「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」自民党が宗教団体に逆らえない理由《権力と宗教 大座談会》

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文藝春秋10月号より、全25ページにおよぶ座談会「統一教会と創価学会」の一部を掲載します(司会・宮崎哲弥〔評論家〕、島田裕巳〔宗教学者〕、仲正昌樹〔金沢大学法学類教授〕、小川寛大〔『宗教問題』編集長〕)。
【画像】創価学会の創立80周年記念旗◆◆◆「政治と宗教は原理的に分離されるべき」宮崎 安倍晋三元首相暗殺事件を機に、政治と旧統一教会(世界平和統一家庭連合。以下、統一教会)の関係が改めて注目されています。そこで今日は近代日本における政治と宗教の関係について議論したいと思います。

議論を始める前に前提として私自身の基本的なスタンスを明らかにしておきます。それは「政治と宗教は原理的に分離されるべきだ」というもの。宗教がカヴァーする領域というのは、政治の扱う領域よりも深く、広いのです。宗教はそれを信じる者のアイデンティティの根幹を規定し、世界観総体を形成する。従って宗教には妥協とか譲歩というのはあり得ません。原理的には。宮崎哲弥氏 ただ共存はできる(笑)。近代社会においては政治権力が共存を強制しているからです。宗教勢力が宗派間闘争をはじめたり異端審問を行ったりすることは、世俗(政治権力)優位のこの社会では、許されないことです。 政教分離原則というのは、この政治権力の作用がすべての宗教に対し平等であるように、特定の宗教宗派の立場に偏らないようにするために設けられたものなのです。 まあこれが原理的なスタンスですが、リアルポリティックスはずっと複雑怪奇であり、「政」と「教」の関係も一筋縄ではいきません。統一教会や創価学会に限らず、多くの宗教が政治と関わってきた。問題はその関わり方だと思います。今日はその論点を追及したいと思います。 さて、まずは安倍元首相暗殺事件について一言。「宗教の皮をかぶった集金マシーン」小川 山上徹也容疑者の「特定の宗教団体に恨みを持っていた」との供述の第一報に触れ、おそらく統一教会だろうと予想がつきました。なぜなら日本の数ある宗教のなかでも、統一教会の高額献金や霊感商法の悪質さは群を抜いているからです。もはや宗教ではなく、宗教の皮をかぶった集金マシーンと言ったほうがよい。今回のような事件が起きうる土壌は以前からありました。 一方、安倍元首相は祖父の岸信介から3代にわたって、統一教会と親しい間柄にありました。被害者団体や弁護士が「付き合いを考え直してくれ」と申し入れても耳を貸さなかった。もちろん、だからといって殺人が正当化されるわけではなく、事件そのものは本当に痛ましい悲劇です。ただ正直、脇が甘かったのは否めません。島田 容疑者の母親が「多額の献金をしていた」としか報じられていなかった段階では、私は他の新宗教も頭に浮かびました。奈良という土地からまず連想したのは、地元の天理教です。作家の芹沢光治良は自伝的小説『人間の運命』の中で、親が熱心な天理教の信者であり、全財産をなげうって布教にのめり込んだために塗炭の苦しみを味わったことを描いています。また、容疑者が元自衛官という情報から、かつて自衛隊内に信者組織を持っていた顕正会の可能性も考えました。顕正会は日蓮正宗系の新宗教ですが、日蓮正宗の国教化を目指すなど、過激な活動で知られています。仲正 私は大学に入学した1981年から約11年半、統一教会の信者でした。元信者としての感覚からすると、なぜ安倍元首相が標的になったのか、いまひとつ腑に落ちないんですよ。怨念の対象は政治家ではなく統一教会の人間に向かうのが筋だろう、と。テレビのインタビューで「安倍元首相は身内のようなものだった」と言う2世信者の方もいますが、これはメディアに誘導された発言のように感じられます。統一教会の教義に照らせば、安倍元首相も「堕落した人間」のひとりに過ぎず、決して教会の身内とは言えません。 このように考えると、まだ解明されていない謎は多くあると思っています。「創価学会・公明党は嵐が通り過ぎるのを待っている」宮崎 自民党を中心に、国会議員と統一教会の関係が次々と明らかになっています。岸信夫・前防衛大臣や二之湯智・前国家公安委員長が内閣改造で外された後も、例えば山際大志郎・経済再生担当大臣や萩生田光一・政調会長の、教団との「濃厚な」つきあいが指摘されている。統一教会問題の処理の不首尾は、政権を揺るがす大問題に発展しています。 一方、創価学会・公明党はこの事態を前に、首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っているような状態です。 なぜ政治と宗教は癒着するのか? 統一教会は何故政治に接近したのですか?仲正 政治家たちが最も期待しているのは、やはり選挙の際の支援だと思います。統一教会は創価学会などと比べると規模は小さいですが、信者たちはみな従順でよく働きます。派遣される信者たちは、選挙応援ぐらい軽くこなしますよ。普段から従事している布教活動や徹夜祈祷、「万物復帰」と呼ばれる物品販売の方が、よっぽどきつい(笑)。私も信者時代、万物復帰がうまくいかずに「売れるまで帰ってくるな!」とよく叱られていました。信者たちにとっては選挙支援なんて、むしろ休みをもらったぐらいの感覚なんです。「実際の信者数は公称数とは相当な開きが」宮崎 現在の日本国内の統一教会の信者数は?島田 公称では56万人とされていますが……仲正さんの実感としてはどうですか?仲正 実態よりはかなり多い印象です。私が信者だった1980年代でさえ、アクティブなメンバーは2万人もいないだろうと言われていました。その後、霊感商法が問題化した後、信者数は相当減ったはずです。 統一教会の中では、信仰歴が長く、ホームと呼ばれる拠点に専従する信者のことを献身者と呼んでいました。献身者は、イベントや選挙に呼ばれたら必ず参加します。また、それに準ずる信者を合わせて、2万人ほどだと。それ以外にも、自分の仕事を持ちながら礼拝などに定期的に通う一般信者がいます。そうした信者を合わせても、せいぜい6万~10万人の間が妥当なところでしょう。宮崎 公称とは相当な開きがありますね。ただ、政治家を取材してみると、数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、「とても安心感がある」と口を揃えていいますね。小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。自民党ベテラン議員が洩らしたホンネ島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。 先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。北朝鮮には統一教会、中国には創価学会宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。 はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
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宮崎 安倍晋三元首相暗殺事件を機に、政治と旧統一教会(世界平和統一家庭連合。以下、統一教会)の関係が改めて注目されています。そこで今日は近代日本における政治と宗教の関係について議論したいと思います。
議論を始める前に前提として私自身の基本的なスタンスを明らかにしておきます。それは「政治と宗教は原理的に分離されるべきだ」というもの。宗教がカヴァーする領域というのは、政治の扱う領域よりも深く、広いのです。宗教はそれを信じる者のアイデンティティの根幹を規定し、世界観総体を形成する。従って宗教には妥協とか譲歩というのはあり得ません。原理的には。
宮崎哲弥氏
ただ共存はできる(笑)。近代社会においては政治権力が共存を強制しているからです。宗教勢力が宗派間闘争をはじめたり異端審問を行ったりすることは、世俗(政治権力)優位のこの社会では、許されないことです。
政教分離原則というのは、この政治権力の作用がすべての宗教に対し平等であるように、特定の宗教宗派の立場に偏らないようにするために設けられたものなのです。
まあこれが原理的なスタンスですが、リアルポリティックスはずっと複雑怪奇であり、「政」と「教」の関係も一筋縄ではいきません。統一教会や創価学会に限らず、多くの宗教が政治と関わってきた。問題はその関わり方だと思います。今日はその論点を追及したいと思います。
さて、まずは安倍元首相暗殺事件について一言。「宗教の皮をかぶった集金マシーン」小川 山上徹也容疑者の「特定の宗教団体に恨みを持っていた」との供述の第一報に触れ、おそらく統一教会だろうと予想がつきました。なぜなら日本の数ある宗教のなかでも、統一教会の高額献金や霊感商法の悪質さは群を抜いているからです。もはや宗教ではなく、宗教の皮をかぶった集金マシーンと言ったほうがよい。今回のような事件が起きうる土壌は以前からありました。 一方、安倍元首相は祖父の岸信介から3代にわたって、統一教会と親しい間柄にありました。被害者団体や弁護士が「付き合いを考え直してくれ」と申し入れても耳を貸さなかった。もちろん、だからといって殺人が正当化されるわけではなく、事件そのものは本当に痛ましい悲劇です。ただ正直、脇が甘かったのは否めません。島田 容疑者の母親が「多額の献金をしていた」としか報じられていなかった段階では、私は他の新宗教も頭に浮かびました。奈良という土地からまず連想したのは、地元の天理教です。作家の芹沢光治良は自伝的小説『人間の運命』の中で、親が熱心な天理教の信者であり、全財産をなげうって布教にのめり込んだために塗炭の苦しみを味わったことを描いています。また、容疑者が元自衛官という情報から、かつて自衛隊内に信者組織を持っていた顕正会の可能性も考えました。顕正会は日蓮正宗系の新宗教ですが、日蓮正宗の国教化を目指すなど、過激な活動で知られています。仲正 私は大学に入学した1981年から約11年半、統一教会の信者でした。元信者としての感覚からすると、なぜ安倍元首相が標的になったのか、いまひとつ腑に落ちないんですよ。怨念の対象は政治家ではなく統一教会の人間に向かうのが筋だろう、と。テレビのインタビューで「安倍元首相は身内のようなものだった」と言う2世信者の方もいますが、これはメディアに誘導された発言のように感じられます。統一教会の教義に照らせば、安倍元首相も「堕落した人間」のひとりに過ぎず、決して教会の身内とは言えません。 このように考えると、まだ解明されていない謎は多くあると思っています。「創価学会・公明党は嵐が通り過ぎるのを待っている」宮崎 自民党を中心に、国会議員と統一教会の関係が次々と明らかになっています。岸信夫・前防衛大臣や二之湯智・前国家公安委員長が内閣改造で外された後も、例えば山際大志郎・経済再生担当大臣や萩生田光一・政調会長の、教団との「濃厚な」つきあいが指摘されている。統一教会問題の処理の不首尾は、政権を揺るがす大問題に発展しています。 一方、創価学会・公明党はこの事態を前に、首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っているような状態です。 なぜ政治と宗教は癒着するのか? 統一教会は何故政治に接近したのですか?仲正 政治家たちが最も期待しているのは、やはり選挙の際の支援だと思います。統一教会は創価学会などと比べると規模は小さいですが、信者たちはみな従順でよく働きます。派遣される信者たちは、選挙応援ぐらい軽くこなしますよ。普段から従事している布教活動や徹夜祈祷、「万物復帰」と呼ばれる物品販売の方が、よっぽどきつい(笑)。私も信者時代、万物復帰がうまくいかずに「売れるまで帰ってくるな!」とよく叱られていました。信者たちにとっては選挙支援なんて、むしろ休みをもらったぐらいの感覚なんです。「実際の信者数は公称数とは相当な開きが」宮崎 現在の日本国内の統一教会の信者数は?島田 公称では56万人とされていますが……仲正さんの実感としてはどうですか?仲正 実態よりはかなり多い印象です。私が信者だった1980年代でさえ、アクティブなメンバーは2万人もいないだろうと言われていました。その後、霊感商法が問題化した後、信者数は相当減ったはずです。 統一教会の中では、信仰歴が長く、ホームと呼ばれる拠点に専従する信者のことを献身者と呼んでいました。献身者は、イベントや選挙に呼ばれたら必ず参加します。また、それに準ずる信者を合わせて、2万人ほどだと。それ以外にも、自分の仕事を持ちながら礼拝などに定期的に通う一般信者がいます。そうした信者を合わせても、せいぜい6万~10万人の間が妥当なところでしょう。宮崎 公称とは相当な開きがありますね。ただ、政治家を取材してみると、数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、「とても安心感がある」と口を揃えていいますね。小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。自民党ベテラン議員が洩らしたホンネ島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。 先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。北朝鮮には統一教会、中国には創価学会宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。 はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
さて、まずは安倍元首相暗殺事件について一言。
小川 山上徹也容疑者の「特定の宗教団体に恨みを持っていた」との供述の第一報に触れ、おそらく統一教会だろうと予想がつきました。なぜなら日本の数ある宗教のなかでも、統一教会の高額献金や霊感商法の悪質さは群を抜いているからです。もはや宗教ではなく、宗教の皮をかぶった集金マシーンと言ったほうがよい。今回のような事件が起きうる土壌は以前からありました。
一方、安倍元首相は祖父の岸信介から3代にわたって、統一教会と親しい間柄にありました。被害者団体や弁護士が「付き合いを考え直してくれ」と申し入れても耳を貸さなかった。もちろん、だからといって殺人が正当化されるわけではなく、事件そのものは本当に痛ましい悲劇です。ただ正直、脇が甘かったのは否めません。
島田 容疑者の母親が「多額の献金をしていた」としか報じられていなかった段階では、私は他の新宗教も頭に浮かびました。奈良という土地からまず連想したのは、地元の天理教です。作家の芹沢光治良は自伝的小説『人間の運命』の中で、親が熱心な天理教の信者であり、全財産をなげうって布教にのめり込んだために塗炭の苦しみを味わったことを描いています。また、容疑者が元自衛官という情報から、かつて自衛隊内に信者組織を持っていた顕正会の可能性も考えました。顕正会は日蓮正宗系の新宗教ですが、日蓮正宗の国教化を目指すなど、過激な活動で知られています。仲正 私は大学に入学した1981年から約11年半、統一教会の信者でした。元信者としての感覚からすると、なぜ安倍元首相が標的になったのか、いまひとつ腑に落ちないんですよ。怨念の対象は政治家ではなく統一教会の人間に向かうのが筋だろう、と。テレビのインタビューで「安倍元首相は身内のようなものだった」と言う2世信者の方もいますが、これはメディアに誘導された発言のように感じられます。統一教会の教義に照らせば、安倍元首相も「堕落した人間」のひとりに過ぎず、決して教会の身内とは言えません。 このように考えると、まだ解明されていない謎は多くあると思っています。「創価学会・公明党は嵐が通り過ぎるのを待っている」宮崎 自民党を中心に、国会議員と統一教会の関係が次々と明らかになっています。岸信夫・前防衛大臣や二之湯智・前国家公安委員長が内閣改造で外された後も、例えば山際大志郎・経済再生担当大臣や萩生田光一・政調会長の、教団との「濃厚な」つきあいが指摘されている。統一教会問題の処理の不首尾は、政権を揺るがす大問題に発展しています。 一方、創価学会・公明党はこの事態を前に、首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っているような状態です。 なぜ政治と宗教は癒着するのか? 統一教会は何故政治に接近したのですか?仲正 政治家たちが最も期待しているのは、やはり選挙の際の支援だと思います。統一教会は創価学会などと比べると規模は小さいですが、信者たちはみな従順でよく働きます。派遣される信者たちは、選挙応援ぐらい軽くこなしますよ。普段から従事している布教活動や徹夜祈祷、「万物復帰」と呼ばれる物品販売の方が、よっぽどきつい(笑)。私も信者時代、万物復帰がうまくいかずに「売れるまで帰ってくるな!」とよく叱られていました。信者たちにとっては選挙支援なんて、むしろ休みをもらったぐらいの感覚なんです。「実際の信者数は公称数とは相当な開きが」宮崎 現在の日本国内の統一教会の信者数は?島田 公称では56万人とされていますが……仲正さんの実感としてはどうですか?仲正 実態よりはかなり多い印象です。私が信者だった1980年代でさえ、アクティブなメンバーは2万人もいないだろうと言われていました。その後、霊感商法が問題化した後、信者数は相当減ったはずです。 統一教会の中では、信仰歴が長く、ホームと呼ばれる拠点に専従する信者のことを献身者と呼んでいました。献身者は、イベントや選挙に呼ばれたら必ず参加します。また、それに準ずる信者を合わせて、2万人ほどだと。それ以外にも、自分の仕事を持ちながら礼拝などに定期的に通う一般信者がいます。そうした信者を合わせても、せいぜい6万~10万人の間が妥当なところでしょう。宮崎 公称とは相当な開きがありますね。ただ、政治家を取材してみると、数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、「とても安心感がある」と口を揃えていいますね。小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。自民党ベテラン議員が洩らしたホンネ島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。 先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。北朝鮮には統一教会、中国には創価学会宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。 はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
島田 容疑者の母親が「多額の献金をしていた」としか報じられていなかった段階では、私は他の新宗教も頭に浮かびました。奈良という土地からまず連想したのは、地元の天理教です。作家の芹沢光治良は自伝的小説『人間の運命』の中で、親が熱心な天理教の信者であり、全財産をなげうって布教にのめり込んだために塗炭の苦しみを味わったことを描いています。また、容疑者が元自衛官という情報から、かつて自衛隊内に信者組織を持っていた顕正会の可能性も考えました。顕正会は日蓮正宗系の新宗教ですが、日蓮正宗の国教化を目指すなど、過激な活動で知られています。
仲正 私は大学に入学した1981年から約11年半、統一教会の信者でした。元信者としての感覚からすると、なぜ安倍元首相が標的になったのか、いまひとつ腑に落ちないんですよ。怨念の対象は政治家ではなく統一教会の人間に向かうのが筋だろう、と。テレビのインタビューで「安倍元首相は身内のようなものだった」と言う2世信者の方もいますが、これはメディアに誘導された発言のように感じられます。統一教会の教義に照らせば、安倍元首相も「堕落した人間」のひとりに過ぎず、決して教会の身内とは言えません。
このように考えると、まだ解明されていない謎は多くあると思っています。
「創価学会・公明党は嵐が通り過ぎるのを待っている」宮崎 自民党を中心に、国会議員と統一教会の関係が次々と明らかになっています。岸信夫・前防衛大臣や二之湯智・前国家公安委員長が内閣改造で外された後も、例えば山際大志郎・経済再生担当大臣や萩生田光一・政調会長の、教団との「濃厚な」つきあいが指摘されている。統一教会問題の処理の不首尾は、政権を揺るがす大問題に発展しています。 一方、創価学会・公明党はこの事態を前に、首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っているような状態です。 なぜ政治と宗教は癒着するのか? 統一教会は何故政治に接近したのですか?仲正 政治家たちが最も期待しているのは、やはり選挙の際の支援だと思います。統一教会は創価学会などと比べると規模は小さいですが、信者たちはみな従順でよく働きます。派遣される信者たちは、選挙応援ぐらい軽くこなしますよ。普段から従事している布教活動や徹夜祈祷、「万物復帰」と呼ばれる物品販売の方が、よっぽどきつい(笑)。私も信者時代、万物復帰がうまくいかずに「売れるまで帰ってくるな!」とよく叱られていました。信者たちにとっては選挙支援なんて、むしろ休みをもらったぐらいの感覚なんです。「実際の信者数は公称数とは相当な開きが」宮崎 現在の日本国内の統一教会の信者数は?島田 公称では56万人とされていますが……仲正さんの実感としてはどうですか?仲正 実態よりはかなり多い印象です。私が信者だった1980年代でさえ、アクティブなメンバーは2万人もいないだろうと言われていました。その後、霊感商法が問題化した後、信者数は相当減ったはずです。 統一教会の中では、信仰歴が長く、ホームと呼ばれる拠点に専従する信者のことを献身者と呼んでいました。献身者は、イベントや選挙に呼ばれたら必ず参加します。また、それに準ずる信者を合わせて、2万人ほどだと。それ以外にも、自分の仕事を持ちながら礼拝などに定期的に通う一般信者がいます。そうした信者を合わせても、せいぜい6万~10万人の間が妥当なところでしょう。宮崎 公称とは相当な開きがありますね。ただ、政治家を取材してみると、数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、「とても安心感がある」と口を揃えていいますね。小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。自民党ベテラン議員が洩らしたホンネ島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。 先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。北朝鮮には統一教会、中国には創価学会宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。 はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
宮崎 自民党を中心に、国会議員と統一教会の関係が次々と明らかになっています。岸信夫・前防衛大臣や二之湯智・前国家公安委員長が内閣改造で外された後も、例えば山際大志郎・経済再生担当大臣や萩生田光一・政調会長の、教団との「濃厚な」つきあいが指摘されている。統一教会問題の処理の不首尾は、政権を揺るがす大問題に発展しています。
一方、創価学会・公明党はこの事態を前に、首をすくめて嵐が通り過ぎるのを待っているような状態です。
なぜ政治と宗教は癒着するのか? 統一教会は何故政治に接近したのですか?
仲正 政治家たちが最も期待しているのは、やはり選挙の際の支援だと思います。統一教会は創価学会などと比べると規模は小さいですが、信者たちはみな従順でよく働きます。派遣される信者たちは、選挙応援ぐらい軽くこなしますよ。普段から従事している布教活動や徹夜祈祷、「万物復帰」と呼ばれる物品販売の方が、よっぽどきつい(笑)。私も信者時代、万物復帰がうまくいかずに「売れるまで帰ってくるな!」とよく叱られていました。信者たちにとっては選挙支援なんて、むしろ休みをもらったぐらいの感覚なんです。「実際の信者数は公称数とは相当な開きが」宮崎 現在の日本国内の統一教会の信者数は?島田 公称では56万人とされていますが……仲正さんの実感としてはどうですか?仲正 実態よりはかなり多い印象です。私が信者だった1980年代でさえ、アクティブなメンバーは2万人もいないだろうと言われていました。その後、霊感商法が問題化した後、信者数は相当減ったはずです。 統一教会の中では、信仰歴が長く、ホームと呼ばれる拠点に専従する信者のことを献身者と呼んでいました。献身者は、イベントや選挙に呼ばれたら必ず参加します。また、それに準ずる信者を合わせて、2万人ほどだと。それ以外にも、自分の仕事を持ちながら礼拝などに定期的に通う一般信者がいます。そうした信者を合わせても、せいぜい6万~10万人の間が妥当なところでしょう。宮崎 公称とは相当な開きがありますね。ただ、政治家を取材してみると、数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、「とても安心感がある」と口を揃えていいますね。小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。自民党ベテラン議員が洩らしたホンネ島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。 先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。北朝鮮には統一教会、中国には創価学会宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。 はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
仲正 政治家たちが最も期待しているのは、やはり選挙の際の支援だと思います。統一教会は創価学会などと比べると規模は小さいですが、信者たちはみな従順でよく働きます。派遣される信者たちは、選挙応援ぐらい軽くこなしますよ。普段から従事している布教活動や徹夜祈祷、「万物復帰」と呼ばれる物品販売の方が、よっぽどきつい(笑)。私も信者時代、万物復帰がうまくいかずに「売れるまで帰ってくるな!」とよく叱られていました。信者たちにとっては選挙支援なんて、むしろ休みをもらったぐらいの感覚なんです。
宮崎 現在の日本国内の統一教会の信者数は?
島田 公称では56万人とされていますが……仲正さんの実感としてはどうですか?
仲正 実態よりはかなり多い印象です。私が信者だった1980年代でさえ、アクティブなメンバーは2万人もいないだろうと言われていました。その後、霊感商法が問題化した後、信者数は相当減ったはずです。
統一教会の中では、信仰歴が長く、ホームと呼ばれる拠点に専従する信者のことを献身者と呼んでいました。献身者は、イベントや選挙に呼ばれたら必ず参加します。また、それに準ずる信者を合わせて、2万人ほどだと。それ以外にも、自分の仕事を持ちながら礼拝などに定期的に通う一般信者がいます。そうした信者を合わせても、せいぜい6万~10万人の間が妥当なところでしょう。
宮崎 公称とは相当な開きがありますね。ただ、政治家を取材してみると、数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、「とても安心感がある」と口を揃えていいますね。
小川 宗教票に限らず、組織票というものは、全体の投票率がどれだけ下がっても必ず投票してくれる有難い存在ですからね。
自民党ベテラン議員が洩らしたホンネ島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。 先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。北朝鮮には統一教会、中国には創価学会宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。 はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
島田 集票マシーンとして最も強力な力を誇るのは、やはり創価学会でしょう。公称827万世帯が会員ということになっており、新宗教としては日本最大の勢力を誇ります。ただ、のちほど詳しく述べますが、これはかなり誇張された数字です。
小川 教勢としては、池田大作名誉会長が前面に出ていた頃に比べると落ちていることは明らかですね。ただ、自民党にとって創価学会の力は依然として大きい。
先日、自民党のベテラン議員が興味深いことを教えてくれました。その議員の選挙区では有権者の5%程度の創価学会員がいるそうです。5%というと少なく見えるかもしれませんが、投票率が五割程度の中、彼らは必ず投票に行くので、実際の選挙では学会票の比重は2倍の10%になる。さらに、野党が統一候補を立てて1対1の与野党対決型になる最近の小選挙区では、ほとんどの学会員は自民党に投票します。その結果、蓋を開けると自民党候補者の得票数の2割前後を学会票が占めることになる。「これで創価学会にケンカを売れると思うか?」と、そのベテラン議員は言っていました。
宮崎 教勢は落ちていても、小選挙区制と低投票率によって、政治的影響力がかえって高まった可能性がある。そういう構造は公明党もかなりはっきりと意識していて、今回の参院選では、例えば京都の選挙区では公明支持層の一部の票が自民の候補者ではなく、日本維新の会の候補者に流れました。こういう選挙区が他にも幾つかあった。この背景には個々の選挙区の事情もあって、一概にはなかなかいいにくいのですが、自民圧勝が予測されるなかで、与党内で公明党が存在感をアピールしたともいえるわけです。
小川 昔は労働組合や農協、郵便局なども手堅く票が見込めましたが、そうした団体はどんどん瓦解していった。創価学会はそれらに比べて縮小のスピードが緩やかでした。その結果、他団体よりも相対的に政治的影響力を強めた面はあると思います。
宮崎 統一教会はかつての「勝共」「反北(朝鮮)」という政治姿勢ばかりが強調されていて、冷戦構造崩壊後、この教団が大きく変質したという点は軽視されがちです。かつての看板だった「反共」を降ろしまではせずとも控え目にし、代わりに「統一」や「平和」の看板を強く押し出すようになった。
はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。 教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。 もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
はっきりいえば、この30年間、統一教会は北朝鮮の政権と極めて友好的な関係を保ってきた。単にトップが懇意だというだけでなく、「平和(ピヨンフア)自動車」など合弁事業を行ったり、国際社会の場で北朝鮮を支援してきた。
教団の持つ、こうした北朝鮮とのあいだのパイプは、拉致問題の解決を掲げる日本にとって魅力だったと思います。とくに2014年のストックホルム合意を北朝鮮が事実上破棄してしまった後は、拉致問題はまったくスタックしてしまった。何とかこのルートに突破口を見出そうとしたのではないか。そういう観点から取材してみると、幾つかのこれに関連する動きがみえてきます。
もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。◆座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)
もちろん一般の議員と教団との関わりは、あくまで組織票や選挙ボランティアが目当てだったのでしょうが、政権のトップに関わる人々と教団の関係にはそれとは違った要素、思惑もあったのではないか、と思われます。

座談会「統一教会と創価学会」全文は、月刊「文藝春秋」2022年10月号と「文藝春秋digital」にてお読みいただけます。
(宮崎 哲弥,島田 裕巳,仲正 昌樹,小川 寛大/文藝春秋 2022年10月号)

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