減少する日本の「米」消費量、購入金額でパンが上回る 農家の高齢化も作付面積減少を後押し

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古来「瑞穂の国」と呼ばれた日本において、私達の体を作り、長寿の土台となってきたのが「米」。しかし近年、日本人の食生活は大きく変わった。主食である米の前に立ちはだかったのはパンだった。
【グラフで丸わかり】米の消費量は60年前と比べて半分に! 戦後間もない1946年に小学校でコッペパンと牛乳の学校給食がスタートし、食生活の西洋化を背景に日本の食卓には徐々にパンが浸透していく。総菜パンやスイーツパンなど、日本国内で独自の進化を遂げコンビニなどの普及も後押しし、パン食は急伸。対する米食は減る一方だ。

2011年の総務省の「家計調査」では、2人以上の世帯におけるパンの購入額が初めて米を上回った。2020年にはパンが3万1456円、米が2万3920円と、金額的にはパンが主食の座に君臨する。「朝ご飯にお米を食べた人はどれくらいいる?」 新潟食料農業大学准教授の青山浩子さんは最近、40人ほどの大学生に問いかけた。「その日、『米を食べた』という学生は半分ほどでした。米どころの新潟にある大学でこの結果ですから、ほかの地域ではもっと少ないかもしれません」(青山さん・以下同) 米の消費量が減少するに伴い問題視されるようになったのが、「米余り現象」だ。政府は生産過剰とならないよう米の作付面積を減らすため、1971年から米農家が麦や大豆などに転作することを支援する「減反政策」を本格的に実施。だがこの政策により、農家は自分の田んぼで自由に米を作れなくなり、米の生産量は消費量とともにどんどん減っていく。 それから約半世紀、業務用米の不足や、競争力の高い米作りを促すなどの目的で減反政策は2018年に廃止されたが、青山さんは、「減反廃止による農家への影響はほぼない」と語る。「表向き減反を廃止しても、自治体はいまも米の生産が増えないよう実質的に規制しています。実際に過去のデータを見ると2013~2022年にかけて米の作付面積は5%減りました。減反政策をやめても、米を作る田んぼは増えていません」 農家の高齢化も作付面積の減少を後押しする。「いまも山や谷など、条件の悪い地域で頑張っている70~80代の農家のかたは『自分の体が動かなくなったら離農する』という人が多く、減少に歯止めはかかりません。 しかし、消費量はそれを上回るスピードで減少しており、直近10年で米の消費量は10%ほど減りました。現在、意欲のある農家さんが離農などで余った農地を引き取り、大規模かつ効率的な米作りをしようとチャレンジしていますが、このまま米の消費量が減っていくと米の価格がさらに下がり、大規模な農業をしても収入につながらない恐れがあります」 最近はエネルギー高騰や円安、ウクライナ危機などの影響でさまざまな分野で値上げラッシュが続いており、こうした状況も農家にとっては弱り目に祟り目だ。日本の稲作を守る会の代表で、自身も有機栽培米作りにたずさわる稲葉勇美子さんが嘆息する。「米の生産量が減って価格が下がるなか、肥料代や農薬代などの資材費が非常に高騰しています。農家がもっとも困るのは、かかる経費が高くなっているのに米の買取額は低いままであること。現状は米1俵作るのに1万6000円ほどの経費がかかっていますが、売価は1万2000円ほどで、国の補助金が出たとしても米を作るほど赤字になってしまいます。 にもかかわらず政府は米の買取価格を抑えたままで、ミニマム・アクセス(日本が海外から最低限輸入しなければならない量)として毎年アメリカやタイなどの米を77万トンほど輸入している。農民に米を作らせない政策をとりながら高い米を輸入する。なんという矛盾でしょうか」 こうした苦境に、「主食米以外」の作物に手を出す農家も増えたという。「主食米だけでは利益を出せず、家畜の飼料用米やおせんべい、みそなどに使われる加工用米、酒米といった主食米以外の作物を作ることで、国から補助金をもらって生計を成り立たせる農家は少なくありません。それでも収支的に潤うことは難しい状況です」(青山さん) 水田の働きは米を作るだけではない。このまま有効な手を打たず、水田が減り続けていけばさまざまな弊害が出ると稲葉さんが語る。「水をためることでダムのように洪水や土砂崩れを防止する働きや、地下水を浄化して環境や生態系を維持するなど、多くの役割があります。水田は毎年水を通し続けるからこそ、生き続けるのです。それを一度でも畑にしてしまったら元の水田に戻すのは簡単ではない。多くの農家は水田の多様な働きに愛着を持って懸命に米を作っているのに、減反や買取価格の抑制で、米作りの場や水田そのものを奪われているのです」 日本の米作りはいま、取り返しのつかないほど大きな危機に直面しているのだ。※女性セブン2023年6月15日号
戦後間もない1946年に小学校でコッペパンと牛乳の学校給食がスタートし、食生活の西洋化を背景に日本の食卓には徐々にパンが浸透していく。総菜パンやスイーツパンなど、日本国内で独自の進化を遂げコンビニなどの普及も後押しし、パン食は急伸。対する米食は減る一方だ。
2011年の総務省の「家計調査」では、2人以上の世帯におけるパンの購入額が初めて米を上回った。2020年にはパンが3万1456円、米が2万3920円と、金額的にはパンが主食の座に君臨する。
「朝ご飯にお米を食べた人はどれくらいいる?」
新潟食料農業大学准教授の青山浩子さんは最近、40人ほどの大学生に問いかけた。「その日、『米を食べた』という学生は半分ほどでした。米どころの新潟にある大学でこの結果ですから、ほかの地域ではもっと少ないかもしれません」(青山さん・以下同)
米の消費量が減少するに伴い問題視されるようになったのが、「米余り現象」だ。政府は生産過剰とならないよう米の作付面積を減らすため、1971年から米農家が麦や大豆などに転作することを支援する「減反政策」を本格的に実施。だがこの政策により、農家は自分の田んぼで自由に米を作れなくなり、米の生産量は消費量とともにどんどん減っていく。
それから約半世紀、業務用米の不足や、競争力の高い米作りを促すなどの目的で減反政策は2018年に廃止されたが、青山さんは、「減反廃止による農家への影響はほぼない」と語る。
「表向き減反を廃止しても、自治体はいまも米の生産が増えないよう実質的に規制しています。実際に過去のデータを見ると2013~2022年にかけて米の作付面積は5%減りました。減反政策をやめても、米を作る田んぼは増えていません」
農家の高齢化も作付面積の減少を後押しする。
「いまも山や谷など、条件の悪い地域で頑張っている70~80代の農家のかたは『自分の体が動かなくなったら離農する』という人が多く、減少に歯止めはかかりません。
しかし、消費量はそれを上回るスピードで減少しており、直近10年で米の消費量は10%ほど減りました。現在、意欲のある農家さんが離農などで余った農地を引き取り、大規模かつ効率的な米作りをしようとチャレンジしていますが、このまま米の消費量が減っていくと米の価格がさらに下がり、大規模な農業をしても収入につながらない恐れがあります」
最近はエネルギー高騰や円安、ウクライナ危機などの影響でさまざまな分野で値上げラッシュが続いており、こうした状況も農家にとっては弱り目に祟り目だ。日本の稲作を守る会の代表で、自身も有機栽培米作りにたずさわる稲葉勇美子さんが嘆息する。
「米の生産量が減って価格が下がるなか、肥料代や農薬代などの資材費が非常に高騰しています。農家がもっとも困るのは、かかる経費が高くなっているのに米の買取額は低いままであること。現状は米1俵作るのに1万6000円ほどの経費がかかっていますが、売価は1万2000円ほどで、国の補助金が出たとしても米を作るほど赤字になってしまいます。
にもかかわらず政府は米の買取価格を抑えたままで、ミニマム・アクセス(日本が海外から最低限輸入しなければならない量)として毎年アメリカやタイなどの米を77万トンほど輸入している。農民に米を作らせない政策をとりながら高い米を輸入する。なんという矛盾でしょうか」
こうした苦境に、「主食米以外」の作物に手を出す農家も増えたという。
「主食米だけでは利益を出せず、家畜の飼料用米やおせんべい、みそなどに使われる加工用米、酒米といった主食米以外の作物を作ることで、国から補助金をもらって生計を成り立たせる農家は少なくありません。それでも収支的に潤うことは難しい状況です」(青山さん)
水田の働きは米を作るだけではない。このまま有効な手を打たず、水田が減り続けていけばさまざまな弊害が出ると稲葉さんが語る。
「水をためることでダムのように洪水や土砂崩れを防止する働きや、地下水を浄化して環境や生態系を維持するなど、多くの役割があります。水田は毎年水を通し続けるからこそ、生き続けるのです。それを一度でも畑にしてしまったら元の水田に戻すのは簡単ではない。多くの農家は水田の多様な働きに愛着を持って懸命に米を作っているのに、減反や買取価格の抑制で、米作りの場や水田そのものを奪われているのです」
日本の米作りはいま、取り返しのつかないほど大きな危機に直面しているのだ。
※女性セブン2023年6月15日号

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