創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐって、9月7日に記者会見を開いたジャニーズ事務所。記者会見には、喜多川氏のめいで事務所社長だった藤島ジュリー景子氏、東山紀之氏、井ノ原快彦氏、そして顧問弁護士が出席した。 まずジュリー氏は「事務所としても個人としても、ジャニー喜多川による性加害はあったと認識している」として謝罪、責任を取って社長職を辞任することを明らかにした。新社長には東山氏が就任、タレント活動は経営に専念するため年内で引退する予定とも述べた。
NHKをはじめ民放各局が生中継し、様々な議論がまきおこった今回の記者会見。『Live News イット!』(フジテレビ系)に生出演し、その様子を見守ったという、危機管理/広報コンサルタントの石川慶子氏(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長)に分析してもらった。
◆再発防止特別チームの報告書になかった対応も
まず石川氏は会見のポイントについて「藤島ジュリー氏が出席したことは評価したい」と話した。
「当日まで出席するかどうかもわからなかった彼女が会見に出てきたことと、しっかりと性加害の事実を認め、謝罪したことは非常によかったと思います。手元の原稿を読むのではなく、しっかりと正面を向いて自分の言葉として話していた。これまでも被害男性と直接対面してきたことも含め問題としっかり向き合おうとしているのを感じ取りました」
一方で、厳しい評価を下した点も。ジャニーズ事務所の古参社員としてマスコミ対応の責任者だった白波瀬傑前副社長が出席しなかった点だ。
「ジュリー氏の話を聞いていると、代表権を持つもう1人である白波瀬氏がメディア対応の責任者であったことはよくわかります。彼は責任を取って副社長職を辞任しましたが、再出発のけじめとして会見に出てほしかった。一方で、8月に提言された外部専門家による再発防止特別チームの報告書で、白波瀬氏の名前は挙がっていなかったので、その辞任に踏み切ったのは一定の評価ができると思います。もしかしたら再発防止特別チームが “その余地”をあえて残したのかもしれませんが」
◆ジャニーズ事務所の名称は残ることに
ジャニーズ事務所は性加害の事実を全面的に認めて謝罪した一方、再発防止チームは提言書で「解体的出直し」として、ジュリー氏の辞任、社長職に外部の人物を招へいすることなどを求めていた。結果的にそれらの意見は採用されず、「ジャニーズ」という事務所名も残ることとなった。石川氏はこの点をどう評価するか。
「解体的出直しにはまだほど遠いように思います。ただ、提言書が出てから、まだ1週間ほどしか経っていません。会見までにある程度、報告書を読み込む時間も必要だったはずなので、このタイミングだと新体制の発足や、今の自分たちの考え方を述べるだけが限界だったのではないでしょうか。事務所の名前についても“当面は”そのままというだけで、変更の可能性を示唆しています。大事なのは今後の対応でしょう」
ジャニーズ事務所という名称について、会見当初、東山氏は「今後はそういうイメージを払拭できるよう頑張っていく」と慎重な姿勢を示した一方、井ノ原氏は終盤で「みんなで時間をかけて、変えるなら変える。変えないなら変えない」と述べ、変更に含みを持たせている。
◆東山氏、井ノ原氏への評価は…
会見を通じて言動に注目が集まった新社長に就任した東山氏と、ジャニーズアイランド代表の井ノ原氏。
「東山さんは声のトーンも低くて落ち着いた雰囲気がありました。社長として今後どれだけできるかは未知数ですが、ハラスメントの当事者の疑惑があるなかで、苦しい立場であることに変わりはないでしょう。“解体的出直し”の第一歩として本来であれば外部から人材を呼ぶべきだったのでしょうが、それができなかった。タレントとして対外的な人当たりはよさそうだが、なぜ幼なじみの彼が社長なのかの説明が足りない会見だった」
会見中、東山氏はジュリー氏との関係について「14歳の時から知っている。スタイリストも務めてもらった。幼なじみのような関係」と述べていた。一方で、井ノ原氏の評価について、石川氏は「率直な思いを語っていたのはよかったですが、会見冒頭の説明で彼がなぜ出席しているかの説明がなかったのが残念」と語る。
「今回の会見全体にも言えることですが、あらかじめ記者たちにペーパー(会見要旨)を配っていたら4時間もかからず、半分の時間で終わっていたと思います。井ノ原さんについては、なぜ会見に出ているかの説明がひたすらなく、どの立場で出席しているかが記者に伝わっていなかったと思います。記者も質問のしようがなく、なかには彼が副社長に就任すると勘違いした人もいました。のちに井ノ原さんがジャニーズアイランド社長で、ジャニーズJr.の育成の責任者だという理由で出席していることが分かりましたが、そこをまず司会者、あるいは東山さんが言うべきでした」
◆なぜ4時間以上の長丁場になったのか?
9月7日、午後2時にはじまった会見が終わったのは午後6時10分ごろだった。そもそもなぜここまで長引いたのか。
「記者の質問が尽きるまで会見を続けようという方針だったのか、あるいは会見に慣れていなかったのかはっきりとはわかりません。ただ、先ほども述べたように会見の組み立てが悪かったのは明らか。会見をセッティングし、司会を担当したのがPR会社ではなく、外資のコンサルティング会社だったからかもしれません」
実際、質疑応答の一発目に指名されたのは「しんぶん赤旗」の記者で、次に指名されたのは会見を中継していないテレビ東京の記者だった。石川氏曰く「通常は顔なじみの記者から当てるのが定石」らしく、異例の会見だったことがうかがえる。
◆「1回ですべての問題に回答するのは難しい」
「1回の会見ですべての問題に回答するのは難しいでしょう。今後はまた新たな問題が発覚したり、何か救済措置に進展があったら記者会見を開き、きちんと説明をしてほしいですね。新社長の東山さんにはここを出発点として、開かれた経営を展開してほしいです」(石川氏)
ジャニー氏の性加害の被害を訴えている「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は直後に記者会見を実施。平本淳也代表が「真摯に対応するジャニーズ事務所の意向をはっきり聞かせていただいた。その点については満足とさせていただく、今後に大きな期待を持っている」と述べた。
創業者の性加害を認めたという点で、前向きな一歩を踏み出したジャニーズ事務所。しかし、まだ問題は山積みであり、真価が問われるのはこれからだ。
<取材・文/日刊SPA!取材班>