カリフォルニア大学の研究員らは、高齢女性における睡眠と覚醒のリズムが、認知症の発症リスクとどのように関係するかを調査しました。研究の結果、昼夜を問わず眠気が増す傾向にある人ほど、認知症を発症するリスクが約2倍に高まることが明らかになりました。この内容について石井医師に伺いました。
監修医師:石井 映幸(医師)
カリフォルニア大学の研究員らが発表した内容を教えてください。
石井先生
カリフォルニア大学の研究員らによる研究では、80代の女性733名を対象に、手首のアクチグラフィーによって睡眠と覚醒の活動を約5年間にわたり測定し、その変化がMCI(軽度認知障害)や認知症の発症と関係するかを調べました。
その結果、参加者のうち164名がMCIを、93名が認知症を発症しました。睡眠の変化は3つのタイプに分類され、睡眠が安定している群と比べて、昼夜を通じた眠気が増加した群の女性は認知症のリスクが約2倍に上昇していました。また、睡眠効率や夜間覚醒、昼寝の時間と頻度なども認知症の発症と関係していました。一方で、これらの変化とMCIとの明確な関連はみられませんでした。
今回の研究結果から、高齢の女性において、24時間の睡眠や覚醒のリズムの変化が認知症の早期マーカーやリスク因子となる可能性が示唆されました。今後の予防や早期発見において、睡眠のモニタリングが重要な役割を果たすと考えられます。
認知症の初期症状や前触れとなるサインについて教えてください。また、認知症予防に役立つ生活習慣とは?
石井先生
認知症の初期症状や前触れとしては、もの忘れに加えて、理解力や判断力の低下、集中力や注意力の低下、さらには趣味嗜好や性格の変化などが挙げられます。例えば、「昨日の食事の内容を思い出せないだけでなく、食事をしたこと自体を忘れてしまう」という場合や、「会話や買い物に困難を感じる」といった変化がみられます。また、趣味への関心が薄れたり、怒りっぽくなったりすることもあります。こうした症状に気づいたときは、早期に医療機関で相談することが重要です。
認知症予防のためには、バランスの良い食生活や適度な運動、人との交流、知的活動、良質な睡眠を意識し、視力や聴力の機能を維持することが大切です。日々の生活の中で、無理なく続けられる習慣を取り入れて、認知症を遠ざける工夫をしていきましょう。
カリフォルニア大学の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。
石井先生
この研究では、日中・夜間の眠気が徐々に増えるパターンを示した高齢女性は、認知症を発症するリスクが高まっていました。日中はしっかり活動して、夜間は中断の少ない睡眠を維持する生活リズムが、認知症発症リスクを抑える可能性があります。ただし、因果関係は確定せずに「関連性」を示したにすぎないため、今後は介入試験などで「睡眠パターン改善」が認知症予防に有効か検証する必要があります。
カリフォルニア大学の研究により、昼夜問わず眠気が増える傾向のある高齢女性は、認知症のリスクが約2倍に高まる可能性があることが示されました。睡眠効率や昼寝の習慣も関係があり、睡眠パターンの変化が認知症の前触れとなることも。日頃からよく眠れない、日中に強い眠気があると感じたら、生活習慣を見直すきっかけにしてみてください。食事・運動・交流・睡眠を意識した生活で、心と脳を健やかに保ちましょう。