違法営業で一斉閉店!「飛田新地より安い」ちょんの間、尼崎・かんなみ新地の「驚きのいま」

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兵庫県・尼崎市に存在した「かんなみ新地」は大阪・飛田新地と並ぶ色街として、全国津々浦々から多くの男性客を引き寄せてきた。自由恋愛を名目とし、70年ものあいだ「ちょんの間」として違法営業を続けてきたが、’21年11月に摘発され、一斉閉店となった。地元住民が語る。
「かんなみ新地は、飛田新地よりも値段が安く、働く女の子も若くて質も非常に高いことで知られていました。20分1万円の“ちょんの間”として、週末になると新地内を歩くのも困難になるほど混雑していましたね。
一斉摘発された後、数日間で荷物の持ち運び出しが行われました。パトカーに乗った警察官が持ち出し作業を監視していたのをよく覚えています。一斉閉店した後は人出がめっきり減りましたが、飲食店として営業している店が何軒か残っています」
かつて、色街として栄えた跡地は今、どんな顔を見せるのか――。現地をくまなく歩いてみた。
阪神尼崎駅から阪神タイガーズの好調に湧く商店街を10分ほどかけて抜けると、かんなみ新地の跡地が見えてくる。訪問したのが三連休だったということもあってか、商店街は賑わっていたが、跡地に入ると人の波は一気に引いた。以前の活況が嘘のように閑散としており、通行人もほとんど見かけない。
長屋が37店舗も連なっているのだが、多くの店には「所有・管理物件・尼崎市」と記された張り紙が貼られている。営業しているのは立ち呑みや、ちょい呑み、BBQに業態をかえて営業している店が4店舗ほど。
しばらく様子を見ていると、黒塗りの大型車が営業中の店に横付け。車中から降りてきた強面の男達が缶ビール片手につまみを平らげ、足早に去っていく姿が確認できた。いまだに通っている客はいるようだ。
尼崎市はかんなみ新地の跡地を購入し、更地にして民間に売却するという方針を昨年5月に発表。今年3月までに土地建物の取得を完了させる、という報道もあった。だが、7月現在も営業中の店舗が散見された。
立ち退き交渉がうまく進んでいないことは明らかだった。通りがかった住民に声をかけると、「尼崎はトラブルが比較的多い地域。ここは長屋が連なっているから、治安面での不安が残りますわ」と不安を口にした。
なぜ立ち退き交渉が不調に終わっているのか。かつてかんなみ新地で働いていた女性がこう明かす。
「尼崎市が出す立ち退き料が安い、とオーナーさんたちは感じていたようです。とはいえ、もとの形態での営業は困難だから、ほとんどの人は半ば諦めるような形で売却に応じていました。
はるか昔、かんなみ新地ににガサが入ったときは、何年かかけて復活したんですよ。また復活するんやないかと期待しとる人もおるかもしれません。生活するために飲食店をやっとる人もいます。
もともと、かんなみ新地の賃料は近隣と比べて異常に安かった。今もオーナーさんが若い人たちに格安で貸してるそうです。又貸ししている人もおるとか。そうは言うても、儲かってるようには見えへんのですが……」
旧かんなみ新地から徒歩2分ほどの距離に小学校がある。色街に通っていた男性客、外国人客のマナーが「教育に良くない」と反対する声も上がっていた。
近接する商店街で飲食店を営む山田さん(仮名・70代)は、この街で暮らしてきた70年間で実に20年以上も、かんなみ新地をなくすよう市に訴え続けてきたという。その歴史を振り返りながら重い口を開く。
「昭和のかんなみ新地はな、昼間も営業しとったんよ。当然、小さな子どもたちもそれを見ている。教育上最悪やったね。ウチの店にかんなみ帰りの客が来て『いくらでできた』『どの女性の具合が良かった』とか、下品な話を大声で話すわけやから。
そりゃあ、地場の人間はエエ顔せえへんよ。ワシらからすれば商売の邪魔。いつからか外国人観光客も来るようになって、あちこちにゴミを散らかすわ、いろんな言葉が飛び交うわ、まさにカオスやった」
突然の摘発の背景には、こんな事情もあった。
「稲村和美という前女性市長が’10年に就任してから、これまでグレーやったものを排除していこうという風潮に変わっていった。かんなみもその対象で、表向きは違法風俗の営業の摘発やったけど、一番の問題はミテコ(未成年)が働いとったことやないかな。
警察は一斉摘発のタイミングと理由を探っていたんやと思う。20年以上、みんなで声を上げてきて、やっとか、という感覚ですわ。かんなみが消滅したとはいえ、ヤクザはここらにはまだおるし、発砲事件もある。放火事件も起きるし、盗難も頻繁にあるから、劇的に治安が良くなったとは言われへんけどな……」
かんなみの跡地の今後は、どうなっていくのか。尼崎市の「かんなみ地域まちづくり対策チーム」の担当者がこう話す。
「土地保有者の約7割はすでに売却に応じていただいています。ただ、既に亡くなられている所有者がいたり、現在も営業中の店舗もあるので、購入に時間がかかっています。
それでも、当初の想定よりスムーズに売却が進んでいると感じています。もう同じ形態で営業ができていないことを説明し、飲食営業を続けている店舗の方にも理解していただいています。市としては、更地にして民間に売却にするという方針は変わっていません。今年中の売却完了を目指し、今後も交渉を進めていく予定です」
もちろん、反対意見もある。「尼崎をこよなく愛している」という50代男性は、こう嘆いた。
「なんでもかんでもダメ、という今の風潮をアマ(尼崎)にも当てはめるのはちょっと違うんじゃないか、と思うこともあるわけよ。そういうグレーな部分や、いかがわしさも含めてアマやったわけやから」
市は今後も土地の保有者に対し、粘り強く交渉を続けていくという。

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