ストレス発散の「はけ口」で受刑者虐待…名古屋刑務所暴行で「人権意識が希薄」指摘

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

名古屋刑務所で刑務官が受刑者に暴行などを繰り返していた問題で、有識者らで作る第三者委員会(座長・永井敏雄元大阪高裁長官)が21日、原因や対策をまとめた提言書を斎藤法相に提出した。
人権意識の希薄さなどを問題点として指摘し、全国の施設で再発防止に取り組む必要があるとした。
■400件
「若手がストレスを発散する『はけ口』として、いじめ、虐待とも言える行為を繰り返した」。提言書は今回の問題をそう総括した。
同刑務所では2021年11月~昨年9月、刑務官22人が40~60歳代の男性受刑者3人に対し、顔をたたいたり、威嚇したりするといった行為を400件以上した。このうち、暴行に及んだ13人が特別公務員暴行陵虐などの容疑で書類送検され、名古屋地検が捜査中だ。
法務省はこれまで、「受刑者が特定される恐れがある」として3人の属性を性別と年齢層以外は明らかにしていなかったが、提言書は「知的障害の疑いのある者もいた」と言及。3人は意思疎通や指導内容の理解が困難だったのに、刑務官らは指示や規則に従わせることができないことに立腹し、暴行や不適正処遇をしたと判断した。
同刑務所の職員同士が雑談時に受刑者を「懲役」や「やつら」などと呼んでいたとも指摘。「受刑者を見下し、侮蔑(ぶべつ)する表現で、全く不適切だ」と批判した。
■全国共通
同刑務所は、犯罪傾向の進んだ受刑者などが収容される施設である上、暴力団加入歴のある者も一定数いた。採用3年未満の割合は全職員の17・3%と同種施設(約10%)よりも高く、経験の乏しい若手が処遇の前線で対応していた。
暴行や不適正処遇をした22人は20~30歳代で、提言書は、問題の原因や背景にこうした「厳しい勤務環境」があると述べている。
ただ、問題発覚後の調査では全国14施設で計122件の不適正処遇が判明した。提言書は「人権意識の希薄さや規律秩序を過度に重視する組織風土は全国の施設に共通する」と指摘。「規律秩序の維持は重要だが、その意識が行き過ぎると問題が生じる」と強調した。
■機能不全
同刑務所では2001~02年、刑務官による暴行で受刑者が死傷する事件が発生し、受刑者の処遇を改善する契機となった。受刑者が不服を申し立てたり、弁護士や医師ら民間人で作る「刑事施設視察委員会」が施設運営をチェックしたりする制度が導入されたが、十分に機能しなかった。
不服申し立て制度は、今回の被害に遭った受刑者3人のうち2人が利用しようとしたが、刑務官が拒否し、申し立てを断念させていた。「受刑者から不満が出ている」との視察委の意見にも対応しなかった。
◇■受刑者呼び捨て「廃止を」
提言書は組織風土の改革や処遇体制の充実などを柱とする再発防止策も示した。
規律や秩序を過度に重視する組織風土を変えるため、研修を通じて刑務所長ら管理職の意識を改めさせるとともに、刑務官と受刑者が肯定的な関係を築けるよう、受刑者の呼び捨てを原則、廃止すべきだとした。
障害者など配慮が必要な受刑者には、心理学や福祉の専門家が関与する「チーム処遇」の確立を求めた。専門的な知見を生かし、受刑者の特性に合った柔軟な対応をするためだ。
受刑者に接する刑務官が頭や腕などに小型カメラを装着する仕組みも提言。上司が映像を確認しながら若手をサポートし、適正な対応につなげる狙いがある。
不服申し立て制度や視察委員会の運用改善などにも言及した。
提言書を受け取った斎藤法相は「相当踏み込んだ大きな改革となる提言をいただいた。しっかり実行にうつしたい」と話した。
受刑者の処遇に詳しい浜井浩一・龍谷大教授(刑事政策)は「抜本的な対策としては、『受刑者になめられたら終わり』という刑務官の意識を変える必要がある。受刑者を更生させる立場であることを改めて認識すべきだ」と指摘している。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。