中国の日系飲食店や日本企業、「安心・安全の日本産」一転で苦慮

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東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を巡り、中国で日本産水産物の使用が全面的に禁止され、現地の日系飲食店や日本企業が対応に苦慮している。
安心・安全の代名詞とされてきた「日式」が一転して逆風にさらされ、巨大市場でどう事業を継続するか難しい判断を迫られている。(柿沼衣里、北京 山下福太郎)
■全店取りやめ
回転ずしチェーン「はま寿司」は25日までに、中国本土内にある全34店舗で日本産食材の使用を取りやめた。26日に現地の公式SNS上でこれを告知する投稿を行ったが、翌日に削除した。
投稿は「一緒に食の安全を守りましょう」と題しており、日本産を使用しないことで安全性を確保すると受け取られる可能性がある表現だった。
はま寿司を運営するゼンショーホールディングスは「中国側で文面を作成した際、現地の報道や消費者の見方を意識して周囲の店の表現に合わせた。日本のはま寿司としての思いとは違う」(広報)とする。
「日本食材は使用していません。安心して選んで食べてください」
北京市郊外にある商業施設。中国資本の寿司店「池田寿司」では、海洋放出が始まった24日以降、店頭にそう表示している。今までは日本風の店舗名が強みだったが、一転して消費者の厳しい目にさらされるリスクを踏まえた。
同じ商業施設にある家具大手ニトリの店舗では、「日本製造」「日式」と書かれた掲示が随所に並ぶ。主力の家庭用品で日本製の品質を前面に打ち出す狙いだが、店舗関係者は「最近は逆に日本製であることを気にするお客様が増えつつある」と話す。
■追加検査
帝国データバンクによると、中国向け輸出を手がける企業は今年8月現在で国内に9270社。食品(727社)や化粧品を含む美容製品(264社)を輸出する企業も多い。
P&Gが展開する高級化粧品「SK―2」は処理水放出の決定以降、中国向け製品は自社での品質検査に加え、中国政府が認める第三者検査機関でも放射線量の自主検査を行っている。
花王も原発事故後の2011年から、日本から中国を含む海外に正規に輸出する化粧品や日用品は放射線量の検査を実施。広報担当者は「全ての工場内の環境や製品に安全性の問題はない」とする。
化粧品業界では「不買運動がどこまで広がるかは未知数だが、影響は楽観できない」(関係者)との声もある。
■国内でも
中国から日本への団体旅行は8月に解禁されたばかり。百貨店ではコロナ禍前ほどではないものの、中国人訪日客の消費が戻ってきている。大手百貨店の担当者は「12年の尖閣問題の時は来店数が落ちた。今回はそのような動きはない」とひとまず胸をなで下ろす。
ある大手飲食チェーンでは先週末、新宿や渋谷など都心の店舗に迷惑電話がかかってきたという。「通常の問い合わせに応対できなくなるなど、営業に支障が出ている」と広報担当者は語った。
ニッセイ基礎研究所の三尾幸吉郎上席研究員は「中国一般市民の対日感情が悪化している点で、尖閣問題当時と構図は似ている。海産物が直接的な影響を受けているが、団体旅行が解禁された訪日客の回復にも水を差す可能性がある」と指摘する。
■対話継続求める 同友会代表幹事
経済同友会の新浪剛史代表幹事は29日の記者会見で、中国で日本製品への反発が広がっていることについて「政治的な対話が非常に重要だ」と述べ、両国政府間で対話を継続するよう求めた。
新浪氏は「日本製品に問題があるという理解で動いているのではなく、若い人の失業率の高さなどストレスの矢面として、問題が起こっている可能性がある」と指摘。「日本政府は科学的根拠に基づいて対応しており、解決できない問題ではない」とし、対話による解決に期待を寄せた。

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