「バカにしてんのか?」取材中のヤクザがいきなり激怒…インタビュアーが発してしまった「NGワード」の正体

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取材中のヤクザから、いきなり恫喝された若かりし頃の草下シンヤ氏。相手が文句をつけてきた「草下氏の一言」とはいったい?
《特別公開》ビートたけしや和田アキ子の姿も…「亡くなったさくらももこさんのお葬式」の様子 アンダーグラウンド事情に精通し、これまで多くのヤクザを取材してきた編集者の草下シンヤ氏の新刊『怒られの作法――日本一トラブルに巻き込まれる編集者の人間関係術』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)もしヤクザに脅されたら、どう対処するのが正解なのか? getty

◆◆◆脅しの9割はハッタリ まずは身体的リスクです。これは相手から殴られたり、刺されたりといった暴力を振るわれる危険性を指します。 裏社会では、揉め事が起きたときに暴力をちらつかせて優位に立とうとすることが非常に多いです。取り締まりが厳しくなった関係で最近はあまり聞かなくなりましたが、「殺すぞ」「さらうぞ」と直接的な言葉で恫喝してきたり、「あなたにはひどい目にあってほしくない」と含みを持たせた言葉で脅してきたりすることもあります。また、「〇〇さんがお前のこと許さないって言ってたよ」と、第三者が自分を狙っているようなことを吹き込んで不安や疑念を抱かせるといった手もよく使われます。 ただ、裏社会を長年取材してきた自分の経験から言うと、実際に危害を加えられるケースは多くはありません。 自分と同じように、相手も感情と利害を天秤にかけて判断しています。本当の目的は金銭や有利な条件を引き出すことで、怒りはそれを叶える手段として使っていることが多い。本当に暴力を振るえば、自分が逮捕されて逆に不利益を被ることになってしまいます。それを理解しているため、滅多なことでは実力行使に出ないのです。 そのため身体的リスクの本質は、暴力を振るわれることではなく、「危害が加えられる」という不安から、自分で行動の選択肢を狭めてしまうことにあると言えます。まずは、相手が怒りによって何を狙っているのか、冷静に腹の底を探る目を持つことが大切です。「ヤクザ者ってバカにしてんのか?」 では、暴力を匂わされたら具体的にどう対応すればいいのでしょうか。 自分の経験上、暴力に訴えるタイプには、延々と怒鳴り散らして相手を萎縮させようとする「恫喝タイプ」と、何も言わずにこちらを睨んで圧力をかけてくる「無言タイプ」の2種類がいます。 恫喝タイプは、とにかくあることないことまくしたてて、相手を何も言えない状態にさせるのが手口です。反論する機会や意思を剥奪して、最後に「こういうことだよな?」と有無を言わさず認めさせようとします。 2008年に出版した『裏のハローワーク「交渉・実践編」』の「はじめに」にも書いたのですが、あるヤクザ関係者のインタビューを終えて雑談していたときに、いきなり恫喝されたことがありました。話の中で、私が「ヤクザ者」と口にした途端、相手の態度が豹変したのです。「ヤクザ者ってのは、なんだ。俺らの稼業をバカにしてんのか?」「あのな、俺が自分のことをヤクザって言うのは構わんよ。だがな、外の人間にそんなふうに呼ばれる筋合いはない。任侠なんだよ、俺たちは。あんたがそれをヤクザなんて言い出したら、ふざけるんじゃないって話だよ」 私はわけもわからず謝罪しました。「なんだと、このヤロー。謝るってことは非を認めたってことだな。お前もわかってんだろ。ヤクザの語源を。知ってて口にしたならいい度胸してるよ。取材させてくださいと申し込んでおいて、その相手のことを役立たずと思ってたってことだからな」 花札の「おいちょかぶ」では、「8・9・3」の目が出ると最も弱いブタの目になることから、転じて役に立たない者のことを「ヤクザ」と呼ぶようになったという説があります。 私は「配慮に欠けた発言で申し訳ありませんでした」ともう一度謝りました。しかしなおもヤクザの勢いは止まりません。「配慮がないだ、ふざけるんじゃないよ。お前は仮にも物書いて飯食ってんだろう。任侠や極道っていう言葉も知っているはずだ。その中からわざわざヤクザを選んだってことは、ただの偶然には思えないな。喧嘩を売っているようにしか見えないんだよ。どうなんだコラ!」 あまりの迫力に、私は口をつぐむことしかできませんでした。 実はこれは「ヤクザが恫喝する手口」を示すために、相手が一計を案じて行ったデモンストレーションでした。本気で怒っていたわけではありません。しかし、そのやり方は大変リアルです。実際の場合も、最初に机を叩いたり怒鳴ったりして相手を怯ませたあと、とにかく言葉の揚げ足をとってまくしたて、相手が反論する機会や意思を削いでいきます。「恫喝タイプ」には質問を繰り返す 多くの人はこのように恫喝されたら、頭が真っ白になってしまうかもしれません。 でも、それこそが相手の狙いです。「無理を通せば道理が引っ込む」ではありませんが、暴力的な言動で思考能力を奪って、理不尽な要求を飲ませたいと相手は考えています。 そういうときは同じフィールドで戦わないことです。相手が「無理」に訴えるのは、「道理」がないからにほかなりません。力で押してくるときは、徹底的に論理で対抗していきます。 対処法はシンプルで、「頷かずに質問を繰り返す」。これだけです。 相手がどんな難癖をつけてきても、最後には話をクロージングしなければなりません。「責任を取れよ」「誠意を見せろ」と言って、最後に金を要求したり、何かの書類を書かせようとしたりするわけです。 そこで私は、クロージングの話が出るまでは「ずっと何か言ってるな」と聞き流し、相手が話をまとめようとしてきたら「納得できないので、もう一度最初から説明して もらってもいいですか?」と質問します。「馬鹿か」「なめてんのか」と言われても、「そうではなく本当に理解したいんです」と何度もくり返し粘ります。「本心から納得できれば喜んで言うことを聞きます。でも嫌がることを脅してやらせるのは犯罪ですよね。あなたは犯罪がしたいんですか。違いますよね。だったら、お互い納得できるまで話し合いましょう。私はとことん付き合いますよ」という感じですね。 相手は元々道理がありませんから、無理が通用しないとわかれば、要求を諦めざるを得なくなります。「ちびまる子ちゃんの“はまじの自伝”」を出版→大ヒット→権利会社が激怒…ベテラン編集者が明かした「若かりし頃のあやまち」 へ続く(草下 シンヤ/Webオリジナル(外部転載))
アンダーグラウンド事情に精通し、これまで多くのヤクザを取材してきた編集者の草下シンヤ氏の新刊『怒られの作法――日本一トラブルに巻き込まれる編集者の人間関係術』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
もしヤクザに脅されたら、どう対処するのが正解なのか? getty
◆◆◆
まずは身体的リスクです。これは相手から殴られたり、刺されたりといった暴力を振るわれる危険性を指します。
裏社会では、揉め事が起きたときに暴力をちらつかせて優位に立とうとすることが非常に多いです。取り締まりが厳しくなった関係で最近はあまり聞かなくなりましたが、「殺すぞ」「さらうぞ」と直接的な言葉で恫喝してきたり、「あなたにはひどい目にあってほしくない」と含みを持たせた言葉で脅してきたりすることもあります。また、「〇〇さんがお前のこと許さないって言ってたよ」と、第三者が自分を狙っているようなことを吹き込んで不安や疑念を抱かせるといった手もよく使われます。
ただ、裏社会を長年取材してきた自分の経験から言うと、実際に危害を加えられるケースは多くはありません。
自分と同じように、相手も感情と利害を天秤にかけて判断しています。本当の目的は金銭や有利な条件を引き出すことで、怒りはそれを叶える手段として使っていることが多い。本当に暴力を振るえば、自分が逮捕されて逆に不利益を被ることになってしまいます。それを理解しているため、滅多なことでは実力行使に出ないのです。
そのため身体的リスクの本質は、暴力を振るわれることではなく、「危害が加えられる」という不安から、自分で行動の選択肢を狭めてしまうことにあると言えます。まずは、相手が怒りによって何を狙っているのか、冷静に腹の底を探る目を持つことが大切です。
では、暴力を匂わされたら具体的にどう対応すればいいのでしょうか。
自分の経験上、暴力に訴えるタイプには、延々と怒鳴り散らして相手を萎縮させようとする「恫喝タイプ」と、何も言わずにこちらを睨んで圧力をかけてくる「無言タイプ」の2種類がいます。
恫喝タイプは、とにかくあることないことまくしたてて、相手を何も言えない状態にさせるのが手口です。反論する機会や意思を剥奪して、最後に「こういうことだよな?」と有無を言わさず認めさせようとします。
2008年に出版した『裏のハローワーク「交渉・実践編」』の「はじめに」にも書いたのですが、あるヤクザ関係者のインタビューを終えて雑談していたときに、いきなり恫喝されたことがありました。話の中で、私が「ヤクザ者」と口にした途端、相手の態度が豹変したのです。
「ヤクザ者ってのは、なんだ。俺らの稼業をバカにしてんのか?」
「あのな、俺が自分のことをヤクザって言うのは構わんよ。だがな、外の人間にそんなふうに呼ばれる筋合いはない。任侠なんだよ、俺たちは。あんたがそれをヤクザなんて言い出したら、ふざけるんじゃないって話だよ」
私はわけもわからず謝罪しました。「なんだと、このヤロー。謝るってことは非を認めたってことだな。お前もわかってんだろ。ヤクザの語源を。知ってて口にしたならいい度胸してるよ。取材させてくださいと申し込んでおいて、その相手のことを役立たずと思ってたってことだからな」 花札の「おいちょかぶ」では、「8・9・3」の目が出ると最も弱いブタの目になることから、転じて役に立たない者のことを「ヤクザ」と呼ぶようになったという説があります。 私は「配慮に欠けた発言で申し訳ありませんでした」ともう一度謝りました。しかしなおもヤクザの勢いは止まりません。「配慮がないだ、ふざけるんじゃないよ。お前は仮にも物書いて飯食ってんだろう。任侠や極道っていう言葉も知っているはずだ。その中からわざわざヤクザを選んだってことは、ただの偶然には思えないな。喧嘩を売っているようにしか見えないんだよ。どうなんだコラ!」 あまりの迫力に、私は口をつぐむことしかできませんでした。 実はこれは「ヤクザが恫喝する手口」を示すために、相手が一計を案じて行ったデモンストレーションでした。本気で怒っていたわけではありません。しかし、そのやり方は大変リアルです。実際の場合も、最初に机を叩いたり怒鳴ったりして相手を怯ませたあと、とにかく言葉の揚げ足をとってまくしたて、相手が反論する機会や意思を削いでいきます。「恫喝タイプ」には質問を繰り返す 多くの人はこのように恫喝されたら、頭が真っ白になってしまうかもしれません。 でも、それこそが相手の狙いです。「無理を通せば道理が引っ込む」ではありませんが、暴力的な言動で思考能力を奪って、理不尽な要求を飲ませたいと相手は考えています。 そういうときは同じフィールドで戦わないことです。相手が「無理」に訴えるのは、「道理」がないからにほかなりません。力で押してくるときは、徹底的に論理で対抗していきます。 対処法はシンプルで、「頷かずに質問を繰り返す」。これだけです。 相手がどんな難癖をつけてきても、最後には話をクロージングしなければなりません。「責任を取れよ」「誠意を見せろ」と言って、最後に金を要求したり、何かの書類を書かせようとしたりするわけです。 そこで私は、クロージングの話が出るまでは「ずっと何か言ってるな」と聞き流し、相手が話をまとめようとしてきたら「納得できないので、もう一度最初から説明して もらってもいいですか?」と質問します。「馬鹿か」「なめてんのか」と言われても、「そうではなく本当に理解したいんです」と何度もくり返し粘ります。「本心から納得できれば喜んで言うことを聞きます。でも嫌がることを脅してやらせるのは犯罪ですよね。あなたは犯罪がしたいんですか。違いますよね。だったら、お互い納得できるまで話し合いましょう。私はとことん付き合いますよ」という感じですね。 相手は元々道理がありませんから、無理が通用しないとわかれば、要求を諦めざるを得なくなります。「ちびまる子ちゃんの“はまじの自伝”」を出版→大ヒット→権利会社が激怒…ベテラン編集者が明かした「若かりし頃のあやまち」 へ続く(草下 シンヤ/Webオリジナル(外部転載))
私はわけもわからず謝罪しました。
「なんだと、このヤロー。謝るってことは非を認めたってことだな。お前もわかってんだろ。ヤクザの語源を。知ってて口にしたならいい度胸してるよ。取材させてくださいと申し込んでおいて、その相手のことを役立たずと思ってたってことだからな」
花札の「おいちょかぶ」では、「8・9・3」の目が出ると最も弱いブタの目になることから、転じて役に立たない者のことを「ヤクザ」と呼ぶようになったという説があります。
私は「配慮に欠けた発言で申し訳ありませんでした」ともう一度謝りました。しかしなおもヤクザの勢いは止まりません。
「配慮がないだ、ふざけるんじゃないよ。お前は仮にも物書いて飯食ってんだろう。任侠や極道っていう言葉も知っているはずだ。その中からわざわざヤクザを選んだってことは、ただの偶然には思えないな。喧嘩を売っているようにしか見えないんだよ。どうなんだコラ!」
あまりの迫力に、私は口をつぐむことしかできませんでした。
実はこれは「ヤクザが恫喝する手口」を示すために、相手が一計を案じて行ったデモンストレーションでした。本気で怒っていたわけではありません。しかし、そのやり方は大変リアルです。実際の場合も、最初に机を叩いたり怒鳴ったりして相手を怯ませたあと、とにかく言葉の揚げ足をとってまくしたて、相手が反論する機会や意思を削いでいきます。
多くの人はこのように恫喝されたら、頭が真っ白になってしまうかもしれません。
でも、それこそが相手の狙いです。「無理を通せば道理が引っ込む」ではありませんが、暴力的な言動で思考能力を奪って、理不尽な要求を飲ませたいと相手は考えています。
そういうときは同じフィールドで戦わないことです。相手が「無理」に訴えるのは、「道理」がないからにほかなりません。力で押してくるときは、徹底的に論理で対抗していきます。
対処法はシンプルで、「頷かずに質問を繰り返す」。これだけです。
相手がどんな難癖をつけてきても、最後には話をクロージングしなければなりません。「責任を取れよ」「誠意を見せろ」と言って、最後に金を要求したり、何かの書類を書かせようとしたりするわけです。
そこで私は、クロージングの話が出るまでは「ずっと何か言ってるな」と聞き流し、相手が話をまとめようとしてきたら「納得できないので、もう一度最初から説明して もらってもいいですか?」と質問します。「馬鹿か」「なめてんのか」と言われても、「そうではなく本当に理解したいんです」と何度もくり返し粘ります。
「本心から納得できれば喜んで言うことを聞きます。でも嫌がることを脅してやらせるのは犯罪ですよね。あなたは犯罪がしたいんですか。違いますよね。だったら、お互い納得できるまで話し合いましょう。私はとことん付き合いますよ」という感じですね。
相手は元々道理がありませんから、無理が通用しないとわかれば、要求を諦めざるを得なくなります。
「ちびまる子ちゃんの“はまじの自伝”」を出版→大ヒット→権利会社が激怒…ベテラン編集者が明かした「若かりし頃のあやまち」 へ続く
(草下 シンヤ/Webオリジナル(外部転載))

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