廃炉に向けた作業が続く東京電力福島第1原発で新たな「想定外」が明らかになった。
目前に迫る処理水の海洋放出は、懸念を表明する韓国の視察団を受け入れ安全性をアピールできたが、一方でメルトダウンを起こした1号機の原子炉圧力容器を支える土台の損傷が深刻だったことが判明。原子力規制委員会は東電に対しリスク評価の検討を指示した。今後起こり得る不測の事態にどう対応するのか。東電の覚悟が問われる。(白岩賢太)
「万が一の場合、どんなことが起こり、どういう対処法があるのか。事前に考えておく必要がある」。24日の規制委会合後の会見で、山中伸介委員長は、土台損傷に伴う敷地外への放射性物質の飛散リスクも含めて影響評価を行う意向を重ねて強調した。
東電は3月、1号機の土台の開口部から水中ロボットを入れ、原子炉真下の「ペデスタル」と呼ばれる円筒形の土台内部を事故後初めて撮影した。ペデスタルは、約440トンの圧力容器を支える土台で高さ約8・5メートル、内径約5メートルの鉄筋コンクリート製。コンクリートの厚みは上部で約1・8メートル、下部で約1・2メートルある。
映像解析の結果、床面から約1メートルの高さまで内壁のコンクリートが消失し、鉄筋がむき出しになっていたことが判明。損傷部位は内側の半周以上にわたって確認されたが、どの程度奥まで進んでいるのかは分かっていない。事故直後に溶け落ちた高温の核燃料によってコンクリートだけが溶けたとみられ、東電は状況から全周にわたって損傷しているとの見方を示した。
ペデスタルの底には、床面から約1メートルの高さまで堆積した燃料デブリ(溶融燃料)とみられる堆積物も確認されている。もし、大きな地震が起きれば、支持機能を失った土台が圧力容器の重さに耐えられず、傾斜や沈降する恐れがある。
想定以上に沈降した場合、圧力容器などに接続する配管の損傷や振動によって、中に閉じ込めた放射性物質が外へ飛散する可能性もある。最悪のケースは、ペデスタルの真上にある構造物が落下し、底にたまった燃料デブリの状態が変化して核分裂反応を起こす「再臨界」のリスクだ。
東電は「圧力容器は横からも支える構造で耐震性に問題はない」と説明した上で、「仮に土台が支持機能を失っても、燃料デブリは事故の進展に伴い冷却されて塊になっており、過去の研究からも臨界の可能性は極めて小さい」と再臨界のリスクについては否定的な見解を示す。
大阪大大学院工学研究科の村田勲教授(量子反応工学)は「昨年のペデスタル外周調査から内部の損傷度合いはある程度予想できたが、調査結果からはインナースカート(基礎に埋め込んだ鉄板)まで損傷が進んでいる可能性があり、強度上の問題が全くないとは言えない」と指摘。一方で、「再臨界のリスクも決してゼロではないが、これまでの中性子の計測結果からはその可能性は極めて低いと考えられる。むしろ今回のような調査をさらに進展させてデブリの量を推計し、廃炉や事故のメカニズム解明につなげることが重要だ」と話している。