ネコを外に出してはいけない意外な理由 “驚異的な狩猟能力”が与える生態系への影響(どうぶつ奇想天外/WAKUWAKU)

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最近、東京では野良猫を見かけることが少なくなりました。4-5年前までは、よく公園の片隅などで近所の人が餌をやり、数匹のネコが集まっていたものでしたが…。【動画でみる】田舎のネコは『狩り』の様子が全然違う!四万十川のネコに密着取材してみた外にネコがいなくなった理由。それは、ここ十数年ほどの間に、ネコにとってふたつの衝撃的な出来事があったからです。TBS「どうぶつ奇想天外!」と一緒にふり返ってみましょう。(TBS「どうぶつ奇想天外!」初代プロデューサー 戸田郁夫)

番組では、イエネコ(人に飼い慣らされたネコ)の野性的な姿を追ったことがあります。2007年のことです。高知県・自然豊かな四万十川で、飼いネコの行動を追いました。ネコは一歩外に出ると“野性の顔”に変わります。獲物の気配を感じとり、カマキリを捕まえ、カエルも、ネズミも狩るのです。獲物に跳びかかる直前の瞬間の瞳孔の変化がとても面白い。これが放送された時は、視聴者のみなさんにとても面白がっていただきました。クレーム電話も記憶にありません。でも、一昨年になってYouTubeに公開したら…!14年経ってYouTubeに公開したら予想を超えた「お叱りの声」が…この動画をYouTubeに公開したのは、放送から14年も経った2021年4月。公開後、すぐに動画のコメント欄が騒がしくなりました。「寄生虫が心配」というコメントはネコ好きな方からでしょう。「自然破壊だ」とか「ちゃんと価値観アップデートしなよ」という意見も寄せられました。「ネコは家の中で飼いましょう」最近そう言われていることは知っていたのですが、反響の温度が予想以上でした。この間に一体、何があったのか?概要欄に但し書きをつけることを決め、以前番組の監修をしていただいた国立環境研究所の五箇公一先生にお話を伺いました。私たちが抱えている事情がわかると先生は、「今は外に出しちゃダメなんだよー。」と言ってから、その理由を詳しく教えてくれました。この14年間、ネコをめぐる大問題はふたつ起きていました。ひとつ目のそれは「健康リスク」です。ネコが新興感染症SFTSの犠牲になる…!?五箇先生が特に問題にしたのは、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)というウイルス性感染症です。感染したネコの7割が死に、人にも感染して20~30%の致死率を示すと言います。流行したら大変です。この感染症が中国で発表されたのは2011年。四万十川のネコの放送をしてから4年後、「どうぶつ奇想天外!」が終了してから2年後のことでした。やがて、人間の世界には新型コロナ感染症がやってきます。つい先日、世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を終了すると発表しましたが、この3年3ヶ月の間に7億6590万人が感染し、692万人が亡くなりました(5月10日WHO発表)。後遺症に苦しむ人も数多くいます。また、ここ数年は冬になると世界的な規模で鳥インフルエンザが大流行。危機的な状況が続き、次の冬も心配されています。感染症が与えるインパクトは、いつも、動物の「種」を問わないのです。予想外!ネコの驚くべきハンティング能力ネコを外に出してはいけない。ふたつ目の理由は、「自然生態系に対して悪影響を及ぼす」ということです。これは、番組放送当時から監修の千石正一先生がよく話していたことです。ノネコ(捨てられて完全に野生化したイエネコ)が沖縄本島の山原地区で飛べない鳥ヤンバルクイナを食べたり、西表島でイリオモテヤマネコを襲ったりしていました。番組でこの問題を取り上げたこともあります。「そこにネコを持ち込んだのは人間なのだから、我々には自然を元どおりにする責任がある」というメッセージをつけました。番組では、固有種が多く自然生態系が保たれているこれらの島々を、保護すべき貴重な場所としていました。それに比べ、四万十川のネコの狩りはさほど影響がないとして、分けて考えていました。さて、「どうぶつ奇想天外!」が終了した後、2010年代に入り世界各地で調査が進むと、ネコの狩猟能力が予想よりずっと高いことがわかってきました。各所の報道から引用します。▼2013年・ナショナルジオグラフィック「アメリカ本土では毎年、多くの鳥や哺乳類がネコに殺されているという。その数は鳥が14億~37億羽、哺乳類が69億~207億匹にのぼると推定される。これは『途方もない』数字だと、研究の筆頭著者であるピーター・マラ(Peter Marra)氏は述べる。」▼2020年・CNN世界6カ国925匹の放し飼いされているネコにGPSをつけて追跡、行動を調査した研究『キャット・トラッカー』について。「室内で飼育されていない飼い猫は、小鳥やウサギ、リスなどの野生生物に予想以上の被害を生じさせているという研究結果が、このほど学会誌に発表された。放し飼いの飼い猫の方が、同程度の大きさの野生の捕食動物に比べて殺す獲物の数が多く、野生生物に与える影響は2~10倍大きいと研究チームは指摘している。」ほとんどの飼いネコは自宅の近くで過ごしているのだけれど、アメリカでは1億匹もの飼いネコがいるので、被害は大きくなってしまうのだと言います。ニュージーランドやオーストラリアには、人間の生活圏の近くにもたくさんの希少固有種がいます。それに、ネコは飼い主からエサをもらっていても、人間みたいに「遊び」で狩りをします。五箇先生から話を伺った後、私たちはYouTube動画の概要欄にこう付け加えました。YouTubeの概要欄に書いた「ネコを外に出してはいけない理由」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは2007年の記録映像です。現在では、イエネコは外に出さないのが原則になっています。その理由として、まず、健康リスクがあげられます。野外で生活する過程で、ひとにも感染し得る病原体=「人獣共通感染症」を保有するリスクが指摘されています。特に近年では、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の感染拡大が問題になっています。これは、感染したネコのおよそ7割が死亡し、人間にも感染して高い死亡率(20~30%)を示す新興感染症です。日本では外来種のアライグマをはじめ様々な野生動物が病原体保菌者(リザーバー)となっており、野生化したネコは様々なルートでこれらの感染症に感染するリスクがあります。また、もう一つの理由として、ネコのハンターとしての高い能力が、自然生態系に対して悪影響を及ぼすことがあげられます。放送した2007年当時は、沖縄本島のやんばる地域、西表島、奄美大島、小笠原諸島など島嶼における固有希少種に対するノネコ(野生化したネコ)の悪影響が問題になっていましたが、普通の田舎では一般的に飼い猫と野良猫の境が曖昧な状態でした。しかし現在では、地域を問わず、飼い猫は外に出さない、そして野良猫の数を減らしていく、ということが人間とネコの持続的な共生を図る上で重要とされます。この動画にはネコの野生としての生態や狩猟能力が良く捉えられており、『記録映像』として観ていただきたく、公開しています。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上です。これを掲載してからは、コメント欄への「お叱りの声」はほぼなくなりました。「侵略的外来種」と聞いたら、ネコはどう思うだろうか?イエネコは、2000年に世界自然保護連合(IUCN)が発表した「世界の侵略的外来種ワースト100」に入っています。2003年に発表された「日本の侵略的外来種ワースト100」にリスト入りしたのはイエネコではなく、ノネコ(完全に野生化したイエネコ)です。「ネコって『外来種』だったんだね」恥ずかしながら、それまで知りませんでした。イエネコはネズミ駆除のために、平安時代までには大陸から連れてこられたと言われていますが、それでも広い意味で「外来種」です。でも、「侵略的外来種」というレッテルがひとり歩きして、ネコを虐待する口実にされるとすれば恐ろしいことです。「侵略的外来種なんだから、退治してやる」とか「殺してしまえ」とか。自然環境保護は、そういうことではないはずです。こんな話をネコが聞いたら、きっとこう言うでしょう。「ちゃんと考えてほしいにゃあ。アタシたち猫とアンタたち人間と、どっちが自然を『侵略』してるのか、わかってるのかにゃあ。」
最近、東京では野良猫を見かけることが少なくなりました。4-5年前までは、よく公園の片隅などで近所の人が餌をやり、数匹のネコが集まっていたものでしたが…。
【動画でみる】田舎のネコは『狩り』の様子が全然違う!四万十川のネコに密着取材してみた外にネコがいなくなった理由。それは、ここ十数年ほどの間に、ネコにとってふたつの衝撃的な出来事があったからです。TBS「どうぶつ奇想天外!」と一緒にふり返ってみましょう。(TBS「どうぶつ奇想天外!」初代プロデューサー 戸田郁夫)

番組では、イエネコ(人に飼い慣らされたネコ)の野性的な姿を追ったことがあります。2007年のことです。高知県・自然豊かな四万十川で、飼いネコの行動を追いました。ネコは一歩外に出ると“野性の顔”に変わります。獲物の気配を感じとり、カマキリを捕まえ、カエルも、ネズミも狩るのです。獲物に跳びかかる直前の瞬間の瞳孔の変化がとても面白い。これが放送された時は、視聴者のみなさんにとても面白がっていただきました。クレーム電話も記憶にありません。でも、一昨年になってYouTubeに公開したら…!14年経ってYouTubeに公開したら予想を超えた「お叱りの声」が…この動画をYouTubeに公開したのは、放送から14年も経った2021年4月。公開後、すぐに動画のコメント欄が騒がしくなりました。「寄生虫が心配」というコメントはネコ好きな方からでしょう。「自然破壊だ」とか「ちゃんと価値観アップデートしなよ」という意見も寄せられました。「ネコは家の中で飼いましょう」最近そう言われていることは知っていたのですが、反響の温度が予想以上でした。この間に一体、何があったのか?概要欄に但し書きをつけることを決め、以前番組の監修をしていただいた国立環境研究所の五箇公一先生にお話を伺いました。私たちが抱えている事情がわかると先生は、「今は外に出しちゃダメなんだよー。」と言ってから、その理由を詳しく教えてくれました。この14年間、ネコをめぐる大問題はふたつ起きていました。ひとつ目のそれは「健康リスク」です。ネコが新興感染症SFTSの犠牲になる…!?五箇先生が特に問題にしたのは、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)というウイルス性感染症です。感染したネコの7割が死に、人にも感染して20~30%の致死率を示すと言います。流行したら大変です。この感染症が中国で発表されたのは2011年。四万十川のネコの放送をしてから4年後、「どうぶつ奇想天外!」が終了してから2年後のことでした。やがて、人間の世界には新型コロナ感染症がやってきます。つい先日、世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を終了すると発表しましたが、この3年3ヶ月の間に7億6590万人が感染し、692万人が亡くなりました(5月10日WHO発表)。後遺症に苦しむ人も数多くいます。また、ここ数年は冬になると世界的な規模で鳥インフルエンザが大流行。危機的な状況が続き、次の冬も心配されています。感染症が与えるインパクトは、いつも、動物の「種」を問わないのです。予想外!ネコの驚くべきハンティング能力ネコを外に出してはいけない。ふたつ目の理由は、「自然生態系に対して悪影響を及ぼす」ということです。これは、番組放送当時から監修の千石正一先生がよく話していたことです。ノネコ(捨てられて完全に野生化したイエネコ)が沖縄本島の山原地区で飛べない鳥ヤンバルクイナを食べたり、西表島でイリオモテヤマネコを襲ったりしていました。番組でこの問題を取り上げたこともあります。「そこにネコを持ち込んだのは人間なのだから、我々には自然を元どおりにする責任がある」というメッセージをつけました。番組では、固有種が多く自然生態系が保たれているこれらの島々を、保護すべき貴重な場所としていました。それに比べ、四万十川のネコの狩りはさほど影響がないとして、分けて考えていました。さて、「どうぶつ奇想天外!」が終了した後、2010年代に入り世界各地で調査が進むと、ネコの狩猟能力が予想よりずっと高いことがわかってきました。各所の報道から引用します。▼2013年・ナショナルジオグラフィック「アメリカ本土では毎年、多くの鳥や哺乳類がネコに殺されているという。その数は鳥が14億~37億羽、哺乳類が69億~207億匹にのぼると推定される。これは『途方もない』数字だと、研究の筆頭著者であるピーター・マラ(Peter Marra)氏は述べる。」▼2020年・CNN世界6カ国925匹の放し飼いされているネコにGPSをつけて追跡、行動を調査した研究『キャット・トラッカー』について。「室内で飼育されていない飼い猫は、小鳥やウサギ、リスなどの野生生物に予想以上の被害を生じさせているという研究結果が、このほど学会誌に発表された。放し飼いの飼い猫の方が、同程度の大きさの野生の捕食動物に比べて殺す獲物の数が多く、野生生物に与える影響は2~10倍大きいと研究チームは指摘している。」ほとんどの飼いネコは自宅の近くで過ごしているのだけれど、アメリカでは1億匹もの飼いネコがいるので、被害は大きくなってしまうのだと言います。ニュージーランドやオーストラリアには、人間の生活圏の近くにもたくさんの希少固有種がいます。それに、ネコは飼い主からエサをもらっていても、人間みたいに「遊び」で狩りをします。五箇先生から話を伺った後、私たちはYouTube動画の概要欄にこう付け加えました。YouTubeの概要欄に書いた「ネコを外に出してはいけない理由」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは2007年の記録映像です。現在では、イエネコは外に出さないのが原則になっています。その理由として、まず、健康リスクがあげられます。野外で生活する過程で、ひとにも感染し得る病原体=「人獣共通感染症」を保有するリスクが指摘されています。特に近年では、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の感染拡大が問題になっています。これは、感染したネコのおよそ7割が死亡し、人間にも感染して高い死亡率(20~30%)を示す新興感染症です。日本では外来種のアライグマをはじめ様々な野生動物が病原体保菌者(リザーバー)となっており、野生化したネコは様々なルートでこれらの感染症に感染するリスクがあります。また、もう一つの理由として、ネコのハンターとしての高い能力が、自然生態系に対して悪影響を及ぼすことがあげられます。放送した2007年当時は、沖縄本島のやんばる地域、西表島、奄美大島、小笠原諸島など島嶼における固有希少種に対するノネコ(野生化したネコ)の悪影響が問題になっていましたが、普通の田舎では一般的に飼い猫と野良猫の境が曖昧な状態でした。しかし現在では、地域を問わず、飼い猫は外に出さない、そして野良猫の数を減らしていく、ということが人間とネコの持続的な共生を図る上で重要とされます。この動画にはネコの野生としての生態や狩猟能力が良く捉えられており、『記録映像』として観ていただきたく、公開しています。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上です。これを掲載してからは、コメント欄への「お叱りの声」はほぼなくなりました。「侵略的外来種」と聞いたら、ネコはどう思うだろうか?イエネコは、2000年に世界自然保護連合(IUCN)が発表した「世界の侵略的外来種ワースト100」に入っています。2003年に発表された「日本の侵略的外来種ワースト100」にリスト入りしたのはイエネコではなく、ノネコ(完全に野生化したイエネコ)です。「ネコって『外来種』だったんだね」恥ずかしながら、それまで知りませんでした。イエネコはネズミ駆除のために、平安時代までには大陸から連れてこられたと言われていますが、それでも広い意味で「外来種」です。でも、「侵略的外来種」というレッテルがひとり歩きして、ネコを虐待する口実にされるとすれば恐ろしいことです。「侵略的外来種なんだから、退治してやる」とか「殺してしまえ」とか。自然環境保護は、そういうことではないはずです。こんな話をネコが聞いたら、きっとこう言うでしょう。「ちゃんと考えてほしいにゃあ。アタシたち猫とアンタたち人間と、どっちが自然を『侵略』してるのか、わかってるのかにゃあ。」
外にネコがいなくなった理由。それは、ここ十数年ほどの間に、ネコにとってふたつの衝撃的な出来事があったからです。TBS「どうぶつ奇想天外!」と一緒にふり返ってみましょう。(TBS「どうぶつ奇想天外!」初代プロデューサー 戸田郁夫)
番組では、イエネコ(人に飼い慣らされたネコ)の野性的な姿を追ったことがあります。2007年のことです。
高知県・自然豊かな四万十川で、飼いネコの行動を追いました。ネコは一歩外に出ると“野性の顔”に変わります。獲物の気配を感じとり、カマキリを捕まえ、カエルも、ネズミも狩るのです。獲物に跳びかかる直前の瞬間の瞳孔の変化がとても面白い。
これが放送された時は、視聴者のみなさんにとても面白がっていただきました。クレーム電話も記憶にありません。でも、一昨年になってYouTubeに公開したら…!
この動画をYouTubeに公開したのは、放送から14年も経った2021年4月。公開後、すぐに動画のコメント欄が騒がしくなりました。「寄生虫が心配」というコメントはネコ好きな方からでしょう。「自然破壊だ」とか「ちゃんと価値観アップデートしなよ」という意見も寄せられました。
「ネコは家の中で飼いましょう」最近そう言われていることは知っていたのですが、反響の温度が予想以上でした。
この間に一体、何があったのか?
概要欄に但し書きをつけることを決め、以前番組の監修をしていただいた国立環境研究所の五箇公一先生にお話を伺いました。
私たちが抱えている事情がわかると先生は、「今は外に出しちゃダメなんだよー。」と言ってから、その理由を詳しく教えてくれました。
この14年間、ネコをめぐる大問題はふたつ起きていました。
ひとつ目のそれは「健康リスク」です。
五箇先生が特に問題にしたのは、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)というウイルス性感染症です。
感染したネコの7割が死に、人にも感染して20~30%の致死率を示すと言います。流行したら大変です。
この感染症が中国で発表されたのは2011年。四万十川のネコの放送をしてから4年後、「どうぶつ奇想天外!」が終了してから2年後のことでした。
やがて、人間の世界には新型コロナ感染症がやってきます。つい先日、世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を終了すると発表しましたが、この3年3ヶ月の間に7億6590万人が感染し、692万人が亡くなりました(5月10日WHO発表)。後遺症に苦しむ人も数多くいます。
また、ここ数年は冬になると世界的な規模で鳥インフルエンザが大流行。危機的な状況が続き、次の冬も心配されています。感染症が与えるインパクトは、いつも、動物の「種」を問わないのです。
ネコを外に出してはいけない。ふたつ目の理由は、「自然生態系に対して悪影響を及ぼす」ということです。
これは、番組放送当時から監修の千石正一先生がよく話していたことです。
ノネコ(捨てられて完全に野生化したイエネコ)が沖縄本島の山原地区で飛べない鳥ヤンバルクイナを食べたり、西表島でイリオモテヤマネコを襲ったりしていました。
番組でこの問題を取り上げたこともあります。「そこにネコを持ち込んだのは人間なのだから、我々には自然を元どおりにする責任がある」というメッセージをつけました。
番組では、固有種が多く自然生態系が保たれているこれらの島々を、保護すべき貴重な場所としていました。それに比べ、四万十川のネコの狩りはさほど影響がないとして、分けて考えていました。
さて、「どうぶつ奇想天外!」が終了した後、2010年代に入り世界各地で調査が進むと、ネコの狩猟能力が予想よりずっと高いことがわかってきました。
各所の報道から引用します。
▼2013年・ナショナルジオグラフィック「アメリカ本土では毎年、多くの鳥や哺乳類がネコに殺されているという。その数は鳥が14億~37億羽、哺乳類が69億~207億匹にのぼると推定される。これは『途方もない』数字だと、研究の筆頭著者であるピーター・マラ(Peter Marra)氏は述べる。」
▼2020年・CNN世界6カ国925匹の放し飼いされているネコにGPSをつけて追跡、行動を調査した研究『キャット・トラッカー』について。「室内で飼育されていない飼い猫は、小鳥やウサギ、リスなどの野生生物に予想以上の被害を生じさせているという研究結果が、このほど学会誌に発表された。放し飼いの飼い猫の方が、同程度の大きさの野生の捕食動物に比べて殺す獲物の数が多く、野生生物に与える影響は2~10倍大きいと研究チームは指摘している。」
ほとんどの飼いネコは自宅の近くで過ごしているのだけれど、アメリカでは1億匹もの飼いネコがいるので、被害は大きくなってしまうのだと言います。ニュージーランドやオーストラリアには、人間の生活圏の近くにもたくさんの希少固有種がいます。それに、ネコは飼い主からエサをもらっていても、人間みたいに「遊び」で狩りをします。
五箇先生から話を伺った後、私たちはYouTube動画の概要欄にこう付け加えました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これは2007年の記録映像です。現在では、イエネコは外に出さないのが原則になっています。その理由として、まず、健康リスクがあげられます。野外で生活する過程で、ひとにも感染し得る病原体=「人獣共通感染症」を保有するリスクが指摘されています。特に近年では、マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の感染拡大が問題になっています。これは、感染したネコのおよそ7割が死亡し、人間にも感染して高い死亡率(20~30%)を示す新興感染症です。日本では外来種のアライグマをはじめ様々な野生動物が病原体保菌者(リザーバー)となっており、野生化したネコは様々なルートでこれらの感染症に感染するリスクがあります。また、もう一つの理由として、ネコのハンターとしての高い能力が、自然生態系に対して悪影響を及ぼすことがあげられます。放送した2007年当時は、沖縄本島のやんばる地域、西表島、奄美大島、小笠原諸島など島嶼における固有希少種に対するノネコ(野生化したネコ)の悪影響が問題になっていましたが、普通の田舎では一般的に飼い猫と野良猫の境が曖昧な状態でした。しかし現在では、地域を問わず、飼い猫は外に出さない、そして野良猫の数を減らしていく、ということが人間とネコの持続的な共生を図る上で重要とされます。
この動画にはネコの野生としての生態や狩猟能力が良く捉えられており、『記録映像』として観ていただきたく、公開しています。
以上です。これを掲載してからは、コメント欄への「お叱りの声」はほぼなくなりました。
「侵略的外来種」と聞いたら、ネコはどう思うだろうか?
イエネコは、2000年に世界自然保護連合(IUCN)が発表した「世界の侵略的外来種ワースト100」に入っています。2003年に発表された「日本の侵略的外来種ワースト100」にリスト入りしたのはイエネコではなく、ノネコ(完全に野生化したイエネコ)です。
「ネコって『外来種』だったんだね」恥ずかしながら、それまで知りませんでした。
イエネコはネズミ駆除のために、平安時代までには大陸から連れてこられたと言われていますが、それでも広い意味で「外来種」です。
でも、「侵略的外来種」というレッテルがひとり歩きして、ネコを虐待する口実にされるとすれば恐ろしいことです。「侵略的外来種なんだから、退治してやる」とか「殺してしまえ」とか。
自然環境保護は、そういうことではないはずです。
こんな話をネコが聞いたら、きっとこう言うでしょう。「ちゃんと考えてほしいにゃあ。アタシたち猫とアンタたち人間と、どっちが自然を『侵略』してるのか、わかってるのかにゃあ。」

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