新生児の難病検査に地域差、早期発見で救命可能な二つで…26都府県で実施されず

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早期発見すれば救命が可能になった二つの難病について、新生児の検査体制に地域差があることが、読売新聞の調査でわかった。
どちらの検査も実施されていたのは18府県にとどまり、26都府県ではいずれも行われていなかった。医師や患者家族らは「検査を受ける機会の格差を解消すべきだ」として、国に全国一律の実施を求めている。
調査は2022年11~12月、全都道府県に書面で実施。原則すべての新生児に対し公費で行う新生児マススクリーニング検査と同時に、感染に対する抵抗力がない「重症複合免疫不全症」(SCID)と、全身の筋力が低下する「脊髄性筋萎縮(いしゅく)症」(SMA)の検査が実施されているか、都道府県内の状況を尋ねた。
同年11月現在で、SCIDとSMAの両方の検査が実施されているのは18府県で、3道県ではSCIDの検査のみが実施されていた。ただし、自治体が行う公費検査とは別の扱いで、地域の小児科医らの団体などが実施主体となり、道府県の協力を得て、参加医療機関で進めていた。実施されていない自治体からは、「全国一律であることが望ましい」などの回答があった。
二つの難病は、検査で早期発見できれば治療が可能で、子どもは健康に成長できる可能性が高い。
SCIDは、生後1、2か月で感染症による極度の下痢や肺炎になり、1歳までに亡くなることが多い。造血幹細胞移植で治療できるが、病気だと気づかれないまま、ロタウイルスを弱毒化したワクチンを接種すると命に関わり、移植の成功率も下がる。このワクチンが20年10月に0歳児を対象に定期接種化されたため、日本小児科学会が国に公費での検査を求めている。
SMAは、20年に遺伝子治療薬が承認され、発症予防や順調な発達につなげられるようになった。「SMA家族の会」は21年3月、全国での検査体制整備を、国に要望した。米国では、二つの難病を調べる検査が一般的に行われている。
厚生労働省母子保健課は、「公費での検査に加えるかを検討している。検査の精度や治療体制の検証を進めており、それを踏まえて判断したい」としている。
新生児の検査に詳しい窪田満・国立成育医療研究センター総合診療部統括部長は「生まれた場所で、救命につながる検査が受けられるかどうかが決まってしまう。国は、この不平等を解消すべきだ」と指摘する。
◆新生児マススクリーニング検査=先天性の病気を早期発見し、治療に結びつけるため、都道府県や政令指定都市が実施している。生まれた医療機関で生後4~6日に、足のかかとから少量の血液を採取する。現在、国は、自治体に対し、20種類の病気を調べる検査を公費で行うことを求めている。
■国の態勢整備が急務
二つの難病を調べる検査は、「医師の熱意」と「自治体の協力」がそろって成り立っているのが現状だ。検査の実施主体は、主に大学病院の医師らが設置した団体だ。公費によるマススクリーニング検査で使う検体を、自治体の許可や協力を得て使っているケースが多い。これまで少なくとも、重症複合免疫不全症は2県で3人、脊髄性筋萎縮(いしゅく)症は5府県で7人が発見され、治療に結びつき、健康に過ごしているという。
実績が出てきているのに、多くの自治体で実施されていない背景には、国が二つの難病を公費検査の対象にしていないことや、検査体制の問題がある。公費検査では血液中のアミノ酸などを調べるが、二つの難病は特定の遺伝子などをみる。専用の検査機器や人員が整わない地域もある。病気を治療できる施設や医師も限られ、迅速に高度な治療につなげる仕組みも必要だ。
検査が実施されている自治体でも、全ての新生児が受けられているわけではない。実施しない医療機関もある。今回の調査では、3県では無料だったが、他は保護者の自己負担を求めており、金額を回答した13道県の平均額は約6000円だった。高額な自己負担から検査をためらう保護者も少なくないという。
治療手段があるのに、検査の機会がないために救えない命がある。政府は、スピード感を持って、全ての新生児が検査を受けられる体制を構築する必要がある。(医療部 松田晋一郎)

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