼」典型例
大学を卒業し、大手企業に30年勤める50代の男性は、プライベートを犠牲にして業務や接待漬けの日々を送っていた。昇進も果たした男性だったが、ある日倒れて入院した。原因はお酒の飲み過ぎ。退院後もお酒をやめられず、アルコールに依存した。
斉藤さんが著書「男尊女卑依存症社会」(亜紀書房より2023年6月発売)の中で紹介した実話だ。
02年に東京都内のクリニックに就職した斉藤さんはアルコール依存症の治療に従事。男性患者のほとんどがワーカホリック(仕事中毒)だと気付いた。
「休日出勤や残業によって無理に会社の期待に応えようとする人たちが、仕事の付き合いの延長で、もしくは仕事のつらさをまひさせるために『お酒の沼』にはまっていくのが典型例です」
男尊女卑が背景に
長年の臨床経験から、男尊女卑の社会構造が依存症に関係しているとの確信を持ったという。
「スポーツで、監督やコーチが『男だろ!』と発破をかける場面をよく見かけますよね。でも『女だろ!』とは言わない。男性は競争に勝って初めて『男』になるのだと、子どもの頃からすり込まれ、私たちはそれを当たり前だと思っているのです」
学生時代は学業やスポーツなどの多様な評価軸があるが、就職後は収入が多いかどうかや仕事ができるかどうかで「男の価値」が決まる。そんなふうに考えがちな男性ほど仕事に身をささげ、ストレスや苦痛をアルコールで緩和しようとする、というのだ。
警察庁によると、家庭内暴力(DV)加害者の7割超は男性だ。これまでに相談に応じたのも、医者や弁護士、大企業の社員などエリートといわれる男性たち。話を聞くと、いずれも「男尊女卑の権化のような人」ばかり。仕事中心の考え方で女性を見下している傾向が強くうかがえたという。
中には、妻から子どもの進学先について相談を受けた時に「下調べをしてプレゼンをしろ。それで俺を納得させることができたら金を出してやる」と言っていた男性もいた。「夫婦は本来対等であるべきなのに、競争に勝つことが全てだと思う男性は家庭内でも上下関係をつくりたがり、妻を支配下に置こうとするんです」
痴漢なども類似性
性犯罪加害者の治療に関わっていくと、痴漢や盗撮にはまる男性たちにもワーカホリックの傾向や「勝ち」にこだわる性質があると感じるようになった。ある痴漢常習者は「今週も仕事を頑張ったから、痴漢をやっても許される」とゆがんだ認識で電車内の女性に痴漢を繰り返していた。
一方の女性はというと、30歳以上では、万引きをする理由の中で最も多いのが「節約」らしい。ある40代の女性は、夫から支出を抑えるよう厳しく言われ、スーパーで常習的に万引きするようになった。また、別の女性は家事、育児、介護に従事する中でストレスや対人関係に耐えかね、アルコール依存症に陥った。
斉藤さんは「男性は仕事と共に、女性は家庭内のケア労働と共に依存症になりやすい。『男性は仕事』『女性は家庭』という『性別役割分業』を変え、協働するようになれば、依存症患者も減っていく可能性があります」と言う。
「男性は常に誰が上か下かを意識し合いますが、フラットな場にいる心地よさをまず知るべきです」。仕事を離れた趣味の世界を持ったり、自分を大きく見せることをやめたりすることが、依存症社会を変える一歩になるという。
「依存症から回復していく人は、とても楽に生きていてすっきりした表情をしています。『らしさ』にとらわれなくなり、ありのままの自分でいられるからです」
こうした人が増えてほしいとの願いを著書「男尊女卑依存症社会」に込めた斉藤さん。「特に、男性に読んでほしい」と話している。【平塚雄太】
さいとう・あきよし
1979年生まれ。大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)精神保健福祉部長。主な著書に「男が痴漢になる理由」「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」など。

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