ビッグモーター新社長が認めた「世の中の常識と合っていなかった」上司が部下に「飲酒運転強要」の過去

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8月24日、和泉伸二新社長は全社員に向けて2回目となるビデオメッセージを送った。
9分近いメッセージの冒頭では社員やその家族に対する感謝の言葉が伝えられており、それに続くのが以下の内容である。
<今回の問題に直面し、日々議論をする中で、毎日のように出てくるさまざまな問題の本当の要因は事業規模の拡大に組織や体制が全く追いついていなかった。そして、当社の常識が世の中の常識と合っていなかったことに尽きると考えています>
「当社の常識が世の中の常識と合っていなかった」
これはまさに「国のルールより自社のルール」を優先し、コンプライアンス無視の体制が当たり前だったことを反省している言葉と受け取れる。新体制になって1ヵ月。上層部の意識を変えていくことはそう簡単ではないと感じている。
47年にわたって世の中の常識や各種の法令を無視した体制で拡大を続けてきた中で、それこそ「世の中の常識」とはかけはなれた実態が情報としてたくさん入ってきている。
ビッグモーターの下請け業者につとめていたAさんは、信じられない光景を何度も目撃したという。Aさんがこう振り返る。
「コロナ禍で飲み会や宴会などが最も厳しく自粛されていたころの話です。宴会なんてとんでもない、というムードの時期に、『店の忘年会を開くから』と参加することになりました。会が始まると、上司が部下へお酒を強要して、ベロベロになるまで飲ませていました。
驚いたのは忘年会が終わって帰るときのことです。上司のB氏は部下にあたる社員Cさんに飲酒運転になることがわかっていて自宅まで送らせていたんですよ。コンプライアンス皆無の会社ということは日ごろからわかっていましたが、絶対やってはいけない、やらせてはいけない行為です。B氏は迷いなく酩酊状態のCさんに自宅まで送らせることを命じていました。しかも、そのことを誰も止められないんですよ。上下関係の厳しい体育会系の会社ですからね。上が言ったことには絶対に従わなければなりませんでした」
その後、飲酒運転を強いられたCさんは退職を決意。会社にこの件を通告したという。
一般の会社では、飲酒運転が見つかった場合は即退社になるケースもある。しかし、「国のルールより会社のルール」が重視されるビッグモーターでは、そんな常識は通用しなかった。CさんがB氏の不祥事を会社に通告しても、営業成績が良かったB氏に厳しい処分が下らなかったという。ただ、その後Cさんに対して飲酒運転を強要した場面とは別のところでもB氏自身の飲酒運転が発覚。さらに、女子社員の体を触るなどのセクハラ問題も露見し、本部がようやくB氏に降格や異動を命じたという。
ちなみにこのB氏はその後、退社したものの、独立して中古車販売業を続けている。その会社にはビッグモーターの元社員が20人ほど集まっている。
前述の甘い対応は、ひき逃げ事故を起こした社員に対しても同様だった。
2014年9月7日早朝に福岡市内で起きたひき逃げ事故で、福岡県早良署は当時32歳だったビッグモーターの社員D氏を自動車運転処罰法違反(過失運転致傷アルコール等影響発覚免脱罪)と道交法違反(ひき逃げ等)容疑で逮捕した。
6日の夜8時過ぎから翌朝6時半頃まで10時間近く博多・中州で酒を飲み、店の代車(修理や車検などで預かったお客さんの車に代わって貸し出す車)を運転したD氏は、福岡市の国道で対向車線にはみ出して、福岡市内在住の会社員女性(40)運転の乗用車と正面衝突。現場に近い駐車場に車を乗り捨てて逃走し、自宅まで徒歩で帰宅していた。女性は軽いけがを負っただけであったのが不幸中の幸いであるが、このときの会社側の対応も驚くものだった。当事を知る元社員は振り返る。
「飲酒ひき逃げですからね。さすがに今回は解雇と噂していましたが、D氏の上司が兼重宏行社長(当時)に嘆願書を書き、それが認められたんですよ。つまり、解雇はもちろん降格もありませんでした。なお、D氏はその上司と共に、競合他社に転職しています」
ビッグモーターはこれまで数々の不正行為が報道されてきたが、その根幹にあるものは、「国のルールより会社のルール」を優先させる本部の方針だった。
数字しか見ていないため、売り上げを上げるためには不正行為もいとわない。また、本部役員が店舗の現場を見て回る「環境整備点検」で悪い点数が付けられないよう、より見栄えをよくするために、自分たちの都合で街路樹を伐採したり、枯らしたりすることも平気だった。
飲酒運転の強要以外にも、筆者のもとには、上司からのパワハラやあざができるほどの暴力に苦しめられている現社員からの切実な訴えが届いている。
社員だけではない。ビッグモーターで中古車を購入したお客さんの中には、契約時に社員からウソをつかれ、多額の損失に苦しんでいる人たちがいる。彼らはビッグモーターで購入したことを激しく後悔し、裁判で戦っている人もいる。
社員や客を大切にしていくつもりがあるなら、ビッグモーターはもっと彼らの悲痛な叫びに耳を傾けるべきではないだろうか。それが「世の中の常識」を取り戻す第一歩だと思うのだが……。
取材・文:加藤久美子

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