北九州市小倉北区で1月8日に開かれた「二十歳の記念式典」会場周辺で、複数の女性が振り袖に墨汁のような液体をかけられた事件で、被害に遭った小倉南区の女性(20)が12日、別の振り袖を借りて市内のホテルで写真撮影した。式典当日に振り袖を貸したホテルが着付けとセットで無償提供した。約1カ月遅れとなった女性の晴れ姿を、家族は涙を浮かべて祝った。
「なぜこんなひどいことを…」
「きれい」。女性の振り袖姿を見た母親(46)は涙ぐんだ。白と緑を基調に松や桜の花などの柄があしらわれた着物を身に着けた女性。「式典で着た振り袖と、この振り袖のどちらにするか迷っていたんです」。鏡に写った姿を見つめ「いろんな方に協力してもらい、気持ちを新たにまた着ることができた。感謝の気持ちでいっぱい」と話した。
撮影会は小倉北区の「松柏(しょうはく)園ホテル」の粋な計らいで開かれた。ホテルは「被害に遭った女性に落ち度はない」と液体が付いた振り袖のクリーニング代を全額負担。さらに別の振り袖の着付けと写真撮影を無償で申し出た。ホテル内の庭園で、夫(24)と6カ月の娘など家族に見守られながら撮影に臨む女性を、温かな空気が包んだ。
女性によると式典当日、会場には入らず友人と記念撮影するなどして過ごした。友人と別れてモノレールで帰ろうと切符を購入する際、黒いしみに気づいたという。液体は腰付近に多く付着し、流れ落ちて足袋まで汚れていた。
祖母(83)に振り袖姿を見てもらう予定だったが、急きょ取りやめた。自宅の最寄り駅まで迎えに行った夫は「妻の表情は暗かった。なんでこんなことをするのかと怒りがこみ上げた」と当時を振り返る。
撮影を終えた女性は祖母宅に向かった。「本当に良かったね。きれいだよ」。祖母は涙を流し孫の手を握った。女性は「大好きなおばあちゃんに一番、振り袖姿を見せたかった。夢がかなえられて良かった」と晴れやかな笑顔を見せた。
小倉北署は、若松区の女性(20)の振り袖に墨汁のような液体をかけた器物損壊の疑いで1月24日に逮捕した同区の会社員の男(33)を、別の女性の振り袖にも液体をかけたとして14日にも再逮捕する方針。捜査関係者などによると、当初、容疑を否認していたが、現在は「振り袖に興味があった」など容疑を認める供述をしているという。
(上田泰成)