「地獄」くぐり抜けたライブハウス 待ちわびるコロナ後の封切り

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あの地獄の日々は今も忘れられない。未曽有の感染症に絶望したが、救ってくれたのは仲間やお客さんだった。新型コロナウイルスは感染拡大から3年を経て、季節性インフルエンザと同じ扱いになった。「コロナ後の日常」を心の底から待ち望んだ男性がいる。
外国籍17歳の孤立救った高校進学 心中事件「二度と…」の願いが道 「やっとライブハウスらしさが戻ってきた」。4月中旬、片山行茂さん(55)は客席で目を潤ませた。淡い光に照らし出されたステージには、透き通った歌声を披露する女性歌手の姿があった。

大阪市北区のライブハウス「ソープオペラクラシックス梅田」。2020年2月19日、オーナーを務める片山さんは、肩を並べるように座った約100人の観客にある発表をしていた。開店11周年の記念日だった。 3カ月後にミュージカル「ドリーマー」を公演する――。豪華客船を舞台に描き、シンガー・ソングライターとしても活動する片山さんがテーマ曲を書き下ろした待望の作品。店に駆けつけた出演者も披露した。希望にあふれ、これが悪夢の始まりになると誰が想像しただろうか。 「密な空間」で新型コロナのクラスター(感染者集団)が発生し、46人の陽性者が判明することになる。世界的な流行が始まった感染症はこの頃、詳しい症状がまだ分かっていなかった。「お客さんには早く検査を受けてもらい、感染の有無を確認してほしい」。片山さんはそんな思いで大阪府の要請に応じ、店名の公表を受け入れた。 しかし、善意の公表は世間から苛烈なバッシングを受けた。「バイ菌」「なんで表に出て謝罪しないんや」「どう責任取るんだ」。店を攻撃する電話やメールは数百件に及び、ツイッターでは「#ライブハウスを無くそう」と呼び掛ける投稿も拡散された。心境重なるテーマ曲 店は4カ月間、全てのイベントの中止を余儀なくされ、月100万円の賃料や多額のキャンセル料が重くのしかかった。20年7月から少人数の客を入れるライブを再開。夜間の営業自粛を要請された際は午前中の公演を企画するなど工夫したが、片山さんは経済的にも追い詰められていた。 「精神安定剤を飲まないと人と会えず、夜も眠れない日々。本当に苦しかった。でも、絶望の淵から立ち上がるきっかけをくれたのは、ライブハウスのファンや出演者だった」 インターネットで寄付を募るクラウドファンディング(CF)を始めると、480人から500万円が集まった。「大好きな場所だから潰れないで」「必ずこの場所でもう一度歌いたい」。寄せられた心温まる言葉にも救われた。 8日から感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられた新型コロナ。店の売り上げはコロナ禍前の6割程度にとどまり先行きに不安はつきまとうが、多くの人に支えられている今、もう下を向くことはない。 ♪寂しさに震えた時も 口ずさむこのメロディで 興奮が呼び戻されて 今を塗り替えていく ミュージカル「ドリーマー」のテーマ曲の一節がコロナ禍に翻弄(ほんろう)された3年間の心境とも重なり、片山さんを奮い立たせている。 「大変なことも多かったが、この場所が多くの人に大切にされていると再認識できた日々だった。これからも生の演奏を届けて観客を笑顔にしたい」と片山さん。一度は「お蔵入り」になった「ドリーマー」の脚本の一部を書き直し、24年秋までに公演することを目標に掲げている。【小坂春乃】
「やっとライブハウスらしさが戻ってきた」。4月中旬、片山行茂さん(55)は客席で目を潤ませた。淡い光に照らし出されたステージには、透き通った歌声を披露する女性歌手の姿があった。
大阪市北区のライブハウス「ソープオペラクラシックス梅田」。2020年2月19日、オーナーを務める片山さんは、肩を並べるように座った約100人の観客にある発表をしていた。開店11周年の記念日だった。
3カ月後にミュージカル「ドリーマー」を公演する――。豪華客船を舞台に描き、シンガー・ソングライターとしても活動する片山さんがテーマ曲を書き下ろした待望の作品。店に駆けつけた出演者も披露した。希望にあふれ、これが悪夢の始まりになると誰が想像しただろうか。
「密な空間」で新型コロナのクラスター(感染者集団)が発生し、46人の陽性者が判明することになる。世界的な流行が始まった感染症はこの頃、詳しい症状がまだ分かっていなかった。「お客さんには早く検査を受けてもらい、感染の有無を確認してほしい」。片山さんはそんな思いで大阪府の要請に応じ、店名の公表を受け入れた。
しかし、善意の公表は世間から苛烈なバッシングを受けた。「バイ菌」「なんで表に出て謝罪しないんや」「どう責任取るんだ」。店を攻撃する電話やメールは数百件に及び、ツイッターでは「#ライブハウスを無くそう」と呼び掛ける投稿も拡散された。
心境重なるテーマ曲
店は4カ月間、全てのイベントの中止を余儀なくされ、月100万円の賃料や多額のキャンセル料が重くのしかかった。20年7月から少人数の客を入れるライブを再開。夜間の営業自粛を要請された際は午前中の公演を企画するなど工夫したが、片山さんは経済的にも追い詰められていた。
「精神安定剤を飲まないと人と会えず、夜も眠れない日々。本当に苦しかった。でも、絶望の淵から立ち上がるきっかけをくれたのは、ライブハウスのファンや出演者だった」
インターネットで寄付を募るクラウドファンディング(CF)を始めると、480人から500万円が集まった。「大好きな場所だから潰れないで」「必ずこの場所でもう一度歌いたい」。寄せられた心温まる言葉にも救われた。
8日から感染症法上の分類が季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられた新型コロナ。店の売り上げはコロナ禍前の6割程度にとどまり先行きに不安はつきまとうが、多くの人に支えられている今、もう下を向くことはない。
♪寂しさに震えた時も 口ずさむこのメロディで 興奮が呼び戻されて 今を塗り替えていく
ミュージカル「ドリーマー」のテーマ曲の一節がコロナ禍に翻弄(ほんろう)された3年間の心境とも重なり、片山さんを奮い立たせている。
「大変なことも多かったが、この場所が多くの人に大切にされていると再認識できた日々だった。これからも生の演奏を届けて観客を笑顔にしたい」と片山さん。一度は「お蔵入り」になった「ドリーマー」の脚本の一部を書き直し、24年秋までに公演することを目標に掲げている。【小坂春乃】

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