梅毒、新型コロナで一時減少も再拡大中 新たに「ペニシリン注射」が承認

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

性感染症・梅毒が拡大している。昨年の全国感染者は7873人。今年は前期だけで5000人を突破、最終的には1万人を超える見込みだ。男性は30代以上、女性は10~30代が多く、専門家からはSNSなどを通じての不特定多数との性交渉が原因との指摘も。治療は2~4週間の服薬が標準だったが、今年1月に1回の注射で治療が終了する持続性ペニシリン注射が保険承認された。
【写真】白衣、ネクタイ姿の尾上泰彦・プライベートケアクリニック東京院長 終戦直後は20万人以上の患者がいたとされる梅毒だが、ペニシリンの普及により、患者数は激減。それが2010年代以降、徐々に増加し、2019年には新型コロナの影響で一時減少したものの、今年になってから急拡大中だ。

梅毒は性行為などによる粘膜接触を介し、スピロヘータの一種の梅毒トレポネーマに感染後、3~6週間程度の潜伏期間を経て発症する。 プライベートケアクリニック東京(東京都新宿区)の尾上泰彦院長に聞いた。「梅毒は血液検査で判定します。TP(梅毒定性抗体検査)とRPR(非トレポネーマ脂質抗体検査)の2種類があり、TPは梅毒トレポネーマの抗体検査で、以前梅毒に感染していた場合には陽性が出ることもあります。RPRはカルジオリピンという脂質を抗原とする抗体検査ですが、梅毒以外でも陽性を示す例もあったりします。そのため感染の可能性の時期から、6週間が経過した時期に、この2つの検査を行なったほうが、より正確な診断を得られます」 発症の第1期は痛みのないシコリやリンパの腫れ、赤い発疹が出る。治療しなくても2~3週間で自然に消え、その後約3か月、第2期までは無症状の期間が続く。それは治ったわけではなく、逆にこの時期は感染力が強いため他人に感染させない注意が必要となる。また第2期は早期であり、適切な治療をすれば後遺症も残らず完治可能だ。 治療せず3年以上経過した第3期では皮膚や筋肉、内臓などにゴムのような弾力のある腫瘍(ごむ腫)ができ、増殖しながら組織を壊していく。 感染から10年経つ第4期になると脳や神経、血管などにも症状が出て最悪の場合は死に至ることもある。ただ現在は大半の患者が第2期までに治療を実施している。 梅毒の治療は主にペニシリンなどの複数の抗生物質を2~4週間服用する。「世界各国の梅毒の標準治療はペニシリンの臀部への筋肉注射ですが、日本は歯の治療でペニシリン注射を行なった際、アナフィラキシーショックで患者が死亡する事故が起こり、1980年代に販売中止となりました。しかし、今年1月から、梅毒に対するペニシリン注射が保険承認され、しかも1度注射しただけで治療が終わります」(尾上院長) 承認された持続性ペニシリン製剤ステルイズRは溶解性が低く、筋注部位から徐々に薬剤を放出するので、血中濃度を長期間保てる。 副作用は皮疹、蕁麻疹、発熱などがあり、重篤なものでは残念ながらアナフィラキシーショックも。それでも妊婦が感染すると胎児に影響し、流産や早産だけでなく、先天性梅毒の危険性があるため早期に治療を行なうべきだ。取材・構成/岩城レイ子※週刊ポスト2022年9月16・23日号
終戦直後は20万人以上の患者がいたとされる梅毒だが、ペニシリンの普及により、患者数は激減。それが2010年代以降、徐々に増加し、2019年には新型コロナの影響で一時減少したものの、今年になってから急拡大中だ。
梅毒は性行為などによる粘膜接触を介し、スピロヘータの一種の梅毒トレポネーマに感染後、3~6週間程度の潜伏期間を経て発症する。
プライベートケアクリニック東京(東京都新宿区)の尾上泰彦院長に聞いた。
「梅毒は血液検査で判定します。TP(梅毒定性抗体検査)とRPR(非トレポネーマ脂質抗体検査)の2種類があり、TPは梅毒トレポネーマの抗体検査で、以前梅毒に感染していた場合には陽性が出ることもあります。RPRはカルジオリピンという脂質を抗原とする抗体検査ですが、梅毒以外でも陽性を示す例もあったりします。そのため感染の可能性の時期から、6週間が経過した時期に、この2つの検査を行なったほうが、より正確な診断を得られます」
発症の第1期は痛みのないシコリやリンパの腫れ、赤い発疹が出る。治療しなくても2~3週間で自然に消え、その後約3か月、第2期までは無症状の期間が続く。それは治ったわけではなく、逆にこの時期は感染力が強いため他人に感染させない注意が必要となる。また第2期は早期であり、適切な治療をすれば後遺症も残らず完治可能だ。
治療せず3年以上経過した第3期では皮膚や筋肉、内臓などにゴムのような弾力のある腫瘍(ごむ腫)ができ、増殖しながら組織を壊していく。
感染から10年経つ第4期になると脳や神経、血管などにも症状が出て最悪の場合は死に至ることもある。ただ現在は大半の患者が第2期までに治療を実施している。
梅毒の治療は主にペニシリンなどの複数の抗生物質を2~4週間服用する。
「世界各国の梅毒の標準治療はペニシリンの臀部への筋肉注射ですが、日本は歯の治療でペニシリン注射を行なった際、アナフィラキシーショックで患者が死亡する事故が起こり、1980年代に販売中止となりました。しかし、今年1月から、梅毒に対するペニシリン注射が保険承認され、しかも1度注射しただけで治療が終わります」(尾上院長)
承認された持続性ペニシリン製剤ステルイズRは溶解性が低く、筋注部位から徐々に薬剤を放出するので、血中濃度を長期間保てる。
副作用は皮疹、蕁麻疹、発熱などがあり、重篤なものでは残念ながらアナフィラキシーショックも。それでも妊婦が感染すると胎児に影響し、流産や早産だけでなく、先天性梅毒の危険性があるため早期に治療を行なうべきだ。
取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2022年9月16・23日号

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。