秋篠宮家の次女、佳子さまは12月29日に31歳になる。佳子さまの30代ライフは、すごく輝いていると思う。仕事に思いを込める。それがファッションにも反映する。仕事とファッションがかみあって、共感が広がる。
その回転がよくわかるのが、この記事だ。〈ブラジル訪問中の佳子さま、「サステナブル」な現地ブランドのバッグをお召しに…装いに表れた現地に寄せるお心〉という見出しで読売新聞オンラインが配信した(6月12日)。リードを引用する。
文末に〈デジタル編集部 栗谷川奈々子〉という署名があった。女性記者で間違いないだろう。「持続可能性」「女性に力を」が、佳子さまの思いと合っている。だから記事にした。社会性があるからこそのニュース。だけど、佳子さまのセンスにも注目しているから、丁寧なファッション描写になる。いつものバッグと比較した上で、シャープなデザインのこの日のバッグが「ペールトーンのふんわりとしたワンピースを引き締めていた」と書く。ファッション誌さながらの描写。きっと栗谷川記者もおしゃれさんなのだろう。
社会性とファッションを両輪に、佳子さまは邁進している。仕事が楽しいに違いない。自分のことで恐縮だが、30代は仕事の醍醐味がわかってきた年頃だった。しかも佳子さまには、自分の行動を喜んでくれる国民がいる。皇族の役割も日々、実感しているはずだ。
もう一つ自分の話をすると、佳子さまをずっと推している。始まりは10年前、佳子さまが20歳の時だ。だからこそ佳子さまの活躍はうれしい。と、同時に、佳子さまの充実ライフがいつまで続くだろうかと思うと胸が苦しくなる。皇室は、女性皇族にとって決して住みやすい世界ではないからだ。そんな話を書いていく。
佳子さまが強い人だと知ったのは2014年12月、成年を迎えるにあたって臨んだ記者会見だった。そこで佳子さまは、紀子さまのことを「母は、週刊誌などでは様々な取り上げ方をされているようですが、娘の私から見ると、非常に優しく前向きで明るい人だと感じることが多くございます」と述べた。すでに始まっていた紀子さまへのネガティブな報道をきっぱり否定する佳子さまにしびれた。
5年後の2019年3月、国際基督教大学を卒業するにあたっては、記者会の質問に文書で回答した。「お相手はいらっしゃいますか」と記者が聞いたのは、女性皇族への最大の興味が「結婚」という“歴史と伝統”にのっとってのことだ。佳子さまはこう答えた。「このような事項に関する質問は、今後も含めお答えするつもりはございません」。
くー、かっけー。と思ったが、注目されたのはバッシングされている姉の眞子さんの結婚についての回答だった。「私は、結婚においては当人の気持ちが重要であると考えています。ですので、姉の一個人としての希望がかなう形になってほしいと思っています」。姉だけでなく、自分の希望もかなえたい、佳子さまは一刻も早く皇室を出たいのだ。そう理解したのは私だけではなかったはずだ。
佳子さまは留学も就職もしなかったから、「ロイヤルニート」などと揶揄するメディアもあった。が、突如、佳子さまは変貌した。
それは2020年10月10日、「国際ガールズメッセ」のプレイベント。そこにビデオメッセージを寄せた。日本のガールスカウトが「ジェンダー平等」の実現を目標にしていることに触れ、こう述べた。「今後、ジェンダー平等が達成され、誰もが人生の選択肢を増やすことができ、自らの可能性を最大限いかしていけますように、そして、それが当たり前の社会になりますように、と願っております」
この変化には、やはり眞子さんの結婚問題が影響している。そう見る皇室ウォッチャーは多い。バッシングに遭う姉を見て、国民とのつながりの必要性を実感したというのだ。個人的には、「婚姻の自由」がないかのような姉を見ることで、女性全体のことを考えたのではないかと思ったりした。
ビデオメッセージから約半年、2021年5月に佳子さまは全日本ろうあ連盟に非常勤嘱託職員として就職した。「結婚」と「仕事」を天秤に掛けて、「仕事」に傾き始めたかのような佳子さま。その決意の根底にあるものは、佳子さまにしかわからない。わかっているのは、それ以来、佳子さまはぶれていないということだ。
23年9月、東北大学でのあいさつは画期的だった。日本の大学で理工系の女性の割合が低いことについて「せっかくの高い能力が十分に生かされていないことは、残念です」と述べた。皇族が「残念」と感情を表す言葉を使うのは珍しいと、ある皇室担当記者から聞いた。
「ガールズメッセ」にも毎年、出席している。2025年は「より良い社会を目指して真摯に考え、声をあげ行動を続けることは、エネルギーを要し、勇気がいること」と述べた(朝日新聞「佳子さま『行動を続けるのは勇気がいる』 ガールスカウトの式典参加」2025年10月19日)。賛否両論ある問題に皇族が言及するのは、とても勇気がいる。同じ記者に聞いたことだ。
ところで佳子さまは、多忙だ。“しごでき”ほど多忙になるのは、どの世界も共通だろう。宮内庁ホームページの「秋篠宮家のご日程」で、佳子さまが何回、行事(ホームページによれば「ご公務や国内各地へのお出まし、外国ご訪問などさまざまなご活動」)に出席したかを数えると、2025年1月から11月までで合計185回。11月は4日の〈宮中茶会ご陪席(文化勲章受章者及び文化功労者等)〉に始まり、26日の〈「第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025」閉会式ご臨席〉まで計14回。最も多かった10月は38回だった。
少し話がそれるが、時には佳子さまの「プチプラ」も話題になる。2024年5月のギリシャ訪問で着用したブルーのニットがそうだった。ブランドはオンライン限定の「Pierrot(ピエロ)」、値段が税込み2990円だとネットで話題になり、即完売となった。
同年9月の鳥取県訪問では、同県日南町にある「白谷工房」が作っている寄木細工のアクセサリーが話題になった。イヤリングが税込み4950円、バレッタ税込み3850円で、これも注文が殺到したという。これはプチプラからのチョイスではなく、日本工芸会の総裁という役職もあってのことだろう。自分が選べば作り手の励みになる。買ってくれる人がいれば、作り手のためにもなる。自分の影響力も理解した上で、仕事とファッションという両輪を回している。
と、ここまで佳子さまの仕事ぶりを書いてきた。書いていて、うれしく誇らしい気持ちになるのだが、それだけでは終わらないという話をしなくてはならない。
「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と始まる皇室典範が定める皇室において、女性皇族の立場は、あえて書くなら、大変虚しい。外から入った女性の主たる役割は出産、それも男子出産というのが現実で、これに苦しめられ「適応障害」という病を得たのが皇后雅子さまだ。
皇族として生まれた女性はどうかというと、「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」という規定があるのみだ。つまり、寿退社以外、何も決められていない。佳子さまは激務をこなしている。が、だからといって評価もされず、出世もしない。長く働いてきた女性として言わせていただくなら、やりがい搾取のブラック企業のようなものだ。
佳子さまは仕事が好きで、向いていると思う。でも、結婚とは両立しない。全日本ろうあ連盟の仕事は結婚後も続けられるだろう。が、ガールズメッセでのあいさつはどうか。難しいと考えるのが普通だろう。
もちろん、結婚はせず、仕事に邁進し続けるのも人生だ。そういう人も大勢いる。でも、評価も出世もない組織で、仕事へのやりがいをずっと感じ続けることができるのか。「佳子さまと仕事と結婚」を考えると、二者択一が邪魔すぎて、堂々巡りで頭を抱えるしかない。
ところで2025年9月30日、皇室経済会議が開かれ、三笠宮家の彬子さまが三笠宮家の当主になることが決まった。また彬子さまの母の信子さまの「三笠宮鄂凌堂θ涓函彖論澆盞茲泙辰拭9勅爾棒犬泙譴申性が当主になったのも、民間から嫁いだ女性が宮家をつくったのも、1889年に旧皇室典範が制定されて以降、初めてだという。女性皇族の地位向上の一歩という見方もある一方、三笠宮家または三笠宮鄂凌堂θ涓箸旧宮家の男系男子を養子に迎える。つまり男系男子を確たるものにするための布石という見方もある。
女性宮家も旧宮家からの養子も、減少する皇族数対策として国会が検討しているものだ。だが、ずっと審議継続でまるで進んでいない。
11月30日に60歳を迎えるにあたり、秋篠宮さまは記者会見をした。公的活動の担い手が減ることへの考えを聞かれ、「(担い手が減ってきている)その状況を変えるのは、今のシステムではできません。いかんともし難いことだと思います」と述べた。進まない制度改革へのいら立ちを表した発言だと見る関係者は少なくない。
佳子さまの居場所がジェンダー平等と真逆なこと、皇族が減っていること。国民はいよいよ本気で考えなくてはと思う。
———-矢部 万紀子(やべ・まきこ)コラムニスト1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。———-
(コラムニスト 矢部 万紀子)