「子連れスタバ」論争はなぜ起こった?“ただの質問”に批判が殺到したわけは

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今年もネット界隈で、育児や子ども絡みの論争を多く見かけた。記憶に新しいのは、はてな匿名ダイアリーで10月に投稿され反響を集めた「なんで子供連れてスタバに来るの?」というタイトルの投稿だ。
一見、「子連れは迷惑だからスタバに来るな」という挑発的なタイトルに思えるが、投稿内容を見ると「非難したいわけではなく、本当に疑問なので絶対に泣く年齢の子供を連れてスターバックスを利用する親御さんにその理由を教えてほしい」「どうしてファミレスやフードコートという、いくら子供が泣いてもいい(スタバがだめなわけじゃないけど)場所が他にあるのにスタバを選ぶのか教えてほしい」(原文ママ)と、大分トーンはやわらかい。
投稿者の子どもの有無は明記されていないが、恐らく子持ちではなさそうだ。だからなのか、ショッピングモール内では広いフードコートが設けられており、無料の休憩スペースも完備されているにもかかわらず、わざわざスタバを利用する保護者の心理を知りたいらしい。
◆誰も投稿者の疑問にきちんと答えていないのでは
はてな匿名ダイアリー内のコメントでは、「まあスタバに子どもが喜ぶ要素は感じられないから、親が行きたいから行ってるんだろう」というピントがずれているものから、中には「こうやって老害クソジジイが世にはばかるわけか」といった攻撃的な声も寄せられた。ただ、「なぜわざわざスタバを選ぶのか?」という問いに対する明確な回答はほぼほぼなく、投稿者は「思ったより反応があったんだけど、明記してることを読んで回答してくれた人がいなくてショックを受けています」と追記した。
この投稿ははてな匿名ダイアリーを飛び出してネットニュースになり、Twitterでも広く取り上げられた。やはり、「子連れスタバ、批判でないとはいえなぜその属性の人に利用の理由を尋ねるのだろうと感じた」「子連れスタバ批判、スタバを特別なもんだと思ってる節が根底にある気がする」など、投稿者の求めるアンサーが寄せられることはない。むしろ、はてな匿名ダイアリーとは違い、明らかに「投稿者=子育て世帯を批判する酷いやつ」という位置づけでの意見が目立った。
◆質問を読み間違える人が大量発生した背景
古くは1988年ごろに歌手のアグネス・チャンが赤ちゃんをテレビ番組の収録スタジオに連れてきたことを受けて激しい議論を巻き起こした“アグネス論争”、最近では「子連れでパン屋に来るな」という意見が話題になった。
子連れに関する議題は頻繁に浮上するが、基本的には「子どもは外に出すな」的な主張がよく出てきて、それらに対して「日本はなんて子育てに不寛容なんだ」といった批判がセットになりやすい。だからなのか、はてな匿名ダイアリーもそのテンプレートに無意識的にあてはめて、「なんで子連れがスタバに来るの? 邪魔なんだけど?」と読み間違えた人が多かったのだろう。
◆単に「子どものことを知らない」だけなのかもしれない
とはいえ、少子化に加えて新型コロナウイルスの影響もあって、子どもを持たない人が親戚や友達の子育て世帯から話を聞く機会、ひいては子どもと接する機会は極端に減った。そのため、子育て世帯の心理・現状を把握できていない人は少なくない。
「日本は子育て世帯に不寛容」とはよく言われるが、嫉妬や悪意からではなく、ただ単に知識や情報がないために不寛容になっている人も結構いるように思う。今回の投稿者も「子育て世帯に寛容になりたい」という気持ちから、「なぜスタバに来るのか」という理由を知りたかったのではないだろうか。

◆子育て世帯はもはや少数派になりつつある
もちろん、ネット上には意見を主張する子育て世帯を“子連れ様”と揶揄(やゆ)する人も一定数いるため、悪意ある意見と純粋な疑問を見分ける手間が生じる。「なぜ世間から虐(しいた)げられている子育て世帯が、そこまでしなければいけないのか」と思いたくもなるだろう。
それでも、純粋な疑問には誠実に対応していくことが、子育て世帯に対する理解を深め、寛容さを育むことにつながるのではないか。厚生労働省が12月20日に発表した人口動態統計(速報値)によると、今年1~10月の出生数は66万9871人と前年同期より3万3827人減少し、過去最少の水準となったらしい。このペースで推移すれば今年の出生数は初めて80万人を割る見通しで、どうやら我々の予想を上回るペースで少子化は加速している。
子育て世帯はもはや少数派になりつつある。そのため、子育て世帯からは冷静な意見を発信していかなければ、非子育て世帯の人達との分断は止まらないかもしれない。立ち止まるなら今だ。
<文/高萩陽平>

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