「あの人、かなり強烈ですよ」開店前からシャッターを叩く迷惑老人客に、先輩バイトが“まさかの対応”

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客による迷惑行為が世間を騒がせている。テレビなどで報じられて、大きな社会問題となっているが、これらの数多く存在する迷惑客のごく一部に過ぎない。 大学中の留学経験を生かした英語関係の仕事や、フリーランスで営業代行などの仕事を請け負ってきた木村美月さん(仮名・35歳)は数年前に、父親が経営を一任された老舗の喫茶店を手伝うことになった。ところが、常連客の迷惑行為が連発。営業前にシャッターを叩いたり、持参のニンニクを食べたりするなど周囲の迷惑を顧みないワガママな客に困惑したという。美月さんは当時の奮闘を熱く語った。
◆父親が経営を引き継いだ喫茶店
「会社員だった父は、40代後半でいきなり芸能界デビューし、徐々にファンを増やしていった。そんな父を、母は苦労しながら支えていました」
そんな父の大ファンだったのが、某老舗喫茶店のオーナー。数年前に大病で引退すると、美月さんの父はオーナーのたっての頼みで、芸能の仕事と兼用で経営・運営業務を引き受けたという。初めての喫茶店経営を担う父を助けたいと、美月さんはスタッフとして働くことになった。
「前のオーナー時代から働いていた20代のバイト男性がそのまま在籍してくれたので、心強かったですね。他にオーナーの甥が店長になったので、芸能の仕事があるときの父は店長を彼に任せていました」
◆仕込み中にもかかわらず客の怒鳴り声
しかし、美月さんがお店に出てすぐに問題が起きたという。純喫茶Aの営業は7時から21時まで。モーニングにはトーストとゆで卵、プチサラダ、プチヨーグルト、そしてコーヒーで400円とお手頃価格。近くに総合病院があったせいか、年配の男女が多く、また近所に住む老人らが集っていた。
「早朝5時半ごろから準備をしますが、こちらはまだ仕込み中だというのに、オープン前からシャッターを叩きまくって、『開けろ~! まだか!!』と怒鳴る客がいるんです。『開店は7時です。こちらも今準備をしています』とドア越しに事情を説明しても『うるさい! 開けろといったら開けろ!』と聞く耳持たず、ますます強く叩くんですよ。本当に困りました」
◆しかたなくシャッターを上げてみると…
近所迷惑にならないように美月さんが何度も「オープンはこれからです」と丁寧に説明しても客はさらにシャッターを叩く。しかたなくシャッターを上げて、ドアを開錠すると、70代のその客はドアをいきなり開けて、自分が決めた席にドスンと座り、「いつもの」と一言。履きつぶした便所サンダルがテーブルの下から見えていた。
「いつも注文しているものが勝手に出てくると思っているようでした。前のオーナーから引き継ぎが一切なかったので、『申し訳ございません、まだオープンしておりません。そのためご注文もうかがえないのですが……』と説明しても、『お前は使えないな! オーナーはどうした!』とさらに怒鳴るんです」
事情を説明しても「いいから早くもってこい!」と、ますます怒鳴り散らす。目の前の客は怒鳴らないとしゃべれないタイプかもしれないと悶々とする美月さん。すると客は新聞や雑誌コーナーから朝刊を取ってきて読み始めると、少しずつ落ち着いてきた。
◆「あの人、かなり強烈ですよ」
そこで美月さんが「お客様はオープン前に入られました。私たちはいま仕込み中ですので、少しお待ちください」とやっと店側の意向を伝えてキッチンに戻ろうとすると、前オーナー時代から働いているバイトの男性が「おはようございます」と出勤してきた。

どうやら彼によると「いつもの」というのは、モーニングのことだという。そこでオープン時間を10分ほど過ぎた頃に出したら、むしゃむしゃと食べながら新聞を読みふけった。
ほっとして次々と来店する他の客たちへの対応に追われていると、問題の客が読んだ新聞を元の場所に戻してから「○○新聞はないの?」と別の新聞を探し始めた。他の客が読んでいるのを見つけると、「おれ、朝一番でここに来たのよ。先に読む権利あるんだ」と屁理屈をつけては他の客から新聞を取り上げ、自分の席に戻って読む。美月さんが慌てて取り上げられた客に「申し訳ありません」と謝ると、「いつものことだよ」とため息交じりの表情を浮かべる。
◆モーニングを完食したら鞄から黒ニンニクが…
「それで迷惑行為が終わったわけじゃないんです。モーニングを食べ終わると、今度は鞄から何かを出して食べ始めたんです」
びっくりした美月さんが「喫茶店で持ち込みなんてご法度でしょう」と持ち込み禁止を伝えようとすると、問題の客が食べていたのは“黒ニンニク”だった。鞄の袋から取り出してはむしゃむしゃとむさぼるように食べると、店内にニンニク臭が広がる。
「注意しても平気な顔をして自分のやり方を通すんです。しかも毎日来店する。本当に困った客でした」
困った客が1人でもいると「何をやっても許される」という暗黙の了解が成り立つのかもしれないと心配した美月さん。その不安は的中する。
◆オンライン会議でベラベラと英会話
ニンニク臭を巻き散らす客が9時半過ぎに帰ると、今度やってきたのは、営業職と思しき60代男性。そしてオンライン会議を行っているのだろう、iPadのスピーカーをオンにして英語でベラベラと会話するのだ。
「どうせ店のスタッフも客も英語をわからないだろうとバカにしているような態度。そこで一発でやめさせる方法を考えました」
そこで、アメリカに留学経験のあった美月さんは「お客様、大声で話すと他のお客様に迷惑がかかりますから、すぐにおやめください。オンライン会議はうちではなくよそでおやりください」と英語でべらべらとまくしたてた。すると、驚いた客があわてて帰ってくれた。「迷惑行為を阻止できたのは嬉しかった」と美月さん。
それからも美月さんは純喫茶で2年間働いていたが、オーナーの甥が経営を継ぐことになり、美月さんは父とともに撤退した。父はその時に芸能の仕事もやめた。ただし、その後はオーナーの甥が千万円の赤字を出してしまったことが原因で経営悪化し、つい先日40年以上の歴史に幕を降ろしたという。
<取材・文/夏目かをる>

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