東北地方を中心にクマによる被害が相次ぐ中、山梨県内でも「遭遇」に備える動きが広がっている。
対策グッズは飛ぶように売れているほか、出没時に住民へ迅速に周知する方法などを検討する自治体も出てきた。今年に入ってからの目撃情報は200件を超えているだけでなく、住宅地や市街地にも姿を現しており、対策は急務となっている。(樋口稜太、前田智貴)
「これまではそれほど頻繁に売れる物ではなかったが、今では山に入るときの必需品になっている。連日の報道で、恐怖を抱いている人が多いのではないか」。クマ対策グッズを取り扱う資機材販売業「山梨スチール」(甲府市)の社長、藤森隆支さん(48)は最近の商品の売れ行きを踏まえ、そう推察する。
同社が扱う対策グッズの中でも急速に売り上げが伸びているのが、強い刺激物をクマに直接噴射する「クマ撃退スプレー」。昨年は取り扱う4種類が50本近く売れたというが、今年は80本以上売れているという。
中でも強力な唐辛子エキスで撃退する米国製の「カウンターアソールト」は、1本2万円近くするにもかかわらず、在庫はすでに底をつき、次の入荷は来年1月という人気ぶりだ。
「クマよけの鈴」も扱っているが、こちらは売り上げが減っている。「鈴で大丈夫と感じていた人が、人身被害の増加を受けてスプレーを求めるようになっている」といい、「メーカーにも在庫がなく、すぐに必要としている人に供給できないのは申し訳ない」とこぼす。
鳥獣害対策事業を展開する「プロテクトJ」(都留市)では、クマ捕獲に特化した「箱わな」を自社開発して販売しており、今年に入ってから自治体や官公庁から問い合わせや注文が急増。東北地方などからも商品を求める声が相次いでいるという。
同社の石井誠人社長(59)は「街に出てくるクマの数を減らすためにも、これから本腰を入れて対策事業に取り組んでいかないといけない」と話す。
また、秋山シーズン真っ盛りであることもあり、登山客らも対策グッズを求めている。アウトドア用品店「エルク」(甲府市)では鈴やホイッスル、撃退スプレーなど15種類ほどを取り扱っているが、いずれも品薄状態。店長の綾井瞭さん(34)は「昨年も売れ行きは良かったが、今年は倍近い問い合わせや売れ行きだ。メーカーでも品薄状態で仕入れも難しい」と打ち明ける。
山梨県自然共生推進課のまとめによると、県内では今年度、242頭(21日現在)のクマが目撃されている。過去5年で最多となった昨年度と同ペースで出没しており、6月と8月には、クマに引っかかれるなどして計2人がけがを負った。
目撃場所は山間部や山林の近くが大半とみられるが、9月には南部町で民家の柿の木を荒らしているところが目撃されたり、甲府市で畑の養蜂箱が荒らされたりするなど人の居住地域付近にも近づいている。
自治体も対策に追われている。身延町では今年度から、町ホームページで、クマの目撃情報をまとめた「クマップ」を公開。月別に目撃場所が分かるように色分けするなどの工夫を凝らした。富士河口湖町でも、マップの公開や小中学校に撃退スプレーなどを配備する対策を行っている。
また、北杜市では、クマの目撃情報を従来の防災行政無線に加え、SNSでも即時に共有することを検討しているといい、同市林政課の担当者は「防災無線は『聞き取りづらい』などの声もあった。SNSを活用して目撃情報を住民に早く、確実に届けられるようにしたい」と話した。