積丹町で猟友会が出動拒否、議会副議長とのトラブルか クマ被害が起きたら誰の責任?

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全国でクマによる被害が相次ぐ中、猟友会が自治体からのクマ駆除の出動要請を拒否する状況が1か月以上続いていたーー。北海道積丹町でそうした事態が起きていたことが報じられました。
HTB北海道ニュースの報道(10月28日)によると、北海道積丹町で9月、大型のクマが捕獲された際、現場に居合わせた町議会副議長に猟友会のハンターがクマから離れるように促したところ、トラブルに発展。その際、副議長から「辞めさせてやる」などの発言があったと報じられています。
副議長は「辞めさせてやる」という発言については否定していますが、このトラブルをきっかけに、猟友会は町の出動要請を拒否する事態が1カ月以上続いています。
トラブルの事実関係は不明な点もありますが、猟友会が出動していない状況は続いているようです。SNSなどでは、「クマの被害が出た場合、誰が責任をとるのか?」という声も上がっています。法的にはどう考えればよいのでしょうか。
まず、トラブルの発端の一つである猟友会の法的責任について整理します。
基本的に、猟友会は、行政からの要請に基づいて、クマの駆除に任意に協力している団体です。公的な義務を負っているわけではありません。したがって、出動するかどうかは基本的にその自由な意思に委ねられており、今回の出動拒否は副議長とのトラブルという信頼関係の破綻が原因となっていると考えられます。
また、仮に猟友会と町の間で駆除に関する委託契約などがあった場合、その契約を守らないことは行政との契約に違反することにはなりそうですが、この場合にも、契約に違反したことで「町民がクマに襲われた責任」を問われる可能性は極めて低いといえます。
なぜなら、猟友会は公務員ではないため、法律上、町民の安全を守る公的な義務までは負っていないからです。民法第709条が定める不法行為責任(違法な行為で他人に損害を与えた場合の責任)についても、猟友会が町民に対して直接負う可能性は低いでしょう。
次に、トラブルを引き起こした町議会副議長の責任について整理します。
副議長の発言が公然と(※不特定または多数の前で)行われたのであれば、ハンター個人に対する名誉毀損や侮辱といった私的な不法行為(民法第709条)を構成する可能性はあります。しかし、その発言と、その後の「クマによる町民への被害」との間に、法的な因果関係を認めるのは困難です。
副議長の発言はあくまで「猟友会の出動拒否」の原因であり、「クマ被害」の直接の原因というわけではないため、副議長がクマ被害に対して私的な不法行為責任を負う可能性は低いでしょう。
また、副議長の発言は、公的な決定や権限に基づく「公権力の行使」(行政が権限を使って国民の権利を制限したり義務を課したりすること)とはいえないと考えられるため、国家賠償法第1条に基づく公的責任を負う可能性も低いと考えられます。
町民の被害との関係で最も責任が問われる可能性があるのは、積丹町(行政)の対応です。具体的には、「情報共有不足と代替措置をとらずに放置したこと」について、国家賠償法第1条1項に基づく責任が問われる可能性があります。
国家賠償法第1条1項が定める国家賠償責任が認められるには、「公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えたとき」という要件を満たす必要があります。
町(行政)は、町民の生命・身体の安全を守る義務を負っています。この義務の一環として、住民の生命や身体に危険が迫っている状況の下では、住民の安全を守るために行動を起こす「作為義務」が発生します。
ただし、基本的に、行政にはどんな対策を取るかについてある程度の自由(裁量)が認められています。もっとも、この「裁量」には限界があると考えられています。
この裁量の考え方には大きく2つあり、詳しくは専門的過ぎるため割愛しますが、被害の発生の危険性が高くなるにしたがって裁量の幅が狭まるという考え方(福岡地判昭和53年11月14日など)や、不作為が許される限度を逸脱して著しく合理性を欠く場合には違法となるという考え方(東京高裁昭和52年11月17日(子どもが野犬に噛まれて死亡した事例)など)があります。
本件のケースで仮にクマによる被害が出た場合、このような説の詳細はともかく、共通する要素をざっくりと整理するのであれば、以下のようになると考えられます。
1)クマによる人の生命・身体への重大な危険が生じており、しかも1カ月も経っている。2)この1カ月の間に、町民や議会に情報提供することは容易であるし、代替の駆除体制を検討、整備するといった行動をとることも可能といえる。3)このような措置により被害を防ぐことができる可能性は高いといえる。
したがって、町が情報の共有をせず、代替措置もとらなかったことは、「違法な不作為」と判断される可能性があると考えられます。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

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