「コロナで業務増えたストレスで…」 逮捕の保育士、虐待の裏に何が

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

静岡県裾野市の認可保育園「さくら保育園」で、園児への暴行容疑で保育士3人が逮捕されてから11日で1週間となる。虐待の背景に何があったのか。
「ブス」「デブ」暴言、暗い部屋に閉じ込め…3人の虐待行為保護者「軽いノリ見受けられた」 県警裾野署に逮捕されたのは保育士として働いていた三浦沙知(30)、小松香織(38)、服部理江(39)の3容疑者。1歳児クラスで今年6月、女児の顔を押さえつけたり、男児を宙づりにしたりしたなどの疑いが持たれている。

同園の調査では、怒鳴ったり暴言を吐いたりするなどの行為は日常的に続けられていたことが確認されている。虐待を続けた理由について、3人は園児が呼びかけに応じないことや、給食を食べないことなどを挙げた。別の職員は3人の行為に気づいていたが、助けたり注意したりすることはなく、見て見ぬふりをしていたという。 同署は3人の認否を明らかにしていないが、服部容疑者の弁護人によると、同容疑者は容疑を認め、「新型コロナで業務量が増えたストレスで手が出てしまった」と話しているという。 3人の評判はどうだったのか。 ある母親は小松容疑者について「明るくてイベントでは全力で盛り上げてくれる。子どもたちを笑顔にしてくれる人だった」と振り返る。三浦容疑者についても「元気のある先生」と悪い印象は抱いていない。 一方、「3人は明るい性格だが、ある意味、軽いノリが見受けられた。悪気がないまま虐待を続けて増長していったのではないか」と話す保護者もいた。園長の経営手腕に疑問視も さくら保育園は現在の園長の父親が1981年に開設。周囲の田畑を活用した保育が人気を集めた。 同園に子どもを預けている30代の母親は「田畑でとれた野菜を給食で出してくれる。ここの保育園を第1志望として希望する保護者は多い」と証言する。 ただ、園長の経営手腕を疑問視する声はあった。関係者によると、同園を運営する社会福祉法人では2021年、園長が務めていた法人理事長職を解任しようとする動きがみられたという。 虐待事案への対応も遅れがちだった。 3人と一緒に1歳児クラスを担当していた別の保育士は7月下旬、虐待が起きていることを園長に相談していたが、園側は積極的に解決する姿勢を示さなかった。 保護者への説明も11月29日まで行わず、園長は「申し訳ない」と繰り返すばかりだったという。 通報を受けた市の対応もずさんなものだった。 8月17日に公益通報が寄せられて市は初めて虐待の事実を把握し、同園に調査報告書の提出を求めた。同書は8月25日に出されたものの、11月下旬になるまで村田悠(はるかぜ)市長に報告されず、問題を公表するまで3カ月以上かかった。 公表が遅れたことについて市側は「保育園の再調査に時間がかかった」と釈明する。9日までに市には同園やその系列保育園からの転園について14件の相談が寄せられているという。 同園は勤務する保育士らに「業務中に知り得た情報」などを漏えいしないことを求める「誓約書」を提出させており、市は犯人隠避の疑いがあるとして園長を刑事告発している。専門家「個別的な問題ではない」 現在、裾野署は3人への取り調べを続け、虐待行為の全容解明を進めている。 同署は11月29日の地元紙の報道で初めて虐待を覚知し、その5日後の12月4日に保育士3人を逮捕した。園内には防犯カメラがなく直接的な証拠は乏しいものの、暴行を目撃していた同僚の証言などを集め、裏付けを急いでいる。 村山祐一・元帝京大教授(保育学)は「人手不足に悩む保育の現場では、発生するさまざまな問題を職員が話し合うゆとりがない。目の前の子どもをとにかく従わせようとすると虐待につながる」と指摘。その上で「どこの施設もギリギリのところでやっているから、今回のケースが個別的な問題だと考えてはいけない。社会問題だと認識して、官民一体で保育士の環境整備を急ぐ必要がある」と強調する。【木村健二、五十嵐和大、深野麟之介、皆川真仁】
保護者「軽いノリ見受けられた」
県警裾野署に逮捕されたのは保育士として働いていた三浦沙知(30)、小松香織(38)、服部理江(39)の3容疑者。1歳児クラスで今年6月、女児の顔を押さえつけたり、男児を宙づりにしたりしたなどの疑いが持たれている。
同園の調査では、怒鳴ったり暴言を吐いたりするなどの行為は日常的に続けられていたことが確認されている。虐待を続けた理由について、3人は園児が呼びかけに応じないことや、給食を食べないことなどを挙げた。別の職員は3人の行為に気づいていたが、助けたり注意したりすることはなく、見て見ぬふりをしていたという。
同署は3人の認否を明らかにしていないが、服部容疑者の弁護人によると、同容疑者は容疑を認め、「新型コロナで業務量が増えたストレスで手が出てしまった」と話しているという。
3人の評判はどうだったのか。
ある母親は小松容疑者について「明るくてイベントでは全力で盛り上げてくれる。子どもたちを笑顔にしてくれる人だった」と振り返る。三浦容疑者についても「元気のある先生」と悪い印象は抱いていない。
一方、「3人は明るい性格だが、ある意味、軽いノリが見受けられた。悪気がないまま虐待を続けて増長していったのではないか」と話す保護者もいた。
園長の経営手腕に疑問視も
さくら保育園は現在の園長の父親が1981年に開設。周囲の田畑を活用した保育が人気を集めた。
同園に子どもを預けている30代の母親は「田畑でとれた野菜を給食で出してくれる。ここの保育園を第1志望として希望する保護者は多い」と証言する。
ただ、園長の経営手腕を疑問視する声はあった。関係者によると、同園を運営する社会福祉法人では2021年、園長が務めていた法人理事長職を解任しようとする動きがみられたという。
虐待事案への対応も遅れがちだった。
3人と一緒に1歳児クラスを担当していた別の保育士は7月下旬、虐待が起きていることを園長に相談していたが、園側は積極的に解決する姿勢を示さなかった。
保護者への説明も11月29日まで行わず、園長は「申し訳ない」と繰り返すばかりだったという。
通報を受けた市の対応もずさんなものだった。
8月17日に公益通報が寄せられて市は初めて虐待の事実を把握し、同園に調査報告書の提出を求めた。同書は8月25日に出されたものの、11月下旬になるまで村田悠(はるかぜ)市長に報告されず、問題を公表するまで3カ月以上かかった。
公表が遅れたことについて市側は「保育園の再調査に時間がかかった」と釈明する。9日までに市には同園やその系列保育園からの転園について14件の相談が寄せられているという。
同園は勤務する保育士らに「業務中に知り得た情報」などを漏えいしないことを求める「誓約書」を提出させており、市は犯人隠避の疑いがあるとして園長を刑事告発している。
専門家「個別的な問題ではない」
現在、裾野署は3人への取り調べを続け、虐待行為の全容解明を進めている。
同署は11月29日の地元紙の報道で初めて虐待を覚知し、その5日後の12月4日に保育士3人を逮捕した。園内には防犯カメラがなく直接的な証拠は乏しいものの、暴行を目撃していた同僚の証言などを集め、裏付けを急いでいる。
村山祐一・元帝京大教授(保育学)は「人手不足に悩む保育の現場では、発生するさまざまな問題を職員が話し合うゆとりがない。目の前の子どもをとにかく従わせようとすると虐待につながる」と指摘。その上で「どこの施設もギリギリのところでやっているから、今回のケースが個別的な問題だと考えてはいけない。社会問題だと認識して、官民一体で保育士の環境整備を急ぐ必要がある」と強調する。【木村健二、五十嵐和大、深野麟之介、皆川真仁】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。