阿波おどり「20万円桟敷席」は建築基準法違反の状態だった…市は台風対応で「気が回らず」

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今月に開かれた徳島市の阿波おどりで、今年初めて設置された1人20万円のプレミアム桟敷席が建築基準法に違反した状態で客を入れていたことがわかった。
階段の幅などが基準を満たさず、同法で義務付けられた市の「検査済証」の交付を受けていなかった。阿波おどり実行委員会の事務局を務める市の担当課は取材に対し、「違法状態との認識がなかった」と釈明している。
プレミアム桟敷席は、演舞を正面から観覧しながら徳島産の食材を使った料理を楽しめることが売りで、主に訪日外国人客向けに販売された。
市幹部や踊り手団体、地元の経済団体の代表などで構成する実行委が、事業者からの提案を受けて企画。日本各地の特別な体験やイベントの創出を支援する観光庁の事業に採択され、特別観覧席(1万5000円)の設置費と合わせた事業費計5500万円には国の補助金が充てられた。
市中心部2か所の有料演舞場のうち、藍場浜演舞場で、東京の業者などが今月5日に着工。アルミ素材のパイプで高さ6・5メートル、幅8メートル、奥行き5メートルのやぐらを組み、地上2・5メートル~3メートルの場所に4人掛けの座席を5か所、計20席を設け、11日に完成した。
建築基準法に基づく検査が必要な仮設建築物に該当するため、完成当日に市建築指導課の職員が検査した。その結果、やぐらを上るための2か所の階段の幅が80センチ、階段の手すりの高さが1メートルと、それぞれ基準から10センチ不足していると判明。職員は改善を求め、同法に適合していることを示す検査済証を交付しなかった。
プレミアム桟敷席の運営を担う事業者は、手すりの高さを調整したが、階段の幅は修正できず、警備スタッフの増員などで対応することにした。こうした改善策について、建築指導課の再検査を受けていなかった。
プレミアム桟敷席は検査済証がない違法状態で初日の12日に開設。台風7号の影響で公演が中止となった最終日を除き、14日までの3日間で約20組50人以上が鑑賞した。けが人などはいなかった。
実行委の事務局を務める市にぎわい交流課の担当者は「警備スタッフを増やすなどして安全確保はできたと考え、違法状態にあるという認識はなかった」と説明。「法的に問題があったことについては申し訳ない」と述べた。
建築指導課によると、階段の幅を修正せずに警備員を増やすという対応は認められず、再検査を受けたとしても、検査済証の交付はできなかったとしている。一方で同課は、指導事項が実施されたかどうかを確認せず、検査済証がないことが違法状態にあたることを実行委側に伝えてもいなかった。日本に接近中だった台風7号への対応などで気が回らなかったという。
プレミアム桟敷席のあったやぐらはすでに解体されているため状況の確認ができず、同課は関係団体への行政指導や処分はできないとしている。担当者は「期間中に適切な指導を行えなかったことについては今後、対応を考えたい」と話す。
■暴風警報下で演舞強行
今夏の阿波おどりは4年ぶりの本格開催で、街が熱気に包まれた一方、台風7号が接近するさなかに踊りが強行され、運営上の課題が問われる事態となった。
阿波おどりは運営費の累積赤字の増大などで2010年代後半以降、運営母体が頻繁に代わった。新型コロナウイルスが流行し始めた20年は、戦後初の中止に。その年の経費を巡って市などが作る実行委と運営母体がもめ、21年は市の主催となった。
同年は屋外演舞場の設置を見送り、踊り手と観客を県内在住者に限定して開かれた。現在の実行委形式で開催された昨年は、3年ぶりに屋外演舞場を設けて行われたが、観客席を減らしていた。
今年は厳しい感染対策がなくなり、県内外から参加を希望する踊り手グループが増加。市内のホテルは期間中、ほぼ予約でいっぱいになるなど盛り上がりを見せていた。
ところが、3日目の14日、台風7号の接近を受け、内藤佐和子市長が公演の中止を求めていたにもかかわらず、実行委は賛成多数で開催を決定。
市は午後4時、市内全域に「高齢者等避難」を発令し、同9時過ぎには暴風警報が発表されたが、6時から10時まで決行された。最終日の15日は中止された。
内藤市長は22日の定例記者会見で「14日は中止すべきだった」と述べ、実行委と運営体制の見直しを協議する意向を示した。

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