皆様、初めまして。フナイムと申します。 2015年、特殊詐欺事件の主犯として逮捕、起訴。懲役5年4か月の実刑判決。2021年に刑期満了し、現在は更生支援活動家として、SNSやメディアにて犯罪撲滅活動をしている。 フナイムという名前は、私が以前服役していた刑務所で受刑者に割り振られていた称呼番号「2716番」にちなんでおり、“刑期が終わっても、罪という十字架を背負い一生を生きる”という意味が込められている。 先日の銀座高級時計店で起きた10代の少年たちによる強盗事件をはじめ、現在、日本列島を震撼させている「闇バイト」。若者がカジュアルに手を染めてしまうこの現状を撲滅すべく、今回は私の実体験を含め、闇バイトへの入口、刑務所で待っている現実、出所後の人生の厳しさを綴りたい。 ◆闇バイトへの入り口、甘い言葉に誘われて… 「日給20万円!リスク対策万全!現金即払い!交通費全額支給!」 煌びやかなブランド品と札束の写真とともに、すぐに飛びつきたくなる言葉ばかりが並ぶ。SNSやネットの掲示板でこんな書き込みがあっても絶対に応募してはならない。 私が初めて犯罪に加担してしまったのは23歳の時。その頃は今ほどSNSは流行っておらず、私が働いていた水商売のお店のお客様から「月に50万~100万円稼げる金融の仕事がある。やってみないか?」と誘われた。土日休み、昼間の仕事、高収入……お金がなかった私は何の疑いもなく飛びついたのだった。
事務所へ行くと、電話で“お金を貸します”と言って保証金を騙し取る「融資保証金詐欺」のいわゆる“かけ子”の仕事だった。
◆一度でも手を染めると抜け出せない 暴力団関係者の話も事務所の中でチラホラと耳に入ってくる。事前に身分証明書のコピーも取られてしまっており、自身が罪を犯している罪悪感にも苛まれ、私は抜けようにも抜けられず、そのまま犯行を続けてしまった。
周りの人間が多額の札束でやり取りし、ブランド品を身に着けている様子を目の当たりにするなかで、段々と罪の意識が薄れていった。私は、お金の魔力に憑りつかれてしまったのだ。 闇バイトは一度でも手を染めて成功すると、なかなか抜け出すことができなくなってしまう。それは今も昔も変わらない。
なぜなら人間は「味を占めてしまうから」だ。次も大丈夫だろう……その繰り返しが罪の意識を麻痺させ、犯罪にもかかわらず、徐々に“仕事”という感覚になっていく。 こうなってしまったらもう手遅れだ。捕まるまで罪を重ね続けるだろう……。ギャンブルがやりたい、“映え”たい、煌びやかな人生を送りたい。そんなくだらない欲望処理のために。私みたいにね。
自慰行為を強要され、出した自分の精液を飲めなどと言われた受刑者もいたらしい。少刑では日常的にこんないじめが行われている。
◆地獄のような日々 そして私が収監されていた刑務所でもいじめは起きていた。たとえば、次のようなものだ。 お菓子を取り上げられる。余暇時間中、点検拒否(※毎朝夜に行われる点検を拒否すると懲罰に処され現在の収容場所から強制的に飛ばされてしまう。規律違反なので当然仮釈放に響く)をしてここからいなくなれ、と永遠と詰められる。風呂に入らせない。食事を食べさせない。靴に水を入れられる。このような陰湿ないじめは日常茶飯事だった。 闇バイトをしたお金で、憧れた煌びやかな生活から一転。地獄を見ることになる。親や家族からも見放され、孤独になった受刑者もいる。私のように。 一人になって初めてわかったことがある。 犯罪に手を染める前の当たり前の生活が本当に幸せだったこと。家族がいるって幸せだったこと。分不相応な生活で見栄を張ろうとした自分が愚かだったこと。 しかし、後悔してもすでに手遅れだった。
◆出所後の厳しい人生 「仕事がない。家が借りられない。お金がない。再犯者率は48.6%」 地獄のような刑務所から社会復帰を果たしても待っているのは地獄の日々。そんな現実から逃げたくなり、再び犯罪をしてしまう人間が後を絶たない。 私のSNSには元受刑者から様々な相談が寄せられる。 仕事が決まらない、家が借りられない、銀行口座が作れない、会社に服役していた過去が発覚してクビになってしまった、結婚相手に服役していたことを今さら話すことができない、被害弁済や賠償金が払えず苦しい、お金がない、未来に絶望しかない。 特にメディアで報道された事件、SNSやネットで氏名や写真が拡散された元受刑者は社会復帰がより厳しい現実となっている。名前をネットに打ち込めば一発で事件の概要が出てくる時代。
人間一人ひとりの個を尊重し共存する多様性の時代とは言ったものの、いくら更生をしても前科者はまだまだ排除される世の中なのだ。 弊害はこれだけではない。あまり知られていないと思うが、気軽にアメリカ旅行にも行きづらくなる。懲役1年以上の量刑を下された人は、PCSC協定(重大な犯罪を防止し及びこれと戦う上での協力強化に関する日本とアメリカの協定)により、アメリカと犯罪情報が共有されてしまう。そして、アメリカへ渡航するにはビザが必要となる。 こういった疎外感から孤独になり、自分は必要のない人間だと感じる。人を羨み妬む。まじめに生きるのが馬鹿らしくなり、お金もなくなり、再び犯罪に手を染めてしまう。 出所して3日後、“出し子”で捕まった。 前刑では詐欺、今回は強盗で捕まった。 出所したがお金がなく窃盗をして捕まった。 そんな人間を私は留置場や拘置所でたくさん見てきた。
◆罪を犯せば“破滅”するしかない そして今年、衝撃的なニュースを見た。同じ釜の飯を食べ、刑務所で共に更生を誓った元受刑者が殺人容疑で逮捕された。その元受刑者とは1年間同じ刑務所の職業訓練で一緒だった。熱心なキリスト教信者で、聖書を毎日読んでいた。聖書の言葉の素晴らしさを私に教えてくれた人物だった。人のために生きるとあれだけ言っていたのに、なぜ殺人を犯したのか……。その真相は今も闇の中だ。
罪を犯すということは、他人を傷つけ自分自身も傷つける。つまり“破滅”するしかない。 私も破滅を経験した人間。私のように罪を犯し、他人に迷惑をかけ、後悔することは避けて欲しい。
<文/フナイム>
―[更生支援活動家・フナイム]―