1月のガス代172万円に「どうしようもできない」 ツイートが反響を呼んだ老舗銭湯の悲痛な叫び

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ウクライナ侵攻や円安の影響による燃料費の高騰が、日本人にとって昭和の時代からなじみの深い「銭湯」(公衆浴場)にも影響が及んでいる。
「つらい。営業努力ではどうしようもできない勢い」。東京都墨田区の銭湯「大黒湯」を経営する新保卓也さん(43)がツイッターでガス代の高騰ぶりを投稿したところ、返信(リプライ)には多くの反響が寄せられた。コストが高騰しても、制度上の理由で入浴料を独自に値上げすることもできないことから、新保さんは「コストを減らせるように頑張ってきている中で、ここにきてどうにも手が出ない。そう思って(ツイッターに)投稿した」という。
独自に値上げができない理由は「物価統制令」
半蔵門線・押上駅から徒歩6分の立地にある大黒湯は、昭和24(1949)年に開業。東京スカイツリーが目と鼻の先にありながらも下町の情緒を残す店構えで、営業時間は平日が午後3時から翌日午前10時までとオールナイト型の銭湯として営業しているのが特徴だ。大黒湯の3代目でもある新保さんは、11年ほど前に家業を継いだ。現在は大黒湯を含めて墨田区内で3軒の銭湯を経営している。
新保さんによると、オールナイト型ということもあって、ガスのスイッチは一日を通してほぼ入れっぱなしの状態。普段のガス代は1カ月当たり約70万円台で推移していたというが、昨年12月には120万円を超え、今年1月のガス代は172万1826円に達した。新保さんは「1年前くらい前から(ガス代が)上がってきているなというのは肌感覚であったが、領収証が届いたのを見たときに『え、こんなに』っていう気持ちになった」と話す。新保さんによると、1カ月当たりの水道代はさほど影響がないものの、電気代も例年に比べて2割弱ほど増えたという。
今月3日に大黒湯の公式アカウントを通じてガス代の領収証の画像を添付してツイートすると、返信には「車が買えちゃう金額」「支援の意味を込めて、明日行きます」といった驚きや激励の声が寄せられた。新保さんは「銭湯をやっていて励みになるし、頑張っていきたいという気持ちになった」と振り返る。
ただ、銭湯の最高限度額は昭和21年に制定された物価統制令に基づき、都道府県知事が決定しており、東京都の場合は現在一律500円と定められている。そのため、どれだけコストが高騰したとしても、各銭湯の独自の判断で入浴料金に反映できないのが現実だ。
貸しタオルセットを値上げ
大黒湯ではガス代の高騰に伴い、ある「決断」を下した。貸しタオル(大小セット)はこれまで50円だったが、1月末からは100円に値上げした。新保さんは「(利用者には)申し訳ないが、少しでもご負担いただきたい」と恐縮そうに話す。
東京都がまとめた「東京の公衆浴場の現況」によると、平成18年には都内で963軒あった公衆浴場は、令和4年は462軒にまで減少。入浴者数も3万9273人(平成18年)から、1万9770人(令和3年)に減少するなど、銭湯が置かれている現状は厳しい。新保さんは「ほかの銭湯では『こういう状況ではやっていけないからやめる』というのを聞いた。コストが上がりすぎて、定休日を増やす銭湯も出てきている」と危機感を募らせる。
「次の時代に、次の世代に、銭湯という文化を残せるかというところで努力を続けている。これからの時代は、銭湯のことを知ってもらうことが重要」(新保さん)。これからもSNSなどを通じて、銭湯の現状について情報発信を続けていく。(浅野英介)

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