「いまの子供たちは、非常に危険な世の中で生きている」──新潟青陵大学大学院教授で少年犯罪に詳しい碓井真史さんは、若年層に広がる薬物汚染の恐怖をそう表現した。8月5日、日本大学アメリカンフットボール部の北畠成文容疑者(21才)が、大麻取締法違反と覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕された。
【写真】青系のランドセルを背負った小学生2人「きっかけは保護者からの情報提供でした。“大麻を吸っているアメフト部員がいる”との連絡が大学に入り、大学側が中野区(東京)にある寮を調査しました。北畠容疑者の枕元にあった鍵付きの収納ボックスから植物片と錠剤が見つかり、植物片から大麻成分が検出されて錠剤から覚せい剤反応が出たことで逮捕に至りました。当局は入手経路などについて、詳しく取り調べを進めています」(捜査関係者)
7月12日には東京農業大学のボクシング部に所属する19才の男性部員も大麻取締法違反容疑で逮捕され、その後芋づる式に2人の部員が逮捕された。 日大と東農大の事件は、若年層における薬物汚染の氷山の一角との指摘がある。法務省発表の『犯罪白書』(令和4年版)によれば、2014年以降、大麻取締法違反の年齢層別の検挙数において、20代だけでなく、10代でも年々増加の一途を辿っている。 2021年の検挙数を就学状況別に見ると、中学生が8人(前年と同じ)、高校生が186人(前年比27人増)、大学生が232人(同13人増)。未成年者の検挙者数は、2017年の297人が4年後の2021年には3倍超の994人に増加した。 少年法で14才未満は罰せられないこともあり数字としては残っていないが、薬物汚染が小学生にまで広がっている可能性があるという。実際、2015年には京都市内の小学6年生の男児(12才)が、大麻を吸引したという衝撃的なニュースが報じられた。男児が担任教師に「大麻を吸った」と打ち明けたことで発覚したという。なぜ大麻汚染の若年化が進んでいるのか。前出の碓井さんが解説する。「一昔前は、知人を頼って売人に接触して入手することが当たり前でしたが、いまではインターネットを経由して、まったく面識のない相手から簡単に購入できてしまう時代です。スマートフォンの普及が大きく影響していると考えられます」 NTTドコモのモバイル社会研究所が昨年11月に実施した調査によると、小学校高学年のスマホ所有率は37%で、6年生に限れば52%と半数以上にのぼる。中学2年生以上の所有率は8割超えだ。「スマホを持っていれば、ネットでさまざまな知識を得たり、SNS上で交友関係を広げることも難しくはありません。それ自体は決して悪いことではありませんが、何かの拍子に大麻売買の情報が出てくるかもしれないし、ネット上で仲よくなった人が実は密売人で、言葉巧みに大麻をすすめてくるかもしれない。 もちろん、意図的に大麻を購入できるサイトにアクセスすることも可能です。ネットに慣れ親しんでいるいまの子供たちは、常に危険と隣り合わせであると言えます」(碓井さん)小6の男子が割り勘で購入 昨今、SNS上での「闇バイト募集」が社会問題になっているが、実際、SNSには大麻をはじめとする違法薬物の購入を持ち掛ける書き込みもあふれている。違法薬物の取引に詳しいジャーナリストが語る。「売人たちは、SNS上で隠語を使って薬物の売買を行っています。たとえば大麻は『野菜』や『ブロッコリー』と記載して《野菜好き集まれ》などの文言で“集客”しています。購入希望者からメッセージが届いたら、やりとりが一定の時間で自動的に消えるテレグラムなどの秘匿性の高い通信アプリに誘導し、そこで具体的な代金や受け渡し方法などをやりとりする。宅配便や郵便で送るケースもありますが、人気なのは“手押し”と呼ばれる直接取引。これなら場所にもよりますが、注文から1時間以内に受け取ることも可能です。 大麻の末端価格は1g約6000円なので、小中学生でもお年玉やお小遣いで買えてしまう。小学6年生の男の子たちが、お金を出し合って購入したこともあったようです」 スマホは有害サイトにアクセスできないよう、子供向けに「利用制限」をかけることができる。「ですが、親によっては制限をかけていないWi-Fiモデルの端末を渡していたり、と対応はまちまち。“無制限”のスマホを持っている友人と悪だくみをされることもある。有害サイトへのアクセスを完全に防ぐことは難しい」(前出・ジャーナリスト) 近年は電子たばこで吸引可能な大麻成分を含んだリキッド(液体)や、クッキーやグミに大麻を混ぜた食品も流通しており、大麻使用の裾野が広がっている。これらは乾燥大麻に比べてにおいも少なく、見た目にも周囲にバレにくいため、購入にあたり精神的なハードルが低くなるという。「大麻はその気になれば簡単に入手できる環境にあり、海外では嗜好用の大麻が合法化されている国もある。子供たちはそういった情報をネットから得ることもできるので“大麻は悪いことじゃない”“みんなやっているんだ”と思い込んでしまうわけです。 しかし、大麻が体に有害であることは間違いないし、もし捕まったら一生を棒に振ることになりかねない。ネットでさまざまな情報を得ているいまの子供たちは考え方が柔軟で知識の幅も広いですが、その半面、用心が足りないと言えると思います」(碓井さん) 日大アメフト部の北畠容疑者は、大麻と共に覚せい剤の錠剤も所持していた。同容疑者は警察の調べに対し「大麻を買った際におまけでもらった。覚せい剤とは知らなかった」と供述した。「大麻は『ゲートウェイドラッグ』とも呼ばれ、ほかの薬物に手を出してしまう入り口のドラッグともいわれています。大麻を常習的に購入しているうちに、売人が“もっと効くのがあるよ”と覚せい剤をすすめてきたり、おまけでくれたりするというのは、次のドラッグに手を出させるための典型的な手口です。 覚せい剤は大麻より格段に高額ですが、依存性が非常に強いので無理をしてでも購入してしまう。心身への害も大麻の比ではなく、人生の破滅につながります」(犯罪ジャーナリスト) 薬物汚染は、われわれの想像よりもはるかに広く、そして速いスピードで進んでいる──。※女性セブン2023年8月31日号
「きっかけは保護者からの情報提供でした。“大麻を吸っているアメフト部員がいる”との連絡が大学に入り、大学側が中野区(東京)にある寮を調査しました。北畠容疑者の枕元にあった鍵付きの収納ボックスから植物片と錠剤が見つかり、植物片から大麻成分が検出されて錠剤から覚せい剤反応が出たことで逮捕に至りました。当局は入手経路などについて、詳しく取り調べを進めています」(捜査関係者)
7月12日には東京農業大学のボクシング部に所属する19才の男性部員も大麻取締法違反容疑で逮捕され、その後芋づる式に2人の部員が逮捕された。
日大と東農大の事件は、若年層における薬物汚染の氷山の一角との指摘がある。法務省発表の『犯罪白書』(令和4年版)によれば、2014年以降、大麻取締法違反の年齢層別の検挙数において、20代だけでなく、10代でも年々増加の一途を辿っている。
2021年の検挙数を就学状況別に見ると、中学生が8人(前年と同じ)、高校生が186人(前年比27人増)、大学生が232人(同13人増)。未成年者の検挙者数は、2017年の297人が4年後の2021年には3倍超の994人に増加した。
少年法で14才未満は罰せられないこともあり数字としては残っていないが、薬物汚染が小学生にまで広がっている可能性があるという。実際、2015年には京都市内の小学6年生の男児(12才)が、大麻を吸引したという衝撃的なニュースが報じられた。男児が担任教師に「大麻を吸った」と打ち明けたことで発覚したという。なぜ大麻汚染の若年化が進んでいるのか。前出の碓井さんが解説する。
「一昔前は、知人を頼って売人に接触して入手することが当たり前でしたが、いまではインターネットを経由して、まったく面識のない相手から簡単に購入できてしまう時代です。スマートフォンの普及が大きく影響していると考えられます」
NTTドコモのモバイル社会研究所が昨年11月に実施した調査によると、小学校高学年のスマホ所有率は37%で、6年生に限れば52%と半数以上にのぼる。中学2年生以上の所有率は8割超えだ。
「スマホを持っていれば、ネットでさまざまな知識を得たり、SNS上で交友関係を広げることも難しくはありません。それ自体は決して悪いことではありませんが、何かの拍子に大麻売買の情報が出てくるかもしれないし、ネット上で仲よくなった人が実は密売人で、言葉巧みに大麻をすすめてくるかもしれない。
もちろん、意図的に大麻を購入できるサイトにアクセスすることも可能です。ネットに慣れ親しんでいるいまの子供たちは、常に危険と隣り合わせであると言えます」(碓井さん)
昨今、SNS上での「闇バイト募集」が社会問題になっているが、実際、SNSには大麻をはじめとする違法薬物の購入を持ち掛ける書き込みもあふれている。違法薬物の取引に詳しいジャーナリストが語る。
「売人たちは、SNS上で隠語を使って薬物の売買を行っています。たとえば大麻は『野菜』や『ブロッコリー』と記載して《野菜好き集まれ》などの文言で“集客”しています。購入希望者からメッセージが届いたら、やりとりが一定の時間で自動的に消えるテレグラムなどの秘匿性の高い通信アプリに誘導し、そこで具体的な代金や受け渡し方法などをやりとりする。宅配便や郵便で送るケースもありますが、人気なのは“手押し”と呼ばれる直接取引。これなら場所にもよりますが、注文から1時間以内に受け取ることも可能です。
大麻の末端価格は1g約6000円なので、小中学生でもお年玉やお小遣いで買えてしまう。小学6年生の男の子たちが、お金を出し合って購入したこともあったようです」
スマホは有害サイトにアクセスできないよう、子供向けに「利用制限」をかけることができる。
「ですが、親によっては制限をかけていないWi-Fiモデルの端末を渡していたり、と対応はまちまち。“無制限”のスマホを持っている友人と悪だくみをされることもある。有害サイトへのアクセスを完全に防ぐことは難しい」(前出・ジャーナリスト)
近年は電子たばこで吸引可能な大麻成分を含んだリキッド(液体)や、クッキーやグミに大麻を混ぜた食品も流通しており、大麻使用の裾野が広がっている。これらは乾燥大麻に比べてにおいも少なく、見た目にも周囲にバレにくいため、購入にあたり精神的なハードルが低くなるという。
「大麻はその気になれば簡単に入手できる環境にあり、海外では嗜好用の大麻が合法化されている国もある。子供たちはそういった情報をネットから得ることもできるので“大麻は悪いことじゃない”“みんなやっているんだ”と思い込んでしまうわけです。
しかし、大麻が体に有害であることは間違いないし、もし捕まったら一生を棒に振ることになりかねない。ネットでさまざまな情報を得ているいまの子供たちは考え方が柔軟で知識の幅も広いですが、その半面、用心が足りないと言えると思います」(碓井さん)
日大アメフト部の北畠容疑者は、大麻と共に覚せい剤の錠剤も所持していた。同容疑者は警察の調べに対し「大麻を買った際におまけでもらった。覚せい剤とは知らなかった」と供述した。
「大麻は『ゲートウェイドラッグ』とも呼ばれ、ほかの薬物に手を出してしまう入り口のドラッグともいわれています。大麻を常習的に購入しているうちに、売人が“もっと効くのがあるよ”と覚せい剤をすすめてきたり、おまけでくれたりするというのは、次のドラッグに手を出させるための典型的な手口です。
覚せい剤は大麻より格段に高額ですが、依存性が非常に強いので無理をしてでも購入してしまう。心身への害も大麻の比ではなく、人生の破滅につながります」(犯罪ジャーナリスト)
薬物汚染は、われわれの想像よりもはるかに広く、そして速いスピードで進んでいる──。
※女性セブン2023年8月31日号