「3、4日同じものを着ても何とも思わなくなった」生理用品まで倹約…日雇い派遣から脱出できない女性(29)の“ギリギリ生活”

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「布団を敷く広さがない」押し入れも窓もない…派遣切りに遭った男性(28)が仕方なく続ける、家賃4万2000円の“脱法ハウス”暮らし から続く
日本はもはや豊かな国ではなくなった。2019年の国民生活基礎調査で「生活がやや苦しい・大変苦しい」と答えた世帯は54.5%。ところが日本では、困難な状況にある人が声を出して助けを求めるのは恥という風潮が強く、貧困の実態が見えづらい。
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ここでは、不動産管理会社に勤務しながらルポライターとして取材活動を続ける増田明利さんが、経済的に困窮している17人に取材し貧困社会の実態を浮き彫りにした『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)から一部を抜粋。
事務職をしていたがコロナ禍でリストラされたという松井妙子さん(仮名)の声を紹介する。(全4回の2回目/3回目に続く)
◆◆◆
松井妙子(29歳)
出身地:栃木県鹿沼市 現住所:神奈川県横浜市 最終学歴:大学卒
職業:派遣社員(前職は小売業の事務職) 雇用形態:非正規 収入:約15万円
住居形態:賃貸アパート 家賃:4万7000円
家族構成:独身、実家には両親、祖母、弟、妹 支持政党:自民党
最近の大きな出費:特になし
羽田空港近くの人工島、ここに建っている巨大倉庫が今週の職場。広さはテニスコート5面分くらいで、様々な商品が集められている。
仕事内容は、ネット通販やテレビショッピングなどで消費者が注文した品物を棚から取り出し、配送用の段ボール箱に入れて納品書などを同封する。次に発送票を貼り付けカートに移して一丁上がり。
1日中だだっ広い倉庫内を歩き回り衣料品、事務用品、化粧品、装飾品、食料品、書籍などの棚をせわしなく行き来する。
「かなりの重量がある商品もあります。退勤する頃には両腕、膝、腰が痛くなって、ふくらはぎもパンパンに張っちゃうんです」
荷物を持って小走りに動くことが多いからきつい仕事だ。
「栃木から上京してきたのは16年です。こちらの会社に就職したもので」
地元の大学を卒業して入社したのは都内と神奈川県を地盤に展開している食品・雑貨スーパー。本部で事務職をやっていた。
「新規学卒の正社員でしたが給料は安かったです。仕事もあまり面白くなかったし、刺激もなかった。だけどこれが現実かっていう感じでした。辞めて転職しようと考えたことはないですね」
不満はあっても正社員。給料も少しずつ上がっていったのでそれなりに満足するようになっていった。
「ところがコロナでおかしくなりました」
各店舗は時短営業で夜6時には閉店。従業員が感染した店舗は保健所の指導で2週間の自主休業、納入業者が感染した場合は予定通りの商品が届かないこともあった。
「閉店した店舗もあり、パートやアルバイトの人には辞めてもらったそうです」
そのうち契約社員、次に正社員の人減らしも始まり松井さんもリストラ対象になったという次第だ。
「コロナのせいで業種を問わず倒産が増えているという報道を見ました。勤めていたのはやや規模の大きい中小企業だから、影響が大きかったのでしょうね」
扶養家族のいる人は残してやりたい。君はまだ若いのだから再就職は可能だろう。
こんな説得もあったということだ。
「不安はありましたが、本当に倒産なんてことになったら一大事ですから。退職金は出るし少ないけど転身見舞金も加算するという話だったので、辞めた方が得だと思ったんです」
本部の管理職、各店舗の店長、フロアリーダーの退職も始まったので、これは危ないのかもと思い、21年2月に退職した。
「ハローワークで諸々の手続きをし、失業手当を受けながら転職活動を始めたのですが厳しかった」
食品会社の募集に応募したものの、1週間後に募集そのものを中止しますという連絡があり提出した書類を返送してきた。
「医療法人の事務職募集に応募したときは説明会があったのですが、担当者が採用予定は1名と言っていました。その説明会には20人以上が出席していたのでこれは無理だと思いましたね」
前職が小売業なのでハローワークの担当者から同業他社を勧められたこともあるが、正規雇用ではなく長期アルバイトが主流。事務管理部門ではなく店舗要員で、時給は1050円から1100円が相場。ブラック度も高そうでやりたいとは思わなかった。
「ちょっと前までは人手不足なんて言われていたし、わたしもまだ27歳だったから、簡単ではないだろうけどそれなりの再就職先があるとたかをくくっていました。これが完全な見込み違いでした」
コロナウイルスに対しても舐めてかかっていた。
「わたしの周りの人、親しい人、身内で感染した人はいなかったし、わたし自身も体調を崩すようなことはありませんでした。だからコロナ、コロナって騒ぎすぎじゃないのって思っていたんです。夏頃になれば収まっていると楽観していましたね」
そうこうしているうちに頼みの綱だった失業手当も終了に。再就職もままならない状態だったのでとりあえずアルバイトを探してみたが、これも狭き門だった。
「アルバイトの定番だと思っていた飲食関係は営業自粛や時短営業のあおりでどこも募集なし。しょっちゅう募集していた近所のコンビニもアルバイト募集の貼り紙を外していました。東京23区でアルバイト先を探すのにこんなに苦労するとは思いませんでした」
AFLO
そこで派遣に方向転換したがオフィスワーク系は派遣でも少なく、なかなか連絡がなかった。反面、現業職系ならすぐに紹介できると言われ「ここは繋ぎのつもりで」ということでワーカー登録した。
「登録して半日で何件も連絡がありました。確実に需要があるんでしょうね」
今は2つの派遣会社に登録しており、求人情報はスマホにメールで届く。
「働く期間は1日単位だったり1週間単位です。1か所に固定されることはありません」
8000円から9000円程度の日当と作業内容を天秤にかけながら明日、明後日。あるいは1週間の働く現場を決め、メールを返送する。
「アルバイト派遣って言っているけど、やっていることは日雇いです。日雇い派遣という文言のネガティブさが嫌ですね」
収入的にも満足できるものではない。
「まずバラツキが大きいです。日当9000円、休みは週1で、ずっと働ければ月収で22万円になります。でも現実には仕事と仕事の間に2、3日の空白があったり就労時間が短かったりすることもあるので、実際は16万円がいいところです。交通費は日当に含まれているのでほぼ1万円は出ていきますし」
これで所得税を天引きされたら手取りは14万円と少しがやっと。ゆとりなんてありゃしない。
「職場の雰囲気ですか? 良くはないですね。変わった人もいるから」
たまに出没するのは新興宗教の勧誘。メジャーな団体から聞いたこともない怪しげな団体まで種々雑多。
「マルチ商法みたいなことをやっている人が会員というかカモを捕まえるために入り込んでいたり、左寄りの団体に感化されている人がいたりして、閉口したこともありました。どこの職場にも少し変わった人はいますけど、日雇い派遣はそういう人の出現率が高いですね。個人的に付き合いたいという人はいません」
暮らしぶりについては、今のところは何とか踏ん張っているという状態。
「生活に余裕はないです。家賃、水道光熱費、携帯電話代の合計で6万8000円前後になります。奨学金の返済も1万3000円あるし、国民健康保険の保険料も1万7000円。これだけで9万8000円出ていく。残った4万2、3000円でやり繰りしています」
病気になったときに無保険では困るので国民健康保険には加入しているが、国民年金の保険料は払えないので全額免除の手続きをしている。この先、奨学金の返済ができるのかが大きな不安材料だ。
「生活信条はとにかくお金を使わないこと。1円でもケチる、これに尽きます」
日々の買い物のほとんどは、まいばすけっと、ダイソー、ドン・キホーテで済ましている。
「お米はまいばすけっとの5キロ1380円の格安品、袋入りのインスタントラーメンやレトルトのカレー、食パンなども割安なPB商品しか買いません」
この1年近くはまったく外食していない。ファストフード店にも入っていない。
「基本は自炊です。昨日の夕飯は冷凍保存しておいたご飯を解凍し、おかずはスーパーのタイムセールで買った2枚100円のハムカツ。付け合わせは袋入りモヤシを3分の1ぐらい湯がいて中華ドレッシングで和えたもの。インスタントの味噌汁も飲んだけどお米代込みで180円程度ですね」
派遣の仕事場には出がけに100円ローソンでジャムパン、クリームパン、大福、おにぎりなどを2個買って昼食として持っていく。飲み物は家で淹れたお茶だけ。
「あまりにも粗末なのでコソコソ隠れて食べています」
外でランチやディナーを楽しめる人が羨ましい。
「野菜は高いからあまり食べられません。でも野菜を食べないと身体が痒くなったり肌も荒れたりします。爪の色も悪くなるし頭皮も荒れてフケが増える……人間の身体って正直だなと思います」
新鮮なトマトやレタスを食べたいが、天候が悪かったりしたらレタス1玉が300円、きゅうり1本88円なんて高値になる。とても手が出せない。3、4日同じものを着ていても何とも思わなくなってきた「最近はお洒落にも関心が薄くなってきました。3、4日同じものを着ていても何とも思わなくなりました。さすがに汚れたりシミがついたりしたものは着ませんけど、トレーナーとかジーンズは1週間着続けちゃうことがある。駄目だとは思うんですがズボラになっていきますね」 新品のアンダーウェアー、インナー、アウターを買うにしても近所のスーパーに入っているGU、しまむらが定番。買い物を楽しむということもなくなった。「こんなことを話すのは恥ずかしいのですが、お金がないのを痛感するのは生理のときです。生理用品まで倹約しますからね。以前から使っていた16個398円のものをやめ、20個348円ぐらいの特売品に変えました。生理痛を抑える痛み止めもロキソニンとかエスタックイブを服用していたのですが、聞いたこともないメーカーの薬に変更です。パッケージに書いてある成分表を見てみたらたいした違いがなさそうだったので。少し前にテレビで見た生理の貧困ってわたしのことだと思いました。男性には理解し難いでしょうが」 世間がコロナ慣れしてきたのか社会活動が回復してきたからなのか、事務系派遣で登録している派遣会社から求人情報が送られてくるようになった。「正規雇用で働ければいいけど、まずは肉体労働の日雇い派遣から脱することを優先したいです。時給単価は1450円ぐらいですが倉庫作業よりはいいし」 可能であれば地元の栃木で安定した職を得たいが、これも簡単ではない。「母に地元の新聞に載っている求人募集広告を送ってもらったこともありますが、工場派遣や介護関係ばかりでした。以前は求人が多かった観光関係も今は駄目みたいでしたね。東京、神奈川で働けるところを見つけないと」 今の状態は生活が成り立たないほどではないがギリギリ。仕事のない日はほとんど外出せずにラジオを聴いたり、図書館で借りた本を読んだりしている。他者との交流がないから孤立感も強くなっていく。「金銭的な貧しさは精神的な貧しさ、疎外感をもたらすと思います。もう嫌だし、耐えられそうにもない」 殊更にお金のことを言うと卑しい人間と思われることがあるが、やっぱりお金は大事だと思う。すべての幸せは金銭的な基盤があってこそだというのは言い過ぎだろうか。「食パン3枚とコロッケ1個、スライスチーズ1枚」1日の食費が合計300円のときも…42歳でトリプルワークを続ける男性の“極限”節約生活 へ続く(増田 明利/Webオリジナル(外部転載))
新鮮なトマトやレタスを食べたいが、天候が悪かったりしたらレタス1玉が300円、きゅうり1本88円なんて高値になる。とても手が出せない。
「最近はお洒落にも関心が薄くなってきました。3、4日同じものを着ていても何とも思わなくなりました。さすがに汚れたりシミがついたりしたものは着ませんけど、トレーナーとかジーンズは1週間着続けちゃうことがある。駄目だとは思うんですがズボラになっていきますね」
新品のアンダーウェアー、インナー、アウターを買うにしても近所のスーパーに入っているGU、しまむらが定番。買い物を楽しむということもなくなった。
「こんなことを話すのは恥ずかしいのですが、お金がないのを痛感するのは生理のときです。生理用品まで倹約しますからね。以前から使っていた16個398円のものをやめ、20個348円ぐらいの特売品に変えました。生理痛を抑える痛み止めもロキソニンとかエスタックイブを服用していたのですが、聞いたこともないメーカーの薬に変更です。パッケージに書いてある成分表を見てみたらたいした違いがなさそうだったので。少し前にテレビで見た生理の貧困ってわたしのことだと思いました。男性には理解し難いでしょうが」
世間がコロナ慣れしてきたのか社会活動が回復してきたからなのか、事務系派遣で登録している派遣会社から求人情報が送られてくるようになった。
「正規雇用で働ければいいけど、まずは肉体労働の日雇い派遣から脱することを優先したいです。時給単価は1450円ぐらいですが倉庫作業よりはいいし」
可能であれば地元の栃木で安定した職を得たいが、これも簡単ではない。
「母に地元の新聞に載っている求人募集広告を送ってもらったこともありますが、工場派遣や介護関係ばかりでした。以前は求人が多かった観光関係も今は駄目みたいでしたね。東京、神奈川で働けるところを見つけないと」
今の状態は生活が成り立たないほどではないがギリギリ。仕事のない日はほとんど外出せずにラジオを聴いたり、図書館で借りた本を読んだりしている。他者との交流がないから孤立感も強くなっていく。
「金銭的な貧しさは精神的な貧しさ、疎外感をもたらすと思います。もう嫌だし、耐えられそうにもない」
殊更にお金のことを言うと卑しい人間と思われることがあるが、やっぱりお金は大事だと思う。すべての幸せは金銭的な基盤があってこそだというのは言い過ぎだろうか。
「食パン3枚とコロッケ1個、スライスチーズ1枚」1日の食費が合計300円のときも…42歳でトリプルワークを続ける男性の“極限”節約生活 へ続く
(増田 明利/Webオリジナル(外部転載))

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