「妻に似た女性がアダルト動画に出ている。本人か鑑定してくれないか?」画像解析からDNA鑑定まで…民間の“科学鑑定”会社に持ち込まれる「警察では解決できぬ“事件”の数々」

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「お前のDNAがたばこの吸い殻から出ているんや。○月×日△時、あそこでお前は何をしていたんや」
【画像】「妻に似た女性がアダルト動画に出ている。本人かどうか鑑定してくれないか?」20代後半船乗りの男性から寄せられた切実な相談 取り調べ室で強面の警察官が、DNA鑑定の結果を武器に黙秘する容疑者にすごみを利かせる。観念した容疑者は、犯行を認めて自白――。現在の捜査では、科学鑑定の精度が最大限に高まり、客観証拠を突きつけられると犯罪者側も言い逃れができなくなるケースが大多数である。人と人の間で起こるトラブルはどんなものでも対応できる 実は、このような科学鑑定を捜査当局ではなく、民間で行う業者が存在する。例えば、民事訴訟などで相手側の不正行為を科学的に立証したい場合、鑑定を警察が行ってくれることはない。そのため、こうした依頼に応えるのが民間鑑定機関である。海外では多く存在するが、日本ではそう数は多くない。

「うちは、唾液、精液などのDNA鑑定から筆跡、画像解析、交通事故の分析まで、総合的に鑑定できる日本で唯一とも言える民間企業です。DNA鑑定だけでも最近は1年で700件の依頼があります。民事裁判で使用されるものが最も多いですが、警察など捜査当局が手に負えなかったり諦めた案件が持ち込まれることもある。裁判を考えていなくても、まずは『浮気を突き止めたい』という男女からの依頼も多いですね。鑑定と聞くと最初に思い浮かぶのはDNA鑑定かと思いますが、人と人の間で起こるトラブルはさまざまで、どんなものでも対応できるという自負はあります」 こう話すのは、法科学鑑定研究所(東京都小金井市)の山崎昭代表だ。確かに同研究所のホームページに記載されている鑑定項目は多岐にわたる。〈DNA、精液、毛髪、筆跡、指紋、火災、交通事故、画像解析、薬毒物分析…〉法科学鑑定研究所の山崎昭代表 撮影/宮崎慎之輔 文藝春秋捜査当局も信頼している理由とは「十数人の社員に加えて、液体の成分や交通事故鑑定など分野によっては20人ほどいる嘱託の専門家集団に外注して、顧客のニーズに応えられるようにしています。うちの売りは『真実を追求する』ということ。業者によっては、顧客にとって”都合の良い”鑑定書を書くケースがある。よく民事裁判では、争っている双方それぞれが全く逆の結果の鑑定書を持っていることもあるのですが、それはどちらかがエセ鑑定ということです。業者の倫理観が欠如していればいくらでも鑑定書を”作る”ことができてしまいますが、私たちはクライアントの意向にかかわらず、科学的に客観的なものしか出しません。捜査当局からの依頼で彼らにとって不都合な結果が出たとしても、そのまま報告します。でも、そういったスタンスでやってきたので当局も信頼してくれているんです」(山崎代表) 最近ではどのような事情での依頼が多く持ち込まれているのだろうか。「いろいろな種類の依頼がありますが、特にお金欲しさで不正行為に及んだトラブルの相談は多いですね。例えば、火事が起きた場合の出火原因についてです。事故なのか、あるいは保険金詐欺のための放火なのか…。保険金がほしくて自分の家に火を放つ行為は昔からよくある犯罪ですが、実は、消防は明らかに放火である場合を除いて、出火原因について結論を出すことは少ない。理由は住人と保険会社で争いになるからです。消防は民事に介入したくないんですよ。でも、原因がわからないから、保険会社は不審な点が少しでもあれば保険金を支払わない。これに対して住人側は、『保険料を払っていたのに、なぜ支払われないのか』と抗議しますよね。 かつてなら、放火をするにしてもペットの命までは奪いたくないと、事前に避難させておくなど不審な行動を取っていたことで状況証拠を突き付けられてバレるケースがありました。しかし、最近ではあえてペットも巻き込む放火が多いんです。そこで私たち民間鑑定の出番です。どれだけ争われても科学捜査の説得力には勝てませんから。そこで双方から依頼が来るんです。出火原因は様々あるが、一番多いのは放火 現場に赴いたら最初に発火した場所、燃え方の広がりなどを調べます。部屋のどの部分の燃焼が激しいか、最も激しく燃えている部分が長い間燃えたということなので出火元の可能性が高い。火は低いところから高いところへと、もしくは酸素を求めて燃えていくので、その動きをさかのぼっていくイメージです。たばこの不始末とかよく聞きますが、火のついたたばこをぽんと畳の上に置いてもなかなか燃えませんよね。掃除してなくてほこりがたくさんあるとか、いろんな要素があってやっと出火する。そういった要因が必要なので、放火だったら何かしらの“不自然な”証拠が残ります。ヒーターがないところで灯油の成分が出たり、出火場所が複数だったり…。他にも蝋が見つかり、蝋燭を”時限装置”に使った放火だったなんてこともありました。出火原因は、自然発火、失火、放火と様々ありますが、一番多いのは実は放火なんです」 他にもカネをめぐる不正が多いという。最近、ある上場企業から筆跡鑑定の依頼があった。領収書の1万円を4万円に書き換え「会社名は明かせませんが、大企業の幹部による不正な経費精算がありました。長年にわたり領収書を偽造していたというケースです。例えば1万4800円の領収書があって、万の桁の〈1〉に線を2本書き足して〈4〉にしていました。これで差額3万円の儲けが出ます。では、なぜ書き足していたことがわかるかというと、特定の光の波長をあてると”インクの乗り具合”が見えてくるからなんです。〈4〉の書き順は、〈ペンを頂点から左斜め下に落として右横へスライドさせ(1画目)、最後に頂点から縦に1本線を引く(2画目)〉というのが一般的だと思います。この場合、2画目のインクは、1画目の上に乗ることになります。ところが、改ざんした場合、縦の線〈1〉は既に書かれているわけですから、書き足した線のインクが上に乗るんです。つまり、見た目では同じ〈4〉でも、1画目と2画目の書き順が逆なんです。もちろん千の位の〈4〉は一般的な書き順でした(笑)。 また、1をうまく7にすれば差額6万円の儲けです。しかしどんなに真似たつもりでも、筆圧の断面を見れば書き足していた部分は簡単に分かります。そもそもこのケースでは、普通のうどん屋でこんな額ありえるか、というような領収書もありました。領収書や契約書を改ざんしたというケースはよく持ち込まれますね」奥さんによく似た女性のわいせつ動画の人物鑑定 同研究所が現在、特に力を入れているのが画像解析だ。ネット上には多くのアダルト動画があふれているが、こんなケースがあった。性行為中のある動画を鑑定してほしいと言ってきたのは当時20代後半の船乗りの男性。男性は職業柄、家を空けることが多かったという。そして奥さんによく似た女性のわいせつ動画を発見した。「現在の奥さんの様々な角度の写真を送ってもらいました。粗い動画の画像に近接化処理(ドットの境目の色を互いに近づける処理)を行い、画像のマス目の境界をぼかします。輪郭や目鼻をはっきりさせた後、先鋭化処理で色と色の境界を強調します。こうして、平坦な画像に抑揚が加わることで人相判別が可能になるのです。そして、同じ角度の写真を重ね合わせるという作業をします。この時の結果は黒。奥さん本人でした」何でもかんでもアウトにはなってほしくない さまざまな”疑惑”に白黒をつけてきた同研究所だが、山崎代表の心境は複雑だという。「旦那さんによく話を聞くと、この動画は奥さんの髪型などから結婚前に撮影された可能性が高いそうです。旦那さんが、今は浮気もせずに大変な子育てを頑張っていると言うので、『あなただって結婚前に言えないことはあるでしょう?』とアドバイスしました。何でもかんでもアウトにはなってほしくないですね…。 また、『老け専ビデオ』を見た60代の夫から、『妻に似ている』と依頼があったこともあります。確かに似ていたんですが、鑑定の結果は本人ではなく白。男性は並行して離婚調停を進めていたので、奥さんの不貞行為を理由に、裁判を有利に進めようと考えたところ、別人だと分かり困っていた。むしろアダルト動画を見ていることがばれてしまったなんてこともありましたね。この手の依頼は無くなりません。AIの能力向上により、格段に精度もアップ 人定以外でも、警察から小学生が被害者の児童ポルノが持ち込まれて、これが実際に挿入されているかいないのか鑑定してほしい、という依頼もありました…。仕事とはいえ映像を見るのは辛かったです」 こうした動画解析は犯罪捜査でも非常に重要だ。街中の防犯カメラが増えた昨今だが、古い設置カメラは特に路上から高い位置に設置されていることが多いため、画像が粗く人の特定が難しいケースも多いという。「粗い画像は、従来であれば専門家が手作業で処理をしていました。しかし、あまりにも重労働ですし時間がかかったにもかかわらず、結果、分からないということもよくあるので、海外の企業に高性能の動画分析AIの開発を外注しているところです。完成が本当に楽しみで、警察や入管に売り込みたいなと思っています。AIの能力は格段に上がっており、すごい精度のものができるんですよ」 こう目を輝かせる山崎代表。法科学鑑定研究所ではさまざまな科学鑑定を実施しているが、警察が「事件性はない」と判断したものをひっくり返した経験もあるという。(#2へ続く)「包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の動脈を…」民間鑑定会社が執念の調査で覆した「自殺の証拠」 真犯人と疑われた男の壮絶な末路とは? へ続く(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
取り調べ室で強面の警察官が、DNA鑑定の結果を武器に黙秘する容疑者にすごみを利かせる。観念した容疑者は、犯行を認めて自白――。現在の捜査では、科学鑑定の精度が最大限に高まり、客観証拠を突きつけられると犯罪者側も言い逃れができなくなるケースが大多数である。
実は、このような科学鑑定を捜査当局ではなく、民間で行う業者が存在する。例えば、民事訴訟などで相手側の不正行為を科学的に立証したい場合、鑑定を警察が行ってくれることはない。そのため、こうした依頼に応えるのが民間鑑定機関である。海外では多く存在するが、日本ではそう数は多くない。
「うちは、唾液、精液などのDNA鑑定から筆跡、画像解析、交通事故の分析まで、総合的に鑑定できる日本で唯一とも言える民間企業です。DNA鑑定だけでも最近は1年で700件の依頼があります。民事裁判で使用されるものが最も多いですが、警察など捜査当局が手に負えなかったり諦めた案件が持ち込まれることもある。裁判を考えていなくても、まずは『浮気を突き止めたい』という男女からの依頼も多いですね。鑑定と聞くと最初に思い浮かぶのはDNA鑑定かと思いますが、人と人の間で起こるトラブルはさまざまで、どんなものでも対応できるという自負はあります」
こう話すのは、法科学鑑定研究所(東京都小金井市)の山崎昭代表だ。確かに同研究所のホームページに記載されている鑑定項目は多岐にわたる。〈DNA、精液、毛髪、筆跡、指紋、火災、交通事故、画像解析、薬毒物分析…〉
法科学鑑定研究所の山崎昭代表 撮影/宮崎慎之輔 文藝春秋
「十数人の社員に加えて、液体の成分や交通事故鑑定など分野によっては20人ほどいる嘱託の専門家集団に外注して、顧客のニーズに応えられるようにしています。うちの売りは『真実を追求する』ということ。業者によっては、顧客にとって”都合の良い”鑑定書を書くケースがある。よく民事裁判では、争っている双方それぞれが全く逆の結果の鑑定書を持っていることもあるのですが、それはどちらかがエセ鑑定ということです。業者の倫理観が欠如していればいくらでも鑑定書を”作る”ことができてしまいますが、私たちはクライアントの意向にかかわらず、科学的に客観的なものしか出しません。捜査当局からの依頼で彼らにとって不都合な結果が出たとしても、そのまま報告します。でも、そういったスタンスでやってきたので当局も信頼してくれているんです」(山崎代表)
最近ではどのような事情での依頼が多く持ち込まれているのだろうか。
「いろいろな種類の依頼がありますが、特にお金欲しさで不正行為に及んだトラブルの相談は多いですね。例えば、火事が起きた場合の出火原因についてです。事故なのか、あるいは保険金詐欺のための放火なのか…。保険金がほしくて自分の家に火を放つ行為は昔からよくある犯罪ですが、実は、消防は明らかに放火である場合を除いて、出火原因について結論を出すことは少ない。理由は住人と保険会社で争いになるからです。消防は民事に介入したくないんですよ。でも、原因がわからないから、保険会社は不審な点が少しでもあれば保険金を支払わない。これに対して住人側は、『保険料を払っていたのに、なぜ支払われないのか』と抗議しますよね。
かつてなら、放火をするにしてもペットの命までは奪いたくないと、事前に避難させておくなど不審な行動を取っていたことで状況証拠を突き付けられてバレるケースがありました。しかし、最近ではあえてペットも巻き込む放火が多いんです。そこで私たち民間鑑定の出番です。どれだけ争われても科学捜査の説得力には勝てませんから。そこで双方から依頼が来るんです。
現場に赴いたら最初に発火した場所、燃え方の広がりなどを調べます。部屋のどの部分の燃焼が激しいか、最も激しく燃えている部分が長い間燃えたということなので出火元の可能性が高い。火は低いところから高いところへと、もしくは酸素を求めて燃えていくので、その動きをさかのぼっていくイメージです。たばこの不始末とかよく聞きますが、火のついたたばこをぽんと畳の上に置いてもなかなか燃えませんよね。掃除してなくてほこりがたくさんあるとか、いろんな要素があってやっと出火する。そういった要因が必要なので、放火だったら何かしらの“不自然な”証拠が残ります。ヒーターがないところで灯油の成分が出たり、出火場所が複数だったり…。他にも蝋が見つかり、蝋燭を”時限装置”に使った放火だったなんてこともありました。出火原因は、自然発火、失火、放火と様々ありますが、一番多いのは実は放火なんです」
他にもカネをめぐる不正が多いという。最近、ある上場企業から筆跡鑑定の依頼があった。領収書の1万円を4万円に書き換え「会社名は明かせませんが、大企業の幹部による不正な経費精算がありました。長年にわたり領収書を偽造していたというケースです。例えば1万4800円の領収書があって、万の桁の〈1〉に線を2本書き足して〈4〉にしていました。これで差額3万円の儲けが出ます。では、なぜ書き足していたことがわかるかというと、特定の光の波長をあてると”インクの乗り具合”が見えてくるからなんです。〈4〉の書き順は、〈ペンを頂点から左斜め下に落として右横へスライドさせ(1画目)、最後に頂点から縦に1本線を引く(2画目)〉というのが一般的だと思います。この場合、2画目のインクは、1画目の上に乗ることになります。ところが、改ざんした場合、縦の線〈1〉は既に書かれているわけですから、書き足した線のインクが上に乗るんです。つまり、見た目では同じ〈4〉でも、1画目と2画目の書き順が逆なんです。もちろん千の位の〈4〉は一般的な書き順でした(笑)。 また、1をうまく7にすれば差額6万円の儲けです。しかしどんなに真似たつもりでも、筆圧の断面を見れば書き足していた部分は簡単に分かります。そもそもこのケースでは、普通のうどん屋でこんな額ありえるか、というような領収書もありました。領収書や契約書を改ざんしたというケースはよく持ち込まれますね」奥さんによく似た女性のわいせつ動画の人物鑑定 同研究所が現在、特に力を入れているのが画像解析だ。ネット上には多くのアダルト動画があふれているが、こんなケースがあった。性行為中のある動画を鑑定してほしいと言ってきたのは当時20代後半の船乗りの男性。男性は職業柄、家を空けることが多かったという。そして奥さんによく似た女性のわいせつ動画を発見した。「現在の奥さんの様々な角度の写真を送ってもらいました。粗い動画の画像に近接化処理(ドットの境目の色を互いに近づける処理)を行い、画像のマス目の境界をぼかします。輪郭や目鼻をはっきりさせた後、先鋭化処理で色と色の境界を強調します。こうして、平坦な画像に抑揚が加わることで人相判別が可能になるのです。そして、同じ角度の写真を重ね合わせるという作業をします。この時の結果は黒。奥さん本人でした」何でもかんでもアウトにはなってほしくない さまざまな”疑惑”に白黒をつけてきた同研究所だが、山崎代表の心境は複雑だという。「旦那さんによく話を聞くと、この動画は奥さんの髪型などから結婚前に撮影された可能性が高いそうです。旦那さんが、今は浮気もせずに大変な子育てを頑張っていると言うので、『あなただって結婚前に言えないことはあるでしょう?』とアドバイスしました。何でもかんでもアウトにはなってほしくないですね…。 また、『老け専ビデオ』を見た60代の夫から、『妻に似ている』と依頼があったこともあります。確かに似ていたんですが、鑑定の結果は本人ではなく白。男性は並行して離婚調停を進めていたので、奥さんの不貞行為を理由に、裁判を有利に進めようと考えたところ、別人だと分かり困っていた。むしろアダルト動画を見ていることがばれてしまったなんてこともありましたね。この手の依頼は無くなりません。AIの能力向上により、格段に精度もアップ 人定以外でも、警察から小学生が被害者の児童ポルノが持ち込まれて、これが実際に挿入されているかいないのか鑑定してほしい、という依頼もありました…。仕事とはいえ映像を見るのは辛かったです」 こうした動画解析は犯罪捜査でも非常に重要だ。街中の防犯カメラが増えた昨今だが、古い設置カメラは特に路上から高い位置に設置されていることが多いため、画像が粗く人の特定が難しいケースも多いという。「粗い画像は、従来であれば専門家が手作業で処理をしていました。しかし、あまりにも重労働ですし時間がかかったにもかかわらず、結果、分からないということもよくあるので、海外の企業に高性能の動画分析AIの開発を外注しているところです。完成が本当に楽しみで、警察や入管に売り込みたいなと思っています。AIの能力は格段に上がっており、すごい精度のものができるんですよ」 こう目を輝かせる山崎代表。法科学鑑定研究所ではさまざまな科学鑑定を実施しているが、警察が「事件性はない」と判断したものをひっくり返した経験もあるという。(#2へ続く)「包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の動脈を…」民間鑑定会社が執念の調査で覆した「自殺の証拠」 真犯人と疑われた男の壮絶な末路とは? へ続く(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
他にもカネをめぐる不正が多いという。最近、ある上場企業から筆跡鑑定の依頼があった。
「会社名は明かせませんが、大企業の幹部による不正な経費精算がありました。長年にわたり領収書を偽造していたというケースです。例えば1万4800円の領収書があって、万の桁の〈1〉に線を2本書き足して〈4〉にしていました。これで差額3万円の儲けが出ます。では、なぜ書き足していたことがわかるかというと、特定の光の波長をあてると”インクの乗り具合”が見えてくるからなんです。〈4〉の書き順は、〈ペンを頂点から左斜め下に落として右横へスライドさせ(1画目)、最後に頂点から縦に1本線を引く(2画目)〉というのが一般的だと思います。この場合、2画目のインクは、1画目の上に乗ることになります。ところが、改ざんした場合、縦の線〈1〉は既に書かれているわけですから、書き足した線のインクが上に乗るんです。つまり、見た目では同じ〈4〉でも、1画目と2画目の書き順が逆なんです。もちろん千の位の〈4〉は一般的な書き順でした(笑)。
また、1をうまく7にすれば差額6万円の儲けです。しかしどんなに真似たつもりでも、筆圧の断面を見れば書き足していた部分は簡単に分かります。そもそもこのケースでは、普通のうどん屋でこんな額ありえるか、というような領収書もありました。領収書や契約書を改ざんしたというケースはよく持ち込まれますね」
奥さんによく似た女性のわいせつ動画の人物鑑定 同研究所が現在、特に力を入れているのが画像解析だ。ネット上には多くのアダルト動画があふれているが、こんなケースがあった。性行為中のある動画を鑑定してほしいと言ってきたのは当時20代後半の船乗りの男性。男性は職業柄、家を空けることが多かったという。そして奥さんによく似た女性のわいせつ動画を発見した。「現在の奥さんの様々な角度の写真を送ってもらいました。粗い動画の画像に近接化処理(ドットの境目の色を互いに近づける処理)を行い、画像のマス目の境界をぼかします。輪郭や目鼻をはっきりさせた後、先鋭化処理で色と色の境界を強調します。こうして、平坦な画像に抑揚が加わることで人相判別が可能になるのです。そして、同じ角度の写真を重ね合わせるという作業をします。この時の結果は黒。奥さん本人でした」何でもかんでもアウトにはなってほしくない さまざまな”疑惑”に白黒をつけてきた同研究所だが、山崎代表の心境は複雑だという。「旦那さんによく話を聞くと、この動画は奥さんの髪型などから結婚前に撮影された可能性が高いそうです。旦那さんが、今は浮気もせずに大変な子育てを頑張っていると言うので、『あなただって結婚前に言えないことはあるでしょう?』とアドバイスしました。何でもかんでもアウトにはなってほしくないですね…。 また、『老け専ビデオ』を見た60代の夫から、『妻に似ている』と依頼があったこともあります。確かに似ていたんですが、鑑定の結果は本人ではなく白。男性は並行して離婚調停を進めていたので、奥さんの不貞行為を理由に、裁判を有利に進めようと考えたところ、別人だと分かり困っていた。むしろアダルト動画を見ていることがばれてしまったなんてこともありましたね。この手の依頼は無くなりません。AIの能力向上により、格段に精度もアップ 人定以外でも、警察から小学生が被害者の児童ポルノが持ち込まれて、これが実際に挿入されているかいないのか鑑定してほしい、という依頼もありました…。仕事とはいえ映像を見るのは辛かったです」 こうした動画解析は犯罪捜査でも非常に重要だ。街中の防犯カメラが増えた昨今だが、古い設置カメラは特に路上から高い位置に設置されていることが多いため、画像が粗く人の特定が難しいケースも多いという。「粗い画像は、従来であれば専門家が手作業で処理をしていました。しかし、あまりにも重労働ですし時間がかかったにもかかわらず、結果、分からないということもよくあるので、海外の企業に高性能の動画分析AIの開発を外注しているところです。完成が本当に楽しみで、警察や入管に売り込みたいなと思っています。AIの能力は格段に上がっており、すごい精度のものができるんですよ」 こう目を輝かせる山崎代表。法科学鑑定研究所ではさまざまな科学鑑定を実施しているが、警察が「事件性はない」と判断したものをひっくり返した経験もあるという。(#2へ続く)「包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の動脈を…」民間鑑定会社が執念の調査で覆した「自殺の証拠」 真犯人と疑われた男の壮絶な末路とは? へ続く(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
同研究所が現在、特に力を入れているのが画像解析だ。ネット上には多くのアダルト動画があふれているが、こんなケースがあった。性行為中のある動画を鑑定してほしいと言ってきたのは当時20代後半の船乗りの男性。男性は職業柄、家を空けることが多かったという。そして奥さんによく似た女性のわいせつ動画を発見した。
「現在の奥さんの様々な角度の写真を送ってもらいました。粗い動画の画像に近接化処理(ドットの境目の色を互いに近づける処理)を行い、画像のマス目の境界をぼかします。輪郭や目鼻をはっきりさせた後、先鋭化処理で色と色の境界を強調します。こうして、平坦な画像に抑揚が加わることで人相判別が可能になるのです。そして、同じ角度の写真を重ね合わせるという作業をします。この時の結果は黒。奥さん本人でした」
さまざまな”疑惑”に白黒をつけてきた同研究所だが、山崎代表の心境は複雑だという。
「旦那さんによく話を聞くと、この動画は奥さんの髪型などから結婚前に撮影された可能性が高いそうです。旦那さんが、今は浮気もせずに大変な子育てを頑張っていると言うので、『あなただって結婚前に言えないことはあるでしょう?』とアドバイスしました。何でもかんでもアウトにはなってほしくないですね…。 また、『老け専ビデオ』を見た60代の夫から、『妻に似ている』と依頼があったこともあります。確かに似ていたんですが、鑑定の結果は本人ではなく白。男性は並行して離婚調停を進めていたので、奥さんの不貞行為を理由に、裁判を有利に進めようと考えたところ、別人だと分かり困っていた。むしろアダルト動画を見ていることがばれてしまったなんてこともありましたね。この手の依頼は無くなりません。AIの能力向上により、格段に精度もアップ 人定以外でも、警察から小学生が被害者の児童ポルノが持ち込まれて、これが実際に挿入されているかいないのか鑑定してほしい、という依頼もありました…。仕事とはいえ映像を見るのは辛かったです」 こうした動画解析は犯罪捜査でも非常に重要だ。街中の防犯カメラが増えた昨今だが、古い設置カメラは特に路上から高い位置に設置されていることが多いため、画像が粗く人の特定が難しいケースも多いという。「粗い画像は、従来であれば専門家が手作業で処理をしていました。しかし、あまりにも重労働ですし時間がかかったにもかかわらず、結果、分からないということもよくあるので、海外の企業に高性能の動画分析AIの開発を外注しているところです。完成が本当に楽しみで、警察や入管に売り込みたいなと思っています。AIの能力は格段に上がっており、すごい精度のものができるんですよ」 こう目を輝かせる山崎代表。法科学鑑定研究所ではさまざまな科学鑑定を実施しているが、警察が「事件性はない」と判断したものをひっくり返した経験もあるという。(#2へ続く)「包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の動脈を…」民間鑑定会社が執念の調査で覆した「自殺の証拠」 真犯人と疑われた男の壮絶な末路とは? へ続く(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
「旦那さんによく話を聞くと、この動画は奥さんの髪型などから結婚前に撮影された可能性が高いそうです。旦那さんが、今は浮気もせずに大変な子育てを頑張っていると言うので、『あなただって結婚前に言えないことはあるでしょう?』とアドバイスしました。何でもかんでもアウトにはなってほしくないですね…。
また、『老け専ビデオ』を見た60代の夫から、『妻に似ている』と依頼があったこともあります。確かに似ていたんですが、鑑定の結果は本人ではなく白。男性は並行して離婚調停を進めていたので、奥さんの不貞行為を理由に、裁判を有利に進めようと考えたところ、別人だと分かり困っていた。むしろアダルト動画を見ていることがばれてしまったなんてこともありましたね。この手の依頼は無くなりません。
人定以外でも、警察から小学生が被害者の児童ポルノが持ち込まれて、これが実際に挿入されているかいないのか鑑定してほしい、という依頼もありました…。仕事とはいえ映像を見るのは辛かったです」
こうした動画解析は犯罪捜査でも非常に重要だ。街中の防犯カメラが増えた昨今だが、古い設置カメラは特に路上から高い位置に設置されていることが多いため、画像が粗く人の特定が難しいケースも多いという。
「粗い画像は、従来であれば専門家が手作業で処理をしていました。しかし、あまりにも重労働ですし時間がかかったにもかかわらず、結果、分からないということもよくあるので、海外の企業に高性能の動画分析AIの開発を外注しているところです。完成が本当に楽しみで、警察や入管に売り込みたいなと思っています。AIの能力は格段に上がっており、すごい精度のものができるんですよ」 こう目を輝かせる山崎代表。法科学鑑定研究所ではさまざまな科学鑑定を実施しているが、警察が「事件性はない」と判断したものをひっくり返した経験もあるという。(#2へ続く)「包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の動脈を…」民間鑑定会社が執念の調査で覆した「自殺の証拠」 真犯人と疑われた男の壮絶な末路とは? へ続く(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
「粗い画像は、従来であれば専門家が手作業で処理をしていました。しかし、あまりにも重労働ですし時間がかかったにもかかわらず、結果、分からないということもよくあるので、海外の企業に高性能の動画分析AIの開発を外注しているところです。完成が本当に楽しみで、警察や入管に売り込みたいなと思っています。AIの能力は格段に上がっており、すごい精度のものができるんですよ」
こう目を輝かせる山崎代表。法科学鑑定研究所ではさまざまな科学鑑定を実施しているが、警察が「事件性はない」と判断したものをひっくり返した経験もあるという。(#2へ続く)
「包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の動脈を…」民間鑑定会社が執念の調査で覆した「自殺の証拠」 真犯人と疑われた男の壮絶な末路とは? へ続く
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