「食べ放題だとすぐに満腹」はなぜか、数字で検証

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日常生活の中で使える「数学」をご紹介(写真:jazzman/PIXTA)
東大クイズ王で、「数学博士」でもある鶴崎修功さん。本稿では、『文系でも思わずハマる 数学沼』の著者でもある同氏が、「論理的に物事を捉える」ための数学的な思考法を紹介します。
数学を学ぶメリットの1つとして、「論理的な思考力が身につく」ことが挙げられます。その典型的な手法が「対偶法」です。対偶法を覚えておくと、物事を論理的に考え、正しく認識することができますよ。
まずは、問題です。あるカフェで4人がテーブルを囲んでいたとします。このとき「ビールを飲んでいる人」「ジュースを飲んでいる人」「28歳の人」「17歳の人」の4人であることがわかっていたとします。
ここで、「アルコール飲料を飲んでいるならば、20歳以上である」というルールが守られているかどうかを確かめたいとします。最低限どの人を調べればこのルールが守られていることを確かめることができるでしょうか。調べる人は複数人であっても構いません。
『文系でも思わずハマる 数学沼』より
……さて、答えは出ましたか? では、さっそく答え合わせをしましょう。答えは、「ビールを飲んでいる人と、17歳の人の2名を調べればいい」でした。みなさんの答えはどうだったでしょうか。
では、一体なぜ、その2人を調べればいいのでしょうか。対偶法の考え方を知っていると、理由は明白です。そのためには、対偶法とはどのような方法なのかから、説明しましょう。
下の図のように、まず「AならばBである」という「命題」があるとします。このとき、「BならばAである」は元の命題の「逆」、「AでないならばBではない」は元の命題の「裏」、そして、「BでないならばAではない」は元の命題の「対偶」といいます。
『文系でも思わずハマる 数学沼』より
ここで、ある命題とその対偶との間には、「命題が真である(正しい)とき、その対偶もまた真である(正しい)」という関係が成り立ちます。これを利用することで、正しい結論を導き出そうというのが、対偶法です。
さらに、よりわかりやすい例を挙げると、「人間は皆、死ぬ」という真の命題があります。このとき、「人間である」ことをA、「死ぬ」ことをBとすると、この命題の「逆」は、「死ぬならば、人間である」となります。また、この命題の「裏」は「人間でないならば、死なない」となります。
しかし、逆も裏もどちらも真ではないですよね。
一方、対偶は「死なないならば、人間ではない」となります。これは確かに真です。このように、命題が真であるとき、その対偶もまた真である一方で、逆と裏が真であるとは限りません。
では、最初の問題に戻って、検証していきましょう。
ここで、「アルコール飲料を飲んでいるならば」をA、「20歳以上である」をBとします。「AならばB」の対偶は、「BでないならばAではない」ですので、まず、命題が真であることを確かめるため、「ビールを飲んでいる人が20歳以上である」ことを確かめます。
次に、対偶が真であることを確かめるため、「17歳の人がアルコール飲料を飲んでいない」ことを確かめます。それにより、ルールが守られていることを確認できるというわけです。
一方で、28歳の人を確認することは、命題の「逆」を確認することであり、「20歳以上ならば、アルコール飲料を飲んでいる」ということになります。
しかし、命題の「逆」は真とは限りません。
20歳以上であってもアルコール飲料を飲んでいるとは限らないため、28歳の人を確認する必要はないのです。また、ジュースを飲んでいる人を確認するということは、命題の「裏」を確認することであり、「アルコール飲料を飲んでいないならば、20歳以上ではない」ということになります。
しかし、命題の「裏」も真とは限りません。
ジュースを飲んでいる人であっても、20歳以上である可能性はあるため、ジュースを飲んでいる人を確認する必要はないのです。
『文系でも思わずハマる 数学沼』より
世の中には、非常にわかりづらく直感に頼ったのでは判断を誤ってしまう例があふれています。
たとえば、カフェで周りの人の雑談を聞いていると、「あの人はかっこいいから、絶対彼女がいるよ」といった言葉を耳にしたりします。これは正しいといえるでしょうか。
これを命題とみなして対偶をとると、「彼女がいないから、あの人はかっこよくない」となりますが、これはおかしいと多くの人が感じると思います。「彼女がいない」けれど「かっこいい人」なんていくらでもいるので、この命題の対偶は偽。すなわち、もともとの命題も偽になります。
しかし、会話の中で「あの人はかっこいいから、絶対彼女がいるよ」と言われたら、なんとなく「そうだよね」と同意してしまうのではないでしょうか。
このような発言は、日常生活の中でも頻繁にみられます。
たとえば、SNSを見ていると、「そんなこと、誰も言っていない」と思うような議論の場面に遭遇することがよくあります。そんなときは、その発言をそのまま鵜呑みにすることなく、ぜひ対偶法を使って論理的に考えてほしいと思います。
対偶を考えてみることで、その発言の真偽がより明確になります。なので、「それって本当だろうか?」と疑問に思ったときには、ぜひ対偶法で考えてみてください。
もう1つ、日常で役に立つ便利な考え方も紹介しておきましょう。
よく、コンビニエンスストアやスーパーマーケットの食品コーナーに行くと、「10%増量」などといった表示がされている商品に出くわすことがありますよね。でも、ぱっと見は、増量前と全然変わらないように感じる人も多いのではないでしょうか。その理由について解説しましょう。
みなさんは、数学の授業で「相似」を習いますよね。相似とは、図形において形を変えることなく、大きさを拡大・縮小したもののことをいいます。
このときたとえば、図形の1辺の長さを2倍、つまり、長さの「相似比」を1:2にすると、面積は1:2=1:4になります。さらに立体の場合、体積は1:2=1:8になります。1辺の長さが2倍になるだけで、体積はなんと8倍にもなるのです。
私は、このことが、「10%増量」に対して、みんなが疑問を持つ最大の要因だと思っています。
たとえば、1辺の長さが10センチメートルで、立方体の形をした豆腐を「10%増量」させて、見た目の大きさがどのくらい変わるかを見てみましょう。
もともとの豆腐の体積は10の3乗で1000平方センチメートルなので、10%増量させると、1100平方センチメートルになります。体積が1100平方センチメートルの立方体豆腐の1辺の長さを求めるには「x=1100」を解けばいいので、「x≒10.3」となります。つまり、10%増量した豆腐の1辺の長さは、たった3ミリメートルしか増えていないのです。
次に、面積を計算してみましょう。「(10.3)≒107」となるので、10%増量した豆腐の面積は約6平方センチメートルしか増えていない計算です。
このように、長さや面積に換算すると微々たるものなので、見た目には違いを判断することがほとんどできないというわけなのです。
「10%増量」と銘打った商品に対して「ほとんど見た目が変わらない! メーカーはうそをついているんじゃないか」と、文句を言いたくなることもあるかもしれません。しかしその場合、メーカーはきちんと商品の増量をしていて、それが見た目に表れていないだけの可能性が高いのです。
一方でたとえば、「食べ放題」の店に行ったとします。そのとき、お腹がペコペコだからといって欲張って大盛りにして、食べ切れず残してしまったという経験がある人も少なくないのではないでしょうか。これも同じ理由です。見た目の面積が2倍といった場合、体積に換算すると約2.8倍になってしまうわけです。そのため、「食べても食べてもなくならない」といった感覚に陥ってしまうのです。ですから、食べ放題のときには、見た目と実際とのギャップを考えて、お皿には若干少なめに盛るようにするといいでしょう。(鶴崎 修功 : クイズプレイヤー/タレント)
一方でたとえば、「食べ放題」の店に行ったとします。
そのとき、お腹がペコペコだからといって欲張って大盛りにして、食べ切れず残してしまったという経験がある人も少なくないのではないでしょうか。これも同じ理由です。
見た目の面積が2倍といった場合、体積に換算すると約2.8倍になってしまうわけです。そのため、「食べても食べてもなくならない」といった感覚に陥ってしまうのです。
ですから、食べ放題のときには、見た目と実際とのギャップを考えて、お皿には若干少なめに盛るようにするといいでしょう。
(鶴崎 修功 : クイズプレイヤー/タレント)

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