困難な核燃料抽出に「お伝えするのが難しい」…福島第一原発「処理水30年間放出」東京電力の言い分

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福島第一原子力発電所の放射能処理水の海洋放出が8月24日に始まった。漁業者からの反対の声が出ているうえに近隣諸国からの反発も根強く、中国は日本の水産物の輸入全面停止に踏み切った。専門家からは、いまあえて海洋放出を強行せずとも、まだ処理水の保管場所はあるとの指摘も出ている。
福島第一原発の1~3号機の原子炉内に残る溶け固まった核燃料(燃料デブリ)。このデブリを冷やすためにかけ続けている水が放射性物質で汚れたのものが汚染水だ。地下水や雨水と混ざることで増え続けているが、トリチウム以外を取り除いたものを処理水としてタンクに保管。その量は134万トンに達する。
政府はこのままでは保管場所がなくなるとして海洋放出に踏み切った。計画では少なくとも2051年度までの長期間、放出が続くことになる。
「岸田首相は処理水を海洋放出する理由として、『福島第一原発には処理水を保管するタンクが林立して廃炉を進める場所がなくなっている』と話しています。ここで言う廃炉を進めるための場所とは、今後原子炉から取り出す燃料デブリを保管する場所のことです。しかし、専門家からはそもそもデブリの取り出しなどできるのかとの疑問の声が上がっています」(全国紙社会部記者)
高い放射能を持つ燃料デブリは全部で880トンあるとされる。取り出したらどこかに保管場所が必要になるのは確かだが、簡単に取り出せないと指摘する意見は多い。元東芝の原子力設計技術者の後藤政志氏もその一人だ。
「現在の1~3号機の原子炉内は、高レベル放射能を帯びたデブリが原子炉の床や壁などにこびりついている状態です。東電はロボットで取り出そうとしていますが簡単にできるはずはなく、わずか数グラムを採取する試験取り出しですらスケジュールが遅れていまだにできていません。
本格的な取り出しが進むことなどこの先50年は無理でしょう。デブリの取り出しがほぼ無理なのに保管場所が必要だとの議論は、技術的にも科学的にもリアリティを持った感覚を持ち合わせていないと言わざるを得ません」
デブリの取り出しに時間がかかるのであれば、取り出したデブリを保管する予定地に処理水タンクを増設することは可能だ。国は燃料デブリの一時保管施設には最大で6万平方メートルが必要と試算。
それとは別に、燃料デブリの貯蔵施設などを建設する際に掘り出した土の置き場として敷地北側に約4万平方メートルを確保しているため、合わせて約10万平方メートルが使えることになる。現在の処理水タンクエリアは約23万平方メートルあり、両方を活用すれば海洋放出する必要もなくなる。後藤氏が説明する。
「現在の1000トンクラスのタンクに変えて10万トン級のタンクを空きスペースに作り、処理水を移設する。そうして空になった既存のタンクを大型のものに立て替えていけば、保存容量は格段に増えます。
もしくは処理水をモルタルで固めて放射性物質が漏洩しないようにして地下に埋めておく。トリチウムの半減期は12年と3ヵ月ほどなので、100年もすれば放射能は無視できるほどになります。いずれにしても、いま海洋放出などしなくて済むのです」
同じく大事故を起こしたチェルノブイリ原発でも、デブリの取り出しなどしていない。
「チェルノブイリでも福島第一原発と同じく原子炉内にデブリが大量に溶けましたが、取り出しなどせずに石棺で原子炉を固めることで放射性物質を封じ込めています。そもそもデブリを取り出すのは環境に放射性物質を出さないためなのに、トリチウムが残る処理水を海に放出するのは矛盾しています」(後藤氏)
東京電力に燃料デブリの取り出しなどについて尋ねるとこう回答した。
「取り出した燃料デブリの一時保管場所の場所や広さについては検討中です。試験取り出しが当初よりずれ込んでいる理由は、新型コロナウイルスの影響で敷地内への入域人数に制限があったのと、取り出しに使うロボットアームがデブリを正確につかめるよう制御プログラムを改良中のためです。
本格的な取り出しは試験取り出しの後になりますが、時期は未定です。原子炉建屋の解体はデブリの取り出しが終わらないと取り掛かれないため、いつになるのかはお伝えが難しい段階です」(広報室)
今後、30年以上、太平洋に処理水放出は続く。その間にトリチウム以外の放射性物質が混入するなどのトラブルが発生すれば、国際的に大問題となるのは必至。日本はリスクの高い火種を抱え込んだことになる。
取材・文:桐島 瞬ジャーナリスト

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