「授乳時に嫉妬する旦那」「父親が誰か分からない」…助産師が見た、衝撃現場の数々

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死や老いと向き合わざるを得ない病院という場所。病棟のなかにあって唯一、産科だけは、生命の誕生に立ち会うことができる。産科の実務は当然、産婦人科医が主導するが、妊産婦の身体的・精神的ケアから分娩、産後まで総合的に支えるのは助産師である。 看護師約130万人のなかで、助産に特化した訓練と試験を通過した者だけが手にする資格で、その数は約4万人と極めて少数精鋭。彼女たちの話に耳を傾けると、神秘的かつ感動的なストーリーとは真逆の、禍々しくも恐ろしい人間の本性の産声もまた聞こえてくる。
◆タンクトップに入れ墨のパートナーに凄まれることも
関東地方在住の助産師・松山美樹さん(30代・仮名)は、病院という場所を履き違えた“モンスター家族”に遭遇したと話す。
「もう慣れましたけど、妊婦のパートナーがやたらと高圧的というのはよくあるパターンです。コロナ以前は面会も自由でしたから、タンクトップに入れ墨という出で立ちで現れ、『うちのが痛いって泣いてる、なんとかしろ』なんて凄むのは多々ありました。ナースステーションで一番笑ったのは、『◯◯って助産師をうちの専属にしたい』って言ってきた輩ですね。そういう指名制のお店ではないので(笑)」
◆授乳すると「キレる旦那」
「違う旦那さんですが」と前置きして、非常識なパートナーの存在も明かしてくれた。
「奥さんが授乳すると不機嫌になったり、ひどい場合、キレる旦那も見ました。『俺の女なのに』ということなんでしょうけど、赤ちゃんにとって大切な栄養摂取なので、くだらない嫉妬を差し挟む余地があると思っていること自体、おこがましくて呆れます。それを受け入れたり、謝ってしまう気弱な奥さんも見ていて、『なんだかな』と感じます」
◆お菓子で「20キロ以上増えた」妊婦
妊婦本人に常識がない場合もある。
「妊娠期に体重が増えることは仕方ないのですが、許容量があります。それを超えると、ただでさえ命懸けのお産がより困難になるんです。あらゆる手を尽くして指導しても自覚がなく、隠れていろんなお菓子を持ち込んで20キロ以上増えた妊婦もいました。
『入院はするけど病人でも怪我人でもないんだからいいじゃない』と言われたときは、力が抜けました。胎児を危険に晒す行為だし、生命を軽んじているとしか思えません」
◆自宅で出産してしまい…
松山さんはさらに、自覚や常識に加えて、倫理観が欠けているケースにも遭遇した。
「未受診のまま自宅で出産してしまい、へその緒を切ったはいいけど出血がひどくて泣きながら『助けて』と救急車を呼んだ妊婦も知っています。赤ちゃんの生命を危険に晒しておきながら、自分は助かりたいなんて都合が良すぎるのではないでしょうか。
とはいえ、こうしたケースは相手の男性が逃げていたり、結婚できない事情があったり、妊婦本人だけの問題ではないことも多く、社会の闇を感じます」
◆本妻と浮気相手が隣の病室に…
近畿地方在住の畑野絵梨花さん(40代、仮名)の話もまた興味深い。
「死ばかりがその人の生き様だとされがちですが、出産に付随するエピソードも負けないくらいインパクトがあったりもします。たとえば、私の住む地方は大きな病院が1つしかないので、住民の多くが出産する場所になっています。
あるとき、スタッフが焦った様子で病室についての相談をしていたのでどうしたのか聞いてみたら、『本妻と浮気相手が隣の病室になっちゃったのよ』って(笑)。

◆男の子が生まれてガッカリしていた
だらしない男がいるかと思えば、こんな妊婦もいる。
「経済的に恵まれた妊婦さんの場合、複数の子どもをすべて人工授精で作ったというケースをみましたね。女の子を可愛がっている様子で、男の子が生まれると結構露骨にガッカリしていました。詳しく聞いたわけじゃないのでわかりませんが、『男はコリゴリ』ってことなんでしょうか」
◆「実は旦那の子じゃない」ケースも
想像に難くないが、お腹の子が誰の子かわからないことは珍しくないという。
「たいてい、まだ若い妊婦で、夜中の巡回で泣いているのを発見して声を掛けると、『実は旦那の子じゃない』というパターンですね。パートナーがそれを知らないケースは多く、罪悪感を抱えながら初めてのお産に臨むのは可哀想なので話は聞きますが、正直、『またか』という感じです。
のちのち、相手の両親にバレて養子に出したという話を人づてに聞いたことはあります。病院勤務の助産師は通常、出産や産後のサポートで少し関わるくらいなので、妊婦本人からこういう話を聞くことはありません。噂話が回りやすいのも、地域性ですかね」
◆新生児の腕を自分の性器に…
四国地方在住の山口さなさん(30代・仮名)もまた、あとになって「あれは何だったんだろう」と思い出す妊婦がいるという。
「うちの病院で出産して、産後の検診などでお目にかかった妊婦さんの話です。『お久しぶりです、お元気でしたか』という他愛もない会話を振った直後、ポロポロと泣き出してしまいました。
話を聞いてみると、『どうしても新生児の腕を自分の性器にいれてしまうんです』と予想だにしていなかった相談内容で、絶句しました。ここだけの話、『自分の子どもを可愛いと思えない』くらいの相談は、頻度は少ないものの、なくはないんですよ。これはちょっと予想外過ぎました」
◆産まれた子どもの父親は一体誰なのか…
そんな山口さんが「絶対に忘れられない」と話すのは、治安の悪さで有名なある地域の妊婦だ。
「出生後、すぐに処置をしないと生命に関わる病気の赤ちゃんでした。明言は避けますが、近親相姦によって生まれるリスクの高い病気です。その妊婦のご家族は地元で自営業をしていました。家族経営で、外部との接触もほぼないとのことです。
結局最後まで、妊婦はお腹の子が誰の子なのか、はっきりわからないのだと言っていました。妊婦は簡単な受け答えはできるものの、回答の多くは『わからない』で、自身の兄弟についてもよくわかっていませんでした。
ただ、妊婦が言った言葉で鳥肌が立ったのは、『うちの兄弟、確か9人いたはずなのに、いつのまにか8人になってたのよ』というものです。あとからソーシャルワーカーに聞いた話では、家族のほとんどが刑務所か精神病院に入っていて、幼い頃から十分なケアをされずに育ったとのことです。
産まれた子どもの父親は、誰なんでしょうか。病名からして想像はつきますが、あまり考えたくない話です」
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“親ガチャ”という言葉がもてはやされ、既に旬を過ぎて定着した感さえあるが、本人のやる気や能力以前に家庭環境の持つ意味合いは大きい。人生は、始まる前からもう始まっている。
<取材・文/黒島暁生>

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