【川本 大吾】ヨーロッパで「日本産のカキ」が大人気になっていた…!海外輸出が活発になったワケ 国内とは対照的に、殻付きも人気

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春の訪れとともに、間もなくシーズンが終了する牡蠣(カキ)。「海のミルク」とも呼ばれるほど栄養たっぷりのカキだが、国内での消費量は減少の一途をたどっている。一方、海外では生ガキを中心に、年中カキの消費は活発だという。
国内生産量も減り続ける中で、広島県を中心とした養殖・加工業者は近年、日本とは対照的に需要が高まる生食用の殻付きカキを輸出し、苦境を乗り越えようと躍起になっている。
ここで少し思い出してほしい。「昨年秋以降、いったいカキをどれくらい食べたであろうか」と。カキが大好物で生ガキ、カキフライ、カキ鍋など、いろいろな食べ方でたくさん味わった人もいるかと思えば、「カキはちょっと苦手」と、まったく食べなかった人もいるだろう。筆者はたしか、飲食店か弁当でカキフライを5、6個食べた程度だったか…。
カキ消費量の経年変化を見ると、想像以上に減り続けていることが分かる。総務省の家計調査報告によれば、全国1世帯当たりの年間消費量は、2000年が921グラムだったものの、2022年には421グラムと、半分以下に減少。その間、支出金額も1540円から806円と、半分近くに減っている。
カキを食べなくなった要因について、名産地・広島県の水産加工業者は「かつてノロウイルス食中毒の原因としてカキが挙げられて警戒感が強まったことや、家庭でカキフライを作って食べる機会が減ったことが考えられる。それにカキ鍋の需要も以前よりは減ったように思う。肉の方が安くてうまいという人も多いし…」とみる。
加熱用として販売されている殻付きのカキ(築地場外市場・筆者提供)
生ガキやカキ鍋は、好き嫌いの差が大きいとしても、カキフライはシーズン限定で万人受けする人気メニューではないか。コロナ禍で需要が高まった冷凍食品に押されている向きもあるだろうが、やはり家庭でカキフライを作る機会が減っていることは間違いないなさそうだ。加えて「魚離れ」が進むなかで、都市部の若年層を中心に、カキの人気が落ちていることも、全体としての消費減に拍車をかけていると推察される。生産もジリ貧、むき身出荷にも黄信号消費の落ち込みと同時に、カキの生産量も減少傾向だ。農林水産省のまとめによると、2021年の養殖カキ生産量は、約15万9000トン(殻も含む)で、20年前の2001年(約23万1000トン)に比べ、3割以上減っている。生産量トップを誇る広島県のカキ養殖業者によると、昨年秋以降、今シーズンの生産状況も「例年に比べ量がやや少なく、成長も芳しくないため粒の大きさもまちまちだった」ということで、好転の兆しは見えない。 生産量の減少は低調な消費とも関係するが、他にも要因はある。日本で主に流通しているカキは殻を外した「むき身」だが、広島県で扱い量トップのカキメーカー「クニヒロ」(尾道市)によると、「近年はコロナや最低賃金の引上げなどの影響で、カキをむく人が確保できず、順調に出荷するのが難しくなっている」という。日本で流通の主体となっているカキのむき身(築地場外市場・筆者提供)国内では、スーパーなどにパック入りのむき身カキを納めるために、低価格に抑えなければならないことから、作業員のコスト増も厳しいようだ。アジアだけでなく、ヨーロッパにも輸出カキ生産を巡る苦境を何とか打開しようと、各地の加工業者などは殻付きカキの海外輸出を加速させている。クニヒロではアジア諸国を中心に、むき身も含めてカキを輸出してきたが、生食需要の高いヨーロッパの消費をにらみ、むかずに殻のまま輸出する準備も進めている。欧州連合(EU)へのカキ輸出には高いハードルがあるが、今年1月に同社の加工施設などが、EUへの輸出に必要な食品安全衛生管理システム「HACCP(ハサップ)」を遵守していると農林水産省に認定され、2月にフランスへ生食可能な殻付きの冷凍カキの輸出を開始した。日本産のカキがEU諸国へ渡るのは初めてで「粒が大きくてうま味もたっぷり」と好評だったという。ヨーロッパでは、日本の独自文化であるカキフライの人気も高まっているため、クニヒロは「殻付き生食用のほか、衣を付けたフライ用のカキもたくさん輸出していきたい」と話している。今年2月、日本産のカキが初めてフランスへ輸出され、パリでお披露目された(クニヒロ提供) 小粒でも生きのいいカキを海外へ一方、東日本大震災の被災地、宮城県でも殻付きのカキ輸出に意欲を見せる水産加工業者がいる。石巻市に拠点を持つ「ヤマナカ」(高田慎司社長)は、宮城県など30の養殖業者の協力を得て、少々変わった方法で育てたカキを扱う。通常のカキ養殖は、水深10メートルほどの水域に種ガキを付けた縄などをぶら下げる「垂下式養殖」と呼ばれる方法で育てるが、同社は潮の干満の差を利用し、海面から出たり入ったりする「潮間帯」という浅瀬の漁場でカキを養殖。すると「海面から出た時に、外気や日に照らされるため、生命力が強く、うま味が多いカキが育つ」と高田社長は話す。潮間帯のカキは「通常よりも小粒だが、より生きの良さを保つことができる」(同社長)といい、今年6月から、収穫したカキを殻付きのまま冷蔵でマカオやアラブ首長国連邦(UAE)、シンガポールなどに輸出する予定だ。生食可能で単価も比較的高いことから、収益性の向上に期待をにじませている。殻付き・むき身も含め、カキの輸出は各地から魚介が集まる東京・豊洲市場でも、仲卸業者を通じて盛んに行われている。日本国内での消費が振るわない中で、海外では年中、生食用の消費が旺盛なことが理由で、中国やシンガポールなども含め、多くの国へ渡って消費されているようだ。 魚介類に限らず、多くの資源を輸入に頼る日本。国内での消費が落ち込み、持て余している資源について、海外で需要があるのなら、そこに活路を見いだすのは自然な流れであろう。広島県では、この数年でカキの輸出額が数倍に増えているといい、この勢いが続けば、国が進める輸出拡大戦略に沿って、ブリやタイ、ホタテガイに次ぐ、輸出重点品目に挙げられる勢いだという。今後も日本のカキが世界で食べられ、生産・加工業者が安定して生産を続けられるようになれば、それに越したことはないのだが、ヨーロッパでも「大粒でおいしい」と言われる、日本が誇るおいしいカキが、遠い異国でしか日の目を見なくなっていることに、少々残念な気がしてしまう。
生ガキやカキ鍋は、好き嫌いの差が大きいとしても、カキフライはシーズン限定で万人受けする人気メニューではないか。コロナ禍で需要が高まった冷凍食品に押されている向きもあるだろうが、やはり家庭でカキフライを作る機会が減っていることは間違いないなさそうだ。
加えて「魚離れ」が進むなかで、都市部の若年層を中心に、カキの人気が落ちていることも、全体としての消費減に拍車をかけていると推察される。
消費の落ち込みと同時に、カキの生産量も減少傾向だ。農林水産省のまとめによると、2021年の養殖カキ生産量は、約15万9000トン(殻も含む)で、20年前の2001年(約23万1000トン)に比べ、3割以上減っている。
生産量トップを誇る広島県のカキ養殖業者によると、昨年秋以降、今シーズンの生産状況も「例年に比べ量がやや少なく、成長も芳しくないため粒の大きさもまちまちだった」ということで、好転の兆しは見えない。
生産量の減少は低調な消費とも関係するが、他にも要因はある。日本で主に流通しているカキは殻を外した「むき身」だが、広島県で扱い量トップのカキメーカー「クニヒロ」(尾道市)によると、「近年はコロナや最低賃金の引上げなどの影響で、カキをむく人が確保できず、順調に出荷するのが難しくなっている」という。日本で流通の主体となっているカキのむき身(築地場外市場・筆者提供)国内では、スーパーなどにパック入りのむき身カキを納めるために、低価格に抑えなければならないことから、作業員のコスト増も厳しいようだ。アジアだけでなく、ヨーロッパにも輸出カキ生産を巡る苦境を何とか打開しようと、各地の加工業者などは殻付きカキの海外輸出を加速させている。クニヒロではアジア諸国を中心に、むき身も含めてカキを輸出してきたが、生食需要の高いヨーロッパの消費をにらみ、むかずに殻のまま輸出する準備も進めている。欧州連合(EU)へのカキ輸出には高いハードルがあるが、今年1月に同社の加工施設などが、EUへの輸出に必要な食品安全衛生管理システム「HACCP(ハサップ)」を遵守していると農林水産省に認定され、2月にフランスへ生食可能な殻付きの冷凍カキの輸出を開始した。日本産のカキがEU諸国へ渡るのは初めてで「粒が大きくてうま味もたっぷり」と好評だったという。ヨーロッパでは、日本の独自文化であるカキフライの人気も高まっているため、クニヒロは「殻付き生食用のほか、衣を付けたフライ用のカキもたくさん輸出していきたい」と話している。今年2月、日本産のカキが初めてフランスへ輸出され、パリでお披露目された(クニヒロ提供) 小粒でも生きのいいカキを海外へ一方、東日本大震災の被災地、宮城県でも殻付きのカキ輸出に意欲を見せる水産加工業者がいる。石巻市に拠点を持つ「ヤマナカ」(高田慎司社長)は、宮城県など30の養殖業者の協力を得て、少々変わった方法で育てたカキを扱う。通常のカキ養殖は、水深10メートルほどの水域に種ガキを付けた縄などをぶら下げる「垂下式養殖」と呼ばれる方法で育てるが、同社は潮の干満の差を利用し、海面から出たり入ったりする「潮間帯」という浅瀬の漁場でカキを養殖。すると「海面から出た時に、外気や日に照らされるため、生命力が強く、うま味が多いカキが育つ」と高田社長は話す。潮間帯のカキは「通常よりも小粒だが、より生きの良さを保つことができる」(同社長)といい、今年6月から、収穫したカキを殻付きのまま冷蔵でマカオやアラブ首長国連邦(UAE)、シンガポールなどに輸出する予定だ。生食可能で単価も比較的高いことから、収益性の向上に期待をにじませている。殻付き・むき身も含め、カキの輸出は各地から魚介が集まる東京・豊洲市場でも、仲卸業者を通じて盛んに行われている。日本国内での消費が振るわない中で、海外では年中、生食用の消費が旺盛なことが理由で、中国やシンガポールなども含め、多くの国へ渡って消費されているようだ。 魚介類に限らず、多くの資源を輸入に頼る日本。国内での消費が落ち込み、持て余している資源について、海外で需要があるのなら、そこに活路を見いだすのは自然な流れであろう。広島県では、この数年でカキの輸出額が数倍に増えているといい、この勢いが続けば、国が進める輸出拡大戦略に沿って、ブリやタイ、ホタテガイに次ぐ、輸出重点品目に挙げられる勢いだという。今後も日本のカキが世界で食べられ、生産・加工業者が安定して生産を続けられるようになれば、それに越したことはないのだが、ヨーロッパでも「大粒でおいしい」と言われる、日本が誇るおいしいカキが、遠い異国でしか日の目を見なくなっていることに、少々残念な気がしてしまう。
生産量の減少は低調な消費とも関係するが、他にも要因はある。日本で主に流通しているカキは殻を外した「むき身」だが、広島県で扱い量トップのカキメーカー「クニヒロ」(尾道市)によると、「近年はコロナや最低賃金の引上げなどの影響で、カキをむく人が確保できず、順調に出荷するのが難しくなっている」という。
日本で流通の主体となっているカキのむき身(築地場外市場・筆者提供)
国内では、スーパーなどにパック入りのむき身カキを納めるために、低価格に抑えなければならないことから、作業員のコスト増も厳しいようだ。
カキ生産を巡る苦境を何とか打開しようと、各地の加工業者などは殻付きカキの海外輸出を加速させている。クニヒロではアジア諸国を中心に、むき身も含めてカキを輸出してきたが、生食需要の高いヨーロッパの消費をにらみ、むかずに殻のまま輸出する準備も進めている。
欧州連合(EU)へのカキ輸出には高いハードルがあるが、今年1月に同社の加工施設などが、EUへの輸出に必要な食品安全衛生管理システム「HACCP(ハサップ)」を遵守していると農林水産省に認定され、2月にフランスへ生食可能な殻付きの冷凍カキの輸出を開始した。
日本産のカキがEU諸国へ渡るのは初めてで「粒が大きくてうま味もたっぷり」と好評だったという。ヨーロッパでは、日本の独自文化であるカキフライの人気も高まっているため、クニヒロは「殻付き生食用のほか、衣を付けたフライ用のカキもたくさん輸出していきたい」と話している。
今年2月、日本産のカキが初めてフランスへ輸出され、パリでお披露目された(クニヒロ提供)
小粒でも生きのいいカキを海外へ一方、東日本大震災の被災地、宮城県でも殻付きのカキ輸出に意欲を見せる水産加工業者がいる。石巻市に拠点を持つ「ヤマナカ」(高田慎司社長)は、宮城県など30の養殖業者の協力を得て、少々変わった方法で育てたカキを扱う。通常のカキ養殖は、水深10メートルほどの水域に種ガキを付けた縄などをぶら下げる「垂下式養殖」と呼ばれる方法で育てるが、同社は潮の干満の差を利用し、海面から出たり入ったりする「潮間帯」という浅瀬の漁場でカキを養殖。すると「海面から出た時に、外気や日に照らされるため、生命力が強く、うま味が多いカキが育つ」と高田社長は話す。潮間帯のカキは「通常よりも小粒だが、より生きの良さを保つことができる」(同社長)といい、今年6月から、収穫したカキを殻付きのまま冷蔵でマカオやアラブ首長国連邦(UAE)、シンガポールなどに輸出する予定だ。生食可能で単価も比較的高いことから、収益性の向上に期待をにじませている。殻付き・むき身も含め、カキの輸出は各地から魚介が集まる東京・豊洲市場でも、仲卸業者を通じて盛んに行われている。日本国内での消費が振るわない中で、海外では年中、生食用の消費が旺盛なことが理由で、中国やシンガポールなども含め、多くの国へ渡って消費されているようだ。 魚介類に限らず、多くの資源を輸入に頼る日本。国内での消費が落ち込み、持て余している資源について、海外で需要があるのなら、そこに活路を見いだすのは自然な流れであろう。広島県では、この数年でカキの輸出額が数倍に増えているといい、この勢いが続けば、国が進める輸出拡大戦略に沿って、ブリやタイ、ホタテガイに次ぐ、輸出重点品目に挙げられる勢いだという。今後も日本のカキが世界で食べられ、生産・加工業者が安定して生産を続けられるようになれば、それに越したことはないのだが、ヨーロッパでも「大粒でおいしい」と言われる、日本が誇るおいしいカキが、遠い異国でしか日の目を見なくなっていることに、少々残念な気がしてしまう。
一方、東日本大震災の被災地、宮城県でも殻付きのカキ輸出に意欲を見せる水産加工業者がいる。石巻市に拠点を持つ「ヤマナカ」(高田慎司社長)は、宮城県など30の養殖業者の協力を得て、少々変わった方法で育てたカキを扱う。
通常のカキ養殖は、水深10メートルほどの水域に種ガキを付けた縄などをぶら下げる「垂下式養殖」と呼ばれる方法で育てるが、同社は潮の干満の差を利用し、海面から出たり入ったりする「潮間帯」という浅瀬の漁場でカキを養殖。すると「海面から出た時に、外気や日に照らされるため、生命力が強く、うま味が多いカキが育つ」と高田社長は話す。
潮間帯のカキは「通常よりも小粒だが、より生きの良さを保つことができる」(同社長)といい、今年6月から、収穫したカキを殻付きのまま冷蔵でマカオやアラブ首長国連邦(UAE)、シンガポールなどに輸出する予定だ。生食可能で単価も比較的高いことから、収益性の向上に期待をにじませている。
殻付き・むき身も含め、カキの輸出は各地から魚介が集まる東京・豊洲市場でも、仲卸業者を通じて盛んに行われている。日本国内での消費が振るわない中で、海外では年中、生食用の消費が旺盛なことが理由で、中国やシンガポールなども含め、多くの国へ渡って消費されているようだ。
魚介類に限らず、多くの資源を輸入に頼る日本。国内での消費が落ち込み、持て余している資源について、海外で需要があるのなら、そこに活路を見いだすのは自然な流れであろう。広島県では、この数年でカキの輸出額が数倍に増えているといい、この勢いが続けば、国が進める輸出拡大戦略に沿って、ブリやタイ、ホタテガイに次ぐ、輸出重点品目に挙げられる勢いだという。今後も日本のカキが世界で食べられ、生産・加工業者が安定して生産を続けられるようになれば、それに越したことはないのだが、ヨーロッパでも「大粒でおいしい」と言われる、日本が誇るおいしいカキが、遠い異国でしか日の目を見なくなっていることに、少々残念な気がしてしまう。
魚介類に限らず、多くの資源を輸入に頼る日本。国内での消費が落ち込み、持て余している資源について、海外で需要があるのなら、そこに活路を見いだすのは自然な流れであろう。広島県では、この数年でカキの輸出額が数倍に増えているといい、この勢いが続けば、国が進める輸出拡大戦略に沿って、ブリやタイ、ホタテガイに次ぐ、輸出重点品目に挙げられる勢いだという。
今後も日本のカキが世界で食べられ、生産・加工業者が安定して生産を続けられるようになれば、それに越したことはないのだが、ヨーロッパでも「大粒でおいしい」と言われる、日本が誇るおいしいカキが、遠い異国でしか日の目を見なくなっていることに、少々残念な気がしてしまう。

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