移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
今回は、通勤電車内で、周囲への配慮を欠いた迷惑行為に遭ったという2人のエピソードを紹介する。
◆朝の満員電車に響く“大声の会話”
午前8時、通勤ラッシュのピーク。急患対応による遅延も重なり、車内はいつも以上に混んでいた。
岡野隆之さん(仮名・30代)は、人と人とのわずかな隙間に体を押し込み、身動きできないまま立っていたという。背中には会社員の通勤リュック、前には高校生の部活道具。ほとんど固定された状態で電車が動き出した、そのとき……。
「ガハハツ!」
甲高く耳を突き抜ける笑い声が横から響いた。さらに2人分の声が重なる。どうやら3人組の女性たちの会話だったようだ。
「ほんっと、うちの旦那って使えないから!」
「うちもよ! 昨日なんてね……」
最初は小声だった会話だが、あっという間に声量が上がったという。朝の満員電車のなかで、突然、“家族の悪口大会”が始まったのだ。
◆降車まで続いた家族の愚痴
「お義母さんなんて、私が作った料理にまた口出し!」
「わかる~! うちのお義父さんもね……」
話題は夫の家事能力のなさから義理の家への不満まで広がり、声のボリュームはさらにアップした。岡野さんは無心を装ったが、否応なく耳に入ってくる。
「まるで、朝から不快な情報番組を聞かされているみたいでした」
周囲の乗客はスマートフォンを見たり、イヤホンを耳に押し込んだり、床を見つめたまま動かない。顔を見れば、全員が同じようにうんざりしている様子がわかったそうだ。
駅をいくつか過ぎるごとに、会話はヒートアップ。義母からの電話を無視した武勇伝を披露し、最後の一駅分は、3人同時の笑い声がさく裂した。
「ホームにつくまでの数分間が、とにかく長かったです」
電車が駅に到着し、彼女たちは楽しげに降りていった。残された車内は驚くほど静かになったが、岡野さんの耳の奥には、まだ愚痴の断片がこびりついていた。