長野「4人死亡」立てこもり事件 「極刑」確実視でも捜査関係者が気を揉む「鑑定留置」の行方

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惨劇から一夜明けて逮捕された容疑者は、犯行を認める供述を始めている。しかし一部の警察関係者からは「事件の異様さ」への困惑とともに、「焦点は鑑定留置だ」との声が早くも漏れ始めている。今後の捜査で「最大の山場」となるポイントを探った。
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【写真を見る】警察官らの表情もこわばる 逮捕直前の緊迫した現場の様子 5月25日、長野県中野市で起きた立てこもり事件は、警察官2人を含む4人が死亡する凄惨極まりない結末を迎えた。「立てこもりの現場となったのは中野市議会議長の青木正道氏の自宅で、逮捕された青木政憲容疑者(31)は正道氏の長男です。青木容疑者は最初、近くの畑で60代の女性をサバイバルナイフと見られる刃物で刺し殺すと、通報で駆け付けた警察官2人に猟銃を発砲して殺害。その後、自宅に約12時間籠城した末、警察官の説得に応じて外に出てきたところを身柄拘束された。さらに現場近くでは70歳の女性が倒れているのが見つかり、死亡が確認されました」(地元紙記者)

青木容疑者は父親が経営する果樹園の運営に携わっていたほか、地元だけでなく軽井沢にも店舗を構えるジェラート店を経営していたという。容疑者が12時間籠城した自宅「逃げようとする女性を背後から刃物で刺しただけでなく、警察官に発砲する際は『笑いながら楽しそうに撃っていた』との証言もある。目撃者らが語るのは一様に犯行の異常性を示唆するものばかりです」(同)「精神疾患はない」との診断書 青木容疑者は取り調べに対して、「殺しました。撃ったことは間違いありません」と取り乱す様子もなく淡々と話しているという。4人を殺害した理由として、亡くなった女性2人については「悪口を言われていると思った」などと供述していると伝えられる。「猟銃で撃った警察官2人については『拳銃を突きつけられたから発砲した』などと話していますが、死亡した警察官は拳銃を所持していませんでした。供述には一方的な思い込みが見られる反面、犯行は冷酷かつ冷静なものでした」(同) 青木容疑者は地元の猟友会に所属し、県公安委員会から猟銃などの所持許可を得ていたが、許可申請にあたって「精神疾患などはない」との医師による診断書を提出していたとされる。 警察内部では犯行の悪質性や結果の重大性だけでなく、“仲間を殺された”という怒りからも「極刑が妥当」との声が高まっているという。しかし、一方ではこんな懸念も囁かれている。「今後の供述次第で事件の背景はより明らかになるだろうが、仮に容疑者がどんな動機を語ろうとも、犯行を正当化するのは不可能だ。そもそも殺された4人は容疑者の家族や親類でもなく、殺害に至った経緯を第三者が理解できるかは不透明。供述内容と犯行態様の乖離が大きくなるほど、起訴前に行われる鑑定留置の重要性は増していく」(警察庁関係者)「鑑定留置」で無罪判決 鑑定留置とは容疑者の刑事責任能力を判断するため、医師が容疑者の精神鑑定を行って犯行時の精神状態を調べる制度だ。安倍晋三元総理を銃撃した山上徹也被告もおよそ5カ月半におよぶ鑑定留置を経て、今年3月に殺人罪などで起訴された。「“トラウマ”として念頭に浮かぶのが6年前に神戸市で3人を殺害し、2人に重傷を負わせた事件のケースだ。一審の神戸地裁で“心神喪失の疑いがある”として無罪判決が下され、検察側は判決を不服として控訴。その控訴審が今年5月に大阪高裁で始まったばかりだ」(同) 事件は2017年、無職の被告男性(32)が神戸市の住宅地で祖父母と近隣住民を包丁で刺殺し、さらに母親と近所の別の女性にもバットで襲いかかり重傷を負わせたというもの。一審では起訴事実に争いはなく、被告は初公判で起訴内容について「間違いない」と陳述した。「取り調べの段階でも犯行を認めて『ためらいはあった』と供述する一方で、被害者らを『人間と同じ容姿だが人間ではない哲学的ゾンビ』などと表現。起訴前に2度の鑑定留置が行われ、精神鑑定を担当した2人の医師で見解が割れた。5人を死傷させるという凶悪な犯行に対し、供述など警察側の捜査結果だけをもとに合理的な説明を与えるのは困難。それが医師の判断に影響を及ぼした可能性を指摘する声は当時もあった。殉職した仲間や被害者遺族の無念に応えるためにも同じ轍を踏むわけにはいかない」(同) 今回の事件でも鑑定留置は必至とされ、その期間も「最低でも3カ月以上」(同)になると見られているが、正義の裁きを曲げる結果にならないことが望まれる。デイリー新潮編集部
5月25日、長野県中野市で起きた立てこもり事件は、警察官2人を含む4人が死亡する凄惨極まりない結末を迎えた。
「立てこもりの現場となったのは中野市議会議長の青木正道氏の自宅で、逮捕された青木政憲容疑者(31)は正道氏の長男です。青木容疑者は最初、近くの畑で60代の女性をサバイバルナイフと見られる刃物で刺し殺すと、通報で駆け付けた警察官2人に猟銃を発砲して殺害。その後、自宅に約12時間籠城した末、警察官の説得に応じて外に出てきたところを身柄拘束された。さらに現場近くでは70歳の女性が倒れているのが見つかり、死亡が確認されました」(地元紙記者)
青木容疑者は父親が経営する果樹園の運営に携わっていたほか、地元だけでなく軽井沢にも店舗を構えるジェラート店を経営していたという。
「逃げようとする女性を背後から刃物で刺しただけでなく、警察官に発砲する際は『笑いながら楽しそうに撃っていた』との証言もある。目撃者らが語るのは一様に犯行の異常性を示唆するものばかりです」(同)
青木容疑者は取り調べに対して、「殺しました。撃ったことは間違いありません」と取り乱す様子もなく淡々と話しているという。4人を殺害した理由として、亡くなった女性2人については「悪口を言われていると思った」などと供述していると伝えられる。
「猟銃で撃った警察官2人については『拳銃を突きつけられたから発砲した』などと話していますが、死亡した警察官は拳銃を所持していませんでした。供述には一方的な思い込みが見られる反面、犯行は冷酷かつ冷静なものでした」(同)
青木容疑者は地元の猟友会に所属し、県公安委員会から猟銃などの所持許可を得ていたが、許可申請にあたって「精神疾患などはない」との医師による診断書を提出していたとされる。
警察内部では犯行の悪質性や結果の重大性だけでなく、“仲間を殺された”という怒りからも「極刑が妥当」との声が高まっているという。しかし、一方ではこんな懸念も囁かれている。
「今後の供述次第で事件の背景はより明らかになるだろうが、仮に容疑者がどんな動機を語ろうとも、犯行を正当化するのは不可能だ。そもそも殺された4人は容疑者の家族や親類でもなく、殺害に至った経緯を第三者が理解できるかは不透明。供述内容と犯行態様の乖離が大きくなるほど、起訴前に行われる鑑定留置の重要性は増していく」(警察庁関係者)
鑑定留置とは容疑者の刑事責任能力を判断するため、医師が容疑者の精神鑑定を行って犯行時の精神状態を調べる制度だ。安倍晋三元総理を銃撃した山上徹也被告もおよそ5カ月半におよぶ鑑定留置を経て、今年3月に殺人罪などで起訴された。
「“トラウマ”として念頭に浮かぶのが6年前に神戸市で3人を殺害し、2人に重傷を負わせた事件のケースだ。一審の神戸地裁で“心神喪失の疑いがある”として無罪判決が下され、検察側は判決を不服として控訴。その控訴審が今年5月に大阪高裁で始まったばかりだ」(同)
事件は2017年、無職の被告男性(32)が神戸市の住宅地で祖父母と近隣住民を包丁で刺殺し、さらに母親と近所の別の女性にもバットで襲いかかり重傷を負わせたというもの。一審では起訴事実に争いはなく、被告は初公判で起訴内容について「間違いない」と陳述した。
「取り調べの段階でも犯行を認めて『ためらいはあった』と供述する一方で、被害者らを『人間と同じ容姿だが人間ではない哲学的ゾンビ』などと表現。起訴前に2度の鑑定留置が行われ、精神鑑定を担当した2人の医師で見解が割れた。5人を死傷させるという凶悪な犯行に対し、供述など警察側の捜査結果だけをもとに合理的な説明を与えるのは困難。それが医師の判断に影響を及ぼした可能性を指摘する声は当時もあった。殉職した仲間や被害者遺族の無念に応えるためにも同じ轍を踏むわけにはいかない」(同)
今回の事件でも鑑定留置は必至とされ、その期間も「最低でも3カ月以上」(同)になると見られているが、正義の裁きを曲げる結果にならないことが望まれる。
デイリー新潮編集部

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