札幌市南区の民間動物園「ノースサファリサッポロ」が30日に閉園し、20年間にわたる“違法営業”が終了した。
ただ、市街化調整区域内に無許可で設置された多数の施設の完全撤去がいつになるのか見通しは立たず、300を超えるとみられる飼育動物たちの行き先も定かではない。
「閉園まで20年かかったのは市の責任でもある。人間のせいで振り回される動物たちがかわいそうだ」
ライオンの赤ちゃんの愛らしさに魅了されて以来、年に1~2回は訪れていたという同市豊平区の女性(75)は、閉園を前に複雑な表情で語った。
女性が言う「市の責任」は、2005年7月の開園前から行政指導で無許可開発を止めようとする一方、宿泊施設などの営業は許可していたという市のちぐはぐな対応を指している。その結果、運営会社「サクセス観光」は都市計画法違反を認識しながら施設の拡張を続け、閉園目前の9月18日時点でも118棟の違法建築が残る事態となった。
市に毅然(きぜん)とした対応を求めているのは、ノースサファリの周辺住民も同じだ。30日は「豊滝中央町内会」の役員ら4人が市役所を訪れ、違法建築の撤去や319匹・頭(9月5日時点)に上る飼育中の動物の移動について監視強化が必要だとする要望書を提出。氏家孝義会長は「速やかに問題を解決してほしい。それだけです」と力を込めた。
サクセス観光は違法建築の全面撤去の期限を「2029年末」と説明し、同社の代理人弁護士も動物の移動について「完了時期のめどは示せないが、調整は進んでいる」とする。一方、市幹部からは「29年末は相手が勝手に決めた期限。こちらが待ち続ける理由はない」との声も漏れる。
国と市が過去に交付した補助金を巡っても、法令違反の発覚を理由に国は6000万円、市は750万円の全額返還を求めているが、サクセス観光側は断固として拒否する構えだ。代理人弁護士は“先手”を打って国と市を提訴する考えを示しており、今後も行政当局とサクセス観光の紛争が続くことになる。
都市計画法が市街化調整区域内の無許可開発を禁じているのは、農地や森林などの乱開発を防ぐためだ。しかし、札幌市に限っても違法建築は2024年度末時点で3305棟に上り、5年前の19年度末から約1000棟も増えていた。
市の担当者が挙げる要因は「自治体の権限の弱さ」。同法に基づく立ち入り調査を行ったとしても建物の使用を禁じることはできず、建物の撤去を命じる「除却命令」も実効性が薄いという。市の除却命令はこれまでに6件あるが、うち5件は所有者が撤去に応じず、今も自動車整備工場や共同住宅、パークゴルフの休憩所として使われている。
“最終手段”として、市が費用を肩代わりして強制撤去する「行政代執行」という選択肢はある。ただ、本来は費用を負担すべき所有者から回収できるかは不透明な上、幅広く「市民の利益」につながるとも言いがたいことから慎重にならざるを得ないという。