「人間やめたい」「サーモン食べたい」獄中から届いた手紙…「頂き女子りりちゃん」の“今”

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世間に衝撃を与えた「頂き女子りりちゃん」事件。懲役8年6か月の実刑判決を受けた渡辺真衣受刑者(27)は現在、岐阜の笠松刑務所に服役中だ。年上男性から1億5000万円をだましとり、さらには「頂きマニュアル」を作成し販売。多くの被害者を出した。渡辺受刑者自身は判決を、どう受けてとめているのだろうか。事件の真相に迫った『渇愛 頂き女子りりちゃん』(小学館)の著者・宇都宮直子氏に聞いた。(全4回の第4回)
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――渡辺受刑者はご自身の行為や「罪」について、どのように捉えていると思いますか。
彼女が本当にずっと言っていたのは、「私はしたことに対する対価を支払ってもらっただけだ」ということです。最後の最後までそう言っていました。だから、絶対に謝らない、と。
ただ、彼女の「悪いことをした、罪を犯した」という認識は、「法律を犯したから」「法律でダメだと言われたことをやってしまった。詐欺は悪いことだから、それをしてしまったから私は悪い」という基準なんです。
被害者に対してどう思っているかを聞いても、「分からない」と答える。つまり、自分が実際に何をしたのか、本当の意味での“罪”が分かっていないし、突き詰めれば自分は悪くないと思っているのではないか、そう感じます。
――そうした認識は、今後の受刑生活や更生にどのような影響を与えると思われますか。
「私は悪いことをやっていない」「私は対価をもらっただけだ」と思いながら、刑務所の中で8年6か月を過ごすのは地獄でしょう。出所した時も「私は対価をもらっただけなのに、なぜ8年6か月も」と、どこかで思ってしまうはずです。
「法律を犯したから8年6か月」という捉え方だけでは納得できないでしょうし、その発想を突き詰めれば「バレていない人がいるのになぜ私だけ」という方向に流れる危険もあります。
さらに、出所後に「これは法律に触れないから、こんなことやってみない? これは新しいビジネスだよ」と囁かれた時、また巻き込まれてしまう可能性もあります。かつて“受け子”のような役割が“グレー”に扱われ、捕まらないこともあったのが、ある時点で一気に犯罪として扱われる、そういう環境の変化も現実にあります。だからこそ、被害者に対して自分が何をしたのかを理解しない限り、真の更生は始まらないと思っています。
――一審で懲役13年の求刑を受けた際、渡辺さんはどのような様子でしたか。
「ショックです」という手紙が来ました。実感が伴っていなかったのだと思います。最初は本当に分かっていなくて、控訴審が進むにつれてどんどん様子が変わっていった、という印象です。
――どのように様子が変わったのでしょうか。
はじめは平気そうに見えたのですが、獄中日記の内容がどんどん変わっていきました。母親のことを突然非難し始めたり、ほかの関係者を糾弾し始めたりして、「自分だけがこんな辛い思いをしているのはなぜ」という印象を受けました。
一審の判決が出て、8年6か月も外に出られないという現実が本当に実感されたから、“恨み”が全部出てきたのだろうと思いました。そこでやっとリアルを感じたのかな、と。
ただ、上告したあたりから、またリアリティが薄れていったようにも見えました。上告後に会った時も、私が「最後の面会だ」と思って行ったら「あ、どうも」と普通に元気でした。「私、上告するんです」と。「まだまだ会えますよ」という感覚で、刑を受ける実感はなかなか湧いていなかったのだと思います。
拘置所(刑事事件の被疑者・被告人を収容する施設)は比較的自由な部分があるので、実感が湧きにくかったのかもしれません。だからこそ、受刑者となって笠松刑務所にいる今は、かなり精神的に厳しい状況にあるのではないでしょうか。
――最近の渡辺受刑者とのコンタクトはありますか。
一度、手紙が来ました。
――手紙がきてどう思いましたか。
服役中、受刑者からは月に限られた数しか手紙を出せないので、私のもとに手紙が届いたときは本当に驚きました。突然だったので、「訴訟でもされるのかな。出版差し止めかな」と身構えました。
内容は「本が出るの、おめでとうございます」「本が出る前に先におめでとうって伝えたかったので」といったもので、こちらとしては「おお……」という複雑な気持ちです。被害者のことを考えたら、そこで喜ぶわけにはいきませんでした。
実は、私から今回の本を送っているのですが、笠松刑務所側から「更生に差し障りがある」と言われて渡してもらえず、表紙すら見ていないそうです。ですから、「私はこういう気持ちでこの本を書きました」という手紙を送りました。
――そのほか、手紙にはどのようなことが書かれていましたか。
「人間やめたい」と書いてあったり、彼女が中で描いていた少女漫画のキャラクターのイラストが入っていたり。刑務所の生活のこと、「今日は何が出た」という食事の話や、左腕がぐちゃぐちゃになってしまった、という自傷を示唆する記述、日常のメモですね。「めちゃくちゃ暑い」「サーモン食べたい」とか。
――手紙から、被害者への反省の言葉は感じられましたか。
それはありませんでした。
――手紙全体の印象は?
全体としては、かなりしんどそうだという印象です。そして「ここから長いだろうな」と思いました。刑務所の中の体感時間は、おそらくすごく長いだろうな、と。
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第3回【「頂き女子りりちゃん」事件、なぜ「おぢ」は大金を渡したのか コロナ禍の孤独と「まさか自分が」の心理】では、宇都宮氏が事件の背景について語っている。
宇都宮直子1977年3月27日、千葉県出身。多摩美術大学美術学部卒業後、出版社勤務等を経て、フリーの記者に。事件や芸能分野を中心に取材活動を行う。今年、『渇愛 頂き女子りりちゃん』(小学館)で第31回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』。
デイリー新潮編集部

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