「認知症高齢者は宝物」 ゲーム感覚の特殊詐欺グループ、卑劣な犯行の裏側

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手口の巧妙化が進み、深刻化する特殊詐欺被害。
いずれも始まりは、被害者を動揺させる一本の電話から始まることがほとんどだ。「判断能力が衰えた高齢者を狙え」。大阪府警が摘発した特殊詐欺グループ指示役の男はメンバーの「かけ子」らにこうハッパをかけていた。男の自宅からは特殊詐欺の被害金とみられる1億円余りが押収された。府警がメンバーのスマートフォンを解析したところ、金銭ほしさのゲーム感覚で詐欺行為に手を染める卑劣な姿が浮かび上がってきた―。
詐欺行為は「仕事」
府警によると、男は立花健容疑者(36)=詐欺容疑などで逮捕=で、メンバーは交流サイト(SNS)上で「闇バイト」などで集められ、少なくとも50人規模の特殊詐欺グループを率いていたとみられる。このグループは海外を拠点とせず、ホテルや自宅などにそれぞれ分かれて詐欺電話をかける「テレワーク型」の活動スタイルをとっていた。
府警は立花容疑者とともに、詐欺の電話をかける「かけ子」や、現金の「回収役」とみられる6人も逮捕。押収したスマホを調べると、グループが機密性の高い無料通信アプリ「シグナル」をやり取りに利用していたことが判明した。
そこには詐欺行為を「仕事」と称し、耳を疑うような文言が飛び交っていた。
《認知症の高齢者は宝物。宝物を探せ。だまそうと頑張らなくていい》
《この仕事はいかに相手を信じ込ませるかではなく、いかにぼけたばばあを探すゲームだ》
《数秒でぼけているか判断しろ》
捜査関係者によると、立花容疑者は「まともなやつをだますのは時間がかかる」とターゲットを絞り、ゲーム感覚で手当たり次第に電話をかけるよう伝えていたという。
捜査関係者は「高齢者を食い物にし、卑劣すぎる」と憤る。
13万人にも上る名簿
警察庁によると、令和4年に確認された特殊詐欺の被害件数は約1万7500件で、被害額は370億円に上り、8年ぶりに増加に転じた。
警察当局も摘発を強化するが、海外を拠点にするグループも多く、「かけ子」や「受け子」まで捜査の網が届いても、指揮命令を出す首謀者まで行き着かないケースが多いのが実情だ。
大阪府警は10月、ベトナムから特殊詐欺の電話をかけて高齢者から現金を盗んだとして、窃盗の疑いで20~50代の男6人を逮捕した。
ベトナム・ハノイにある6階建てビル一室の拠点から押収されたのは、約13万人分にも上る名簿や詐欺電話の応答方法を記したマニュアルだ。
約5千ページに及ぶ名簿には東京、大阪、神奈川など12都府県に住む高齢者の情報が記載されており、府警は「かけ子」の拠点となっていたとみている。
海外拠点にハードル
「捕まらないように東南アジアに拠点を設けていた」。ベトナムを拠点に活動していた男らは調べに対しこう供述したという。
容疑者が海外に潜伏していた場合、日本の警察は「犯罪人引き渡し条約」のある米国と韓国以外の国については、外交ルートでの身柄引き渡し請求や外務省を通じた旅券返納命令などで国外退去を促すことができる。ただ、身柄を確保するまでは時間がかかる上にハードルも高い。
中には永住権を取得しやすい国に逃亡し、国籍を取得してしまうケースもあるといい、そうなると旅券返納命令は意味をなさなくなる。「捜査権が及ばない海外では摘発が難しく、現地警察がなかなか動いてくれないことも多い」。ある捜査幹部はこう漏らす。別の捜査幹部は「国外逃亡のケースでは海外の捜査機関との連携が不可欠だ」と強調した。(藤木祥平)

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