一学期もたず突然の退職。「不登校になった新任教師」が招いた混乱

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春は就職シーズン。文部科学省によると、21年度の大学卒業生の就職内定率は96%。これに対して厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況』によると、大卒者の就職1年目の離職率は12.2%とおよそ8人に1人が会社を辞めている。◆公立の新任教師の離職率は1%前後
一方、民間企業に比べると離職率が低いのが学校教員。例えば、公立学校だと1年目の新任教師でも例年1%前後で推移している。
仕事量の多さなどからブラック職種に挙げられる割には思いのほか低いが、なかにはやはり耐えきれずに辞めてしまう者も。青柳啓人さん(仮名・38歳)が勤める私立高校でも今から4年前、大学を卒業したばかりのA先生がわずか数か月で辞めてしまったという。
◆1年目だから仕事量は少なかった?
「私とは担当教科も違い、職員室の席も離れていたので接点はほとんどありません。けど、彼はクラス担任でもなければ部活動の顧問もしていなかった。第一、新任の先生でしたから周りの教師たちがフォローしていたし、仕事量も1年目だから我々に比べれば少なかったはずなんですけどね。現にほぼ毎日、夕方5時過ぎには帰っていましたから」
最初は新人らしくはつらつとしていたが、半月もすると口数も少なくなり、沈んだ表情をするようになったとか。教職員の間でも心配する声が上がっていたが、A先生は周りに「大丈夫です」と答えるばかり。指導教員を務めていた40代の男性教諭に対しても同様でアドバイスを求めることもほとんどなかったそうだ。
◆歩み寄っても相談してもらえない…
「その先生とはたまに飲みに行く仲なんですけど、『明らかに悩んでる様子なのに自分がいくら歩み寄っても、全然相談してくれない』って当時ボヤいていました。若い先生方に高圧的な態度で接することもないですし、職員室でも周りから頼りにされていた方なんですけどね」
なお、A先生は赴任3か月を迎えたことから体調不良を理由に休みがちになり、6月の下旬に入ってからは欠勤が続くように。その後、彼は一度も学校に来ることがないまま一学期が終了してしまう。
◆最初からすぐに辞めるつもりだった?
「最初に欠勤した時点で教頭に退職の意思を伝えていたそうです。でも、複数のクラスの授業を受け持っているわけですし、単発の自習と違って代わりの教師を用意することは簡単ではありません。教頭はなんとか思い留まるように説得を試みたそうですが意思が固かったらしく、『それならせめて一学期が終わってからにしてくれ』と頼んだそうです。最終的にはそのお願いすら反故にされてしまったんですけどね」
ちなみにA先生、自身より1年先に赴任した男性教諭だけには年が近いこともあり、いろいろと話していたことが発覚。それによると4月の時点から仕事に対するグチをこぼしまくり、「本当は教師になるつもりはなかった」とも漏らしていたそう。
さらに5月下旬には「やっぱり教師には向いていない。このまま働き続けるとメンタルがやられそうなので辞めます」と宣言。つまり、この時点で学校からフェイドアウトする気マンマンだったようだ。
「ただ、教師の場合、『辞める!』と言うヤツに限ってずっと学校に残ってるし、本気で退職を考えていても年度末での退職が一般的。まさか話を聞いてから1か月も経たないうちに本当に消えるとは思ってもいなかったみたいです」
◆教師の不登校に現場は大混乱
そのため、夏休みに入るまでの約1か月間、A先生が受け持っていた英語の授業はほかの英語教師が手分けして担当することに。2学期からは新しい先生が授業を行うことになったが、途中での教師交代は異例のこと。生徒だけでなく保護者からもクレームが寄せられ、校長や教頭はその対応にも追われていたそうだ。
「しかも、後から聞いた話ですが、A先生は正式に学校を辞める前にアパートを引き払い、実家に戻っていたようです。病気などで学期中に休業した先生は過去にもいましたが、こんな形で辞めた人は私がこの学校の教師になってからは初めて。一部の生徒は『先生でも不登校になるんだね』となぜか同情してましたが、こちらとしては苦笑いするしかありませんでした」
思い描いていた環境と現実との間で乖離があったのだろうか。理解を示そうとする同僚や先輩に心を開く余裕があれば、今でも教壇に立てていたかもしれないだけに、なんとも残念な結果になってしまった。
<TEXT/トシタカマサ>

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