返礼品にロシア産ウニ混入、「処理能力以上の業務を請け負っていた」…「苦い」と町にクレームも

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

北海道内自治体へのふるさと納税が活況となる中、利尻町が返礼品として送った冷凍ウニの一部にロシア産が混ぜられていた問題は、返礼品の品質確保という課題を自治体に突きつけた。
町は代替品の発送を8月末までにほぼ終え、今月から希望者への返金手続きに入っている。新鮮な海産物は道内自治体がふるさと納税の寄付金を集める大きな武器の一つなだけに、町は今後、返礼品の管理体制の見直しを進める。(中尾敏宏、林麟太郎)
■「苦みしかない」
利尻町によると、町内に工場を構えていた加工会社「カネマス上田商店」(厚岸町)が問題となるウニを返礼品として出荷したのは今年1月。町には直後から「苦みしかない」といったクレームが約20件寄せられた。
同社は冷凍のパックウニなど計2934件のうち、約400件にロシア産を混ぜたと説明した。さらに4月上旬までに同社が受け付けた今年の注文のうち、約2800件が未出荷となっていた。同社は問題発覚後、自社ホームページで偽装を認めて謝罪した。
■常駐従業員 夏場のみ
背景には寄付件数が急増していることがある。同社が扱う返礼品に対する2021年度の寄付は前年度比で約4倍。冷凍のパックウニなどへの寄付は1万460件に上った。同町のふるさと納税の寄付額は町税の2・5倍にあたる5億6476万円だが、そのうち2億2331万円分の返礼品に同社の商品が充てられた。
「会社が対応できる能力以上に業務を請け負っていた」。町内の同社工場で働いていた男性はそう明かす。
同町の漁業関係者によると、同社は16年から町内に工場を構え、昨年度は地元の利尻漁協から約23トンのウニを仕入れ、「比較的高値で買ってくれる」と評判だった。19年から同町の返礼品業者に加わった。
町は特産のウニを冬場でも取り扱うため、生に近い形で味わえるように熱処理してから冷凍する同社独自の技術を見込んで、20年度から同社の冷凍ウニを返礼品に加えた。
この男性によると、業務は増えたが、工場に常駐する従業員は基本的に夏場の2人のみ。昨年12月には氷点下20度で冷凍ウニを保管していた工場の冷凍庫の電源が何らかの原因で落ち、発見が遅れてウニの一部が溶けたという。一度解凍されたウニは品質が落ちるとされる。ふるさと納税の受注が続く中、漁期ではない冬場に利尻産のウニは手に入らず、ロシア産を混ぜたとみられている。
■再発防止策は
今回のトラブルは同社から町に報告されておらず、町側も問題に対処するのに苦情が増加してから約4か月かかった。町でふるさと納税を担当する職員は2人に過ぎず、東京都内の仲介会社が業務の大半を担っていた。町総務課の担当者は「工場に足を運んだり連絡を取り合ったりして、業者についてきちんと把握することが必要だった」と振り返る。
町は、他の返礼品業者10社を訪問し品質管理の徹底を呼びかけて再発防止を図る一方、1月に同社が出荷した約2900件と、未出荷分の約2800件について代替品の発送や返金の対応を進めている。返金額の総額は約3600万円(約1800件)に上るという。
ふるさと納税に詳しい慶応大の保田隆明教授は「返礼品業者に認定する最初の段階では、地場産品であるかなど厳しい確認が行われるが、その後は確認できていないケースも多い。返礼品に問題があれば自治体の信頼にもかかわるため、行政が偽装を見抜くのはハードルが高いが、確認には力を入れるべきだ」と話している。
■北海道産海産物、根強い人気
道内の自治体では、新鮮な海産物が返礼品として根強い人気を誇る。総務省が発表した2021年度のふるさと納税寄付額は、北海道と道内市町村を合わせると、1217億4700万円に上り、3年連続で全国トップだ。
寄付額の市町村別ランキングでは、オホーツク産ホタテなどが返礼品として人気の紋別市が全国1位で、根室市が3位、白糠町が4位と続く。道の担当者は、「海産物など北海道の食の魅力が多くの人に共感してもらい、応援につながっている」と分析している。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。