“マスク拒否男”機内での動画がネット炎上、2度の逮捕。その後の人生を聞いてみた

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今日もネットで何かが燃えている。明日もまた何かが燃える。あまたのネット炎上はときに激しく燃え盛るが、いつの間にか煙のように風に吹かれて忘れられていく。それでも続くのが人生ならば、彼らのその後はどうなったのか。’20年9月、格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーション機内で客室乗務員からマスク着用を求められ、そのお願いを拒否したところトラブルに発展。機内に居合わせた乗客がその様子を動画撮影し、ネットに投稿したことで炎上してしまう事件があった。今回は、その当事者である奥野淳也さん(36歳・無職)のその後に迫っていく。
◆その後の「マスク拒否男」に会いにいった
’23年1月某日、指定された大阪地方裁判所の前で待っていると、男が小走りで駆け寄ってくる。“マスパセ”こと奥野淳也さんだ。たった3分の遅れを詫びる彼を近くの喫茶店に案内し、「マスク拒否男」として炎上した経緯を聞いた。
ちなみに名刺にも大きく書かれた“マスパセ”とは、マスクパッセンジャーの略。炎上後に自らマスパセ(マスク未着用途中降機乗客)の名でTwitterを始め、ことの経緯などをつぶやいている。
◆威力業務妨害と傷害、航空法違反容疑で逮捕
奥野さんは、’20年9月に北海道・釧路空港から大阪・関西国際空港に向かうピーチ・アビエーション機内でマスク着用を求められて拒否したところトラブルに。航空機は機長の判断により新潟空港で緊急着陸し、奥野さんは強制降機させられた。
さらにその直後、機内に居合わせた乗客が撮った動画により、奥野さんと客室乗務員のやり取りがネットで拡散。’21年1月には運航を妨げたとして威力業務妨害と傷害、航空法違反容疑で逮捕されることになる。
◆「怖かったですが、これも一つの経験」
「航空会社は『腕を捻り上げられ暴力を振るわれた』と後になって証言していますが、その事実はない。機内の映像開示を求めましたが『不存在』と回答されました」
警察官5人に取り囲まれた逮捕時のことを「怖かったですが、これも一つの経験」と笑顔で語ったのが印象に残る。
◆暴行受けたのに「マスクをしていないのが悪い」と警察官に一喝され
逮捕後すぐに弁護士を呼び、勾留却下に向けて動きだすと、3日後には釈放。「これは異例ですが、証拠が不十分だったのだと思います」と奥野さんは言う。その後、’21年4月に千葉県館山市の飲食店でマスク着用を巡り飲食客たちとトラブルになり、公務執行妨害容疑で再び逮捕。
警察官に対し飲食客たちから暴行を受けたことを伝えるも「マスクをしていないのが悪い」と一喝された。’22年5月から始まった大阪地裁での第一審は、’22年12月に懲役2年・執行猶予4年の有罪判決が下る。
◆定職に就かず裁判に備えて伴侶と細々アパート暮らし
奥野さんのTwitterには連日非難が殺到。心ない誹謗中傷を受けることに。しかし9割がバッシングの一方で、「冤罪の可能性がある」と指摘し応援してくれる人たちもいた。2度目の逮捕後に知人を介して出会った伴侶も、奥野さんの主張に賛同し、ともに裁判を闘い抜く姿勢だ。
「妻は中立の立場で、私のことをいろいろと調べたうえで、理解を示してくれました。妻のご両親には結婚を反対されましたが、それでも妻の自分の意思を貫く姿勢や、私と一緒になることで受ける誹謗中傷を耐える姿には、本当に感謝しかありません」
◆平穏な日々を取り戻すまでにはまだ時間がかかる

1度目の逮捕の翌日付で非常勤教職員として働いていた明治学院大学を解雇されて以来、定職には就いていない。第一審の有罪判決を不服とし控訴審に臨むため、まだまだ平穏な日々を取り戻すまでには時間がかかりそうだ。
◆“反マスク”を強く主張しているわけではない
奥野さんは決して“反マスク”を強く主張しているわけではない。ただ自身は喘息持ちで、長時間のマスク着用が苦しいことなどもあり、「マスクをするのもしないのも自由。日本では、マスク着用は法的義務になっていないにもかかわらず、社会の同調圧力がマスク着用を強制してしまっているのはおかしい」というのが本心だ。
今後もマスクをしない正真正銘の顔出しで、自らの主張や事実を法廷やTwitterで訴える。
◆「決して譲ってはいけない本質的に大切なことがある」
「街で『勇気をもらいました』と声をかけてもらえるのはとてもうれしい。『マスクにサインしてください』とお願いされることもあります」
社会の大多数からバッシングを受けて心が折れない人は、たぶんいない。しかし、いくら炎上しても「決して譲ってはいけない本質的に大切なことがある」と奥野さんは教えてくれた。
<取材・文/週刊SPA!編集部>

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。