ウーバーイーツ配達員「労働者認定」埋まらない溝

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

一歩前進とは言えますが根深い問題は簡単に解決しなさそうです(撮影:今井康一)
東京都労働委員会(以下、都労委)は11月25日、飲食宅配サービス「ウーバーイーツ」の配達員が労働組合(労組)を作って団体交渉(団交)を求める権利があるとする命令書を交付しました。ネット上のサービスを介して単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」に、労働者としての権利を認めた日本で初めてのケースとなります。今回の命令書交付によりどのように事態が推移していくか予測してみましょう。
ウーバーイーツは、配達員が個人であることから、人材を雇用する必要がありません。誰もが登録できる手軽さに加えて、会社側も雇用負荷が軽減されるため、双方のメリットがマッチしたビジネスモデルといえるでしょう。
宅配型サービスは他にも存在しますが、ウーバーイーツはドリンクメニューなど1品からでも気軽に注文可能な点がポイントです。飲食店は注文があるたびに、手が空いている配達員にデリバリー業務を委託できます。配達員は個人事業主になりますから、ほかの仕事と掛けもちが可能になります。
労組である「ウーバーイーツユニオン」は、ウーバーイーツの運営会社などに対し、配達中に事故があった場合の補償や、報酬の決め方の透明性などについて団交を要求していました。会社側がこれを拒否したことから、都労委に救済を申し立てていたものです。運営会社側は、配達員は個人事業主であることから、労働組合法が保護の対象とする「労働者」にはあたらないと主張していました。
都労委の発表資料を読み込むことで、労使双方の論点を次のように整理できます。
まず配達員が労働組合法上の労働者に当たるか否か。
当事者であるウーバーイーツユニオンは「労働組合法上の労働者」としての扱いを求めてきました。「労働組合法」とは、労働者が労働組合を組織し、使用者と対等な交渉ができるよう関係性を定める法律のことです。日本国憲法第28条では、労働者の権利として「団結権」「団交権」「団体行動権」の労働基本権(労働三権)を認めています。
「団結権」=労働条件の問題解決や安定維持のために労働組合を組織したり、組合に参加したりできる権利のことです。会社と対等な立場で団交が可能です。
「団交権」=労働者団体がその代表者を通じて、使用者と労働条件や労使関係上の取り決めなどを交渉する権利のことです。
「団体行動権」=労働を放棄して団体で抗議できる権利のこと。ストライキといった争議行為を実力行使できます。使用者は労働組合や組合員に対し損害賠償を請求することはできません。
今回の都労委による命令書は、これらの労働組合法における権利を認めました。労働組合からの団交の申し入れを拒否すれば、団交拒否の不当労働行為が成立します。「使用者が雇用する労働者の代表者と団交をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止しています。団交権は憲法上保障されており、正常な労使関係を維持していくための重要な権利の1つです。
労働組合から団交の申し入れがあった場合には、誠実に対応する必要があります。したがって、使用者としては、自らの主張を明確にしたうえで、その根拠を資料を示すなどして交渉にあたらなければ、誠実交渉義務違反として、不当労働行為が成立する可能性があります。団交はあくまで交渉ですから使用者が譲歩しなければならないということではありません。
誠実な交渉を継続して実施したにもかかわらず、双方の主張の対立が続き、労使相互に譲歩の意思がないことが明らかとなり、もはや交渉の余地がないという事態に至り、使用者が交渉を打ち切った場合には、正当な理由による団交の拒否として不当労働行為が成立しません。最近はこのケースが増えています。
スマホの普及によって、自分の都合に合わせて働ける「ギグワーカー」が増えています。時間や場所を選べるため、本業がある人や、育児や介護などでフルタイムの仕事に就きにくい人も参加できます。サービスの魅力は高まりますが生計を立てていくにはさまざまなリスクもともなうはずです。
ここで、ウーバーイーツ配達員の平均月収はどの程度か試算します。日またぎクエスト、雨クエストなどのクエスト類はルールが頻繁に変わるので適用しません。平日は本業をやりつつ、週末2日間だけ頑張って、1カ月働き続けた場合です。
<週末2日のみ稼働>1日の稼働時間は、9:00~20:00(休憩1時間の実働10時間と想定)
<1日の平均配達報酬>配達回数:30回(3回/時間×10時間)配達単価:500円500円×30回=15,000円
<1か月の報酬>1日の配達報酬:15,000円月間稼働日数:8日15,000円×8日=120,000円
1日中フル稼働する必要がありますが、本業の収入プラス約12万円です。この働き方をしてしまうと、休日が無くなってしまい体力的にもハードになると思われます。
<平日仕事後に5日稼働>1日の稼働時間は、19:00~22:00 実働3時間(休憩なしの実働3時間と想定)
<1日の平均配達報酬>配達回数:6回(2回/時間×3時間)配達単価:500円500円×6回=3,000円
<1か月の報酬>1日の配達報酬:3,000円月間稼働日数:20日3,000円×20日=60,000円
配達回数は、1日6回を想定していますが夜食時間と重なりますので6回以上の稼働は可能です。週末に休暇を取りつつ平日の夜に副業というパターンです。多くの配達員はここで紹介したシミュレーションに近い報酬を稼いでいるものと思われます。
一方、こうした労働環境について、ウーバーイーツの配達員が改善を訴えた場合にどうなるか。団交を重ねてもなかなか両者の溝は埋まらない可能性が低くありません。気になるのは、都労委が、ウーバーイーツ配達員について労働基準法上の雇用に当たるかどうかについては「判断していない」(都労委担当者)点です。
労働基準法は、働くうえでの最低基準のルールを定めています。賃金や労働時間、休暇などの雇用契約が労働者側が不利な立場に陥らないよう、労働者の生活を守ることを目的とした法律です。たとえば東京都の最低賃金は今年10月から時給1072円となっていますが、現時点でウーバーイーツの配達員はこれは適用されません。
ウーバーイーツの配達員は全国13万人(同社発表)と言われています。対して、ウーバーイーツユニオンは30人です。運営会社はウーバーイーツユニオンとの団交には応じなければいけませんが、ウーバーイーツユニオンの加入率が上がらない限り強い交渉権は生じ難いということも課題となるでしょう。
(尾藤 克之 : コラムニスト、明治大学客員研究員)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。