【河野 嘉誠】「俺は田久保真紀伊東市長とは違う!」石破茂総理が辞任表明直前に周囲にボヤいていた「哀しき胸の内」

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「責任をまっとうすべきであったが、このような形になったことは実に心残りだ」
昨年の自民党総裁選で、5度目の挑戦で悲願を遂げた石破茂総理だったが、本人が退陣表明会見で語ったように「道半ば」での退陣に追い込まれた。辞任表明直前には、かつての“側近”からも退陣要求が相次ぎ、石破総理に近い関係者は「結局、人徳のなさが最後まで祟ってしまった」と嘆く。
自民党は昨年の衆院選に続き、7月の参院選でも惨敗。党内では退陣要求が相次いだ。こうした中で、8月8日の両院議員総会で総裁選の前倒し検討が決定。それでも、8月の報道各社の世論調査では、石破総理が「辞任すべきだとは思わない」との回答が、「辞任すべき」という回答を上回っていた。
「石破総理は一定の世論の支持があることを念頭に、『辞めるつもりはない』と続投にこだわっていた。『世論調査で続投容認派が5割くらいまでいけば、もう少し元気が出るんだけどな』などと周囲に語り、一時は参政党などの躍進を念頭に『ポピュリズムと戦わねばならない』というモードになった。党内から噴出する“居座り”との批判に対しては、『俺は(学歴詐称問題後も辞任していない)田久保真紀伊東市長とは違う』と漏らしていました」(石破氏周辺)
石破総理が粘りきるのではないかという見方もあったが、次第に潮目が変わっていく。9月2日の臨時両院総会で森山裕幹事長が引責辞任の意向を示すと、小野寺五典政調会長、鈴木俊一総務会長、木原誠二選対委員長の「党四役」が相次いで辞任を表明したのだ。
この頃、それまで石破総理を支える立場だった自民幹部の一人も筆者の取材に「党四役が辞めて、総理だけ残るのはありえない。せめて幹部陣だけでも総理がきっちりと押さえておくべきなのに…。なんで俺が頑張っているのか、意味がわからなくなる」とボヤいていた。
9月2日には、臨時の総裁選の是非を問う手続き開始した。致命的だったのは、首相と距離のある旧安倍派や、麻生派の議員だけでなく、石破氏と近しい関係にあった議員からも、前倒し要求が相次いだことだ。
総裁選で石破総理を支えた遠藤利明元総務会長は9月4日に、「首相がケジメをつけないなら、総裁選の前倒しに賛成する」と表明。石破総理と当選同期の渡海紀三朗前政調会長らと遠藤氏らと会合を持ち、総裁選前倒しを巡る対応をすりあわせた。
「遠藤氏は参院選後、人を介して、『ケジメをしっかりつけないと』と複数回伝えていたといいますが、石破総理からは何の返事もなかったそうです。総裁選を支えた別の重要閣僚経験者が『付き合えば付き合うほど嫌になる』と漏らしていたこともあったほど、石破総理は気配りが不得手です。遠藤氏もさすがに業を煮やした面もあったとみられます」(自民党関係者)
そして、水月会(旧石破派)の元メンバーからも、退陣要求が噴出し、退陣ムードに拍車をかけた。
9月6日には、石破派出身の齋藤健前経産相が記者団に「(石破総理は)自ら辞めてほしい」と語った。石破派で事務局長を務めた田村憲久元厚労相も7日のテレビ番組で、総理が退陣すべきだという考えを示した。やはり旧石破派出身の古川禎久元法相は「周囲に退陣論を語っていた」(前出・自民重鎮)という。
「石破が総理になった時から、『お前、旧石破派の齋藤やら、田村に頭を下げて、もういっぺん一緒にやろうよ、と言えや』と言っていたんだけどな…」
そう語るのは、石破総理と当選同期で、いまなお親しい関係にある三原朝彦元衆院議員だ。実は、三原氏は一ヵ月ほど前に官邸で、石破総理と面会し、「出処進退は自分でよく考えて判断すればいい」と励ましていたという。
「その時は元気な様子やったけど、やっぱり不器用やけんね。『自分は正しい政策をやっているんだから、頭を下げずとも、みんな一緒にやってくれるはずだ』との思いがあったんやろな。それをずっとやってきたわけたい。今回も、『お前、渡海(紀三朗前政調会長)なんかも、当選同期っていっても、お前から頭下げにいかなきゃ』と言っていたんやけどな…」(三原氏)
旧石破派は脱退者が相次ぎ、派閥の運営が不可能になった経緯がある。その時から指摘され続けてきた「面倒見の悪さ」がここにきて、災いした格好だ。
総裁選前倒しは、衆参両議長を除く295人の国会議員と、47の都道府県連をあわせた総数324の過半数の賛成があれば、決定する。9月8日に集計が予定されていたが、6日の段階で「前倒しは確定的」(自民参院幹部)とみられていた。
「石破氏を支持する立場の鈴木宗男衆院議員は、『(総裁選前倒しなら)衆院解散で国民の信を問うのが民主的だ』と解散論で牽制したが、大義のない解散論に党内からは反発も出ていた。
辞任表明会見で否定しなかったように、石破総理自身は衆院解散を実際に検討し、岩屋毅外相ら一部の側近議員も同調していたとされます。ただ、仮に大義のない衆院解散となれば、閣僚の辞任が相次ぐ可能性もあり、石破総理は『新大臣の認証式をせねばならず、天皇陛下にご迷惑をかけてしまう…』と気にしていたそうです。
そもそも、公明党の斎藤鉄夫代表も9月2日の石破総理との会食の席で『衆院解散だけは認められない』と伝えていた。自民党内でも『党四役が辞めているのに、誰が選挙を仕切るのか』『いま解散しても、自民党は負けるだけ』と冷ややかな反応で、解散論は非現実的とみられていました」(前出・自民党関係者)
まさに四面楚歌だった。石破総理は9月6日夜に官邸で、菅義偉副総裁と小泉進次郎農相と面会。ここでも「退陣」を進言されたとされる。翌日午後に、岩屋毅外相や赤沢亮正経済再生相ら、数少ない側近議員と会談後、辞任表明に至った。
打つ手がなくなり、次第に追い込まれていった石破総理に、親しい知人は数日前に〈もっと多数派工作を頑張るべきではないか〉と助言するメールを送ったという。返ってきたのは、こんな文面だったという。
〈わたしのようなつまらない者は、神様のご加護におすがりする他に道はない〉
“クリスチャン宰相”として知られる石破総理だが、長期政権は「神頼み」では成就しなかったようだ。
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かわの・よしのぶ/’91年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、『サンデー毎日』『週刊文春』の記者を経てフリーに。主に政治を取材している。情報提供は【[email protected]】まで
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