「三宮のブックオフに行ったら、『銀歯買取中』というアナウンスを頻繁にしていてビックリした」
そんな話を神戸在住の大学生の娘から聞いた。しかし、ブックオフのHPの買取商品を見ても、貴金属(金、プラチナ、宝飾品)とあるだけ。
ブックオフに問い合わせたところ、「金歯は扱っていますが…」との回答があった後、実は兵庫県神戸市の三宮センター街店のみが銀歯の買取を4月半ばから実験的に開始したという追加情報をいただいた。
なぜ三宮センター街店のみで銀歯の買取を? その答えの前に、まずは金歯買取の歴史から聞いてみた。
「ブックオフで金歯を取り扱うようになったのは、約10年前から。もともと貴金属買取において、金やプラチナのアクセサリーを主として行う中、不要になった金歯も取り扱いさせていただくオペレーションを開始しました。
きっかけは、金のアクセサリーや金製品の買取の間口を広げるためが1点。もう1点では、ご利用いただくお客様に『これは取り扱いできるけど、これは取り扱いできません』とお返しする機会ができるだけない方が、サービスレベルが高いと考え、取り扱い品目を増やしていった経緯がございます」
そう説明するのは、ブックオフ本部ハイブランドグループ長の今田大貴氏。
金歯の買取をしているのは、全国のブックオフで約100店舗程度。ここ2年ほどで金の異常高騰により、金への注目が世間的に高まってきた背景から、金の取り扱い自体は増えているが、金歯の持ち込み点数は多くないと言う。
「金歯の買取実績は、1店舗あたり2~3ヵ月間に1回あるかないか。全国の取扱店を合わせても査定は年間200回程度だと思います。ただ、金歯を買い取ってくれるお店は他にもありますが、鑑定検査料をとるところが多いのに対し、弊社の場合は査定・見積もりのみでしたら無料で行っているのがご利用いただきやすいポイントだと思います」(今田氏)
気になるのは金歯の買取値段。
「歯全体ではなく、金の被せ物部分の買取となりますが、1グラムあると、今の相場で約2000円。金歯1本あたり1~2グラムということも多いですが、1g未満も多々あります。当然、重さや金の含有率によって変わってきますので、金歯買取を大きく打ち出す店があまりないのはそうした事情からだと思います」(今田氏)
実際にどんな人が、どんなときに金歯を持ち込むのだろうか。
「親や家族が使っていたモノで、金であることには間違いないから、捨てるのももったいないし、取っておいてどう換金するのかわからない、処分に迷うという方が多い印象です。歯医者の治療で、金の被せ物を新しいものに詰め替える時『この金歯どうしますか、お持ち帰りになりますか』と聞かれ、持ち帰ったものをご家族がお持ち込みになることもあります」
アクセサリーや金製品と違い、金歯から金を取り外すのは手間がかかるわりに、得られるのは少量で、割が合わないのでは。
「金歯の場合、いろいろ付着しているものを外す手間などが確かにあります。しかし、工数に合う収益は獲得できなかったとしても、サービスを利用いただいたお客様が、例えば次に『金歯も買取ってくれたから、今度は金のネックレスを』とか『指輪を』『プラチナのアクセサリーを』などと思ってもらえるところはありますので、顧客サービスの一環として買取を行っています」(今田氏)
金歯でさえ、収益性はあまり高くないというのに、ではなぜ銀歯の買取を始めたのか。ブックオフグループホールディングス広報の小湊貴治氏は言う。
「実は銀歯の取り扱いは、お問い合わせいただくまで、我々も把握していませんでした(笑)。というのも、ブックオフ三宮センター街店は、近畿を中心に約20店舗を展開している弊社のFC子会社・ブックレットの店舗なんです」
銀歯の買取のきっかけについて、株式会社ブックレットが運営するブックオフ三宮センター街店ブランド買取コーナー担当の大八木孝久氏は説明する。
「お客様から銀歯の買取について『金歯は売れるけど、銀歯は?』とご相談いただいたことが最初のきっかけでした。
実際にどうだろうと思い、銀歯についていろいろ調べてみたら、保険適用の治療に長く使われてきた無水水銀の『アマルガム』と、現在でも一般的に用いられる『金パラ(金銀パラジウム)』の2種があって、金パラにはJIS規格によってレアメタルのパラジウムを20%、金を12%含有しているものが多いことがわかってきました」
金歯と同様、歯科医での治療時に新しい詰め物に変える、セラミックに付け替えるときなどに、外した銀歯を持ち帰って来たものの、捨てずに持っていたモノを持ち込むケースが多いと言う。
「収益性は低いですが、サービスとして展開することで、お客様との接点が増えることに意義があると考えております。折込チラシなど大きな宣伝広告は展開しておらず、現在は店内アナウンスのみの告知でサンプルを集めている段階ですが、開始から1ヵ月半程度で30本近くお売りいただいている状況です。
アマルガムと金パラは着用年数に応じて酸化や劣化があるので、見極めがつきにくいですが、金属素材の成分分析ができる会社に分析してもらったところ、お持ち込みいただいた銀歯のほとんどが金パラで、金12%、パラジウム20%という構成が確保されている状態でした」(大八木氏)
では、銀歯の買取価格とは?
「現在は銀歯1グラムあたり800円から1000円の価格をつけさせていただいています。例えば奥歯1個だと、被せ物で3、4グラムぐらい。弊社としては、儲けはないけれど、損もしない程度で、お客様へのサービスとして提供できる見込です」(大八木氏)
ちなみに、銀歯は三宮センター街店のみの買取だが、ブックオフでは店舗独自に地域のニーズに合った商品を買い取っている事例が他にもいろいろあると言う。
「例えば、高崎の上毛かるた。地域では小学校で必ず習う必需品だそうで、新品でも販売していますし、中古の買取もしています。また、大宮ステラタウン店やPAPA上尾店のこけし。他に、昭和レトロの雑貨を扱っている店舗も増やしており、昔のタイプライターやラジカセ、70年代80年代のパタパタ時計、さらに熊の木彫りなどの扱いがある店舗もあります。
今、Z世代を中心に昭和レトロ商品が人気で、稼働するかどうかではなく、インテリアとして購入される方が多いようです。そうした昭和レトロ商品は、大手百貨店さん等で期間限定のポップアップショップを年1~2回出店しています」(小湊氏)
こうした地域ごと、店舗ごとの独自の取扱商品は、残念ながらHPにも記載がないため、旅行時などにのぞいてみると意外な掘り出し物に出合えるかもしれない。
「実は、アナログレコードも力を入れている商材です。3年前に本格的に始めたんですが、今は全国350店舗で取り扱っており、HPにも取り扱い店舗を記載しています。
今、たぶん日本で1番中古アナログレコードを扱っているチェーンではないでしょうか。品揃えも店舗によって異なり、歌謡曲に強い店とか、地方では演歌が強いとか、都心部ではシティポップが強いとか、地域によって差が出て面白いですね」(小湊氏)
それにしても、ブックオフの商品がこんなにも多様化していたとは…そうつぶやくと、小湊氏は言った。
「もちろん今も本が中軸であることは変わりませんが、アイテム別に売る店を選んでお持ちいただくのではなく、『ブックオフ』にお持ちいただければ、お部屋の中で使わなくなったアパレルやブランドバッグ、スポーツ用品、雑貨、食器などまで幅広くまとめて査定し、買い取り、また販売させていただきます。金歯はその最たる例です。もちろん金であれば、切れてしまったネックレスや腕時計なども買い取りさせていただいております。
サステナブルな世の中で、資源を有効に利用する意義もありますので、壊れたもの、使わなくなったものなど、ぜひまとめてお持ち下さい」
取材・文:田幸和歌子