《沖縄で広がる“ゾンビタバコ”》「うつろな目、手足は痙攣し、奇声を上げ…」指定薬物「エトミデート」が若者に蔓延する深刻な実態「バイ(売買)の話が不良連中に回っていた」

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車が行き交う道路の真ん中で大の字になる若者。年の頃は20代前半か、10代半ばか。茶色に染め上げた髪からのぞくその相貌はまだあどけなさを残す。若者はやおら起き上がると、震える手つきで「何か」を口元に持っていく。一口吸い込むと踏ん張りが利かなくなったのか小刻みに身体を震わせ、尻餅をつき、そのまま地べたに倒れ込んだ。
【実際の写真】国内でも被害広がる“ゾンビタバコ”「ゼンマイ人形のような奇怪な動き」「うつろな目、手足は痙攣…」
また別の2人の若者は、ゼンマイ仕掛けの人形のような奇怪な動きをして立ち上がり、また、道路に座り込む。その手にはやはりカートリッジに入った「何か」が握られていた──。
これらは「TikTok(ティックトック)」に投稿された動画だ。撮影されたのは中国西北部とみられる。若者らを、ホラー映画「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」に登場するゾンビさながらに変貌させたのは、現地で蔓延する危険ドラッグ「エトミデート」。麻酔導入薬や鎮静剤として使用される国内未承認の医薬品で、5月16日に、厚生労働省が規制した指定薬物だ。
「もともと麻酔薬として流通していたものですが、2023年ごろから、中国や台湾で麻薬として乱用されるようになりました。電子タバコのリキッドに成分が混ぜられたものが密売されており、台湾などでは『ハイになるたばこ』『ゾンビカートリッジ』などと呼ばれ、10代から20代の若者らに爆発的に広まっている。当局が摘発に乗り出すなど、社会問題にもなっています」(大手紙国際部記者)
冒頭の動画は、エトミデートの薬害を知るに十分な内容だ。実はこの薬物禍の広がりは対岸の火事ではもはやない。2024年ごろから、列島最南端の沖縄の闇マーケットで出回り始め、今年に入って蔓延の兆しをみせているのだ。
「『即効性のある脱法ドラッグ』として急速に広がっています。県内では『笑気麻酔』と称して電子たばこで吸引するリキッドの状態で密売されている。大麻よりも安価なため、Xや通信アプリのテレグラムなどで取引され、現地の高校生や中学生の手にまで渡っているようです」(地元メディア関係者)
厚労省が規制に乗り出す直前には、沖縄県警や、九州厚生局麻薬取締部 いわゆる「マトリ」などが一斉に危険性を呼びかけており、沖縄での密売網の広がりが国内での規制強化の動きに結びついたという側面もある。
マトリの広報にともなって、沖縄県警が2月から4月にかけて交通事故や薬物事犯などの捜査を通してエトミデートの成分を含む、リキッド約150個を押収したことも公表。「笑気麻酔」の名称で密売されていたリキッドは、10~20代を中心に所持が確認されたという。
県警は、このドラッグの摂取によって「意識の混濁、酒臭のない泥酔、手足のしびれなどの症状が見られた」として、県教育委員会などから、県内の小中高校への注意喚起もしている。
「当局がこのエトミデートの蔓延を認知したのは、県内で起きた事故の捜査がきっかけだったようです。県警が捜査の過程で、電子タバコに装着したリキッドを関係者が所持していたのを確認。エトミデートの成分が検出された。
同時期に那覇市内などの繁華街でたむろしている少年らへの職質でも、同様のリキッドの押収が相次いだ。ドラッグがかなり広範囲に広まっていると危機感を募らせたことが、メディアへの広報にもつながったようです」(同前)
厚労省が取締対象となる「指定薬物」に指定して以降、沖縄県内ではこのエトミデートがらみでの摘発が相次いでいる。
県警は7月9日、本島中部の浦添市の公園内で含有するリキッドを所持していたとして20歳の男2人を逮捕。これが初の摘発事例となったのを皮切りに、8月10日には那覇市内の16歳の無職少年を所持容疑で逮捕している。
地元紙によれば、家族からの通報を受けて署員が駆けつけた際、少年は「うつろな目で自宅のリビングに座り込み、手足はけいれんし、寄声を上げていた」という。
以前から、裏社会でも「ゾンビタバコ」の県内での浸透は認知され始めていた。
ある暴力団関係者は、「昨年ごろから、那覇の歓楽街の松山にあるクラブでかなり出回っているという話が聞こえてきていた。非合法化される前に『バイ(売買)』の話が不良連中に回っていたというのも聞いていて、半グレが請け負って若い子を中心に売って回っているようだ」と内情を明かす。
米国では、同じく中毒者を“ゾンビ化”させる合成麻薬「フェンタニル」を含む麻薬性鎮痛薬「オピオイド」の乱用が問題になっている。わずか2ミリグラムの摂取が致死量になる可能性もあるともいわれ、米疾病対策センター(CDC)の推計では、米国内での死者は、2024年だけで5万4743人に達するとされており、その危険性のほどがうかがい知れる。
沖縄発の日本版「ゾンビドラッグ」の蔓延に、最大限の警戒が必要となりそうだ。

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