占い師の女性が男性2人をそそのかし、入水自殺させた–そんな衝撃的なニュースが報じられたのは今年3月のこと。大阪府在住の自称占い師・濱田淑恵被告(63)とその信者の女2人が、AさんとBさんに対し、自殺をそそのかして死亡させたなどとして逮捕・起訴された。
【写真】「信者の前で性交を見せつけ…」送検される濱田被告。2008年当時に開設していた“異様すぎるホームページ”
事件は2020年に和歌山県の海岸にて男性2人の遺体が見つかったことで発覚し、当初警察は事件性なしと判断していたが、別件の事件捜査の過程で改めて捜査対象となった。濱田被告は自らを「創造主」と名乗り、信者をマインドコントロール下に置いていたなど、その異様で不可解な状況から世間の関心を集めていた。
8月1日の裁判では、事件に関与したとされる信者2名が法廷に立った。読み上げられた2人の起訴事実の内容は、事件全体の異様性、そして“創造主”濱田被告の強欲さを強烈に示していた–裁判ライターの普通氏がレポートする。【前後編の前編】
「自称・創造主」である濱田被告とともに、男性2人が入水自殺した件で逮捕された女性信者は2人。滝谷奈織被告(59)と寺崎佐和子被告(47)だ。
2名にかけられている罪状は異なり、自殺の現場に居合わせた滝谷被告は自殺幇助の罪で、現場にはいなかった寺崎佐和子被告は有印私文書偽造・同行使罪で起訴されている。2人の公判は同日、別の時間に行われた。9月以降も別々に審理が予定されており、それぞれの視点、立場でこの異様な事件がどのように語られるかが注目される。
自殺幇助の罪に問われている滝谷奈織被告は、黒いジャケット、黒いシャツ姿で入廷。表情に疲れを滲ませていたが、真っすぐ正面を向き、検察官の起訴状の読み上げを聞いていた。
起訴状によると、令和2年7月31日、濱田被告が、滝谷被告と被害者男性2名の計3名に対して「決行します」などと告げ、それぞれに自殺を決意させたという。当初は滝谷被告も、2人の男性信者とともに自殺する予定だったようだ。濱田被告も、共に自殺する意向を話していたとみられる。
翌8月1日、互いの体を繋ぐためのマイクコードを車に積載し、濱田被告、滝谷被告、被害者であるAさんとBさんの計4名で出発。その後、ドラッグストアにて苦痛を和らげる鎮痛剤を購入。入水する海岸を探し、和歌山県内の海岸に到着した後、鎮痛剤を分け与え、滝谷被告が「死ぬのに躊躇したら互いに沈め合え」などと指示することにより、AさんとBさんを死亡させ、自殺の幇助を行った。
この起訴事実に対し、滝谷被告は各種行動の指示や言動は濱田被告によるものであると主張。滝谷被告の立場としては被害者2名と同じで、結果として生き残っただけとした。ただ、互いに沈め合う決意に合意していたことは認め、罪の成立は争わないとした。
寺崎被告は、その事件現場には居合わせていない。
起訴状によると、同被告は濱田被告と共謀の上、前述のような形で決行された被害者2名の死亡事件の隠蔽のため、Aさんの署名を偽造した上で「コロナ不況で全く仕事が取れず」「夢は砕かれました」などと書いた遺書を偽造。それを和歌山県の警察署に、Aさんが作成した遺書として提出したとする有印私文書偽造・同行使罪に問われている。
また、Aさんが生前に所有していた不動産を、Aさんの死後に濱田被告の家族に贈与するといった虚偽の所有権移転登記手続きをしたとする、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪にも問われている。
法廷に現れた寺崎被告は滝谷被告と同じく黒いジャケットを羽織っていた。表情はマスクで隠れて判然としない。起訴状の内容については、ただ「(間違いは)ありません」と答えた。
検察官の冒頭陳述によると、滝谷被告、寺崎被告、そしてAさん、Bさんなど一部の信者は「神の国メンバー」などとして、濱田被告の近くにいたようだ。そして同時に濱田被告の強い支配下にあったという。
滝谷被告は当時の交際相手について、また寺崎被告は自身について、濱田被告が開設したホームページを通じてそれぞれカウンセリングを受け、徐々に濱田被告に傾倒していった。
濱田被告は、信者を前に自身を「万物の創造神」「天使ガブリエルが憑依している」などと表現し、説法として、信者には「自身には超常的な力がある」「人の魂を廃人にできる」「ビルから飛び降りさせることができる」などと言った話をつづけたという。濱田被告は時に信者に暴力をふるい、さらには信者の目の前で性交などを見せつけることもあったというのだから、驚きだ。
そして話は入水自殺事件に至った経緯の説明へと続いた。そのきっかけは、“創造主”濱田被告と未成年男性との愛人関係にあったという–後編記事で詳報する。
(後編につづく)
●取材・文/普通(ライター)