国境すり抜けるマネーはNO 神戸の富裕一族、52億円申告漏れ

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関西有数の高級住宅地で暮らす資産家の50代男性や親族ら数人が大阪国税局の税務調査を受け、2020年までの5年間で総額約52億円の申告漏れを指摘されたことが関係者への取材で判明した。タックスヘイブン(租税回避地)に設立された会社で多額の資産を管理し、運用益が過少に申告されていたことも判明。過少申告加算税を含めた追徴税額は計約18億円に上り、全額が納付された模様だ。
【図解】神戸の富裕一族が税逃れしたカラクリ台湾企業の株式を相続

国税当局は国内外に多額の資産を持つ「富裕層」について、国境を越えた巧妙な課税逃れへの監視を強めている。調査対象とする富裕層の定義は公表されていないが、所有する有価証券や不動産、所得、海外投資額などに一定の基準を設けているとみられる。 関係者によると、申告漏れを指摘された男性は神戸市内の高級住宅地で暮らし、不動産関連の会社を経営している。親族の一部は台湾に居住し、男性らは複数の生活拠点を持っている。 大阪国税局が富裕層の調査を進める過程で、男性らが亡くなった別の親族から台湾にある上場企業の株式を相続し、国内外で多額の資産を保有していることを把握した。株式を含む資産はタックスヘイブンに親族が設立した資金管理会社にも移され、男性らは配当金などを受け取っていたという。「何も話すことない」 また、男性が親族に資産を贈与したにもかかわらず、親族が税務申告をしていなかったことも明らかになった。 株式など有価証券1億円以上を保有する国内居住者が海外の親族に贈与や相続をする場合、含み益に課税される。「国外転出時課税制度」と呼ばれ、贈与した人に所得税、資産を受け取った側には贈与税が課される。株式の売却益に税金がかからないタックスヘイブンなどを通じた税逃れを防ぐ目的で15年に導入され、男性らにはこのルールが適用されたとみられる。 国税局は、法人税率の低い国や地域への所得移動による節税を防止する「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」の対象にもなると判断。総額約52億円の申告漏れを確認し、所得税や贈与税を追徴課税した模様だ。 男性は毎日新聞の取材に「何もお話しすることはない」と語った。国税当局に危機感 富裕層の税逃れを黙認すれば、納税を巡る不公平感が国民の間で広がりかねない――。国税当局はこうした危機感から専門の調査チームを中心に監視を進めるとともに、海外の資産情報を集める国際連携にも乗り出している。 国税庁は2014年、東京と大阪、名古屋の各国税局に「富裕層プロジェクトチーム(PT)」を新設し、海外に5000万円超の資産を持つ個人に毎年提出を義務付ける「国外財産調書」も導入した。PTの態勢はさらに強化され、現在は全国全ての国税局に設置されている。 背景には、富裕層や多国籍企業のタックスヘイブンを使った課税逃れの国際化がある。世界の著名人や有名企業の関わりを暴露した「パナマ文書」でも注目された。ただ、国境を越えるマネーの動きを突き止めるのは一国だけでは難しい。富裕層の監視、国際連携も 国税庁は18年から世界各国と金融機関の口座情報を自動的に交換する制度に参加し、国内の個人や法人が海外で保有する口座の名義や残高の調査も進めている。そもそもは経済協力開発機構(OECD)が策定した基準に基づく制度で、現在は計152カ国・地域の税務当局が参加している。 国税庁によると、22年6月までの1年間で、富裕層が所得税の申告漏れを認定された総額は839億円。441億円だったこの5年前に比べて倍増し、1件当たりの平均追徴税額も1067万円と約3倍になっている。 国税関係者は「税の公平性を高めるため、富裕層にしかできない税逃れは今後も海外諸国との連携も進めながら防いでいきたい」と語った。【沼田亮】
台湾企業の株式を相続
国税当局は国内外に多額の資産を持つ「富裕層」について、国境を越えた巧妙な課税逃れへの監視を強めている。調査対象とする富裕層の定義は公表されていないが、所有する有価証券や不動産、所得、海外投資額などに一定の基準を設けているとみられる。
関係者によると、申告漏れを指摘された男性は神戸市内の高級住宅地で暮らし、不動産関連の会社を経営している。親族の一部は台湾に居住し、男性らは複数の生活拠点を持っている。
大阪国税局が富裕層の調査を進める過程で、男性らが亡くなった別の親族から台湾にある上場企業の株式を相続し、国内外で多額の資産を保有していることを把握した。株式を含む資産はタックスヘイブンに親族が設立した資金管理会社にも移され、男性らは配当金などを受け取っていたという。
「何も話すことない」
また、男性が親族に資産を贈与したにもかかわらず、親族が税務申告をしていなかったことも明らかになった。
株式など有価証券1億円以上を保有する国内居住者が海外の親族に贈与や相続をする場合、含み益に課税される。「国外転出時課税制度」と呼ばれ、贈与した人に所得税、資産を受け取った側には贈与税が課される。株式の売却益に税金がかからないタックスヘイブンなどを通じた税逃れを防ぐ目的で15年に導入され、男性らにはこのルールが適用されたとみられる。
国税局は、法人税率の低い国や地域への所得移動による節税を防止する「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」の対象にもなると判断。総額約52億円の申告漏れを確認し、所得税や贈与税を追徴課税した模様だ。
男性は毎日新聞の取材に「何もお話しすることはない」と語った。
国税当局に危機感
富裕層の税逃れを黙認すれば、納税を巡る不公平感が国民の間で広がりかねない――。国税当局はこうした危機感から専門の調査チームを中心に監視を進めるとともに、海外の資産情報を集める国際連携にも乗り出している。
国税庁は2014年、東京と大阪、名古屋の各国税局に「富裕層プロジェクトチーム(PT)」を新設し、海外に5000万円超の資産を持つ個人に毎年提出を義務付ける「国外財産調書」も導入した。PTの態勢はさらに強化され、現在は全国全ての国税局に設置されている。
背景には、富裕層や多国籍企業のタックスヘイブンを使った課税逃れの国際化がある。世界の著名人や有名企業の関わりを暴露した「パナマ文書」でも注目された。ただ、国境を越えるマネーの動きを突き止めるのは一国だけでは難しい。
富裕層の監視、国際連携も
国税庁は18年から世界各国と金融機関の口座情報を自動的に交換する制度に参加し、国内の個人や法人が海外で保有する口座の名義や残高の調査も進めている。そもそもは経済協力開発機構(OECD)が策定した基準に基づく制度で、現在は計152カ国・地域の税務当局が参加している。
国税庁によると、22年6月までの1年間で、富裕層が所得税の申告漏れを認定された総額は839億円。441億円だったこの5年前に比べて倍増し、1件当たりの平均追徴税額も1067万円と約3倍になっている。
国税関係者は「税の公平性を高めるため、富裕層にしかできない税逃れは今後も海外諸国との連携も進めながら防いでいきたい」と語った。【沼田亮】

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