〈弁護士に聞いた〉“カジュアル化”する退職代行のリアル「転職活動に集中したい」「自分で言いづらい」と利用する人も…

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「退職代行」とは、その名のとおり本人に代わって退職の手続きを代行するサービスだ。最近ではメディアでも取り上げられることが増え、その名前を耳にしたことがある人も多いのでは。しかし同時に、会社とのトラブルを不安視されたり、「違法ではないか?」と批判されたりすることもある。
【画像】退職代行サービスのリアルについて語ってくれた弁護士の竹内瑞穂さん そもそも、退職代行とはどんなサービスなのか、何ができるのか。退職代行を専門とする弁護士で、漫画『さよならブラック企業 働く人の最後の砦「退職代行」』(少年画報社)の監修を担当した竹内瑞穂さんに話を聞いた。(全2回の1回目/2回目に続く)

弁護士の竹内瑞穂さん 山元茂樹/文藝春秋◆◆◆本人に代わって有給消化・退職金の交渉や、パワハラ・セクハラの訴訟が可能――まずは、「退職代行」とはどのようなサービスなのか教えていただけますか。竹内瑞穂(以下、竹内) 一言でいうと、従業員の代わりに会社に対して退職の意思を伝えるサービスです。弁護士が提供しているもののほか、民間企業や労働組合が提供しているものもあります。――弁護士が提供するものと、それ以外ではどんな違いが?竹内 弁護士の場合は退職の手続きのほか、本人に代わって有給消化や退職金の交渉をしたり、パワハラやセクハラがあった場合に訴訟をおこしたりすることもできます。――弁護士以外のものだと、交渉や訴訟はできない?竹内 一部、労働組合が提供している退職代行だと交渉が認められている場合もありますが、基本的には弁護士のみですね。民間企業さんのサービスの内容は残念ながら把握しておりませんが、法的なアドバイスの提供や、代理人としての交渉や訴訟は弁護士だけに認められている業務なので、資格がない方がしてしまうと、違法になってしまいます。弁護士に依頼された場合には、全ての手続きを適法に、有効に進めることができます。――弁護士に依頼すると幅広い業務に対応してもらえるんですね。竹内 そうですね。ご本人からの委任があれば、代理人として様々な手続きが可能です。会社に置いてある荷物を代わりに受け取りに行くとか、社員寮の立ち退きも本人の代わりに立ち会うことがあります。――弁護士に依頼する場合の費用相場はどれくらいなのでしょうか。竹内 事務所によって異なりますが、弁護士に内容証明での通知の作成及び発送を依頼すると、基本料金は10万円程度が多いと思います。さらに交渉や訴訟の有無によって別途費用や成功報酬がかかることもあります。カジュアルに退職代行を利用する人が増えてきている――どんな時に弁護士に相談するといいのですか。竹内 すでにトラブルが生じている場合や、トラブルに発展しそうなときは、ご自身で退職手続きを進めるより、弁護士に依頼したほうが不利な解決をしないで済むことが多いと思います。 有給を取得したいのに会社が認めてくれないとか、規定どおりの退職金を払ってくれないとか、あとは退職を許す代わりに今月の給与は迷惑料として相殺するという約束を取り交わしてしまったとか、退職時のトラブルは本当に人それぞれです。でも、弁護士が代理人になっていれば、会社と対等な関係で解決策を話し合うことができます。――竹内さんのところには、どんな理由で相談にくる人が多いのでしょう?竹内 私が退職代行を始めた3年ほど前は、「精神的に、あるいは体力的に限界なので会社を辞めたい」という思いつめた相談が多かったですね。でも最近は、少し変化してきたかもしれません。――どんな変化が?竹内 精神的、身体的に追い詰められる前に退職代行を利用する人が増えてきている印象です。「同僚たちと仲がいいから、自分からは辞めると言いづらい」とか、「転職活動に集中したいから、退職の手続きは代わりにお願いしたい」とか。 すでに転職先が決まっていて、確実にこの日までに辞めたいから代行を利用したい、という利用も見られますね。――転職するときに退職代行を利用するケースもあるんですね。竹内 転職活動中の困りごとのひとつに、「内定が決まったのに、会社との交渉が難航して、退職日がなかなか決まらない」というものがあるかと思います。そういった場合であっても、弁護士が間に入っていれば、そうした心配をする必要がなくなるケースがほとんどです。転職先に「来月から行けます!」と迷いなく言える安心感を得られることになります。――なぜ数年でそういった変化が起こっているのでしょう?竹内 退職代行の認知度があがってきたからだと思います。退職代行の存在をなんとなく知っているから、取り返しがつかなくなる前に「そういえばそんなサービスがあったな」と思い出してくれて、相談に来てくれる人が増えているのではないかな、と。 3年前は、「明日死のうと思って死に方を検索していたら、偶然退職代行を見つけたから相談に来ました」という方も多かったですから。退職代行の認知度向上による企業側の変化も――カジュアルに退職代行を使う人が増えたことに対しては、どう考えますか?竹内 退職代行を使えば、自分で交渉しなくても希望の日に退職できるし、確実に有給も取得できます。退職までの時間を有効に使っていただけると思います。――企業側では、退職代行を利用した退職への反応に変化はありますか?竹内 ありますね。始めたばかりのころは、依頼者の意思を会社に伝えると、「なんだそのけしからんサービスは」って怒鳴られることも多かった。でも今は、「はいはい、退職代行さんね」とスムーズに手続きできることがほとんどです。 あと、特に大きい企業の場合、退職交渉のやりとりは直属の上司ではなく人事部と行うのですが、「人事部が気付けなかっただけで、部署内でトラブルがあったのか」と気にするところも増えてきていますね。わざわざ弁護士をつけて退職交渉をしてきたってことは、パワハラやセクハラ、いじめがあったんじゃないか、と。法律上は会社を辞めるのに理由は必要ない――コンプライアンスを気にする企業が増えてきているんですね。竹内 そうですね。「辞める理由を教えてください」とはよく聞かれるかもしれません。でも本人の同意なしには、会社にはお伝えしません。「当たり障りのない理由を適当に伝えておいてほしい」と希望されるならそのとおりにしますし、逆に「パワハラがひどかったので、それをしっかり伝えてほしい」と希望されるのであれば、ストレートにお伝えします。 そもそも、原則として法律上は会社を辞めるのに理由は必要ありません。答えたくなければ何も答えなくても問題はありませんし、代理人の弁護士も隠し通します。 ちなみに、弁護士が提供する退職代行の場合は、先ほどお話ししたような退職交渉のほか、パワハラ・セクハラなどに対する訴訟も可能です。パワハラやセクハラの訴訟には“時効”がある――訴訟したい場合は、退職と同時に進めないといけないのですか?竹内 いいえ。訴訟に発展するほど会社とトラブルになっている場合、依頼者は心身ともに疲弊していて、「とにかく早く会社と縁を切りたい」という方が多いです。訴訟となると、さらに1、2年は会社とのやりとりが続いてしまうから、同時に進めるのは負担が大きすぎる。 通常の損害賠償請求と同様に、パワハラやセクハラの訴訟も“時効”があるので、それまでなら退職して心身が回復した後に改めて請求することもできますよ。 弁護士なら、訴訟をするメリットやデメリットなどを個々の状況に応じてアドバイスできます。依頼者はそれをふまえたうえで、時効までに「訴訟したい」という意思さえ示していただければ、そのあとは弁護士が手続きにむかって準備を進めることになります。――そういった部分が「弁護士が運営する退職代行」に依頼するメリットなんですね。竹内 退職したい場合、大事なのは「退職したい」という意思表示です。極端に言えば、弁護士に頼む場合、依頼者は意思表示をしっかりしてくだされば、あとは最後までサポートをします。撮影=山元茂樹/文藝春秋「退職の意思を伝えたら、会社の人が自宅に押しかけて…」専門弁護士が明かす、本当にあった“退職代行トラブル” へ続く(仲 奈々)
そもそも、退職代行とはどんなサービスなのか、何ができるのか。退職代行を専門とする弁護士で、漫画『さよならブラック企業 働く人の最後の砦「退職代行」』(少年画報社)の監修を担当した竹内瑞穂さんに話を聞いた。(全2回の1回目/2回目に続く)
弁護士の竹内瑞穂さん 山元茂樹/文藝春秋
◆◆◆
――まずは、「退職代行」とはどのようなサービスなのか教えていただけますか。
竹内瑞穂(以下、竹内) 一言でいうと、従業員の代わりに会社に対して退職の意思を伝えるサービスです。弁護士が提供しているもののほか、民間企業や労働組合が提供しているものもあります。
――弁護士が提供するものと、それ以外ではどんな違いが?
竹内 弁護士の場合は退職の手続きのほか、本人に代わって有給消化や退職金の交渉をしたり、パワハラやセクハラがあった場合に訴訟をおこしたりすることもできます。
――弁護士以外のものだと、交渉や訴訟はできない?竹内 一部、労働組合が提供している退職代行だと交渉が認められている場合もありますが、基本的には弁護士のみですね。民間企業さんのサービスの内容は残念ながら把握しておりませんが、法的なアドバイスの提供や、代理人としての交渉や訴訟は弁護士だけに認められている業務なので、資格がない方がしてしまうと、違法になってしまいます。弁護士に依頼された場合には、全ての手続きを適法に、有効に進めることができます。――弁護士に依頼すると幅広い業務に対応してもらえるんですね。竹内 そうですね。ご本人からの委任があれば、代理人として様々な手続きが可能です。会社に置いてある荷物を代わりに受け取りに行くとか、社員寮の立ち退きも本人の代わりに立ち会うことがあります。――弁護士に依頼する場合の費用相場はどれくらいなのでしょうか。竹内 事務所によって異なりますが、弁護士に内容証明での通知の作成及び発送を依頼すると、基本料金は10万円程度が多いと思います。さらに交渉や訴訟の有無によって別途費用や成功報酬がかかることもあります。カジュアルに退職代行を利用する人が増えてきている――どんな時に弁護士に相談するといいのですか。竹内 すでにトラブルが生じている場合や、トラブルに発展しそうなときは、ご自身で退職手続きを進めるより、弁護士に依頼したほうが不利な解決をしないで済むことが多いと思います。 有給を取得したいのに会社が認めてくれないとか、規定どおりの退職金を払ってくれないとか、あとは退職を許す代わりに今月の給与は迷惑料として相殺するという約束を取り交わしてしまったとか、退職時のトラブルは本当に人それぞれです。でも、弁護士が代理人になっていれば、会社と対等な関係で解決策を話し合うことができます。――竹内さんのところには、どんな理由で相談にくる人が多いのでしょう?竹内 私が退職代行を始めた3年ほど前は、「精神的に、あるいは体力的に限界なので会社を辞めたい」という思いつめた相談が多かったですね。でも最近は、少し変化してきたかもしれません。――どんな変化が?竹内 精神的、身体的に追い詰められる前に退職代行を利用する人が増えてきている印象です。「同僚たちと仲がいいから、自分からは辞めると言いづらい」とか、「転職活動に集中したいから、退職の手続きは代わりにお願いしたい」とか。 すでに転職先が決まっていて、確実にこの日までに辞めたいから代行を利用したい、という利用も見られますね。――転職するときに退職代行を利用するケースもあるんですね。竹内 転職活動中の困りごとのひとつに、「内定が決まったのに、会社との交渉が難航して、退職日がなかなか決まらない」というものがあるかと思います。そういった場合であっても、弁護士が間に入っていれば、そうした心配をする必要がなくなるケースがほとんどです。転職先に「来月から行けます!」と迷いなく言える安心感を得られることになります。――なぜ数年でそういった変化が起こっているのでしょう?竹内 退職代行の認知度があがってきたからだと思います。退職代行の存在をなんとなく知っているから、取り返しがつかなくなる前に「そういえばそんなサービスがあったな」と思い出してくれて、相談に来てくれる人が増えているのではないかな、と。 3年前は、「明日死のうと思って死に方を検索していたら、偶然退職代行を見つけたから相談に来ました」という方も多かったですから。退職代行の認知度向上による企業側の変化も――カジュアルに退職代行を使う人が増えたことに対しては、どう考えますか?竹内 退職代行を使えば、自分で交渉しなくても希望の日に退職できるし、確実に有給も取得できます。退職までの時間を有効に使っていただけると思います。――企業側では、退職代行を利用した退職への反応に変化はありますか?竹内 ありますね。始めたばかりのころは、依頼者の意思を会社に伝えると、「なんだそのけしからんサービスは」って怒鳴られることも多かった。でも今は、「はいはい、退職代行さんね」とスムーズに手続きできることがほとんどです。 あと、特に大きい企業の場合、退職交渉のやりとりは直属の上司ではなく人事部と行うのですが、「人事部が気付けなかっただけで、部署内でトラブルがあったのか」と気にするところも増えてきていますね。わざわざ弁護士をつけて退職交渉をしてきたってことは、パワハラやセクハラ、いじめがあったんじゃないか、と。法律上は会社を辞めるのに理由は必要ない――コンプライアンスを気にする企業が増えてきているんですね。竹内 そうですね。「辞める理由を教えてください」とはよく聞かれるかもしれません。でも本人の同意なしには、会社にはお伝えしません。「当たり障りのない理由を適当に伝えておいてほしい」と希望されるならそのとおりにしますし、逆に「パワハラがひどかったので、それをしっかり伝えてほしい」と希望されるのであれば、ストレートにお伝えします。 そもそも、原則として法律上は会社を辞めるのに理由は必要ありません。答えたくなければ何も答えなくても問題はありませんし、代理人の弁護士も隠し通します。 ちなみに、弁護士が提供する退職代行の場合は、先ほどお話ししたような退職交渉のほか、パワハラ・セクハラなどに対する訴訟も可能です。パワハラやセクハラの訴訟には“時効”がある――訴訟したい場合は、退職と同時に進めないといけないのですか?竹内 いいえ。訴訟に発展するほど会社とトラブルになっている場合、依頼者は心身ともに疲弊していて、「とにかく早く会社と縁を切りたい」という方が多いです。訴訟となると、さらに1、2年は会社とのやりとりが続いてしまうから、同時に進めるのは負担が大きすぎる。 通常の損害賠償請求と同様に、パワハラやセクハラの訴訟も“時効”があるので、それまでなら退職して心身が回復した後に改めて請求することもできますよ。 弁護士なら、訴訟をするメリットやデメリットなどを個々の状況に応じてアドバイスできます。依頼者はそれをふまえたうえで、時効までに「訴訟したい」という意思さえ示していただければ、そのあとは弁護士が手続きにむかって準備を進めることになります。――そういった部分が「弁護士が運営する退職代行」に依頼するメリットなんですね。竹内 退職したい場合、大事なのは「退職したい」という意思表示です。極端に言えば、弁護士に頼む場合、依頼者は意思表示をしっかりしてくだされば、あとは最後までサポートをします。撮影=山元茂樹/文藝春秋「退職の意思を伝えたら、会社の人が自宅に押しかけて…」専門弁護士が明かす、本当にあった“退職代行トラブル” へ続く(仲 奈々)
――弁護士以外のものだと、交渉や訴訟はできない?
竹内 一部、労働組合が提供している退職代行だと交渉が認められている場合もありますが、基本的には弁護士のみですね。民間企業さんのサービスの内容は残念ながら把握しておりませんが、法的なアドバイスの提供や、代理人としての交渉や訴訟は弁護士だけに認められている業務なので、資格がない方がしてしまうと、違法になってしまいます。弁護士に依頼された場合には、全ての手続きを適法に、有効に進めることができます。
――弁護士に依頼すると幅広い業務に対応してもらえるんですね。
竹内 そうですね。ご本人からの委任があれば、代理人として様々な手続きが可能です。会社に置いてある荷物を代わりに受け取りに行くとか、社員寮の立ち退きも本人の代わりに立ち会うことがあります。
――弁護士に依頼する場合の費用相場はどれくらいなのでしょうか。
竹内 事務所によって異なりますが、弁護士に内容証明での通知の作成及び発送を依頼すると、基本料金は10万円程度が多いと思います。さらに交渉や訴訟の有無によって別途費用や成功報酬がかかることもあります。
――どんな時に弁護士に相談するといいのですか。
竹内 すでにトラブルが生じている場合や、トラブルに発展しそうなときは、ご自身で退職手続きを進めるより、弁護士に依頼したほうが不利な解決をしないで済むことが多いと思います。
有給を取得したいのに会社が認めてくれないとか、規定どおりの退職金を払ってくれないとか、あとは退職を許す代わりに今月の給与は迷惑料として相殺するという約束を取り交わしてしまったとか、退職時のトラブルは本当に人それぞれです。でも、弁護士が代理人になっていれば、会社と対等な関係で解決策を話し合うことができます。
――竹内さんのところには、どんな理由で相談にくる人が多いのでしょう?
竹内 私が退職代行を始めた3年ほど前は、「精神的に、あるいは体力的に限界なので会社を辞めたい」という思いつめた相談が多かったですね。でも最近は、少し変化してきたかもしれません。
――どんな変化が?竹内 精神的、身体的に追い詰められる前に退職代行を利用する人が増えてきている印象です。「同僚たちと仲がいいから、自分からは辞めると言いづらい」とか、「転職活動に集中したいから、退職の手続きは代わりにお願いしたい」とか。 すでに転職先が決まっていて、確実にこの日までに辞めたいから代行を利用したい、という利用も見られますね。――転職するときに退職代行を利用するケースもあるんですね。竹内 転職活動中の困りごとのひとつに、「内定が決まったのに、会社との交渉が難航して、退職日がなかなか決まらない」というものがあるかと思います。そういった場合であっても、弁護士が間に入っていれば、そうした心配をする必要がなくなるケースがほとんどです。転職先に「来月から行けます!」と迷いなく言える安心感を得られることになります。――なぜ数年でそういった変化が起こっているのでしょう?竹内 退職代行の認知度があがってきたからだと思います。退職代行の存在をなんとなく知っているから、取り返しがつかなくなる前に「そういえばそんなサービスがあったな」と思い出してくれて、相談に来てくれる人が増えているのではないかな、と。 3年前は、「明日死のうと思って死に方を検索していたら、偶然退職代行を見つけたから相談に来ました」という方も多かったですから。退職代行の認知度向上による企業側の変化も――カジュアルに退職代行を使う人が増えたことに対しては、どう考えますか?竹内 退職代行を使えば、自分で交渉しなくても希望の日に退職できるし、確実に有給も取得できます。退職までの時間を有効に使っていただけると思います。――企業側では、退職代行を利用した退職への反応に変化はありますか?竹内 ありますね。始めたばかりのころは、依頼者の意思を会社に伝えると、「なんだそのけしからんサービスは」って怒鳴られることも多かった。でも今は、「はいはい、退職代行さんね」とスムーズに手続きできることがほとんどです。 あと、特に大きい企業の場合、退職交渉のやりとりは直属の上司ではなく人事部と行うのですが、「人事部が気付けなかっただけで、部署内でトラブルがあったのか」と気にするところも増えてきていますね。わざわざ弁護士をつけて退職交渉をしてきたってことは、パワハラやセクハラ、いじめがあったんじゃないか、と。法律上は会社を辞めるのに理由は必要ない――コンプライアンスを気にする企業が増えてきているんですね。竹内 そうですね。「辞める理由を教えてください」とはよく聞かれるかもしれません。でも本人の同意なしには、会社にはお伝えしません。「当たり障りのない理由を適当に伝えておいてほしい」と希望されるならそのとおりにしますし、逆に「パワハラがひどかったので、それをしっかり伝えてほしい」と希望されるのであれば、ストレートにお伝えします。 そもそも、原則として法律上は会社を辞めるのに理由は必要ありません。答えたくなければ何も答えなくても問題はありませんし、代理人の弁護士も隠し通します。 ちなみに、弁護士が提供する退職代行の場合は、先ほどお話ししたような退職交渉のほか、パワハラ・セクハラなどに対する訴訟も可能です。パワハラやセクハラの訴訟には“時効”がある――訴訟したい場合は、退職と同時に進めないといけないのですか?竹内 いいえ。訴訟に発展するほど会社とトラブルになっている場合、依頼者は心身ともに疲弊していて、「とにかく早く会社と縁を切りたい」という方が多いです。訴訟となると、さらに1、2年は会社とのやりとりが続いてしまうから、同時に進めるのは負担が大きすぎる。 通常の損害賠償請求と同様に、パワハラやセクハラの訴訟も“時効”があるので、それまでなら退職して心身が回復した後に改めて請求することもできますよ。 弁護士なら、訴訟をするメリットやデメリットなどを個々の状況に応じてアドバイスできます。依頼者はそれをふまえたうえで、時効までに「訴訟したい」という意思さえ示していただければ、そのあとは弁護士が手続きにむかって準備を進めることになります。――そういった部分が「弁護士が運営する退職代行」に依頼するメリットなんですね。竹内 退職したい場合、大事なのは「退職したい」という意思表示です。極端に言えば、弁護士に頼む場合、依頼者は意思表示をしっかりしてくだされば、あとは最後までサポートをします。撮影=山元茂樹/文藝春秋「退職の意思を伝えたら、会社の人が自宅に押しかけて…」専門弁護士が明かす、本当にあった“退職代行トラブル” へ続く(仲 奈々)
――どんな変化が?
竹内 精神的、身体的に追い詰められる前に退職代行を利用する人が増えてきている印象です。「同僚たちと仲がいいから、自分からは辞めると言いづらい」とか、「転職活動に集中したいから、退職の手続きは代わりにお願いしたい」とか。
すでに転職先が決まっていて、確実にこの日までに辞めたいから代行を利用したい、という利用も見られますね。
――転職するときに退職代行を利用するケースもあるんですね。
竹内 転職活動中の困りごとのひとつに、「内定が決まったのに、会社との交渉が難航して、退職日がなかなか決まらない」というものがあるかと思います。そういった場合であっても、弁護士が間に入っていれば、そうした心配をする必要がなくなるケースがほとんどです。転職先に「来月から行けます!」と迷いなく言える安心感を得られることになります。
――なぜ数年でそういった変化が起こっているのでしょう?
竹内 退職代行の認知度があがってきたからだと思います。退職代行の存在をなんとなく知っているから、取り返しがつかなくなる前に「そういえばそんなサービスがあったな」と思い出してくれて、相談に来てくれる人が増えているのではないかな、と。
3年前は、「明日死のうと思って死に方を検索していたら、偶然退職代行を見つけたから相談に来ました」という方も多かったですから。
――カジュアルに退職代行を使う人が増えたことに対しては、どう考えますか?
竹内 退職代行を使えば、自分で交渉しなくても希望の日に退職できるし、確実に有給も取得できます。退職までの時間を有効に使っていただけると思います。
――企業側では、退職代行を利用した退職への反応に変化はありますか?竹内 ありますね。始めたばかりのころは、依頼者の意思を会社に伝えると、「なんだそのけしからんサービスは」って怒鳴られることも多かった。でも今は、「はいはい、退職代行さんね」とスムーズに手続きできることがほとんどです。 あと、特に大きい企業の場合、退職交渉のやりとりは直属の上司ではなく人事部と行うのですが、「人事部が気付けなかっただけで、部署内でトラブルがあったのか」と気にするところも増えてきていますね。わざわざ弁護士をつけて退職交渉をしてきたってことは、パワハラやセクハラ、いじめがあったんじゃないか、と。法律上は会社を辞めるのに理由は必要ない――コンプライアンスを気にする企業が増えてきているんですね。竹内 そうですね。「辞める理由を教えてください」とはよく聞かれるかもしれません。でも本人の同意なしには、会社にはお伝えしません。「当たり障りのない理由を適当に伝えておいてほしい」と希望されるならそのとおりにしますし、逆に「パワハラがひどかったので、それをしっかり伝えてほしい」と希望されるのであれば、ストレートにお伝えします。 そもそも、原則として法律上は会社を辞めるのに理由は必要ありません。答えたくなければ何も答えなくても問題はありませんし、代理人の弁護士も隠し通します。 ちなみに、弁護士が提供する退職代行の場合は、先ほどお話ししたような退職交渉のほか、パワハラ・セクハラなどに対する訴訟も可能です。パワハラやセクハラの訴訟には“時効”がある――訴訟したい場合は、退職と同時に進めないといけないのですか?竹内 いいえ。訴訟に発展するほど会社とトラブルになっている場合、依頼者は心身ともに疲弊していて、「とにかく早く会社と縁を切りたい」という方が多いです。訴訟となると、さらに1、2年は会社とのやりとりが続いてしまうから、同時に進めるのは負担が大きすぎる。 通常の損害賠償請求と同様に、パワハラやセクハラの訴訟も“時効”があるので、それまでなら退職して心身が回復した後に改めて請求することもできますよ。 弁護士なら、訴訟をするメリットやデメリットなどを個々の状況に応じてアドバイスできます。依頼者はそれをふまえたうえで、時効までに「訴訟したい」という意思さえ示していただければ、そのあとは弁護士が手続きにむかって準備を進めることになります。――そういった部分が「弁護士が運営する退職代行」に依頼するメリットなんですね。竹内 退職したい場合、大事なのは「退職したい」という意思表示です。極端に言えば、弁護士に頼む場合、依頼者は意思表示をしっかりしてくだされば、あとは最後までサポートをします。撮影=山元茂樹/文藝春秋「退職の意思を伝えたら、会社の人が自宅に押しかけて…」専門弁護士が明かす、本当にあった“退職代行トラブル” へ続く(仲 奈々)
――企業側では、退職代行を利用した退職への反応に変化はありますか?
竹内 ありますね。始めたばかりのころは、依頼者の意思を会社に伝えると、「なんだそのけしからんサービスは」って怒鳴られることも多かった。でも今は、「はいはい、退職代行さんね」とスムーズに手続きできることがほとんどです。
あと、特に大きい企業の場合、退職交渉のやりとりは直属の上司ではなく人事部と行うのですが、「人事部が気付けなかっただけで、部署内でトラブルがあったのか」と気にするところも増えてきていますね。わざわざ弁護士をつけて退職交渉をしてきたってことは、パワハラやセクハラ、いじめがあったんじゃないか、と。
――コンプライアンスを気にする企業が増えてきているんですね。
竹内 そうですね。「辞める理由を教えてください」とはよく聞かれるかもしれません。でも本人の同意なしには、会社にはお伝えしません。
「当たり障りのない理由を適当に伝えておいてほしい」と希望されるならそのとおりにしますし、逆に「パワハラがひどかったので、それをしっかり伝えてほしい」と希望されるのであれば、ストレートにお伝えします。
そもそも、原則として法律上は会社を辞めるのに理由は必要ありません。答えたくなければ何も答えなくても問題はありませんし、代理人の弁護士も隠し通します。
ちなみに、弁護士が提供する退職代行の場合は、先ほどお話ししたような退職交渉のほか、パワハラ・セクハラなどに対する訴訟も可能です。
――訴訟したい場合は、退職と同時に進めないといけないのですか?
竹内 いいえ。訴訟に発展するほど会社とトラブルになっている場合、依頼者は心身ともに疲弊していて、「とにかく早く会社と縁を切りたい」という方が多いです。訴訟となると、さらに1、2年は会社とのやりとりが続いてしまうから、同時に進めるのは負担が大きすぎる。
通常の損害賠償請求と同様に、パワハラやセクハラの訴訟も“時効”があるので、それまでなら退職して心身が回復した後に改めて請求することもできますよ。
弁護士なら、訴訟をするメリットやデメリットなどを個々の状況に応じてアドバイスできます。依頼者はそれをふまえたうえで、時効までに「訴訟したい」という意思さえ示していただければ、そのあとは弁護士が手続きにむかって準備を進めることになります。
――そういった部分が「弁護士が運営する退職代行」に依頼するメリットなんですね。竹内 退職したい場合、大事なのは「退職したい」という意思表示です。極端に言えば、弁護士に頼む場合、依頼者は意思表示をしっかりしてくだされば、あとは最後までサポートをします。撮影=山元茂樹/文藝春秋「退職の意思を伝えたら、会社の人が自宅に押しかけて…」専門弁護士が明かす、本当にあった“退職代行トラブル” へ続く(仲 奈々)
――そういった部分が「弁護士が運営する退職代行」に依頼するメリットなんですね。
竹内 退職したい場合、大事なのは「退職したい」という意思表示です。極端に言えば、弁護士に頼む場合、依頼者は意思表示をしっかりしてくだされば、あとは最後までサポートをします。
撮影=山元茂樹/文藝春秋「退職の意思を伝えたら、会社の人が自宅に押しかけて…」専門弁護士が明かす、本当にあった“退職代行トラブル” へ続く(仲 奈々)
「退職の意思を伝えたら、会社の人が自宅に押しかけて…」専門弁護士が明かす、本当にあった“退職代行トラブル” へ続く
(仲 奈々)

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