コロナ感染者急増の中国は「未知の変異株の温床」なのか “春節で世界に拡散”のリスクも

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感染爆発を引き起こしながらも、海外渡航を制限しない中国。春節を控え、人流が増えると予想されるなか、コロナが未知の変異を遂げる可能性が出てきた──。
【写真】青いネクタイ姿の習近平氏。アラビア語(上段)と英語(下段)で書かれた名札の前コロナ死を認めない「北京は首都防衛でゼロコロナが厳格だったので、“無菌状態”からの反動がすさまじく、60人の同僚のうち50人以上があっという間に感染しました」 そう話すのは北京市在住の日本人男性。習近平国家主席が徹底的にウイルスを封じ込めるゼロコロナ政策を撤廃して以降、中国全土で新型コロナの感染が爆発している。在中ジャーナリストが語る。

「昨年11月、長引くゼロコロナへの不満が爆発した民衆が各地で『独裁者はいらない!』と習氏を批判する異例のデモを繰り広げた。習氏は民衆の怒りをなだめるため規制撤廃に踏み切りました。対策なく規制だけを撤廃した結果、未曾有のパンデミックとなっています。人口が3番目に多い河南省の衛生健康委員会主任は『住民の9割が感染した』と公言しました。人数にして8850万人です。人口約2200万人の北京も感染率が8割を超えたとされている。 各地の葬儀場が受け入れできなくなっており、死去した父の遺体を娘が空き地で火葬する様子がSNSで拡散されるなど悲惨な状況です」 6億人もの感染者が出たと報じる国内メディアもあるが、1月4日に中国疾病予防センターが公表した新規感染者は9308人、死者1人だけだった。中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏が語る。「中国政府は昨年12月6日に通知を出し、感染後に基礎疾患が悪化した事例は『感染死』に含めないとした。イギリスの調査会社は、中国では4月末までに170万人がコロナで死亡すると予測しています。 中国の医療体制は逼迫しており、病院では患者をベッドではなく、不衛生な床に寝かせている状況です。農村部では医者がいないので治療も受けられません。医療体制の脆弱さと衛生管理の不備も感染爆発の要因でしょう。習氏の一連の行動はコロナ対策の放棄に等しい」 上海では新型コロナに感染した男性が肺炎で死亡し、治療を担当した医師がSNSに悲痛な叫びを投稿した。〈死亡診断書を書く際、死因は重症の肺炎とした。原因として新型コロナ感染と書いたところ、翌日に予防保健科から電話が来て、死亡原因を変更してほしいと求められた。「どうして変更するんですか?」と聞いたら、彼らも答えられなかった。私はただ「なぜ?」と問いたい。なぜ新型コロナによる死亡と書けないのか?〉 中国当局はSNSでコロナに関する投稿をしたアカウントを凍結しているが、それでも医師たちの叫びが溢れ出すほど現場は混乱に見舞われている。その中国でいま懸念されているのが、ウイルスのさらなる変異だ。万全な水際対策はない ウイルスは細菌と違って自力で増殖できず、人間や動物などの細胞内に侵入して自己を複製して増殖する。その際、遺伝子のコピーを何度も繰り返すうちにコピーミスが起こる。このミスが「変異」と呼ばれるものだ。 また、新型コロナウイルスは、スパイクたんぱくというトゲの部分にコピーミスが起きると、感染力や毒性といった性質が変わる。実際に新型コロナは武漢株からオミクロン株まで変異し、そのたびに感染率や重症化率、致死率などが変化した。渡航医学に詳しい関西福祉大学教授で医師の勝田吉彰氏が指摘する。「オミクロンが他の系統に変異するメカニズムには2つあります。 1つは何らかの病気で免疫力が落ちている人間が感染し、通常のようにウイルスを排出できず、体内で偶発的に新しいウイルスが誕生する可能性です。初期のオミクロンもそうして発生しています。 もう1つは、人間から身近な動物に感染し、その動物のなかで変異が起こり、また人間に戻るパターンです」 こうしたメカニズムは各国に共通する。ただ、中国において注意すべきは感染者数の多さだ。「単純な話、感染者が多いほどウイルスが自己を複製する回数が多くなり、コピーミスが起きやすい。感染者が100人の国と1億人の国では当然、1億人のほうが高確率でコピーミスが生まれるでしょう。実際、デルタ株はインドで感染爆発した際に誕生した変異株です。中国はワクチン接種と自然感染の“ハイブリッド免疫”が少なく、今後も感染が拡大する可能性が高い。その際、オミクロン系統と違う特性を持った変異株が生まれるかもしれません」(勝田氏) オミクロンは感染力こそ強く、毒性は弱いとされるが、新たな変異株は再び毒性が増す可能性がある。勝田氏が続ける。「オミクロンとはまったく違う変異株が現われたら、毒性が強くなっている可能性は否定できません」 中国は未知の変異株の温床なのだ。それでも習氏は1月8日から中国入国者の隔離措置とPCR検査を撤廃。また、新型コロナに対する警戒レベルを一段階引き下げ、事実上の海外渡航解禁とした。前出・宮崎氏が指摘する。「この状況で海外渡航を解禁するのは無謀で、習氏は世界にコロナウイルスをバラまこうとしているようにすら見える」 折しも中国は春節(旧正月)を迎え、1月7日~2月15日の間に延べ21億人が移動すると見込まれている。人流の増加で感染爆発、強毒性の変異株誕生のリスクも高まるだろう。 チャイナリスクを恐れる世界各国は水際対策を強化。日本政府も、中国からの直行旅客便での入国者に出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提出を求め、到着空港を成田国際、羽田、関西国際、中部国際の4空港に限定するなどの措置を講じた。勝田氏はその対策についてこう評価する。「安心はできません。鉄壁のガードを敷いた北朝鮮にウイルスが侵入したように、万全な水際対策は世界中のどこでも不可能です。そもそも水際対策とはウイルス流行のピークを後にずらす時間稼ぎにすぎないですから」米国の調査結果 これまで日本のコロナ対策の切り札はワクチンだった。ここにきてその効果に疑問が寄せられ始めている。 今年元日、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は北米で流行するオミクロン亜種は、ワクチン接種回数が多いほど感染しやすくなると報じた。医療従事者を追跡した研究によると、ワクチン接種を2回以上受けた人は未接種者よりも感染率が高かったという。 また、昨年12月にはアメリカ食品医薬品局(FDA)が65歳以上のアメリカ人1740万人に行なった調査で、ファイザー製のワクチンを接種すると、肺の血管に血栓ができる「肺塞栓」を発症する頻度が高いという報告が、国際学術誌『ワクチン』に掲載された。勝田氏が語る。「ひとつの論文をもとに評価するのは難しい。同じような論文が複数出て初めて、データの調査や分析が始まり、ワクチンの評価ができる。ワクチンの効果が実証されているのも、膨大なデータを精査した上で結論づけられたからです。現状でワクチンが危険と判断するのは早計です」 日本は100人当たりの接種数で世界一だが、同時に週間の感染者数も世界最多。そんな状況で、中国から強力な変異株が上陸したらなす術もない。勝田氏が続ける。「オミクロン系統ではない変異株が誕生した場合、既存のワクチンを複数回打っていても効かない可能性は考えられる。また、中国から変異株が出現しても中国政府が透明性を持って情報公開する保証はなく、日本が本当に有効なワクチンを用意できるかどうかは不明です」 ようやくコロナ禍から立ち直ろうとする日本だが、未知の変異株とワクチンの恐怖で再び危機に陥るかもしれない。※週刊ポスト2023年1月27日号
「北京は首都防衛でゼロコロナが厳格だったので、“無菌状態”からの反動がすさまじく、60人の同僚のうち50人以上があっという間に感染しました」
そう話すのは北京市在住の日本人男性。習近平国家主席が徹底的にウイルスを封じ込めるゼロコロナ政策を撤廃して以降、中国全土で新型コロナの感染が爆発している。在中ジャーナリストが語る。
「昨年11月、長引くゼロコロナへの不満が爆発した民衆が各地で『独裁者はいらない!』と習氏を批判する異例のデモを繰り広げた。習氏は民衆の怒りをなだめるため規制撤廃に踏み切りました。対策なく規制だけを撤廃した結果、未曾有のパンデミックとなっています。人口が3番目に多い河南省の衛生健康委員会主任は『住民の9割が感染した』と公言しました。人数にして8850万人です。人口約2200万人の北京も感染率が8割を超えたとされている。
各地の葬儀場が受け入れできなくなっており、死去した父の遺体を娘が空き地で火葬する様子がSNSで拡散されるなど悲惨な状況です」
6億人もの感染者が出たと報じる国内メディアもあるが、1月4日に中国疾病予防センターが公表した新規感染者は9308人、死者1人だけだった。中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏が語る。
「中国政府は昨年12月6日に通知を出し、感染後に基礎疾患が悪化した事例は『感染死』に含めないとした。イギリスの調査会社は、中国では4月末までに170万人がコロナで死亡すると予測しています。
中国の医療体制は逼迫しており、病院では患者をベッドではなく、不衛生な床に寝かせている状況です。農村部では医者がいないので治療も受けられません。医療体制の脆弱さと衛生管理の不備も感染爆発の要因でしょう。習氏の一連の行動はコロナ対策の放棄に等しい」
上海では新型コロナに感染した男性が肺炎で死亡し、治療を担当した医師がSNSに悲痛な叫びを投稿した。
〈死亡診断書を書く際、死因は重症の肺炎とした。原因として新型コロナ感染と書いたところ、翌日に予防保健科から電話が来て、死亡原因を変更してほしいと求められた。「どうして変更するんですか?」と聞いたら、彼らも答えられなかった。私はただ「なぜ?」と問いたい。なぜ新型コロナによる死亡と書けないのか?〉
中国当局はSNSでコロナに関する投稿をしたアカウントを凍結しているが、それでも医師たちの叫びが溢れ出すほど現場は混乱に見舞われている。その中国でいま懸念されているのが、ウイルスのさらなる変異だ。
ウイルスは細菌と違って自力で増殖できず、人間や動物などの細胞内に侵入して自己を複製して増殖する。その際、遺伝子のコピーを何度も繰り返すうちにコピーミスが起こる。このミスが「変異」と呼ばれるものだ。
また、新型コロナウイルスは、スパイクたんぱくというトゲの部分にコピーミスが起きると、感染力や毒性といった性質が変わる。実際に新型コロナは武漢株からオミクロン株まで変異し、そのたびに感染率や重症化率、致死率などが変化した。渡航医学に詳しい関西福祉大学教授で医師の勝田吉彰氏が指摘する。
「オミクロンが他の系統に変異するメカニズムには2つあります。
1つは何らかの病気で免疫力が落ちている人間が感染し、通常のようにウイルスを排出できず、体内で偶発的に新しいウイルスが誕生する可能性です。初期のオミクロンもそうして発生しています。
もう1つは、人間から身近な動物に感染し、その動物のなかで変異が起こり、また人間に戻るパターンです」
こうしたメカニズムは各国に共通する。ただ、中国において注意すべきは感染者数の多さだ。
「単純な話、感染者が多いほどウイルスが自己を複製する回数が多くなり、コピーミスが起きやすい。感染者が100人の国と1億人の国では当然、1億人のほうが高確率でコピーミスが生まれるでしょう。実際、デルタ株はインドで感染爆発した際に誕生した変異株です。中国はワクチン接種と自然感染の“ハイブリッド免疫”が少なく、今後も感染が拡大する可能性が高い。その際、オミクロン系統と違う特性を持った変異株が生まれるかもしれません」(勝田氏)
オミクロンは感染力こそ強く、毒性は弱いとされるが、新たな変異株は再び毒性が増す可能性がある。勝田氏が続ける。
「オミクロンとはまったく違う変異株が現われたら、毒性が強くなっている可能性は否定できません」
中国は未知の変異株の温床なのだ。それでも習氏は1月8日から中国入国者の隔離措置とPCR検査を撤廃。また、新型コロナに対する警戒レベルを一段階引き下げ、事実上の海外渡航解禁とした。前出・宮崎氏が指摘する。
「この状況で海外渡航を解禁するのは無謀で、習氏は世界にコロナウイルスをバラまこうとしているようにすら見える」
折しも中国は春節(旧正月)を迎え、1月7日~2月15日の間に延べ21億人が移動すると見込まれている。人流の増加で感染爆発、強毒性の変異株誕生のリスクも高まるだろう。
チャイナリスクを恐れる世界各国は水際対策を強化。日本政府も、中国からの直行旅客便での入国者に出国前72時間以内に受けた検査の陰性証明書の提出を求め、到着空港を成田国際、羽田、関西国際、中部国際の4空港に限定するなどの措置を講じた。勝田氏はその対策についてこう評価する。
「安心はできません。鉄壁のガードを敷いた北朝鮮にウイルスが侵入したように、万全な水際対策は世界中のどこでも不可能です。そもそも水際対策とはウイルス流行のピークを後にずらす時間稼ぎにすぎないですから」
これまで日本のコロナ対策の切り札はワクチンだった。ここにきてその効果に疑問が寄せられ始めている。
今年元日、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は北米で流行するオミクロン亜種は、ワクチン接種回数が多いほど感染しやすくなると報じた。医療従事者を追跡した研究によると、ワクチン接種を2回以上受けた人は未接種者よりも感染率が高かったという。
また、昨年12月にはアメリカ食品医薬品局(FDA)が65歳以上のアメリカ人1740万人に行なった調査で、ファイザー製のワクチンを接種すると、肺の血管に血栓ができる「肺塞栓」を発症する頻度が高いという報告が、国際学術誌『ワクチン』に掲載された。勝田氏が語る。
「ひとつの論文をもとに評価するのは難しい。同じような論文が複数出て初めて、データの調査や分析が始まり、ワクチンの評価ができる。ワクチンの効果が実証されているのも、膨大なデータを精査した上で結論づけられたからです。現状でワクチンが危険と判断するのは早計です」
日本は100人当たりの接種数で世界一だが、同時に週間の感染者数も世界最多。そんな状況で、中国から強力な変異株が上陸したらなす術もない。勝田氏が続ける。
「オミクロン系統ではない変異株が誕生した場合、既存のワクチンを複数回打っていても効かない可能性は考えられる。また、中国から変異株が出現しても中国政府が透明性を持って情報公開する保証はなく、日本が本当に有効なワクチンを用意できるかどうかは不明です」
ようやくコロナ禍から立ち直ろうとする日本だが、未知の変異株とワクチンの恐怖で再び危機に陥るかもしれない。
※週刊ポスト2023年1月27日号

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