30年間で1万人を盗撮した51歳「斎藤果林被告」に実刑判決 裁判所は「ビデオカメラと単眼鏡」を没収したが、「治療は非常に困難」と指摘

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2021年10月11日深夜、静岡県の国道1号・藤枝バイパス沿いのパーキングエリア(PA)で、静岡県警・自動車警ら隊の隊員たちは違和感を覚えた。PAの駐車スペースは普通車と大型車に別れている。しかし、普通車の駐車場に空きがあるにもかかわらず、1台の軽乗用車が大型トラックの間に停車していたからだ。
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【写真をみる】「撮る瞬間のアドレナリンがたまらない」女性1万人の“入浴姿”を盗撮した斎藤被告 日夜、県内をパトロールするのが自動車警ら隊の仕事だ。普通の人なら見過ごしてしまう光景も、プロの脳裏には注意信号が灯った。

ナンバープレートを見ると、他県ナンバーのレンタカーだった。時刻は月曜の未明で、「旅行帰りにしては遅すぎる」「家出かも」と隊員たちは判断した。1人の隊員が「声を掛けてみよう」と提案すると、2人の隊員は頷いた。静岡県警が押収したカメラなど(2021年12月3日) 軽乗用車に近づくと、男が仮眠を取っていた。窓をノックすると、驚いた様子だった。「持ち物を確認させてもらえますか」と声を掛けると、車内からビデオカメラやのこぎりが出てきた──(註1)。 全国各地の露天風呂で入浴中の女性を盗撮したとして、静岡県警は11都道府県の13人を逮捕、3人を書類送検した。卑劣な「盗撮グループ」の全容が解明されたのは、自動車警ら隊の3隊員による“職務質問”が発端だった。 2021年12月3日、藤枝署と県警生活保安課、サイバー犯罪対策課は、兵庫県迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで3人の男を逮捕したと発表した。9月下旬、兵庫県内の露天風呂で女性を望遠レンズ付きのビデオカメラなどで盗撮した容疑だった(註2)。担当記者が言う。「3人は兵庫県内の山中に迷彩服を着て潜み、100メートル以上離れた露天風呂を、望遠レンズの付いたビデオカメラで盗撮していました。カメラは高性能で、動画の画質は非常に鮮明だったそうです。容疑者の1人が、茨城県行方市内宿の無職、斎藤果林で、逮捕当時は49歳でした。昨年3月に静岡地裁で初公判が開かれたことから、メディアは現在『斎藤被告』と報じています。斎藤被告は盗撮グループのリーダー格であり、マニアの間では“盗撮のカリスマ”として知られていました」「のこぎり」の意味 逮捕された3人の中に「岡山市の無職男」がいた。当時の新聞記事は実名で報道しているが、ここでは名前を伏せる。冒頭で紹介したPAで職務質問を受けたのがこの男だ。「車内から刃渡り6センチを超えるのこぎりが見つかり、銃刀法違反容疑で現行犯逮捕したのが“盗撮グループ摘発”の幕開けでした。のこぎりは山中で露天風呂を盗撮する際、邪魔な木々を伐採するために使ったことが明らかになっています。最初に3人を逮捕し、後は芋づる式に13人が逮捕されました。彼らは医師、公安調査庁の主任調査官、会社役員、北海道の夕刊紙の社員、県庁職員など、それなりの“社会的地位”を持つ男たちだったことも話題を集めました」(同・記者) 読売新聞は今年2月2日、「組織的盗撮 16人摘発 11都道府県で 押収資料1200点超」との記事を静岡県版に掲載。盗撮グループの実態を次のように伝えた。《グループはSNSなどを通じて知り合い、複数の隠語を使って、盗撮などを行っていた。知人の女性を温泉旅行などに誘い出して盗撮する「プロジェクト」、動画にテロップをつけておもしろおかしく編集する「魔改造」、睡眠薬で女性を眠らせて性犯罪に及ぶ「眠り姫」など。撮影した画像や動画は、販売目的ではなく、グループ内で「上映会」を開き、楽しんでいたとされる》盗撮のアドレナリン 斎藤被告は静岡県警の調べに「20歳くらいの頃から約30年間、盗撮してきた。沖縄県を除く46都道府県、100カ所以上で、少なくとも1万人は盗撮した」と供述したという。 斎藤被告の“前科”の一端をうかがわせる新聞報道がある。茨城新聞が2013年7月25日の朝刊に掲載した、逮捕を伝える記事だ。 入浴していた少女の画像を電子メールで送ったなどとして、茨城県警が斎藤被告を逮捕したことが伝えられている。 茨城県警は盗撮動画を販売するサイトの運営会社社長なども逮捕。このサイトや個人に、斎藤被告が動画を販売していた実態も明らかになった。 22年3月10日、文春オンラインは「“盗撮のカリスマ”斎藤果林容疑者が逮捕 犯行グループの一員が明かす“卑劣な手口”『若い女性が集まる連休にはグループで“温泉盗撮旅”へ』」との記事を配信。かつて斎藤被告の盗撮グループに加わっていた男性に取材し、その証言を伝えた。「男性は文春の取材に、『茨城県警に逮捕された時点で、斎藤被告は遊んで暮らせるくらいの金を稼いだようだ』と語っています。茨城県警の捜査によると、盗撮動画の販売サイトは年間で数億円の売上があったそうです。斎藤被告が巨額の利益を得ていたとしても、あり得ない話ではないでしょう。斎藤被告は男性に『女性の入浴姿は飽きるほど見て何も感じない。だが、撮影は楽しく、撮る瞬間のアドレナリンがたまらない』と話していたそうです」(同・記者)捜査員が驚いた「膨大なデータ」 藤枝市内のPAで逮捕された「岡山市の無職の男」の初公判は、昨年1月に静岡地裁で開かれた。検察側の冒頭陳述によると、男は2020年頃、インターネットの掲示板を通じて斎藤被告と知り合い、盗撮組織に“スカウト”された。翌21年10月、撮影に関する“教育”は充分と判断したのか、斎藤被告は男に1人で盗撮するよう提案し、実行されたという(註3)。 盗撮グループがどれほど大量の動画を撮影していたかを報じたのは読売新聞だ(註1)。《「これだけ組織的にやっていたとは」。押収した大量のハードディスクなどから続々と女性を盗撮した記録が見つかった。その量はあまりに膨大で、捜査員らは休日を返上して中身を確認した。県警幹部は、「膨大なデータで、いくら確認しても進まなかった」と話す》 盗撮だけを専門にしていたわけではなく、他にも悪質な性犯罪に手を染めていたことを伝えたのは中日新聞だ(註4)。《県警は2021年12月~23年2月にかけ、斎藤被告を含めて逮捕者13人、書類送検3人の計16人を次々と摘発。容疑は盗撮だけでなくさまざまで、職業も国家公務員や県庁職員、有名ブロガー、医師など多岐にわたり、居住地も関東を中心に関西、九州にまで及んだ》没収判決の意味 昨年3月2日、初公判が静岡地裁で開かれ、斎藤被告は起訴事実を概ね認めた。4月の最終意見陳述では「(盗撮が)ばれなければ被害者は生まれないという身勝手な考え方で、被害者を傷付けてしまった」と謝罪の言葉を述べた。 その様子を中日新聞は《法廷では、検察側の追及内容の誤りを淡々と指摘するなど、終始、落ち着いた様子を見せていた》と伝えた。検察側は「女性の尊厳を踏みにじる極めて悪質な犯行」として、斎藤被告に懲役3年などを求刑した。 弁護側は執行猶予付きの判決を求めたが、斎藤被告は「悪いことをしたので、実刑もしょうがないと思っている。相応の刑を望んでいる」などと発言した(註4)。 7月1日、静岡地裁は斎藤被告に「懲役2年10月、ビデオカメラ、単眼鏡没収」の実刑判決を言い渡した。ここで「没収」の一語を読み、珍しいと感じた人もいるかもしれない。そこで元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士に解説を依頼した。「没収は立派な刑であり、懲役や禁錮、罰金などの主刑と共に言い渡される“付加刑”です。刑事被告人が私物の所有権を持つのは当然ですが、検察が被告の私物について没収を求刑し、裁判所が認めると、所有権が剥奪されて国のものとなります。代表例は賄賂で使われた現金や殺人事件の凶器などです。スマートフォンによる盗撮の場合なら、被告が深く反省しているなどの理由から検察が没収を求めなかったり、裁判所が認めなかったりすると、全ての法的手続きが終了すれば、保存されている盗撮の動画や写真は全て削除された上で、スマホ自体は返却されます」高い再犯率 斎藤被告の場合は、検察がビデオカメラと単眼鏡の没収を求め、静岡地裁も認めた。本当に斎藤被告が億単位の貯金を持っているのなら痛くも痒くもないかもしれないが、判決としては重要な意味があるという。「斎藤被告のビデオカメラや単眼鏡によって、多くの女性が甚大な被害を受けたわけです。静岡地裁は被告の犯した罪の重大性を鑑み、盗撮は絶対に許さないという強い姿勢を示すため、犯罪に使われた被告の私物を没収するよう判決を下したわけです」(同・若狭氏) だが、どれほど厳しい判決を下しても、斎藤被告が改悛の情を見せるかは分からない。実は盗撮事件による逮捕者の再犯率は高いのだ。《平成27年版犯罪白書で報告されている特別調査では、裁判の確定から5年間に再び罪を犯し、再度、有罪が確定した者を対象にした再犯調査も実施しています》《盗撮型77人の再犯率は36・4%で、性犯罪7類型の中で、痴漢型(44・7%)に次ぐ2番目の高さでした。さらに、盗撮型77人を出所受刑者(28人)に限ってみると、再犯率は60・8%》(註5)ジェンダーレストイレと盗撮 先に紹介した文春オンラインの記事は、斎藤被告が「撮る瞬間のアドレナリンがたまらない」と明かしていたという知人の証言を伝えた。「検察官としての経験からも、そうした被疑者や被告は目立ちました。彼らは女性の入浴姿で興奮するのではなく、盗撮ため入念な準備を行い、撮影が成功したことで脳内麻薬が放出され、快楽を得てしまうのです。このような“報酬系”と呼ばれる神経回路が脳内に確立されているため、盗撮を止めようと一度は決心しても、脳内麻薬を求めて再び手を染めてしまう。刑務所を筆頭とする矯正施設ではカウンセリングに力を入れ、関係者の尽力は大変なものがありますが、率直に言って“治療”は非常に困難なのです」(同・若狭氏) 再犯率の高さを考えると、改心して止める者は少ないことが分かる。さらに、盗撮に強い興味を示す“新人”は後を絶たない。となると、盗撮犯は増えることこそあれ、減ることはないということになる。「LGBT議論の一環として、性別を問わない“ジェンダーレストイレ”の普及が検討されています。性の多様性という観点なら私も賛成しますが、検事や弁護士という職歴で得た経験を考えると、拙速な普及には疑問を抱きます。盗撮犯は再犯率が高く、ありとあらゆる卑劣な手を駆使して隠し撮りをします。男女共用の公衆トイレは、彼らに絶好の撮影スポットを与えることになりかねません。盗撮犯の実態を無視してジェンダーレストイレの議論を行うことは、やはり治安維持上、弊害が大きいと言わざるを得ないのです」(同・若狭氏)註1:小さな違和感 盗撮団逮捕 県警自動車警ら隊 深夜に他県車(読売新聞・静岡県版:2022年7月20日)註2:露天風呂 盗撮疑い 藤枝署など、男3人を逮捕(中日新聞・静岡版社会面:2021年12月3日夕刊)註3:露天風呂を盗撮 起訴内容認める 静岡地裁初公判で被告(中日新聞・静岡版第3社会面:2022年1月21日朝刊)註4:露天風呂盗撮 100カ所超 グループ主犯格 きょう判決 静岡地裁(中日新聞・静岡版第2社会面:2023年6月30日朝刊)註5:ネクスパート法律事務所の公式サイト「盗撮の再犯で逮捕されるとどうなる?初犯との違い・逮捕後の対応」よりデイリー新潮編集部
日夜、県内をパトロールするのが自動車警ら隊の仕事だ。普通の人なら見過ごしてしまう光景も、プロの脳裏には注意信号が灯った。
ナンバープレートを見ると、他県ナンバーのレンタカーだった。時刻は月曜の未明で、「旅行帰りにしては遅すぎる」「家出かも」と隊員たちは判断した。1人の隊員が「声を掛けてみよう」と提案すると、2人の隊員は頷いた。
軽乗用車に近づくと、男が仮眠を取っていた。窓をノックすると、驚いた様子だった。「持ち物を確認させてもらえますか」と声を掛けると、車内からビデオカメラやのこぎりが出てきた──(註1)。
全国各地の露天風呂で入浴中の女性を盗撮したとして、静岡県警は11都道府県の13人を逮捕、3人を書類送検した。卑劣な「盗撮グループ」の全容が解明されたのは、自動車警ら隊の3隊員による“職務質問”が発端だった。
2021年12月3日、藤枝署と県警生活保安課、サイバー犯罪対策課は、兵庫県迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで3人の男を逮捕したと発表した。9月下旬、兵庫県内の露天風呂で女性を望遠レンズ付きのビデオカメラなどで盗撮した容疑だった(註2)。担当記者が言う。
「3人は兵庫県内の山中に迷彩服を着て潜み、100メートル以上離れた露天風呂を、望遠レンズの付いたビデオカメラで盗撮していました。カメラは高性能で、動画の画質は非常に鮮明だったそうです。容疑者の1人が、茨城県行方市内宿の無職、斎藤果林で、逮捕当時は49歳でした。昨年3月に静岡地裁で初公判が開かれたことから、メディアは現在『斎藤被告』と報じています。斎藤被告は盗撮グループのリーダー格であり、マニアの間では“盗撮のカリスマ”として知られていました」
逮捕された3人の中に「岡山市の無職男」がいた。当時の新聞記事は実名で報道しているが、ここでは名前を伏せる。冒頭で紹介したPAで職務質問を受けたのがこの男だ。
「車内から刃渡り6センチを超えるのこぎりが見つかり、銃刀法違反容疑で現行犯逮捕したのが“盗撮グループ摘発”の幕開けでした。のこぎりは山中で露天風呂を盗撮する際、邪魔な木々を伐採するために使ったことが明らかになっています。最初に3人を逮捕し、後は芋づる式に13人が逮捕されました。彼らは医師、公安調査庁の主任調査官、会社役員、北海道の夕刊紙の社員、県庁職員など、それなりの“社会的地位”を持つ男たちだったことも話題を集めました」(同・記者)
読売新聞は今年2月2日、「組織的盗撮 16人摘発 11都道府県で 押収資料1200点超」との記事を静岡県版に掲載。盗撮グループの実態を次のように伝えた。
《グループはSNSなどを通じて知り合い、複数の隠語を使って、盗撮などを行っていた。知人の女性を温泉旅行などに誘い出して盗撮する「プロジェクト」、動画にテロップをつけておもしろおかしく編集する「魔改造」、睡眠薬で女性を眠らせて性犯罪に及ぶ「眠り姫」など。撮影した画像や動画は、販売目的ではなく、グループ内で「上映会」を開き、楽しんでいたとされる》
斎藤被告は静岡県警の調べに「20歳くらいの頃から約30年間、盗撮してきた。沖縄県を除く46都道府県、100カ所以上で、少なくとも1万人は盗撮した」と供述したという。
斎藤被告の“前科”の一端をうかがわせる新聞報道がある。茨城新聞が2013年7月25日の朝刊に掲載した、逮捕を伝える記事だ。
入浴していた少女の画像を電子メールで送ったなどとして、茨城県警が斎藤被告を逮捕したことが伝えられている。
茨城県警は盗撮動画を販売するサイトの運営会社社長なども逮捕。このサイトや個人に、斎藤被告が動画を販売していた実態も明らかになった。
22年3月10日、文春オンラインは「“盗撮のカリスマ”斎藤果林容疑者が逮捕 犯行グループの一員が明かす“卑劣な手口”『若い女性が集まる連休にはグループで“温泉盗撮旅”へ』」との記事を配信。かつて斎藤被告の盗撮グループに加わっていた男性に取材し、その証言を伝えた。
「男性は文春の取材に、『茨城県警に逮捕された時点で、斎藤被告は遊んで暮らせるくらいの金を稼いだようだ』と語っています。茨城県警の捜査によると、盗撮動画の販売サイトは年間で数億円の売上があったそうです。斎藤被告が巨額の利益を得ていたとしても、あり得ない話ではないでしょう。斎藤被告は男性に『女性の入浴姿は飽きるほど見て何も感じない。だが、撮影は楽しく、撮る瞬間のアドレナリンがたまらない』と話していたそうです」(同・記者)
藤枝市内のPAで逮捕された「岡山市の無職の男」の初公判は、昨年1月に静岡地裁で開かれた。検察側の冒頭陳述によると、男は2020年頃、インターネットの掲示板を通じて斎藤被告と知り合い、盗撮組織に“スカウト”された。翌21年10月、撮影に関する“教育”は充分と判断したのか、斎藤被告は男に1人で盗撮するよう提案し、実行されたという(註3)。
盗撮グループがどれほど大量の動画を撮影していたかを報じたのは読売新聞だ(註1)。
《「これだけ組織的にやっていたとは」。押収した大量のハードディスクなどから続々と女性を盗撮した記録が見つかった。その量はあまりに膨大で、捜査員らは休日を返上して中身を確認した。県警幹部は、「膨大なデータで、いくら確認しても進まなかった」と話す》
盗撮だけを専門にしていたわけではなく、他にも悪質な性犯罪に手を染めていたことを伝えたのは中日新聞だ(註4)。
《県警は2021年12月~23年2月にかけ、斎藤被告を含めて逮捕者13人、書類送検3人の計16人を次々と摘発。容疑は盗撮だけでなくさまざまで、職業も国家公務員や県庁職員、有名ブロガー、医師など多岐にわたり、居住地も関東を中心に関西、九州にまで及んだ》
昨年3月2日、初公判が静岡地裁で開かれ、斎藤被告は起訴事実を概ね認めた。4月の最終意見陳述では「(盗撮が)ばれなければ被害者は生まれないという身勝手な考え方で、被害者を傷付けてしまった」と謝罪の言葉を述べた。
その様子を中日新聞は《法廷では、検察側の追及内容の誤りを淡々と指摘するなど、終始、落ち着いた様子を見せていた》と伝えた。検察側は「女性の尊厳を踏みにじる極めて悪質な犯行」として、斎藤被告に懲役3年などを求刑した。
弁護側は執行猶予付きの判決を求めたが、斎藤被告は「悪いことをしたので、実刑もしょうがないと思っている。相応の刑を望んでいる」などと発言した(註4)。
7月1日、静岡地裁は斎藤被告に「懲役2年10月、ビデオカメラ、単眼鏡没収」の実刑判決を言い渡した。ここで「没収」の一語を読み、珍しいと感じた人もいるかもしれない。そこで元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士に解説を依頼した。
「没収は立派な刑であり、懲役や禁錮、罰金などの主刑と共に言い渡される“付加刑”です。刑事被告人が私物の所有権を持つのは当然ですが、検察が被告の私物について没収を求刑し、裁判所が認めると、所有権が剥奪されて国のものとなります。代表例は賄賂で使われた現金や殺人事件の凶器などです。スマートフォンによる盗撮の場合なら、被告が深く反省しているなどの理由から検察が没収を求めなかったり、裁判所が認めなかったりすると、全ての法的手続きが終了すれば、保存されている盗撮の動画や写真は全て削除された上で、スマホ自体は返却されます」
斎藤被告の場合は、検察がビデオカメラと単眼鏡の没収を求め、静岡地裁も認めた。本当に斎藤被告が億単位の貯金を持っているのなら痛くも痒くもないかもしれないが、判決としては重要な意味があるという。
「斎藤被告のビデオカメラや単眼鏡によって、多くの女性が甚大な被害を受けたわけです。静岡地裁は被告の犯した罪の重大性を鑑み、盗撮は絶対に許さないという強い姿勢を示すため、犯罪に使われた被告の私物を没収するよう判決を下したわけです」(同・若狭氏)
だが、どれほど厳しい判決を下しても、斎藤被告が改悛の情を見せるかは分からない。実は盗撮事件による逮捕者の再犯率は高いのだ。
《平成27年版犯罪白書で報告されている特別調査では、裁判の確定から5年間に再び罪を犯し、再度、有罪が確定した者を対象にした再犯調査も実施しています》
《盗撮型77人の再犯率は36・4%で、性犯罪7類型の中で、痴漢型(44・7%)に次ぐ2番目の高さでした。さらに、盗撮型77人を出所受刑者(28人)に限ってみると、再犯率は60・8%》(註5)
先に紹介した文春オンラインの記事は、斎藤被告が「撮る瞬間のアドレナリンがたまらない」と明かしていたという知人の証言を伝えた。
「検察官としての経験からも、そうした被疑者や被告は目立ちました。彼らは女性の入浴姿で興奮するのではなく、盗撮ため入念な準備を行い、撮影が成功したことで脳内麻薬が放出され、快楽を得てしまうのです。このような“報酬系”と呼ばれる神経回路が脳内に確立されているため、盗撮を止めようと一度は決心しても、脳内麻薬を求めて再び手を染めてしまう。刑務所を筆頭とする矯正施設ではカウンセリングに力を入れ、関係者の尽力は大変なものがありますが、率直に言って“治療”は非常に困難なのです」(同・若狭氏)
再犯率の高さを考えると、改心して止める者は少ないことが分かる。さらに、盗撮に強い興味を示す“新人”は後を絶たない。となると、盗撮犯は増えることこそあれ、減ることはないということになる。
「LGBT議論の一環として、性別を問わない“ジェンダーレストイレ”の普及が検討されています。性の多様性という観点なら私も賛成しますが、検事や弁護士という職歴で得た経験を考えると、拙速な普及には疑問を抱きます。盗撮犯は再犯率が高く、ありとあらゆる卑劣な手を駆使して隠し撮りをします。男女共用の公衆トイレは、彼らに絶好の撮影スポットを与えることになりかねません。盗撮犯の実態を無視してジェンダーレストイレの議論を行うことは、やはり治安維持上、弊害が大きいと言わざるを得ないのです」(同・若狭氏)
註1:小さな違和感 盗撮団逮捕 県警自動車警ら隊 深夜に他県車(読売新聞・静岡県版:2022年7月20日)
註2:露天風呂 盗撮疑い 藤枝署など、男3人を逮捕(中日新聞・静岡版社会面:2021年12月3日夕刊)
註3:露天風呂を盗撮 起訴内容認める 静岡地裁初公判で被告(中日新聞・静岡版第3社会面:2022年1月21日朝刊)
註4:露天風呂盗撮 100カ所超 グループ主犯格 きょう判決 静岡地裁(中日新聞・静岡版第2社会面:2023年6月30日朝刊)
註5:ネクスパート法律事務所の公式サイト「盗撮の再犯で逮捕されるとどうなる?初犯との違い・逮捕後の対応」より
デイリー新潮編集部

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